《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

字面だけ見れば変わらない男2女1の三角関係だが、またもヒロインに得のない構図。

ビーナスは片想い 3 (花とゆめコミックス)
なかじ 有紀(なかじ ゆき)
ビーナスは片想い(ビーナスはかたおもい)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

英知に励まされ、深見君に告白した紗菜! 一方、紗菜の親友・陽奈子は、大好きな保刈先生となんだかいい感じ。様々な想いが交錯するクリスマスは…!?

簡潔完結感想文

  • なかじ作品なので失恋しても友情は継続。ヒロインの恋が動かないので友人を使う。
  • 出会った年の最後には忘れられないクリスマスの夜の、同じ思いを共有するキス。
  • 容姿端麗・スポーツ万能のモデルがライバル!? 深見に似ているのは作者の限界か…。

2回目だけど こちらが三角関係の本番、の 3巻。

読み返してみると全12巻の序盤の充実ぶりには感心する(中盤の虚無には絶句するが…)。

ヒロイン・紗菜(すずな)が失恋をして、少女漫画の大事な要素「恋」が行方不明になった状態だが、それを友人たちの恋によって穴埋めしているのが良かった。読者が読みたいのは、それが誰のであれ、前へ進んでいく恋なのである。作者は最初から紗菜の初めての恋を終わらせることを考えていたから、失恋後の展開ために、その前から大学の同級生たちの恋愛事情を仕込んでいたのだろう。

恋をした深見は意外にポンコツ。でも作者の作品だから、こんなことで100年の恋は冷めない。

そして失恋までを描いた第1部はクリスマス回で終わる。この話で紗菜は完全に失恋から立ち直り、そして同様に失恋した英知(えいち)と全く同じ気持ちを確かめ合うようなキスをする。同じ状況と心境で、そして互いに慰撫するようなキス。恋愛というよりも人間として その人に好意を抱き、その感覚を共有するようなキスに見えた。
もちろん、紗菜にとって初めてのキスで、その後、英知を意識せざるを得ない。ただ その後の様子は詳細に描かず、一気に時間を進める。もしかしたら雑誌連載の季節に追いつくためかもしれないが、これによって紗菜が切り替わり早く次の恋に進むのではなく、自分でもフワフワした感情を抱きながら、徐々に英知への想いを明確にしていく。

そんな中、意外な方向から再び三角関係が成立し、紗菜はヒロインとして悩み続ける。私としては この後の三角関係の変容には色々と不満があるが、序盤の展開の工夫の仕方は単純に好感を持つ。漫画購読者は集め始めたら最後まで集める人が多いだろうから、ここまでで読者を魅了したら もう どんな展開になっても許されるのだろう。作品人気が中盤の虚無を生んだといっても過言ではない。


菜にとっての最初の恋は終わった。けれど作者が描く世界は優しいので失恋翌日にも お相手の深見(ふかみ)とは普通に話す。

こうして仲良しグループが気まずくなることはないが、紗菜の精神的ダメージは大きかったようで、免疫力が下がったのか熱を出す。紗菜のメンタルを心配した隣人・英知が紗菜の家に寄って彼女の高熱を知って看病する風邪回になる。
2人は同じ日に、同じ相手に失恋した者同士。英知は陽奈子(ひなこ)が来るまで、紗菜を見守っていた(寝てたけど)。そしてバトンタッチした陽奈子は、自分の恋の相手が講師の保刈(ほかり)だということを この日 初めて紗菜に話す。

紗菜が恋の相談相手になったことで2人の友情は強まる。

一方、紗菜と英知2人の どちら選ばなかった深見は穂花(ほのか)と初デートを迎える。だがスマートに行動しようとするあまり深見は失敗を重ねる。分かりやすく落ち込む姿を紗菜と英知に見せる深見だったが、英知は自分の気持ちを隠して深見の背中を押す。それを見て紗菜は どこまでも友達として深見を応援し続ける英知の強さを知る。

