《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

私はまだ彼に自分の未来について語れず、彼はまだ自分の過去について語らない。

きっと愛だから、いらない(3) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
きっと愛だから、いらない(きっとあいだから、いらない)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★(4点)
 

大切なファーストキスの記憶がない!? たくさんの人の前でしたファーストキス…だけど、私はそれを覚えていなかった――。バンドのライブ中に倒れてしまった円花(まどか)。ついに病気のことを仲間たちに打ち明けたけれど、余命のことまでは、どうしても言えずにいた。合宿中にファーストキスをした円花と光汰(こうた)だったけど、迫る病魔によって、円花はその記憶を失ってしまい――。その事実に動揺する円花に、光汰は「もう一度ファーストキスをしよう」と言って…? 切ないドラマチックラブ、第3巻。大ヒット「なみだうさぎ~制服の片想い~」の新作エピソードも収録♪

簡潔完結感想文

  • 自分を温かく迎えてくれる、バンドメンバーになった彼らに自分のことを少し話す。
  • たとえ君がファーストキスを覚えていなくても2度目のファーストキスをしてみせる。
  • 初会話で交際を決めた2人だから、少しずつ相手を知っていく。今度は吉良のターン。

れてしまった過去も 忘れたい過去も、俺/私 が塗り替えて見せる、の 3巻。

まさに「秒」でカップルになった円花(まどか)と吉良(きら)だが、彼らの交際は順調のように見えて そうではない。今回、円花は病気について一部分だけ話したが、自分の余命のことは話していないまま。そして吉良には円花には話していない過去があるようで、それが円花への異常な献身ぶりの動機になっていると推測される。
交際はしているけれど、本物の恋人になってはいない2人の動向は確かに気になる。

そして この2人の「秘密」が未来と過去にあるという対称性は素直に綺麗だと思った。円花は近づく自分の死、自分のいない世界について話していないし、吉良は荒れていた自分の過去、初代のバンドのボーカルのことなど円花に詳細に話していないことがある。自分を全て晒すことの出来ない2人が、傷つけるかもしれないという恐怖以上に相手を信頼し、裸の自分を見せることは出来るのか。この2人は物理的に裸になったり身体を求めたりするのではなく、相手に心を見せることが大事だろう。

また『2巻』から続く服薬が出来ない状況が事態を進展させたり、急転させたりする流れが綺麗だった。倒れたり記憶が欠落したり、病気を便利に使っているな、と思う部分もなくはないのだが、円花が服薬できないとどうなるのかが分かった。それは円花が現在の治療で何とか日常生活を送れていることを意味し、彼女が生きる意志を失ったり、治療を止めたら すぐに その命が尽きてしまうという厳しい現実が突き付けられた。

薬での災難が人間関係を強固にし、そして円花自身も彼らに自分の病状を伝える動機になっている。『3巻』は物語に不自然な流れがなく、大きな流れを感じられたのが本当に良かった。そして ようやく最後にヒーロー・吉良の過去やトラウマに触れる部分が出てきて、不自然だった2人の交際が自然な形になるような出口が見えてきた。

おそらく作者的にも この辺りまで到達するのを心待ちにしていた展開だろう。筆が乗っているからか読者としても物語に没入しやすい。


イブ中に倒れてしまった円花。だが母親に連絡をされたくない という円花の意思を尊重して救急車での搬送はしない。円花は自分の病気の重さや、母親の心配を身に沁みて分かっているんだから、彼女だけは自分の意見に固執せず、周囲に迷惑や心配をかけない道を選ばなくてはならないのに、自分本位で幻滅する。搬送されると薬の件などが大ごとになるから回避したのだろうけど、円花が子供じみていて好きになれない。

吉良は彼女の体調不良に気づかない自分を責めるが、円花は体調の悪化の理由は分かっている。彼女が何かを隠していることを察知して、吉良は自分が頼りないから話せないのか、と彼女に問う。円花は これまでの経験から誰かを頼ることをしなくなった。誰かに寄りかかる負担で面倒がられるぐらいなら誰にも頼らないというのが彼女の生き方だった。でも吉良は円花のことを少しも迷惑がらない完璧な彼氏。彼の「特別」であるなら、と円花は態度を軟化させる。

