藤原 ヒロ（ふじわら ヒロ）
会長はメイド様！（かいちょうはメイドさま！）
第04巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
催眠術少年・叶(かのう)が美咲(みさき)に術をかける!! “一度眠ると次に起きたときには碓氷のことが大嫌いになる”!? 今夜は眠らせない…碓氷も本気モードで対決!! そしてメイド・ラテのスタッフ一同&碓氷は夏の海へ！ 浜辺で水着ラブ上昇☆ 特別編2本+描きおろし満載!!
簡潔完結感想文
身勝手な男たちの行動が目に余る 4巻。
今回 良かったのは中学3年生を対象にした学校見学会で生徒会長の美咲（みさき）が女子生徒たちに一つの企画を任せ、彼女たちが美咲の介入なく動いていたこと。『2巻』・『3巻』の体育祭では美咲が出しゃばって（いるように見えて）、女子生徒が一つも競技に参加していなかったのが気にかかったが、今回は女子生徒にも役割があり、彼女たちだけで企画を成功させ、学内の雰囲気が改善されている。この見学会は美咲が頑張りすぎず、それぞれの部活やグループを信頼して彼女は生徒会長として全体を見渡す役目に落ち着いているのが良かった。これを作者が美咲の成長として狙って描いているのなら感心するが、おそらく そうではないのが残念な所。
碓氷（うすい）が美咲に ずっとくっついて回るのは頑張り屋さんだけど危うい所のある彼女をサポートしたいという愛情からの行動なのだろうが、結局、碓氷が活躍するということは、美咲の能力の限界または自爆があった後であり、美咲自体が碓氷の咬ませ犬や踏み台にしかなっていないのが構成として残念。美咲の自爆回避が1巻につき1回あれば良い方で、美咲の失敗談を見せられている気分になり、どうにも心から楽しめない。今回の海回の美咲の弱点のように、彼女にも弱さがあるという表現なら良いのだけど、美咲が碓氷の前座に成り果てているのは困ったものだ。
その碓氷も もう行動の理由に既視感があり、新鮮味が薄れてきている。特に海回での他の男性に美咲の水着姿を見られたくないという理由で彼女の背中にキスマークを付けるシーンはドキドキするどころかドン引きしてしまった。以前も書いたが、碓氷は「イケメン無罪」を盾に言動が割と気持ちわるい。白泉社ヒーローっぽくなくて新鮮な気もするが、自分勝手な俺様ヒーローの思考回路で私は好きになれない。
また自分勝手な行動という点では催眠術師・叶（かのう）の行動も謎過ぎる。詳細は後述するが、どうも本書の男性（五十嵐など）は自分本位な人が多い気がする。自分の思うがままに行動するばかりで、常識が欠落していて、物語に嫌な印象を残す。白泉社作品は迷惑な人が多いが、その多くはマイペースだったり一種の狂気があって笑えるが、本書の場合、動機が湿っているというか犯罪っぽいのが気になる。
あと私が楽しむ前に読者が この世界を楽しんでいると感じる所があるから、かえって引いてしまう。おそらく『4巻』の質問コーナーで初出となるのが碓氷を表す「フェロモン星から やってきた変態セクハラ宇宙人」という言葉。私は これが苦手。作者のオタク気質が出ているのかもしれないが、美咲が こういう言葉をチョイスするとは思わない。第一、美咲は作中で碓氷からフェロモンが出ているなんて一度も言及していないではないか（私調べ）。『3巻』で葵（あおい）が そう言っていたが、美咲が碓氷の「フェロモン」を認めた描写はない。美咲がフェロモン星なんていう、売れるために必死な芸能人が考えそうなワードセンスを出すのが私は気に入らない。
また作者だけが楽しんでいると思うのは幸村（ゆきむら）の扱い。女装キャラを始め、最後まで作者の玩具のように扱われているのが不憫でならない。
最後の番外編など作者とファンなら楽しいんだろうな、と思うが私とは温度差があって読んでいて辛い。
学校内に突如 現れた催眠術師・叶。彼は碓氷に美咲が嫌いになる術をかけるが、碓氷には効果なかった。これは碓氷が完璧超人 ← かっこ笑い、ではなくて叶という人間を信用していないからなのだろう。碓氷の冷酷さが この辺に出ている。
