鳥海 ペドロ(とりうみ ペドロ)
百鬼恋乱(ひゃっきこいらん)
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
蜜(みつ)の命が、闇に呑まれようとしていると知り、助けようとするココ。いずれ零(れお)と十(とあ)のどちらかにも訪れる哀しき宿命に慄きながらも、ココの心はすでに答えをだしていて……。一方、花嫁の力に気づいた天界からの刺客として、美少女天使ゆのんが降臨。それは、かつてない災いのはじまりだった――。鬼兄弟×超“ウブな花嫁”の美しく危険な恋!!
簡潔完結感想文
- 命の選択を出来ないから、人を好きな振りだってする中途半端ヒロイン。
- 誰を好きか改めて認めた無限のパワーの「オマケ」で人助け。永遠に鬼 確定?
- 蜜と交代で ゆのん が波乱を演出。ココって かなり残酷なヒロインだよね。
その内容は既に見た、の 5巻。
今まで以上にヒロイン・ココに ずっと苛々した。彼女が過酷な運命に立ち向かって成長していく様子が丁寧に描写されていれば、最初のおバカ加減も許容できるのだが、彼女の知能は ずっと低いまま。大きな視野を持たずに、無意識に人を傷つける彼女の残酷さが目に余った。
特に前半の2話は彼女の幼稚性が存分に発揮されていて、気持ち悪いほどだった。
まず最初は消滅危機にある蜜(みつ)を助けようとココは蜜の「花嫁」を演じることで彼を救おうとする。ココは蜜に本当に好きな人への気持ちを封印しているから能力を失った、と教わっているのに、蜜と表層上の関係だけで救おうとしているのが浅はかで愚かだ。
これ以前にココが能力を失った理由を知らなければ まだ献身的なヒロインに見えるが、自分を二重に騙して、自分は精一杯 蜜を救おうと奮闘したという言い訳を用意しているように見える。
そして最も疑問なのが蜜が助かったこと。これはココが花嫁としての第一関門を突破した際に発生したパワーの「オマケ」で蜜を無意識に助けたらしい。はぁ????? 花嫁が助けられるのは本命の1人だけで、だからこそ零(れお)と十(とあ)の桐生(きりゅう)兄弟の どちらかしか助からないという切なさが前提条件となっていた。なのにココが蜜を助けてしまった。しかも蜜は今回の「嫁奪(と)り」に参加していないので、ココとは無関係な鬼である。花嫁は鬼を神に戻せなくても、鬼を消滅から回避することが出来るというルールは物語を破綻させかねない。桐生兄弟の死という悲しい宿命を回避させるような抜け道を用意したことで、物語の切なさが一気に低下した。ここからがクライマックスなのに、楽観的な未来が見えてしまった。巻末恒例となっている不吉な予言も もう誰も信じない。ここで蜜が消滅したら より一層 緊迫感が増したのに、消滅しなかったことで危機感が激減してしまった。申し訳ないけど演出の仕方が本当に下手くそだと言わざるを無い。
蜜を助けることが正解だったのかも疑問。彼は「嫁奪り」に参加したということは神に戻りたい意志が かつてはあった。でも蜜はココに神に戻してもらうことも出来ず、消滅することも出来ず、鬼としての生を一方的に与えられた。その前に蜜が生に執着を見せる場面があるのなら、ココが助ける意味も出てくるが、蜜は消滅することに対して何の態度も表明していない。それにもかかわらず、ココは目の前で蜜が消えるのを見たくないという自分の苦しみの回避のために彼への想いを捏造し、表面上の愛情を見せて消滅直前まで追い込む。その上、本人の意思と関係なく鬼のままで彼の生き方を固定するのは傲慢なように思えた。ちょっとした描写で蜜を救うことが出来るのに、作者はココを身勝手な人に読めるようにしてしまっている。
そして蜜は助けられたことで出番を失う。もう最期の日々で桐生兄弟を おもちゃにして遊ぶ理由もなく、永遠の時間の中を鬼として生きることになったようだ。鬼が地上の象徴なら、新キャラの天使は天界の象徴なのか。蜜の出番が終わった時点で物語は新章に入ったと言えるのかもしれない。
その後の、ココが恋を認めるまでの異性との接触実験は『3巻』のラブレター事件の焼き直しだし、十が再び、零しか見ていないココに傷つくという展開も以前の再放送である。そこそこ作品の人気があるから連載を延長しているのだろうけど、それだけ間延びしているように見える。
ココが無能力した『4巻』が好きな人を認めないように努めていたのに、その上、蜜を「オマケ」で延命させた上でも結論を出そうとしない展開は首を傾げる。そしてココが無能力化している最中なのに、飼い犬のムクだけじゃなく蜜の手下の妖(あやかし)が見えているのが気になる。設定を作者自身が覚えていないような作品の連載途中で担当者が変わることに不安しかない。もう蜜の生存で どんな奇跡も起こせるという布石になっているけれど。