そんな英知を紗菜は不器用に励まし、そして英知も自分の恋を胸にしまう覚悟を決める。困らせる恋ではなく、隣にいる友情を自分で選んだ。そして一つの恋を終わらせた翌日、英知は深見から紗菜の前では一番 素の顔してる、と言われる。


恋を機に お互いの強さを知った2人が迎えるクリスマス。紗菜は英知に誘われ おもちゃ屋でアルバイトをすることになる。その倉庫で脚立から落ちる紗菜を英知が身を挺して守り、その際に出来た傷の手当てを紗菜がしたことで英知は彼女を意識する。紗菜もまた英知の働く姿の中に彼の良さを たくさん見つける。

クリスマスの日、バイト終わりに2人は雪の降る夜の大学に寄る(雪の積もり方と時間経過が合わないと思うが…)。
そして並んで座り語らい合った後、英知が紗菜に顔を近づけ、紗菜も そのキスを受け入れる。それは失恋した2人が、恋にならない好意を確かめ合うようなキスに見えた。相手の悲しみも強さも優しさも全て理解した「同士」として相手の存在を確認する儀式だったのかもしれない。作者は この場面を描くために深見への恋心を用意したのだろう。


のキスの後の2人の描写はなく、一気に物語は4月まで進む。その間に英知との関係に表立った変化はない。深見への恋心を偽物に見えないようにするためにも、時間経過と恋から遠ざかることが必要だったのだろう。

紗菜たちの大学生活も2年目を迎える。そして新年度になったということは新キャラの登場の絶好の機会である。
新キャラの池内 由樹(いけうち ゆき)はギリシア人とのハーフでモデル、しかもバレーボールでインターハイ優勝経験まであるパーフェクトな設定。ただし画像認識能力の低い私には深見にしか見えないけど。

その新キャラ・由樹は学校内で寝ているのを見かけた英知に いきなりキスをする。これは『1巻』で英知が深見へのキス未遂事件と同じ行動で、そしてキスをしようとして躊躇した英知と、迷いなくした由樹の2人の性格の違いを表す場面だろう。この後の展開を踏まえると、友達止まりで終わってくれた英知と違い、由樹はガンガン好きな人にアタックすることが予想される。

このキス、最初は英知を女性と見間違えて一目惚れによるキスかと思ったが(いきなりキスする理由にはならないが)、由樹は英知が男性だと知っても彼への感情に変化がない。ようするに本書で2人目の、男性に同性愛的感情を抱くキャラらしい。
もしかしたら この展開があるから、由樹の登場前に紗菜と英知はキスしておく必要があったのかもしれない。英知にとってファーストキスかどうかは分からないが、紗菜=読者としては由樹に先にキスをされたら割り切れないものがあるだろう。

その容貌もあって由樹は一気に大学内で有名人になるが、その裏で良くない噂も流れていた。だが英知は由樹の噂を全く気にしない。本人から聞いた情報や彼の人格を見て自分の態度を判断する という広い視野を持っていた。そこに ますます由樹は惹かれる。

今度は英知が男性に好かれる番。紗菜の恋のライバルは ずっと男性のままである。

そんな由樹にとって邪魔に思うのは、いつも英知の近くにいる紗菜の存在。こうして紗菜は同じアパートの住人となった由樹と英知を奪い合うライバルになった。
ある日、鍵を紛失した由樹を英知が部屋に招く。だが由樹の強烈な感情を知っている紗菜は、どうにか それを回避させようとするが、事情を知らない英知に冷淡な人間だと思われてしまう。

そして当初は自己中心的な人格に思われた由樹だが、入院している妹を見舞ったり、親のことを思った芸名をつけていることが判明し、紗菜の対応も柔らかくなる。犬猿の仲でライバルだが、お互いに言いたいことを言える仲に早速 発展する。紗菜の良い所は「異性」を感じさせない所だろう。それは深見に恋をしていた英知が、人間として紗菜に好意を寄せる説明にもなるのだろう。英知も男に惚れたのではなく深見だから好きになったはずだ。大事なのは肉体ではなく その人に宿る精神というのが本書における恋愛なのだろう。