《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

1人での外出禁止だったヒロインが高校生だけで旅行する彼女の飛躍と ストーリーの飛躍。

きっと愛だから、いらない(2) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
きっと愛だから、いらない(きっとあいだから、いらない)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

人生で一番忘れられないキスをする…。1年後にわたしが死ぬって言ったら、吉良くんは変わらず笑ってくれるのかな。彼女ってなにをすればいいんだろう? 光汰(こうた)に喜んでもらいたい。その一心で、新しい挑戦を続ける円花(まどか)は、光汰たちのバンド合宿に参加することに! 病気になってから初めての「仲間との旅行」に胸を躍らせる円花だけど、円花のことをよく思っていない、光汰のおさななじみ・結愛(ゆあ)の不満が爆発して…!? センチメンタル&ドラマティックラブ、波乱の第2巻!

簡潔完結感想文

  • ナスやピーマン・トマトなどをキッチンに出して、作るのは うどん という謎。
  • 彼氏が欲しい、キスがしたい。彼女にとって大事なのは目的で過程ではない。
  • ライバル女性を二重にフルボッコしたら命の危機。倒れれば ほらドラマティック。

ストが客の望むままに自分を演じる 2巻。

ヒロインの円花(まどか)は病気のため、このままでは余命1年だと医師に告げられた女性である。彼女は自分の余生を意義あるものにしようと、恋がしたいという自分の願望に正直になる。そんな時に出会ったのが吉良(きら)という同級生の男子生徒。彼は円花が本当に恋をしていないと分かっても彼女の理想の彼氏であり続ける。だから円花も引き続き彼に願いごとを叶えてもらおうとするのだが…。

この2人の関係は契約上の交際に見える。そこに中身が伴っていくのは偽装交際など少女漫画で よくあるパターンである。
この後の展開を読むと、なぜ円花が吉良を選んだのか、病気のことを伝えないのか、また なぜ吉良が円花に寄り添うのか作者は一つの答えを用意している。でも それを聞いても全て腑に落ちないのが本書の残念なところ。そもそも円花が不誠実な態度で吉良に接しているという前提があり、それを円花が肯定的に考えているところから納得が出来ない。それは動機を聞いても同じ。

自分の都合で選んだ吉良が自分の思い通りにならなければ怒りを爆発させる ワガママ地雷女。

そもそも円花の目指す「恋」が私の望むようなものではないから共感できないのだ。だから どんな胸キュンな場面が起きても心から喜べないし、むしろ中身を伴わない恋愛で先へ先へ進もうとする2人の様子に違和感を覚える。そうしなければ ならない円花の人生が作者的には切なさのポイントなのかもしれないけれど、私には全く刺さらない。恋に恋して、相手に自分の望みを叶えてもらう、それを恋と呼んでしまうことが円花にとって悲劇なのだろうか。

序盤に関しては円花が間違っていること自体に意味があるのは分かるのだが、その間違い方に首を傾げてしまう。

ただし交際から2人の関係が始まるので序盤はスピード感がある。次に何が起こるのかと読者にページをめくらせる作者の手腕は確かで、その点においては素直に感心する。相変わらず描きたい印象的な場面への話の繋ぎ方が酷いものだけど。あと病気の症状を物語を盛り上げるために使っている感じも好きになれない。ドラマティックって そういうことじゃないと思う。


た最初の一文に書いた通り、私には円花と吉良の関係が、客とホストのように見える。訳ありな彼女の事情でも それを深入りせず、ただ楽しい時間を過ごすことを最優先するような関係だ。2人とも刹那的な楽しみを優先して、相手に深く入り込まない。それでいて交際がしたいとかキスがしたいとか欲求を優先する。その展開の速さは読者を魅了するが、同時に置いてけぼりにする。
キスが愛を伝える手段ではなく目的化した時点で円花は間違っているのだが、本書は円花の過ちを指摘しない。指摘するのは作者が考える最良のタイミングを迎える時だけである。