嫁奪(と)り に敗れて、消滅危機にある蜜。てっきり蜜が消滅するのは今回のココが花嫁の争奪戦が原因かと思ったら、過去の「嫁奪り」のペナルティが今になって起こるらしい。服装から言って数百年前の出来事みたいに見えるが(しかも日本というより中華風)、敗者となって数百年も消滅しないなんて優しいルールじゃないか。ということはココが桐生兄弟のどちらを選んでも、彼女の存命中に兄弟と死に別れる可能性は低いということか。あぁ 雑な設定がまた物語をダメにしている…。
ココは都合の悪いことは信じないタイプ。自分が蜜の面倒を見ると言い出し、彼もココの家に同居させる。蜜の消滅を防ぐ手段は、花嫁であるココが蜜を好きになって浄化の力で蜜の消滅を防止するというもの。だからココは蜜の消滅を防ぎたくて偽装交際の真似事をする。最期の日々を そんな嘘の中で迎える蜜が可哀想だ。
蜜は平気な顔をしているが、ある日 ココは蜜の使い魔となっている妖から もう時間がないことを教えられる。ってかココは妖が見えるようになったの!? 能力が戻っていないのに?? もう訳が分からない。
そして自分の願望のためだけに蜜に「大好き」と言うが、ニセモノの言葉は届かない。こうして蜜は消滅するのだが、その直前に自分の心を認め、力を復活させて彼を救出する。そのキッカケはココが誰を想っているかを認めることだった。
この時、蜜が助かったのは「オマケ」。花嫁として完璧に覚醒した際に出たパワーの余波らしい。なんでもありだな、おい。そして助かったのに蜜は これを機に出番が激減。ココと兄弟に余計なことをするのは別のキャラになっていく。
ココが選んだのは やっぱり零。未だに それを認めたくないココは他の男性と接触して心の動きを観測して、本命との違いを学ぼうとする。私は恋が分からない、恋を認めないヒロインが苦手だ。
一方で天界で、ゼウスとユーノーという固有名詞を持ったキャラが登場する。復活して より強くなったココの力が天界にまで届き、彼らは その能力を注視したからだった。ただココの力が天まで達するようになったことと、鬼がそばにいるという分析の関連性が私には分からない。ココの能力によって鬼側の力がブーストされることは何度も出てきたが、花嫁側が鬼によって能力強化されるという話にはならない。花嫁であるココが鬼に恋することでパワーが増しているということなのか(蜜の時も余剰パワーで助けてたし)。全体的に説明が足りない。
ゼウスは かつて自分に復讐を誓った兄弟のことを思い出す。彼らは かぐや殺害の首謀者であるゼウスを即座に殺さず、一度 鬼に堕ちて、鬼に殺される屈辱をゼウスに味わわせようと考えている。ゼウスはココの力は強大だが「嫁入り」は済んでいないと分析する。嫁入りとは鬼と契りを結び羽衣を渡すことらしい。これが人が鬼の花嫁になる最後の関門。また羽衣というワードが出てくるが、羽衣の存在や設定を作者が覚えていられるか心配だ。
ユーノーは周囲の人間の記憶を操って、愛澤(あいざわ)ゆのん として学校に入り込む(鬼も天使も何でも出来るんですね…)。彼女はゼウスの命のまま、「神に戦いを挑み、世界の規律を乱す」者たちを許さない。
ココは ゆのん に違和感を抱きながらも彼女と仲良くなろうとする。誰とでも仲良くなれると信じているのが低年齢少女漫画のヒロインっぽい。ゆのん にしてみればココの単純さは、任務をカンタンに遂行できて便利だろう。
ただし ゆのん も相当クレイジーな人格である。ココと2人きりになって彼女の命を奪うことに興奮を覚えている。ピンチに駆けつけた鬼も ゆのん は一緒に始末しようとする。だが その美麗な鬼・十の姿を見て、面食いの ゆのん の心は一瞬で奪われてしまう。
続いて いきなりココの勉強合宿・お泊り回が始まる。
そこに ゆのん も十との接触を図るために参加。十はもちろん零なんて ゆのん の登場に文句を言いだすのが当然なのに、ゆのん の存在は黙認される。この時点で話が不自然だ。『4巻』で蜜の計画に乗っかる振りをした十と同じ展開になるのかな。
だが ゆのん の強い想いにも十は反応せず、彼はココのことだけを考えている。しかし その十の強い想いをココは無視するような形で零のことしか目に入っていない。再び、十が こじらせてしまう場面となる。『4巻』の蜜の嫌がらせの中で、十は こういう負の感情から抜け出したはずなのに、結局 同じことの繰り返しになっている。
いつも巻末には不吉な予言が下されるが、ずっと蜜が その役目を担っていたが、今回は ゆのん の勢力が彼らの絶望的な破滅を予言する。でも蜜が消滅しなかった時点で、ヒロインのココ様が望まない最悪のことは起きないことが証明されている。ヒロインが何かを失うことは ないだろう。