そこに結愛が控室に飛び込んできて、彼女が隠した円花の薬を差し出す。円花は事情を察するが、吉良の前で結愛が悪者にならないよう真相に蓋をする。


の件を通して円花は結愛に認められることになる。そして結愛は自分の苛立ちは円花の出現ではなく、円花によって吉良の中の止まっていた時間が動き出したことを察知したからだと自己分析する。彼はずっと作曲が出来なかったが、今回 結愛のために曲を作った。吉良の過去を知っている結愛だから そこに羨望と寂寞があったのだろう。

そして騒動を経て改めて円花は全員からバンドのボーカルとして歓迎される。
自分を迎えてくれる人たちに円花も自分のことを話す。「頭の中に病気を抱えて」いること。そのことを人に話すことは円花にとって他者に一線を引かれるかもしれない恐怖があった。ただ今は隣に吉良がいて背中を支えてくれる。

ここで初めて円花の病歴や症状の概要が語られる。小さいころに倒れて、病気が見つかったが症状が出ない限り 普通に生活できる。しかし母の過干渉で円花の生活には自由がなくなった。そして服薬が決して万能ではないこと、だからボーカルを一度は固辞したことを話す。それでも今回のライブは頭の痛みを忘れるほど楽しかった。だからバンドをしたいと彼女は願い出る。もちろん、皆それを受け入れる。


宿の最終日、吉良は円花と同室で寝る。それは風呂場で久世が全裸の円花を助けたことへの対抗心であった。ここで吉良が積極的にスキンシップを図るが、私はあまり吉良のベタベタが好きじゃない。恥じらいがないというか、やり慣れているのが見えるというか。あまり円花を大事にしようという気持ちが見えない。

帰りのバスの車中で、円花は ずっと心に引っ掛かっていた吉良のキスについて話を切り出す。その真相は全て誤解。キスも未然に防いだし、彼女がいないという虚偽報告も円花を守るための優しい嘘。そしてキスの相手の正体も…。

しかし誤解が解けたが、より大事な事実が発覚する。円花が吉良とのキスを忘れていたのだ。当然、記憶の欠落は円花自身は自覚せず、吉良だけが認識する。円花はキスの前のチェス対決は覚えているが、キスだけを覚えていない…。

理想通りではなかったが羞恥や怒りを含めて忘れることの出来ないファーストキスを忘れてしまった円花。

日、円花は入院仲間であった星叶(せと)に吉良を紹介する。ここでは合宿の時とは逆で星叶を男性だと思い込んでいる吉良は星叶に対抗心を燃やす。久世へもそうだが、吉良が嫉妬深いのは愛の証なのだろう。でも誰もかれもが円花に惹かれる、と思っていて沸点が低いのが痛い彼氏である。

吉良が病院に来たのは星叶と円花の病状について話すためでもあった。そこで吉良は記憶の欠落が症状として出るのかを聞く。答えは あり得るということだった。本気で円花の病気を知りたいのなら星叶ではなく彼女の母親や担当医に話を聞けば、と思うけど、おそらく そうしてしまうと彼らは円花の病状の悪化を知り、彼女の自由を奪ってしまうのだろう。そして吉良が彼らに話す機会を持つと、余命について円花以外から聞く恐れが出てしまう。それを避けるためにも便利だったのが星叶のポジション。というか星叶は このためだけに存在するキャラだろう。サブキャラが この世界に居る意味や存在感が希薄過ぎるのが水瀬作品の残念なところだ。

そして この場面で より大事なのは、直前のトランプ勝負で吉良が上手くごまかした円花の記憶の欠落を本人が自覚してしまうということだろう。


ストが近いので放課後2人での勉強回が始まる。
そこで吉良が、特進クラスの円花でも てこずるような問題をスラスラと解くことが判明。現在のクラス分けは入試の結果によるものらしいが、彼は入試の際の成績が悪かっただけで、本来は かなり頭が良いことが判明する。その前後に吉良の秘密がありそうだ。そう考えると『2巻』のチェス勝負で勝ったのも実力だったのか。水瀬作品のヒーローは容姿が良いのは当然で、それに加えて芸術・運動・知力のどれかが優れたハイスペック男子でないと なれない。