病気という特性を武器に、自分の特別性や悲劇性を高め、そして鋭い観察眼で時にライバルを圧倒する円花だが、驚くほど自分が見えていない。だから読者は円花を どういう子だと捉えればいいのか分からない。
時に強い精神力を見せるのに、吉良の言うことを鵜呑みにして、意見をすぐに曲げる。病気という特徴を無視すれば、単なる いけ好かない子というのが私の印象だ。他者に責任を押し付けるようで申し訳ないが、これは作者の中で円花という人を掴み切れていないからだと思う。

闘病モノだから話の先は気になるけど、円花も吉良も好きになれそうもないのが本書最大の欠点ではないか。


花は病院との関わりも長く、星叶(せと)という女友達もいる。
作品は円花と吉良の交際の様子をメインにするため、円花の過去の病気は詳細に語られない。いつ病気が発覚したのか、どういう経緯で病気と付き合ってきたのかなど分からないまま。だから星叶と知り合ったのが入院生活なのかも不明。こういう点が病気という設定だけ おいしいとこ取りしているように感じられる部分である。
そして この後、星叶の出番は滅多にない。一体、何のために出したのか分からないキャラで作者の詰めの甘さを感じる。例えば星叶に不幸が起きるとか、円花では描けないことを描くという役割を担わせたりすれば登場の意味が分かるのだが、相変わらず作者は自分の気になることしか描けないので、脇キャラは放置される。もうちょっと全体像を描いてから作品に挑んで欲しい。特に本書のような内容では。


花は恋をして彼女になるという自分の したいことリストを叶えていく。その中で吉良にしてもらうばかりではなく、自分が吉良に出来ることを考え、お弁当作りをしようと母に教えてもらう。母親も ここ最近の娘の変化を感じ取っているらしく、彼女の心配するあまり やりたいことを取り上げるのではなく、応援する側に回ってくれたようだ。自分で料理するということも円花にとって初めての経験で世界の広がりを感じることとなる。

その お弁当だが、前後の流れがないまま、女子生徒にバカにされ、その円花の落ち込みを吉良が助けるという いつものパターンが展開される。なぜ女子生徒が円花が吉良のための お弁当を持っていることを知っているかなど、前後の流れは一切なしの、ヒロインとヒーローのためだけの展開である。こういう作りたい話だけを作っていく姿勢を恥ずかしいと思わないのだろうか。
更に お弁当が なぜ うどんなのかも謎である。母親の監修があって どうして汁物を作ろうと思ったのだろうか。皮をむいていたニンジンは どこで使ったの?? うどん が吉良の好物という訳でもないし、変な部分ばかりが目に付いてしまう。でも吉良が喜んでいるので万事OK。そういう作品である。

ニンジンを皮をむいて うどん が出来る謎展開。でも一番 重要な食材は薬味のネギという複雑さ。

良からデートの次はバンドの練習と称して別荘で お泊り回を提案される。

円花は同級生たちとの旅行は初めて。参加者は円花・吉良、そして結愛(ゆあ)と久世(くぜ)のバンドメンバー。ちなみに別荘は久世家の持ち物。低年齢向け少女誌と白泉社の登場人物は誰かしら別荘を持っているなぁ…。
でも この旅行に際して母親からの注意喚起がないのが気になる(少し回想されるが)。いくら寛容になったからといって、母が娘を心配する気持ちに変化はなく、高校生だけでの泊りがけなんて何かあったら悔やんでも悔やみきれないだろう。
円花が不自由なままの展開は読みたくないが、これまでの葛藤を無視するような話の作りは納得できない。話し合うとか連絡を入れる約束をするとか、普通の高校生でも問題になる部分だけでも描くべきなのではないか。いきなり放任主義になるのは無理があるだろう。

