藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様!(かいちょうはメイドさま!)
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
美咲がバンドマンと…合コン!? さくらが大ファンだという彼らは、なんだかスゴく個性的で…!? 一方、メイド・ラテに買収の危機!! その裏には、あのオレ様生徒会長・五十嵐虎が絡んでいた! 店を守るため、美咲たちが乗り込むのは…執事喫茶!?
簡潔完結感想文
- 女性は清純だが男性は性格が悪い(碓氷以外)という世界観に そろそろウンザリ。
- 優勝しても見返りの確約がないオーディションへの参加、という前提が変だよね。
- 長かった割に執事編は どう楽しめばいいか謎のまま。風邪回の方が情報量が多い。
飛んで火にいる夏の虫 の 5巻。
本書のヒロイン・美咲(みさき)は戦うヒロインだと思う。生徒会長として元 男子校の風紀を正そうとしている。それは男性優位の社会への女性の叫びにも重なる。美咲は この学校という社会の中のマイノリティである女性をセクハラやモラハラから守ろうと戦っている。
その点で生徒会長としての美咲の口調が乱暴になるのは まだ分かる。ただ この『5巻』は美咲が自分から嫌な男に接近して、自分なりの正論を叫ぶだけのように思えた。そして本書はヒーロー・碓氷(うすい)以外の男を酷い男として描くことで碓氷の評価を相対的に上げている感じが苦手だ。男は嫌い、男は乱暴、男は卑怯、男は権力の名のもとに女性を思うがままに扱う(※ただし碓氷を除く)。そういう内容でしかないのが残念に思う。
また今回『2巻』で初登場した大財閥の御曹司・五十嵐(いがらし)が登場するのだが、彼が登場する回は美咲が何と戦っているのかが不明確なのが気になる。
お金持ち学校の生徒会長でもある五十嵐の部下の生徒会副会長(こちらも お金持ち)がメイド喫茶が入るビルごと買い取り、執事喫茶をオープンするという話が出る。それを阻止するために美咲が アチラ側が主催する執事オーディションに男装して乗り込むというのが『5巻』の半分以上を使った話となる。もはや『ホスト部』であり『執事様』であって、メイド様も会長も あまり関係が無い話である。
問題なのは そもそも このオーディションへの参加がビル買収の撤回に繋がっておらず、美咲が出場する意義がないことだ。美咲は自分が五十嵐に目をつけられており、それが原因でメイド喫茶が消滅すると思ったから、相手方に乗り込むのだが、そこでの活躍とビル買収は別の話にしか思えなくて、ずっと冷淡な視線を送っていた。作者としては白泉社的な大イベントを やりたかったのだろうが、美咲はメイドが本業ではなく、参加の動機が弱すぎる。
最終的に美咲(メイド喫茶側の)の美しい経営方針が相手の士気を挫く、という精神論の勝利も意味が分からなかった。敵側からすればビジネスの話であり、そしてオーディションは相手の本気度を見せてメイド喫茶側に白旗を揚げさせるのが目的で一方的な催しだったはず。なのに美咲の演説で全てを幕引きするという流れになり、作者は何がしたくて、何が描きたくて この話を描いたのかが分からなかった。
メイド喫茶のバイトは美咲にとって生活のためであり、なぜ秘密の露見を恐れながら従事するのかも分からないし、彼女が必死になって守ろうとするのも いまいち分からない。店長への義理や従業員たちとの連帯感は確かにあるのだろうが、高校生バイトの美咲が全部を背負う意味が分からない。ビル買収なら店長がビジネスとして阻止すればいい、と常識的なことを考えてしまう。そもそも このお店は美咲が思うほど高潔な思想のもとに店を運営していないだろうし、フリーターのメイドにとっては一つの働き口に過ぎないだろう。それを さも貴重なように、急に美咲の中で その価値を上げる描写には違和感があった。どうも作者は美咲の会長としての責任感と、バイトのメイド様の責任感を同等と考えている節がある。美咲にとってメイド喫茶での労働は体力を使わないバイトでしかないのに、いつの間にか美談に変わっている。
美咲を「理不尽なもの」と対決することで物語に躍動感を与えているが、その戦いの意義が あまり見えないから楽しいとは思えない。特に この執事オーディションは長すぎるのに徒労感ばかりが残った。
冒頭は美咲の合コン話。正確には友人の さくらが好きなバンドマンとの お茶会に美咲も参加するというもの。さくら は純粋に浮かれるが、バンドマンの方は さくら が友人を引き連れてライブチケットを捌(さば)こうとしていた。しかも さくら の目当ての男性が美咲にターゲットを絞ってきて美咲は困惑する。バンドマンは完全にファンサービスの一環として さくら に対処しているだけと分かり美咲は怒り心頭に発する、直前でストーカー・碓氷が事態に乱入する。
しかし その後も さくら を無視したような態度を取るが、さくら は泣くのではなく、彼らの美咲への侮辱発言に対して怒る。こうして合コンは解散。美咲と友達たちの絆が強くなり、美咲には碓氷が待っていてくれる。
メイド喫茶が外食産業の一大グループに、ビルごと買収される話が持ち上がる。
