宮城 理子(みやぎ りこ)
ラブ♥モンスター
第07巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
Lの当主就任パーティーに招かれたヒヨ子と黒羽。ブラッドフォード家の城へ向かうが、そこはなにやら怪しい雰囲気に満ちていて…? ようやくLに会えた矢先、ヒヨ子の目の前でいくつもの槍が黒羽の体を貫き――!? 衝撃のクライマックス!! あとがきエッセイまんが/宮城理子
簡潔完結感想文
- 最終巻で いきなり広げられる大風呂敷。ページが足りないから畳み方が雑。
- 世界の価値と同じぐらい彼女を愛する男と、最後まで違う男とキスをする女。
- 最終話直前で1話と同じオリジナルメンバー4人が最後に残る演出は良かった。
ヒヨ子はヒヨコのまま愛されていればOK、の 文庫版最終7巻。
いきなりネタバレするとヒロイン(とヒーロー)が世界を造り変える神に等しい存在になった、という結論である。物語の開始時点で平凡な女性だったヒロイン・ヒヨ子には秘密があって、彼女は伝説の存在へと作品内で その価値を高める。本人はずっと おバカな存在でありながら物語の最後に慈悲深さを見せることでヒヨ子は この作品世界の聖母となっていく。そういうヒロインの唯一無二の存在価値は読者の承認欲求を満たすものであろう。
だがラストシーンで彼女は相変わらず黒羽(くろう)に抱きかかえられて空を飛ぶ。これは最終決戦において彼女が羽を無くしてしまったからだ。彼女は自分の特別性と引き換えに、この世界を救ったと言えよう。作中で白カラスと祀り上げられる存在となったが、最後は1人の女性・大空 ヒヨ子(おおぞら ひよこ)としての意思を優先し、そんな彼女だから世界の救世主となれた。
でも ただのヒヨ子になった彼女が物語の最後で黒羽に助けられて飛んでいるのは男に依存して生きることを選んだようで あまり心象が良くない。結局、少女漫画の中で女性は成長することは求められず、優しさだけを振りまいているとイケメンから世界から祝福されるという結末になっているような気がしてならない。白カラスの宿命ではなくヒヨ子としての意思を優先させたことが彼女の強さなのかもしれないが最後までヒロインに甘い世界観だと思わざるを得ない。
そもそも白カラスの羽に願いを叶える力がないという結論なのに世界を再構築できると信じて行動している その根拠が薄弱だ。伝説とは違い魔王と白カラスの共同作業によるミラクルという解釈なのだろうが、世界の崩壊のギリギリの淵で立っている人の楽観的すぎる行動は怖い。何人かヒヨ子が存在を忘れている人は この世界に復活できていないんじゃないだろうか…。
そして羽と言えば1枚の羽根から生まれた剣を消すために残りの ほぼ全ての羽を消費するという価値の不均衡が気になった。最後の1枚で世界を造り変えるというドラマ性を生むためなのは分かるが、最後の方は強引に進めている気がしてならない。
あと羽と言えば最後に黒羽も1枚 羽を取り出して、その交換をカラス天狗の愛の証明として、その2枚で2人が世界を元通りにするという演出の方が良かったように思う(黒羽の羽に願いを叶える力はなくとも)。結局、2人は羽の交換をしないまま物語が終わってしまうのが残念だった。でも これはヒヨ子が白カラスとしてではなく、無能力のヒヨ子として黒羽を愛するラストには相応しくないのかな。ヒヨ子のラストの状態の見極めが難しいところである。
ヒロインが強大な力を持ちながら最後に それを無効化・無力化してしまうのが作者の作品の恒例なのだろうか。ヒヨ子は白カラスとしての使命を果たすことなく、全員を救うヒヨ子としての道を示した。でも作中で彼女は白カラスとしての能力に目覚めていったが、ヒヨ子としての成長が描かれたかといえば そうではない。
