《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインの余命は伸びそうなのに、作者の構想よりも早く作品の命が尽きる皮肉な現実。

きっと愛だから、いらない(7) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
きっと愛だから、いらない(きっとあいだから、いらない)
第07巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

円花の恋と夢が走り出す・・・! 円花と吉良のバンド「ラズライト」が、人気バンド「シリウス」のデビューライブにゲスト出演することになった。はじめてのライブのために、新曲を用意した円花たち。ところがライブ当日、シリウスがその曲を先に歌ってしまう。曲を盗られた円花が取った行動とは・・・!? 好きな人のために命の限り歌いたい、円花の夢はかなうの・・・!? 期限付きの恋と夢が走り出す、ドラマチックラブストーリー第7巻。

簡潔完結感想文

  • 予想外に早めに終わる物語はアウトラインしか語られなくて中身スカスカ。
  • 恋人・音楽・仲間、それらを手にした円花に生きたいという切望が宿る。
  • 謎のイケメンという薬は作品を延命させなかったが、円花は新薬で復調。

者は作品に残された命を大切にしない 7巻。

音楽活動という迷走を始めたからか、そもそも迷走自体が再起を図っての苦肉の策だったのか分からないが、作品は作者の予想よりも早く幕を下ろすことになったようだ。私の気のせいかもしれないが、作者は その現実を受け入れられず、物語をアウトラインでしか語らなくなったように見える。物語が後半に進むにつれ、どんどん話の密度・濃度が薄くなっていき、感想を述べるような場面がなくなっていく。『7巻』で円花(まどか)に見え始めた光も、医学的な根拠は飾りで、愛があれば全てを乗り越えられるといった感じの精神論が多くて落胆するばかり。

恋愛が人生を変える、の究極系が本書だろう。そこだけを丁寧に描いてくれれば…。音楽 なにそれ??

本書が浅いのは やはり病気モノを扱う作者の姿勢の甘さではないかと思う。以前も例に出したが、青木琴美さん『僕の初恋をキミに捧ぐ』が長い間、名作として読み続けられるのは作者の準備や覚悟があって全精力を傾けた作品への熱量が込められているからではないか。作中で登場人物に辛い現実を見せるのも作者の精神力があってのこと。そして それを逃げずに描いたことで読者に忘れられない痛みを植えつけた。

更に最終『12巻』の感想文でも書いたが、作者は最後まで主人公の治療法について悩み抜いている。恐らく事前に主人公の病気を細かく設定し、その治療法や患者本人の苦悩、そして周囲のケアの難しさに関する書籍を何冊も読みこんで作品に反映している。その努力の影が確かに作品から見える。そして連載中に登場した科学技術を作品に取り入れ、それを主人公の希望としたのも印象的だった。作者自身が まるで主治医のように主人公の治療法に悩み、病気から解放されるかもしれないという一縷の望みを託して新技術を盛り込んだ形跡が見えた。後年に読むと疑問点も多いのだが、それでも主人公を助けたいという強い気持ち・愛が作品から感じられた。


って本書の作者はどうだろう。作品を重苦しくすることが病気モノの存在意義ではないが、余りにも病気に対しての意識が軽い。本書の中で病気は可哀想を強調するアクセサリであり、変わった恋の出発点でしかない。
恋が円花の生きる活力になる、ということを物語の目標にしたのは分かる。けれど病気が本当の両想いの障害として用いられるばかりで、その障害を乗り越えた円花には ご褒美が待っていたかのような展開は ご都合主義に見える。少女漫画なので、恋愛が人生を動かす場面を描きたいというのは分かるし、ちゃんと その試みは成功している。作者の狙いは十分すぎるほど分かるのだが…。
そもそもの余命という前提も円花の主治医による言葉遊びのようなもので、読者もまた騙されて続けていたという真相も腹立たしく思える。

交際から始まる変則的な初恋を描きたかったみたいだが、それがあまり上手く機能しなかったように思う。円花が吉良を騙し続けることをはじめ、最初から色々と歯車が噛み合っていないから読者の共感を得られない。

連載が思いのほか早く終わることになった場合、残りページに急いで情報を詰め込むような作品も見られるが、本書の場合は その逆。やる気を感じられないぐらい情報量が少なくなり、バンドは成功するし、円花も体調が良くなる。愛と才能があれば世の中が好転する、というライトなメッセージしか伝わってこない。
新薬は副作用との兼ね合いがあるので学校を休むとか、会えない日が続いてしまうとか、もう少し病気を大事にしてくれないかと思う。愛が成就し、回復への道筋が立ったから その辺りを おざなりにしちゃうのが作者らしいのだけれど…(嫌味)