別荘にて久世は『1巻』で投げつけられた円花の薬のポーチを ようやく返す。そこで初めて円花が薬を投げつけたことに気が付くのだが、大量の薬を服薬している円花が、薬を投げつけ、忘れるという展開が信じられない。作者は本当に病気を抱える人に寄り添って物語を考えているのだろうか。

更に久世は円花のことが気になっている様子。それは幼なじみの結愛だけが見抜いている彼の癖、という描写は良かった。こういう丁寧な話作りをしてくれればいいのに、と思う。ただ久世の当て馬としての働きはどうかというと微妙である。


の終わりに出会った2人だが、季節は すっかり秋になっている。おそらく これが円花にとって最後の秋。だから彼女は恋愛に前のめり。急ぐ理由も分かるのだけど、2人とも積極的だと情緒が感じられない。吉良が円花と過剰なスキンシップを取るのも、彼女を自分の所有物みたいにして何をしてもいいと思っているように私は感じてしまいキュンとしない。『1巻』から思っていたが、吉良は どこかホスト的なのだ。円花が喜ぶような「サービス」の提供に徹しているように見える。それがプレイボーイの本能なのか。

結愛は円花と2人きりで話す際、ちょくちょく円花を牽制するような発言をする。時に悪意を持って円花を傷つける発言をするが、円花はそれが結愛の虚勢だということを見抜いていた。結愛は吉良のことが好きで、その気持ちを封印するために彼への態度を つれなくしていることを円花は見抜く。この円花の気づきは病気によって精神年齢の高くなり、周囲を見渡せるようになったからだと推測される。ただ円花の場合、恋愛感情がどういうものか分かってないし、彼らとの交流も浅いのに、何で気づくの?という疑問が残るが。人物造形がチグハグなのである。

こうして円花に二重に敗北した結愛は、久世に協力してもらって2人の関係を壊そうとする。だが久世は久世で円花が気になっているから、今回は それに協力しない。逆に言えば いつもは幼なじみの試練があるということか。これで結愛は三重の恥辱に紛れることになる。だから彼女は仕返しを企むのだろう。


ンド練習や曲作りでは円花は やることがない。それでいてボーカルとしての役目はしたくないので、彼女は手持ち無沙汰になる。そこでバンドマンが集まる食堂へ席の確保に行くのだが、ある人と円花の接触を避けたい吉良が追いかけてきた。しかし彼はバンド活動をする女性たちに囲まれ、そして その一人と どこかへ消えてしまう。円花が吉良を追いかけると彼は その人に向かって彼女がいないと虚偽の申告をし、そしてキスをしている場面を見てしまう。

プレイボーイの吉良と交際するということは それだけ敵や過去があるということか。そんなことを悩んでいると彼女は入浴中に倒れてしまう。それを助けるのは不在の吉良ではなく久世。全裸の彼女に服を被せ、ベッドへと運んでいく。

円花が目を覚ますと横には吉良がいた。
寝起き状態から覚醒するにつれ記憶も鮮明になり、円花は吉良への やきもち を思い出す。そこで円花は昨日の人の正体を聞き出そうとするが、吉良の あやふやな返事に業を煮やし、最後まで話を聞かず、もう吉良とはキスをしないと宣言し、彼からのキスを拒絶する。それは円花に「人生で一番 忘れられないファーストキスをしたい」という願望があるからだった。弁解のような行動であっても相手のキスをしたいという高まる気持ちを無視して、自分の都合ばかりを言い立てるのが円花様である。


分自身への苛立ちや吉良の態度への怒り、上手くいかないことの多いことが嫌で、円花は別荘を出る。そして昨日、吉良とキスをしていた人に出会い、勝負を挑む。勝負内容はトランプをはじめとしたアナログゲーム。円花は入院生活が長かったようで その手のゲームは強いらしい。こうしてライバルに対しての勝負だったが、円花を心配した吉良が現れ、彼女とキスを賭けた勝負をすることになる。なんで?? 吉良の方も誠実さ、それを伝える言葉を持たないから、彼らの行動が軽薄に見えてしまう。