『3巻』での一件で催眠術師の顔を知る美咲は集合写真から犯人が叶という生徒であることを突き止め、彼と1対1の対話を始める。叶の犯行動機は女嫌いだから会長である美咲を排除し、これ以上 この学校に女子生徒が増えることがないことを願っているという。この叶の根本的な身勝手さに唖然とする。そもそも この学校は共学になって数年経過していて、1年生の叶は それを承知で入学した。それなら男子校に入れば良いではないか。美咲のように家計の問題がなければ、であるが。美咲個人を狙って将来的な女子生徒の数を減らす、というのも遠回りすぎる。上述の通り、男たちの犯罪は こじんまりとしている上に高慢な気がしてならない。
美咲は生徒会長として生徒を愛しているからなのか再び叶の術中にハマる。今回の美咲は24時間以内に一睡でもすると碓氷が大嫌いになる催眠術をかけられた。美咲が心配で必死の形相で彼女を捜した碓氷も ここで合流。美咲は自分が かけられた術の内容と発動条件を理解する。ここから美咲は碓氷を嫌いになりたくないから眠らないのではなく、叶の思い通りになるのが嫌で抵抗する。叶はダメ押しで策を弄して美咲に一服盛り、勝利を確信して のこのこと2人の前に現れる。だが このゴールデンコンビは やはり最強で、叶の試練を乗り切った。碓氷に催眠術をかけられなかった時点で叶の負けは確定していたか。
叶はペナルティとして中学3年生を対象とした学校見学会で美咲は叶を雑用係として こき使う。この見学会では美咲は女子生徒たちに食堂係をやってもらう。こういう風に美咲だけが頑張るのではないシーンは新鮮で楽しい。中学3年生たちにとっては この学校の男女の確執なんて関係なく、楽しんでもらえた。こういう楽しい空間を提供するサービスはメイド喫茶と共通する部分だろう。
そして叶は女子生徒たちの企画に参加し、少しずつ女嫌いを克服していく。そして彼は母親が家を出て行った家庭環境から、女性は脆くて弱いという先入観から自分が触れないようにしていただけだということが判明する。美咲は今回、叶が長時間一緒にいて女子生徒たちの本当の姿を見てもらおうとした。こうして叶はトラウマを少し克服する。男性キャラのトラウマ解消は恋愛の解禁となるから、てっきり叶は美咲を好きになると思ったが、この後 彼が作品内で ずっと一緒にいるのは別の人物であった…。
メイド喫茶のメンバーで海に旅行に行く。そこに碓氷と葵の男子メンバーも混ざる。葵がいるのは、彼にとって叔母にあたる女性が海の家を経営していて、自分の父親から送り込まれたから（つまりメイド喫茶の店長の兄弟構成は兄・店長・妹なのだろう。やたらと家系図を広げるのは白泉社らしい）。
しかし この海の家は立地が悪く繁盛しておらず それを盛り上げるのがメイド喫茶の面々となる。葵は口では美咲に生意気なことを言いながら、彼女の真っ直ぐな性格に惹かれている様子。
そんな葵の存在があるからではないだろうが、碓氷が美咲の背中にキスマークを付けることで彼女に肌の露出をさせなくする。キスマークといえば聞こえはいいが、いきなり背中を舐めてくるのと変わらない行為で、碓氷の行動を私は気持ち悪く思う。一度も自分を好きと認めない女性の身体を舐めるなんて ただのストーカーである。
そして2日目。美咲は碓氷に幽霊系の話が苦手という弱みを見せたり、その恐怖を彼の抱擁で落ち着かせてもらったりしたため、碓氷を意識する。初キスの後日談となった『2巻』冒頭以来に美咲が碓氷を男性として見ている気がする。
この日のメインイベントはビーチバレー大会。葵は この大会で優勝したら海の家での労働や服装の不自由を免除されるということで燃える。だが彼はペア参加の相手がいない。そんな苦境を助けるのは美咲。碓氷は今回も したこともない競技に足を突っ込む美咲のブレーキ役となる。そして自分の言い分を美咲が聞かないと知るとライバルとして立ちはだかる。
ここから美咲は葵のために奮闘し、暴走し、そして碓氷に迷惑を掛ける、という いつものパターンが展開される。碓氷が美咲の前に立ちはだかったのは、優勝者として男が喜ぶような衣装を着て、彼女の写真を撮られたくなかったから。この碓氷の独占欲からの行動も以前あったような気がする。碓氷は好意を何度も口にしているから、美咲が その気持ちを受け入れるまで、ずっと こういう話の連続なのだろう。
そして最後にはメンバーで写真を撮るのだが、美咲は葵と碓氷 どちらからも腕を引っ張られている。妖怪・背中吸い男と年下の女装家、なかなか難しい選択である。
『4巻』のラスト1/4は番外編で、作品ファンなら楽しい内容となっているが、ファンではない私は感想を割愛させて頂く。