披露目となるライブでは既存の曲を発表しようとしたが、元々 ラズライトの曲は前ボーカル さくら に合わせた曲ばかり。それを円花が歌っても合わないことをプロデューサーの鮫島は見抜く。そこで時間の無い中、新曲を用意することになる。即席の曲、即席の歌詞だが鮫島のお眼鏡に適う。死ぬこと以外はイージーな人生である。

だがライブのメインのバンド・シリウスは謎のイケメンの言葉に乗って、彼らの新曲を先に発表してしまう。作者としては この謎のイケメンと円花を本格的に絡めたかったのだろうが、その前に作品の命が尽きる。新たなイケメンという即効性の高い薬を使っても作品を延命できなかったか…。

ここで新キャラという新薬を投与。だが読者離れという病状は進行してしまい、打つ手なし…。

だがラズライトは売られた喧嘩を真っ向から買う。2曲連続の演奏となったが、ラズライトは実力で彼らのファンの反感を抑える。そして『3巻』で円花の薬を盗んだ結愛(ゆあ)の時と同じように、円花は その罪を断罪しないで、シリウスファンに対して失礼だったと彼らの態度を説教して終わるだけ。何だかラズライトが正義、命の短い円花がいつも正しいという方向性が見えて辟易する。こうしてシリウスは改心し、謎のイケメンとも関係を断つ。


下として使ったシリウスが使えないので黒幕が直接 動く。彼は大人気音楽プロデューサーの春近 臣(はるちか おみ)という。

この頃、ラズライトの快進撃と反対に円花の病状は確実に悪化していた。彼女は忘れ物が増え、そしてライブ会場で自分が どちらから来たのかが分からなくなる。

そんな時、円花は春近と出会う。何か悪意あって近づく春近だったが、当然 この魔の手から円花を守るのは吉良の役目。この作品で吉良が誰かの間に割って入るのは3回以上見たなぁ…。水瀬作品って全部ヒーロー行動が同じ。

吉良の登場で春近は笑顔を作るが、最後に鮫島に悪い噂があることを匂わせて退散する。


リスマス旅行からの怒涛の1週間が終わり、作品内で新年を迎える。そこで円花は心から自分の病気の治癒を願うのだった。

その自分の中に芽生え始めた意思を円花は主治医に伝える。すると彼は その言葉に口元をほころばせる。そして こう答える。治療法は、ある。
主治医が『1巻』で伝えた彼女の余命は飽くまで治療しなかった場合の話。そして円花に治療の意思がなければ治るものも治らない。だから主治医は円花の生きたいという切望を待っていた。そして主治医は円花に敢えて余命を告げることで生き方を見直すショック療法を仕掛けていたのだった。現実的には治療には困難が待っている。弱った心では副作用に負けてしまう。でも今なら円花に受けられる新薬がいくつかあるという。こうして円花の中に希望が光を帯びる。

主治医は円花と母親の関係を知っているから円花に自主的な意思が宿るのを待っていたのだろうが、母親としたら治療法があるなら先に言えよ、と言っちゃう場面である。この4か月で円花の体調が悪化したら それはそれで主治医は受け止めるしかなかったのだろうか。医者って凄い。


花は吉良に治療法や生きるチャンスがあることをいち早く報告したいのだが、ラズライトのテレビ出演以降、学校内外で彼らは取り囲まれてしまい近づけない。ようやく円花が生徒たちから避難した場所に吉良がいるのを発見し、そこで治療法の報告をする。すると彼は大粒の涙を流してくれた。

それから1か月、円花が服用する新薬は効果を発揮し、このままなら手術も可能だという。腫瘍のようなものを小さくしているのだろうか。薬の効果で早くも体調が良くなったように感じる円花は これまで以上に学校行事を心から楽しむ。

だが円花は浮かれすぎてバレンタインデーの存在を忘れてしまう。そこで彼女は「来年」のバレンタインデーでのリベンジを吉良に誓う。これまでは未来の話が出来なかった彼らが約束を交わすようになった。でもタピオカを使った このキスは憧れないなぁ…。

そしてラズライトのデビューが決まる…。