勝負はチェス。円花は自信があり、キスはお預けと思っていたが勝者は吉良となる。そして勝負がついた瞬間、彼は衆人環視の中、円花にキスをするのだった…。これは この後の展開のためにインパクトのある場面である必要があるのだろうが、なんだか吉良が がっついているように見えて好きになれない。

そのキスは円花の理想とは違った。だから彼女は怒りをぶつける。いつだって自分が中心なのだ。ただし今回は珍しく吉良も、一方通行の円花の怒りに対して反論する。円花は秘密主義で逃亡癖があるのに、反面 何か分かって欲しそうな顔をしている。そういう円花の態度を吉良は指摘する。

図星を突かれたので暴力に走ろうとする円花。これでは『1巻』で登場した吉良ファンのモブ生徒と同じである。だが吉良は その手を抑え、彼女を押し倒し2回目のキスをする。こうして円花はキスの悦びと快楽に負けて怒りが溶けていく。


スの後、円花は自分が吉良に望むことを次々に伝える。そこで露わになっていくのは何も知らないまま交際を始めた2人の関係の特異性。だから2人は自分たちのことを もっと話すように努める。そして吉良は まず円花が好きなこと、歌声が好きなこと、だからバンドのボーカルを務めて欲しいという願望を彼女に伝える。そんな彼の誠実さに円花も応えなくてはならない。だから ここで初めて自分が病気であることを伝える。ただ余命とか病名とか伝えないままで、吉良が歌えない病気でなければ歌おうと笑顔で告げる。そして彼は円花のために作った曲を聞かせる。

その曲は横にいたライバルに奪われそうになるが、円花はそれを死守。いきなりボーカルを承諾する。うーん朝令暮改というか、自分の気持ち一つで態度を すぐ変える感じが好きになれない。信念があるようで無いのが円花という人間だろう。全体的にキスをすれば言いなりなるような流れになってしまっており、こういう展開は「ホスト」吉良としては簡単なお仕事に思えるだろう。

別荘に帰った円花は臨時のボーカルとしてメンバーに紹介される。でも他の2人からしたら吉良が お気に入りを独断でボーカルに据えるように見えて当然だ。縁故採用・愛人枠としか思えない。吉良も もう少し地ならしをした方が良かっただろう。特に結愛は円花の加入に複雑だろう。


荘で円花は薬をなくした。この日は朝の服薬も忘れたため事態は切迫している。それだけ頭の中が吉良でいっぱいなのだろう。恋愛感情で脳細胞がいっぱいになり、病気の入る余地がなくなればいいのに。

焦りもあり頭痛が酷くなる。だが吉良が部屋に入ってくると円花は平気なふりをして彼に対応する。何でも言える関係性を作るはずが、まだ秘密主義を貫く。それが吉良への不誠実になることを彼女は気づかないままだ。
その後、吉良が退室した後、円花は緊急時用の1回分の薬があることを思い出し、何とか頭痛をやり過ごす。薬は円花にとって重荷でしかなかったが、今は命を繋げるための大事な手段であることを痛感する。これは母親の管理生活も同じだろう。

円花のもとを去った吉良だが、彼は円花の発汗に気づいていた。そして結愛や久世から円花には何か秘密があることを聞かされている。円花が自分に何も話さないのは自分が頼りないからだと落ち込む。

その後、円花が拒否したのに結局、歓迎会は開かれる。そこで吉良は円花のボーカル加入の お披露目ライブを発表する。円花は躊躇するが、吉良の口車に乗ってステージに立つ。やっぱり吉良に操作されている感があるなぁ。

薬なしで頭痛が起きる中でのライブだったが、彼女は立派に務め上げる。観客を魅了するには場数が必要だと思うが、ヒロイン様なので練習はいらないらしい。しかし大成功かと思われたライブで…。