この勉強回で、合宿の時に撮られた2人のキス写真が吉良のスマホに送られてくる。それを円花が見てしまい、自分が彼とのキスを忘れていることが決定的になる。不安がこみ上げる円花を吉良が優しく抱きとめ、「もう一度ファーストキスをしよう」と言ってくれる。吉良の手の早さは好きになれないが、円花をフォローするための言葉がすぐ出てくる頭の回転の速さは好きだ。


分の記憶に不安を覚えた円花は病院で検査を受ける。結果は目立った変化はなかったが、これまでにない変化に彼女は怯える。実際、彼女の余命は着実に少なくなっているし、担当医も彼女の願いが叶えられる時間があることを祈るばかりなのが現実だ。

約束通り 2人は「2度目のファーストキス」をするためのデートをする。それにしても待ち合わせや新しい場所に行くと男女双方が容姿を褒められる描写は いい加減やめてほしい。分かりやすい記号なんだろうけど、ルッキズムの助長になりかねない。特に低年齢向けなら それ以外の価値観を提示するような意気込みが欲しい。

この日、吉良は自分だけの秘密の場所に円花を案内する。それは円花を特別に思う証である。そこで2人は円花が願ったような「人生で一番 忘れられないファーストキス」をする。でもハードルが上がりすぎて、これでいいの?と思わなくもないが。

円花は その場所で怪我した仔猫を発見する。どうにか捕獲して連れ帰る円花。だが この小さな命をどうするか考えていなかった。無責任なことをしたと反省する円花に、吉良は自分が飼うと言い出し、その猫と円花を まず家に連れていく。


めての吉良の家。そして初めての吉良の部屋で円花は1冊のアルバムを見つける。おそらく この猫は このアルバムを発見させる不可抗力のためだけに存在するのだろう。サブキャラに加え、猫の扱いも雑だ。

アルバムで見られるのは吉良の過去、そして心。そのアルバムには所々 写真が剥がされた痕跡が存在した。その空白を埋めるのは仔猫が見つけた写真。そこには久世と結愛、そして円花の知らない女性の後ろ姿が映っていた。吉良が部屋に戻ったことでアルバム鑑賞は終わる。彼が アルバムの写真について聞くことを許さない雰囲気を出していたからだ。吉良にしては珍しい厳しい表情が見える。

円花は吉良の父親が小さいころに交通事故で亡くなっていることを知る。そして あの剥がされた写真、更に高校入学前後に荒れていたという吉良の言葉から、円花は吉良の心にある大きな傷を想像する。

だから円花は残りの人生を懸けて、その傷を痛みを癒すことを決意する。だからといって身体を投げ出すような行為が、それになるとは思えないが。どうもキスといい その先といい、円花は即物的な効果を求めてしまっていて物語がロマンティックに思えない。

仔猫を拾わなければ この日 知ることは出来なかった吉良の過去。今度は円花が吉良を支えるターン。

「なみだうさぎ ~制服の片想い~ 特別編」…
桃花(ももか)が大学生になった ある日のこと、彼女に妊娠騒動が巻き起こる。その話は鳴海(なるみ)にも伝わり、横にいた天野(あまの)は複雑な表情をした後、何か吹っ切れたような顔をしている。ちなみに彼はバスケ選手になっているらしい…。ちなみに桃花以外の もう1人の一般人とも言える阿久津(あくつ)も会社を作ったらしい。

こうして友人たち6人の中で桃花だけ「ふつう」が強調される。だが桃花はプロカメラマンで女性ファンも多い鳴海の「特別」。それだけで承認欲求は満たされる。何だか本編の円花と吉良の関係と似すぎている印象を受けるが。

妊娠騒動は輪をかけて大きくなり、家族や友人に盛大に祝われる。だが誤解は誤解。なぜなら彼らは まだ致していないから。でも この件で桃花に覚悟が決まったことを知った鳴海は、2人での旅行を提案するのだった…。

登場人物たちを全員集合させる手法が上手い。そして やっぱり作者には こういう甘すぎるぐらいの物語が似合う。作風の可愛らしさを捨てるのは得策じゃない。