代わりに出店されるのが執事喫茶だという。その話を持ち掛けたのは お金持ち学校の生徒会副会長で、その裏には生徒会長の五十嵐が存在した。五十嵐は『2巻』以来の登場である。そして副会長として主人に仕えるから執事がコンセプトの お店の経営も大丈夫、という あまり理屈の通らない論理を展開する。
そして五十嵐は執事の質に対して疑問を持つメイド喫茶側に執事の大規模オーディションに招待する。美咲は この話がメイド喫茶に持ち込まれたのは、五十嵐に目をつけられた自分が働いているからだと考える。五十嵐に煽られ、美咲は執事オーディションに男装して参加することを決意する。
男装での執事オーディション、まさに『ホスト部』で『執事様』である。現実離れした展開も いかにも白泉社作品だが、一バイトでしかない美咲が このオーディションに全力で挑むのは動機の面で弱い。前回は所属する学校問題で五十嵐と対峙したが、メイド喫茶の命運は店長に任せるしかない。美咲だって この店には最長でも あと1年半しか関わらないのだし。美咲が この店のことが大好きという描写も それほどない上に全部を背負おうとするのは青臭いし、暑苦しすぎる。
無茶苦茶な競技の数々も白泉社らしく、そして だからこそ既視感がある。美咲はメイド喫茶のメンバーで男装がバレなそうな店員と2人1組になって出場。他には幸村(ゆきむら)・叶(かのう)組、3バカから2人、そして謎の覆面組などがいる。幸村たちがいることで、美咲は正体がバレないように注意を払わなくては ならなくなった。
しかも早着替えで美咲はクリアしたが、ペア参加者が失敗し女性だとバレてしまった。その流れで覆面組の正体(性別)も追及され、碓氷と葵(あおい)が顔を出す。葵は年齢的に失格で、ペアである美咲・碓氷も敗退する。ちなみに葵は叔母の店を守るために出場を決意したらしい。
だが五十嵐の気まぐれで美咲と碓氷がペアとしての参加が認められる(お話的に このコンビにしたかっただけだろう)。だが それには美咲が男性であるということを証明しなくてはならず、美咲は碓氷の手を自分の胸に当てて それを証明する。これは五十嵐の嫌がらせなんだろうけど、彼は真相を知っている訳で、なぜ参加継続を認めるのかが いまいち分からない。
こうして いつも通りペアになった美咲は碓氷にサポートされて力を発揮する。だが最終課題を前に、碓氷が美咲を庇って腕を負傷する。碓氷を巻き込んでしまった美咲は彼のためにオーディションを辞退するか、それともメイド喫茶のために続行するか葛藤する。
美咲が選んだ道は碓氷に怪我した手を使わせないように、自分が先回りして動くこと。だが美咲が動きすぎることえ、何もしない碓氷が執事として用なしになってしまう。そこで碓氷はアドリブでバイオリンを演奏し、自分の務めを果たす。しかし腕を酷使することで碓氷の限界は近づく。美咲は それを見かねて頭を下げ一刻も早い治療を要請。だが辛口審査員は主人の前で執事が馴れ合いをしているのではと美咲を問い詰める。だが美咲は、倒れないように支え合うことで お客様に奉仕できる というメイド喫茶側の精神を告げ、その場を去る。
こうしてメイド喫茶を守ることは出来なかったが、店長は違う場所での開店を考えることで落ち込む美咲を救おうとする。うーん、何のために戦っているのかは ともかく、美咲が どの立場で物を言っているのか、勝利の先の展開が見えないから長い割に よく分からない話だった。ビルの買収も美咲の精神論の演説で立ち消えになってるし。
この執事オーディション編で何よりも重要なのは碓氷の彼以外 誰もいない何もないマンションの中が見られたり、五十嵐が「碓氷」という名に反応したりしていることだろう。ほんの少しずつ個人情報を小出しにしていく戦法だろうか。
そんな碓氷の生活が見られるのが次の回。美咲は怪我をした碓氷を見舞いに、彼の家を初めて訪問する。碓氷は『1巻』の屋上落下と同様に入院生活を早めに切り上げたようだが、その影響か高熱を出していた。
そこから始まる風邪回である。美咲は碓氷の部屋に入って初めて彼の素顔に触れる。美咲はお粥を作ろうとするが下手で失敗する。少女漫画のヒロインって料理が上手いか下手かの二択でバランスを取っているところがある。頭がよく優秀なヒロインは料理が苦手というハンデで弱点を作っている(白泉社系は特に多い)。逆に何の取り柄もない おバカなヒロインは料理が上手くて その道を進路にすることが多い。
碓氷は美咲の初の手料理を平らげる。彼にとっては味ではなく その手料理そのものに価値があるみたいだ。そして入浴の出来ない碓氷のため美咲は清拭を買って出る。服を脱がし、彼の身体を拭く間、美咲は ずっと彼に助けられていることを思い出す。だが碓氷は、美咲が碓氷に助けられているだけでなく、自分が美咲を頼っていると彼女に告げる。料理の失敗で何も役に立てないと思っていた美咲にとっては自己肯定感の生まれる言葉となり、素直に嬉しく思えるのだった…。
碓氷のプライベート空間である彼の部屋で彼の本当の心に触れて、少し美咲が彼の本質を理解していくという流れが良かった。本当に微妙ではあるが、碓氷のことも2人のことも前進している印象を受けるので、それほど停滞している印象は受けない。