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少女漫画と小説の感想ブログです

相手が覚えていない・目の前で違う女性とした・自分が覚えていない、ファーストキス祭り。

あやかし緋扇(4) (フラワーコミックス)
くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
あやかし緋扇(あやかしひせん)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

未来を護るために瀕死の重傷を負ってしまった陵。陵を助けることを条件に「龍の子どもを産むように」命令され、桜咲家に監禁されてしまった未来。龍に押し倒されて、あわや・・・!?と言うときに現れたのは・・・!? 瀕死のはずの陵だった。日本刀で空間をきり、式神を操る強大な力を持つ龍を扇1本で、陵が迎え撃つ! 今、未来をかけて、龍VS陵の本気のバトルが始まった! そして、その時、未来とさくらの力もまた開花する!!!

簡潔完結感想文

  • ヒロインの貞操の危機に駆けつけるレベルアップヒーロー。新キャラが早くも雑魚化。
  • 正式な告白もファーストキスも先延ばしなのは連載延長の弊害か。兄も無駄に悪霊化。
  • 今度はヒロイン覚醒の番。バトル→修行→バトル に加えて少女漫画には恋もあるよ☆

角関係の次は当然 四角関係が成立する恋もバトルも修羅場の 4巻。

『4巻』はファーストキス祭り。どこかのアニメ映画ではないが「ーファーストキッスは終わらないー」のである。今回タイトルにした通りの、『3巻』から続く3つのファーストキスが描かれる。もはやファーストキスの概念が崩れているが、このどれもがヒーロー・陵(りょう)が関係している。

1つ目のキスは『3巻』での高熱ファーストキス。陵が自分の才能を覚醒させる修行中、苦しみながら本能で動きヒロイン・未来(みく)にしたのが これ。少女漫画において高熱キスはリセットされるのが お約束。未来にとっては大事なファーストキスだが、陵は その記憶が一切ない。だが大事なヒロインにとってのファーストキスが終わったことで、キスは多発することになる。

そして2つ目は陵と さくら のキス。能力が覚醒し、かつて敗れた龍(りゅう)を圧倒し、再びこの作品の史上最強のヒーローとなった陵。そんな彼の姿は女性人気を呼ぶ。未来が陵に惹かれたのも彼に除霊などの特殊能力があると分かったからでもある。特別なモノを持つ男性に女性は弱い。そうして さくら は陵に惹かれ、そして陵の自覚的な「ファーストキス」を奪う。未来にとってはショッキングな光景であるが、彼女にとってのファーストキスは終わっているので、心理的ダメージは軽減される。この辺は作者の優しいところだろう。お互いの初めては2人で済ませている。だからこそキス解禁となるのだが。

女性から男性への無理矢理な性暴力なのに、陵を罰する未来。女性は殴らない主義なのが男前ヒロイン!?

ラスト3つ目のキスは陵が未来にする人工呼吸キス。こちらは1つ目とは逆で陵の記憶はあるが、未来にはない。非常事態での緊急措置ではあったが、陵にとって自覚的な未来とのキスが大事な行為であったことは想像に難くない。ただし未来は その顛末を告げられても平然としている。なぜなら彼女にとってのファーストキスは終わっているから。だが平然としていることが陵にはショック。彼女が自分を好きではないのだと疑う根拠になるし、しかも未来は その人工呼吸キスが初めてのキスではないと言うから陵の心は千々に乱れる。純愛を誓った相手が純潔ではないと知ったら陵は悪霊化しそうである(笑) この誤解、早く解かなくては…。


の2人にとって残るキスの種類は2つだろうか。

1つは陵にダメージのある、未来が他の男性(おそらく龍)とのキスを目前で見てしまうというものだろう。これは十分にあり得る。純粋で未来を大事にするからこそ奥手になりがちな陵とは違い、当て馬まるだしの龍は破れかぶれの行動も許される。さくら に主導権を握られたりメンタル弱めの人なので、未来を我が物にしようとしてエロ担当に収まりがち。かつての悪しき小学館主義のように性暴力も辞さない不憫な役回りになりそうだが、少女漫画的な面白さを引き出すのは彼の活躍(もしくは失態)に懸かっているのも事実。ただヒーロー・陵が龍に負けないという構図は、小学館のエロ至上主義の亡霊に振り回されない、という覚悟にも見えなくない。

そして最後の1つが読者が待望する、お互いが意識がある中で行われる未来と陵のキスだろう。序盤から両片想い状態なのに、未来の告白するする詐欺が続き、キスが遠のいている。これは好評につき連載が延長された弊害でもあろう。今回の黒幕との死闘の末にキスをするのでは あまりにも遅くなりそうなので、どこが両想いやキスの運びとなるのかが注目である。