つまり女性の成長とか自立とか一切ない。最後までヒヨ子は黒羽以外の男性からのキスを受け入れるし(逆だったら裁判して有罪にする癖に)、愛されヒロインという立場から少しも動いていない。壮大な話も結構ですけど、もうちょっとヒヨ子が読者と等身大の人間として悩み そして成長していく姿が描かれていたらなと思う。
ヒヨ子が、白カラスという自分に背負わされた運命から逃れて おバカに暮らすのは、旧時代的な慣習や束縛からの女性の解放と読めなくもないが…。
この「なろう系」のイージーな人生を描いた感じと、「セカイ系」の大風呂敷を広げ過ぎてまとまらない感じが苦手だと感じた。あと少女漫画誌だからか徹底してバトルの描写を省略しているのが気になった。動きのある絵が苦手で回避している訳ではなさそうだけど、戦いに迫力がないから魅力が半減しているように思う。男女の雑誌に境界がなくなっている現在2024年の連載だったらバトルに力を注いだりしただろうか。
ヒヨ子の父親は後に黒羽の両親となる男女との三角関係に巻き込まれ、兄と慕っていた黒羽の父親と仲違いしてしまう。こうして天涯孤独となった才能あるカラス天狗は世界の消滅を願い、実際に実行しようとしていた。そんな時に出会ったのが まだ幼かった後にヒヨ子の母となる女の子だった。彼女の天真爛漫さに救われ、父は世界の消滅を回避することとなる。ヒヨ子は母子ともに幼い頃にカラス天狗に会い、彼らの心を知らずに救っていたようだ。その後も彼らは生涯 その女性への愛を貫く。母親はともかく、高校生になっても当時と知性が変わらないヒヨ子のような浮気女でも男性側の愛は一途なのだ。
そして世界の消滅を願う強力すぎる力を持つ存在を 世界はそれを魔王と呼ぶ。このヒヨ子の両親の馴れ初めは、今後 ヒヨ子たちに起こることでもあるのだろう。男は世界の消滅を願い、女は それを止める。それが この世界の理(ことわり)らしい。
一方、黒羽の両親のもとには母親の姉妹だという存在が現れる。そして黒羽だけが魔王候補じゃないと預言を残す。ヒヨ子の父親も魔王になりかけたのなら、世界を壊す強い意志を持つ者は魔王たり得るということか。
魔王の誕生を作品内に匂わせた後、ヒヨ子と黒羽のもとに今度は吸血鬼のL(エル)の当主就任パーティーへの招待状が届く。黒羽はヒヨ子のイケメンとの接近を快く思わないが、そこにLのピンチの報せが届き、ヒヨ子は周囲の反対を押し切って参加することを決める。そうでなくては話が進まない。これがヒヨ子という白カラスを おびき寄せる罠だとも考えられるが、ヒヨ子は人情を優先する。
しかし実際に式典に参加すると、あっという間に黒羽は めった刺しにされ、ヒヨ子はLの花嫁として扱われる。実はLは身体を乗っ取られており、Lの今の中身はA(エース)という一族の始祖であった。こうしてヒヨ子は中華分校と同じくベッドの上で拘束される(どこまでもワンパターン)。Aに愛撫されながらヒヨ子はLという存在の来歴を知る。Lが身体が弱いのはAのクローンであったから。純粋な生命でないために欠陥が生じているらしい。そしてKとJは、Lが機能しなかった場合の予備として用意された人間から生まれた存在。しかしLがヒヨ子の白カラスの血で万全になったため、KとJの存在は不要となった。
Lの中で復活したAは無敵。だが それは魔王化しつつある黒羽も同じ。心臓を撃たれても、串刺しになっても彼らは甦る。もう何をされても死なないだろうから緊迫感が薄い。
だが今はヒヨ子の血を再び吸血したAの方が有利。魔王となった暁にはAはヒヨ子たちの極東分校、そして中華分校、最後に人間を滅亡させるという。魔王化のためにヒヨ子の血を一滴残らず吸おうとするAだったが、彼の中にまだ存在するLの意思が黒羽に自分の身体の消滅を願う。死から甦り本能で動いている状態の黒羽はLの願いを果たそうとする。それにビビったAの精神体はLの身体から脱出するのだが それこそLの狙い。LはAの精神体を消滅させ、彼は元に戻る。Aとなった彼は身体が成長していたが、ヒヨ子に小さいLの方が好きと言われ身体を縮ませる。確かに小さくないと他のイケメンと区別がつかないしね。