少年漫画にヒロイン役が不必要になって久しいが、少女漫画でのバトル物では恋とバトルは共存している。その進捗を良い塩梅に進める苦労は通常の2倍以上だと思うが、それがピッタリとハマった時は唯一無二の面白さとなる。本書は連載延長しながらも人物の配置が上手く、真相が二転三転する佳作だと思う。


れる能力を引き出した陵と龍との2度目のバトルは陵の圧勝で幕を閉じる。この世界で最強の男に愛されていることを実感し、未来の自己肯定感は満たされる(ように見える)。

龍は最後の手段として、陵が傷口が塞がっていると思い込むように施した自分の幻術を解く。すると大量の出血をするはずなのだが、陵は平然としている。なぜなら到着前に陵は自分の傷口を炎の力で炙って塞いでいたから。
無茶をする陵に怒鳴る未来だが、陵は未来の無鉄砲さを叱る。うーん、この遣り取りは本当に再放送で進歩がない。ただ それは2人が互いを大事に思っていることの証明。喧嘩の振りをしたイチャイチャと言えなくもない。

さくら は自分たちの敗北を素直に認める。彼らが未来の中に眠る未桜の力を狙っているのは家系を途絶えさせないため。特に女性が舞う「白拍子の舞い」と治癒の能力を維持するためだという。そこで未来は『3巻』で龍が未来に贈ろうとしたネックレスが前世での記憶でも登場したことを思い出す。つまり2人は未桜と嶺羽の子孫なのである。物証と記憶によって弱い証拠を補強しているのが上手い。
陵は前世の自分たちに子供たちはいなかった、と未来の推論を否定する。だが未来は、実は未桜は嶺羽亡き後、祇夕(ぎゆう)を封印後に妊娠が発覚し、女の子を出産していたのだ。

もう一つ驚きの事実がある。それが龍の本名は龍羽(りゅうは)だということ。これは作品の都合上、意図的に隠していたものだろう。もし龍羽として登場していたら、一瞬で嶺羽との関連を見抜かれてしまう。さくら が未来と陵のクラスに転校してきたのも それを隠すためだろう。もし龍がクラスにやって来たら、黒板に本名である龍羽の名を書かなくてはならなくなる。だから転校の挨拶は さくら に任せ、龍のシーンは描かずに済ませているのがテクニックである。


を治癒するために さくら が白拍子を舞う。その舞台には陵や龍だけでなく、外傷や病、そして霊に憑依され苦しむ人たちも並んでいる。彼らの1回の治療代は高そうだなぁ。能力は減退しているが、資産だけは着実に増やしていそうである。

だが減退した能力のせいで さくら は最後まで舞いを継続できない。中途半端に終わったら怪我や病気は どうなっているのだろうか。少しは苦しみが減っているといいけど、生き地獄が続いたり、寿命を迎えたりしたら さくら の家の評判は落ちるばかりだろう。
舞うたびに自分の命が危険に晒される さくら。だから この姉弟は未来を狙う。龍は改めて陵よりも強くなり未来に愛される男になることを誓う。優しい未来は彼らを否定できない。

だが陵は きっぱりと否定する。未来の身体を使わずとも自分たちでレベルアップするよう彼らに進言する。ただし嶺羽と未桜の子孫である彼らも護り抜いてみせると彼らの安全を保障する。


の前世が嶺羽だと知り桜咲姉弟は絶句する。彼らは その事実を知らなかった。彼らは陵が未来にとって邪魔な存在で逆らうなら排除せよと教えられていたからだ。そう教えたのは この家に仕えてきた祈祷師。だが その人は数日後に命を絶った。要するに桜咲姉弟は誰かに操られ、しなくていい争いをしていただけだった。

その事実に さくら たち姉弟は2人に協力することを誓う。仲間の誕生である。
ただし未来と さくら は恋のライバルになる。しかも2人の仲を追求する さくら に陵は、つき合ってもないしキスもしていないと答える。陵は『3巻』での高熱キスを憶えていなかった(…だと思ったよ)。そして こちらも想像通り、一方に記憶がないとはいえファーストキスをカップルでした後はキスの無法地帯となる。さくら は陵にキスをして彼が自覚する「ファーストキス」を奪う。未来は陵がキスを憶えていない怒りもあって、さくら ではなく陵に当たり散らす。