こうしてLの一族の騒動は終わる。その裏にいるのは黒羽の母親の姉妹のマリリンと名乗る存在。彼女は何人かの候補者の中から自分の手駒に出来る魔王の復活を試みるのだった。
学園に戻ってからヒヨ子は違和感を連続して覚える。また黒羽の母親は夫との別れを切り出し、彼を出来るだけ自分から遠ざけようとするのだった。
そんな中、学園では体育祭が催され、そこでも少しずつ違和感が広がる。その最終競技に飛び入り参加するのは灰音(はいね)。彼は黒羽との対決を望む。これまで直接対決をしてこなかった2人が いよいよ対決する。この勝者は灰音になったはずなのだが、彼はヒヨ子と羽の交換を望んで彼女の返事を待つ間に消滅してしまった。密かに進行していた存在の消滅を目の当たりにして、その裏にいる何者かの存在にヒヨ子たちは気づく。
しかし なぜ灰音は勝ったのに消えるのだろうか。黒羽にとって「脅威」だからなのだろうが、この報われない感じが最後の最後で灰音に当て馬属性を与えているような気がする。
黒幕に最初に気づいたのは学園長。彼は最強モンスターの一人・鬼だという。彼の不老不死は彼に かけられた呪いでもあった。学園長の前に現れたマリリンは「闇夜の巫女」と称される黒羽の母親と同じレベルの「暗黒の聖女」。彼女は魔王の候補の消滅を望み、たった一人の魔王による世界の消滅を願っていた。学園長も候補の一人であった。
そこから急速に周囲の者から記憶が消えていく。そして目の前で灰音が消えるのを見た者たちは灰音の存在を忘却していた。それは世界中で起こっていることで中華分校でも生徒は消え、神獣である麒麟(きりん)だけが残っている状態。麒麟はヒヨ子の前に現れ、白カラスも麒麟も魔道に堕ちた者を倒すために存在することを伝え、消滅する。
その後 ヒヨ子の前に現れるのは黒羽の母親。魔王の力は無限で、その力の根源を断つには魔王の「対の者」である白カラスの命を絶つことが必要だと告げる。
伝説にある魔王と白カラスは実は恋人同士だった。人間が自分の欲望のために白カラスの羽を欲したため、恋人を奪われた魔王は彼女を探して、そして その途上で目的を失い世界の消滅を願うばかりとなった。そこで白カラスが魔王を討ち、同時に自分も消えたという。どうやら魔王と白カラスは一蓮托生。どちらかの消滅は もう一方の消滅に繋がるらしい。
母親がヒヨ子を消そうとするのを黒羽は阻止しようとする。しかし母は息子を殺してでも世界を守ろうとするのだが、その母子の運命に割って入るのが黒羽の父親だった。彼は母が息子を殺す運命から彼らを解放しようとする。だが彼女は母であると同時に、この世界を造った神であることが発表される。神は命は造れるが人の愛し方を知らない。それでも本人は無自覚でも、彼女は夫と息子に愛情を持っていると父親は信じていた。その気持ちが妻の無意識の行動に出ていることを最期に夫は指摘し消えていく。
未来視を持つ母親は夫となる男性と初めて会った時から彼を自分が殺してしまうことが見えていた。だから夫を遠ざけて生きていたのに、夫は そんな妻であり神の気持ちに斟酌せず、一人の女性として彼女を愛し続けてくれた。黒羽の父親は息子と同じ一人の女性に愛と命を捧げる人のようだ。ってか この世界では男性の方が愛が深く、女性はイケメンに ころころとトキめいているような気がする。逆ハーレム漫画だから仕方がないのだろうか。
こうして心が動じた母親もまた消えていく。そして それこそがマリリンの願い。黒羽の母親が造ったこの世界を消して、自分の手による世界を構築することが彼女の目的。そのために必要なのが魔王という手駒だった。だが彼女もまた消滅していく。真の魔王となった黒羽が望んでいるのはヒヨ子との2人だけの世界だった。彼にとって彼女と それ以外の世界は前者の方が重い価値を持つのだ。
こうして神である2人が消えて、世界の命運は黒羽の意思に左右されることになる。そしてヒヨ子以外を拒絶する黒羽を最後に母親はヒヨ子に託すのだった。これが黒羽の一族の婚約の反対が解かれたということなのかな。もう そんなレベルの話じゃなくなっているから何だか婚約反対の騒動が有耶無耶になっている気がしてならない。
魔王となった黒羽は世界を破壊するのではなく、その人の存在そのものを消すことで世界を滅ぼしていく。これは静かなる侵略といった感じか。
この世界に最後に残ったのは2人と、銀次郎(ぎんじろう)とユキの4人。この4人は1話で出会った4人でオリジナルメンバー。これで作品世界が始まった状態に戻ったと言えよう。この1話の再現は とても良かった。
そして黒羽は銀次郎に殴られることで黒羽は自分が魔王になったことを思い知る。ヒヨ子が白カラスで、この世界には彼女を狙う人間・妖怪が数多存在する。それは彼女を失うかもしれない不完全な世界。ならば世界からヒヨ子を危険に晒す人を消滅させればいいと考えた。この黒羽の思考に入り込んだのがマリリンだった。
そして その彼の願い通り、銀次郎もユキも消えていく。魔王はセカイ系の主人公みたいな極端な思考の持ち主である。愛の究極系と言えるが、完全に精神が病んだ人の思考である。
友人の消滅を目の当たりにして自分の願いを後悔する黒羽は、ヒヨ子に羽を1枚くれないかと頼む。そして その羽を剣に変えて、彼女に自分の消滅を実行させようとする。銀次郎たちの行動の お陰で魔王ではなく黒羽である状態の今、自分が消えれば白カラスであるヒヨ子が対消滅に巻き込まれることはないという。急に悔恨して、消滅を望むのは中華分校のリンでも見た展開。男性キャラは精神がダイナミックに動いて躁鬱が激しすぎて怖い…。
黒羽の死によって世界は元に戻る。ヒヨ子は世界の命運を握っている。
それが白カラスの責務だと痛感するが、ヒヨ子にはそれが出来ない。彼女は白カラスという存在ではなく大空 ヒヨ子なのである。だから彼女は自分の羽が生み出した剣を自分の力で破砕する。そして黒羽も世界も欠けることのない世界を望む。
自分に最後に残った1枚の白カラスの羽で彼女は世界の再構築を願う。それは1人ではなく黒羽と手を取り合って行う儀式。伝説とは違う、魔王と白カラスの協力による願いごとである。いや この時点では彼らは白カラスに限りなく近づいたヒヨ子と、魔王に限りなく近い黒羽なのだろう。彼らは自己を確保したまま神に等しい能力を解放する。
次にヒヨ子が目を覚ましたのは、両親が離婚していない世界。そして人間の友達・小麦(こむぎ)と一緒の学校に通っている世界。そこには銀次郎やユキ、そして他の友達たちが妖怪のまま存在する学校だった。元の世界に戻ったのではなく、ヒヨ子は彼女が望む世界を作り上げたのだった。
最後にヒヨ子の父親が羽を出した状態で登場するのだが、この時の彼の羽は白でも黒でも灰色でもなかった。その羽の秘密は文庫版の「あとがきもどき」で明らかになる。これは文庫版購入特典といったところか。作者は こういう壮大な話が大好きですね。そして その壮大さを作品内に落とし込むのは あまり上手くないように思う。そもそも父親の初登場時は両翼とも黒かったが…。ここまで父親が羽を出していないという遠大な伏線があれば面白かったが、単に矛盾が生じているだけである。まぁ神にも等しい存在なのだから羽の色ぐらい どうにでも出来るんだろうけど。
そうなると この世界を造った神は並列に存在するということなのか!? 誰の意思が働いているのか よく分からない世界である。
ちなみに番外編で性行為が完遂されるのだが、朝チュンに近い描写で終わる。序盤の方が描写的には過激だっただろう。ってか台詞が下品すぎて嫌だった。ヒヨ子という女性の品性の無さが よく出てますね、と嫌味を言いたくなる。