自分の気持ちが伝わっていなかったこと、キスが嬉しかったのに無かったことにされたことに未来は涙する。そんな彼女を慰めるのが龍。改めて家宝であるネックレスを未来に贈る。
こうして四角関係が見事に成立した。でも一番 悪いのは未来だろう。祇夕との戦いで、終わったら告白するんだ、と死亡フラグを立てておいて、生還した後も約束を果たさないままでいる。勿論、物語が延長され、それを棚上げしなくてはならない状況になったからなのだが、未来の意地っ張りは治らないままだから苦しめられているのだ。


すがに未来も そう思ったのか、今すぐ陵に告白するために走る。だが その前に陵から話があると告げられる。告白するする詐欺は まだまだ続きそうである。

陵の話は黒幕を倒すまで2人は一切 関わらないようにする、という提案だった。陵は ハッキリと未来が足手まといだと告げる。カップル2人して双方とも ちょっと前に言ったことや誓ったことを撤回する人たちである。ジェットコースターと言えば そうなのだが、あまりにも状況に流されている。

こうして陵は しばらく外していたメガネを再装着する。きっと このメガネは陵の未来への想いが溢れ出さないための防波堤。1話で能力を見せる時に、未来を愛する心も隠さなくなったから外したであろうメガネ。それを意図的に装着することによって陵は自制をする。
なぜなら陵は その直前に黒幕が未来の兄・唐沢 青治(からさわ せいじ)だと聞かされていたから。陵は未来の心が傷つくことを回避するために、彼女を遠ざけようとした。ただし陵は この説を信じていない。その説を否定できるだけの材料を探す。


と別離した未来もまた『1巻』の頃のスポーツ万能少女に戻る。これもまた彼女の決意。出会う前までリセットすることで気持ちの暴走を抑制しているのだろう。一方で陵は未来が自分の側を離れる際には術をかけ、彼女の安全を確保している。

そんな未来の前に兄・青治が姿を見せる。だが兄は妹の命を狙う。陵の術で安全は確保されたが、兄が黒幕であることを知ってしまった未来は倒れる。ショックで呼吸が止まる未来に陵は人工呼吸をする。これが陵の自覚的な未来への「ファーストキス」となる。

精神世界に沈む未来は悪霊に襲われる。それを助けたのは兄・青治。彼の発言から未来は青治が祇夕と同様に、何者かに操られていることを知る。そして兄は陵に ひと思いに自分を除霊することを託す。ここで兄妹は11年ぶりの抱擁を果たすが、それは最後の別れかもしれないのが胸に迫る。


院で目を覚ました未来。その彼女に陵は人工呼吸とはいえ唇を奪ったことを謝罪する。しかし未来は それを寛容に受け入れる。陵だからだという理由もあるが、もう一つ「初めてじゃない」という側面も大きい。だが陵は未来が誰か他の男とキスを経験済みだと思い込み、ショックを受ける(今度は陵が意識を失いかねない(笑))。

未来からの素直な感謝に天国に昇るが、続く発言で地獄に落とされる。都合の良い記憶喪失は続く…。

だが病院に悪霊が大挙して押し寄せる。それを指揮するのは青治。陵は未来が説明しなくても青治が操られていることを見抜いていた。今は力を持っている陵は青治を圧倒する。そして夢の中での青治の申し出どおり、彼を除霊しようとするが、命の恩人である彼を消滅させることは陵には出来ない。

11年前に事故死した青治は未来を守ってきた。同時にそれは陵が青治と共に生きた年数でもある。自分たちにとって大切な未来を守ってきた大切な仲間でもあるのだ。


んな陵の苦しみを間近で見た未来は力を欲する。そこで見舞いに来た さくら から白拍子を習うことを決断する。元々 さくら は そのつもりでいて、未来も一度は力を発揮したことから素質はあるという。『3巻』では陵のレベルアップがあったが、今回は未来の覚醒となりそうである。こうやって仲間が切磋琢磨して強くなる場面はバトル物漫画の読み所である。更に本書は恋愛漫画としての面白さも兼ね備えなくてはならなく、なかなか集中力のいる作業が続いている。

陵は未来の安全を願うから反対するが、未来に上目遣いをされて渋々 応じる。ただし桜咲家での強化合宿には陵も参加するという。こうして さくら は未来に、陵は龍に稽古をつける合宿が始まる。

しかし未来は このところ、京都に泊りがけで行ったり、入院したり、また外泊したりと非日常が続く。京都の時は親を誤魔化すための嘘が用意されていたが、もはや親など存在しないような描写が続く。そういう現実的な解釈は物語のテンポを失わせるから、もう いちいち現実に戻ってられないのだろう。