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少女漫画と小説の感想ブログです

俺は二度は お前を殺さない / 俺は二度も あなたを消させない。「彼」が誓う永遠の約束。

菜の花の彼―ナノカノカレ― 14 (マーガレットコミックスDIGITAL)
桃森 ミヨシ・鉄骨 サロ(とうもり ミヨシ・てっこつ サロ)
菜の花の彼(ーナノカノカレー)
第14巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

菜乃花の記憶を戻す鍵は隼太の声――。 桜治がその謎めいた言葉を鷹人に告げているころ、その隼太が菜乃花の目の前に。卑怯な手を使ってでも菜乃花を手に入れた鷹人。その清い心で菜乃花から身を引いた隼太。愛し方は違っても、2人の「菜乃花の彼」は一途に彼女を想い続けて…。この遠回りばかりだった恋が最後にたどり着いた答えは――?

簡潔完結感想文

  • 隼太が初めて見る、他の誰かを好きでいる菜乃花。隼太は第1部の鷹人に転生した。
  • この世に残された菜乃花の鍵は3つ。変形した隼太の鍵、烏丸の鍵、鷹人の封印の鍵。
  • 間違って、傷ついて、汚れて、傷つけた先に、その人に見せたかった花畑は広がる。

かを蹴落としてでも、その人のことを掬い上げたい 最終14巻。

いきなり頭がおかしいと思われるかもしれないけれど「汚い初恋」を読まされたもんだ。でも きっと そういう読み方でも間違ってはないと思う。

最後まで読み通して本書は菜乃花(なのか)・隼太(はやた)・鷹人(たかと)の3人が初めて心から好きになった人と心を通わせる物語だということが強く伝わってきた。もう1つ特徴的なのが3人の幸福と不幸の総量が均等に描かれている点だと思う。完全オリジナルのタイトルを付けるとしたら「三等分の花畑」だろうか。とても売れるか、訴えられるかの二択。

中でも特殊なのは1人しかいないヒロインに初恋を2回成就させている その構成だろう。それを とんでも展開だという批判の声は当然 出てくるのだろうが、私は そこに作者の大きな愛を感じた。やはり3人が とても平等だからだ。
少女漫画ならヒロインの菜乃花にだけを不幸にして悲劇性で読者の共感を得る手法もある。また いわゆる当て馬である鷹人の報われなさを強調して物語の中盤~終盤を支える手法もある。だけど本書は それをしない。出番としては隼太が少ないように思える気がするが、精神の乱高下の総量を同一にさせるためには、これしかなかったのかな、と思う。もちろん恋愛的には平等でいられるはずもないので きちんと決着もつけているが、本書はどちらもがヒーローになり得る可能性を平等に描いた。

菜乃花というヒロインを中心に隼太と鷹人が個性は違うが、鏡写しの経験や感情を持つという対称性が本当に美しいと思った。そして中心にいる菜乃花にも記憶の欠落という苦悩を用意し、それに伴う2つの初恋の両立、という等しい天秤の存在が見えてくる。

狂おしいほど想う その人に、何の感情もなく見つめられる絶望を隼太も味わうことになる。

して そこに本書が描く「汚い初恋」の本領が発揮されると思う。
通常、綺麗に描かれる初恋だけれど、本書は恋愛のエゴイスティックな一面も余さず描いている。大事な人に想いが届く奇跡的な幸福、届かない破壊的な絶望、焦燥から犯す過ちで気づかされる自分の醜さ、そして嫉妬も執着も3人それぞれが順番に味わっている。

そんな感情の循環が私は美しいと思った。そして第2部がなかったら この循環は成立していない。その証拠に第1部の終わりの鷹人は濁っている。だから第2部は どうしても鷹人中心に映る。特に隼太が作品外に追放されるから その印象は強くなるばかり。

でも第2部があるから全員が相手が(または自分自身が)別の人を好きになる残酷な現実に遭遇する。そして第2部によって究極の、他の作品では絶対に見られない三角関係が成立している。二股とは全く別種の、同時に2人の男性を同等に好きになるヒロインを読者に理解されるレベルで成立させていることは奇跡のように思う。ここまで辿りつくまでに少しでも集中力を切らせば一気に瓦解して、作為だけが残ってしまう。そして乱暴に受け取られかねない設定に作者は、記憶喪失の菜乃花の記憶の保管場所、回復方法をロジカルに用意して誰もが理解できる範囲に収めている。

単純に言えば鷹人は当て馬である。だけど本書は鷹人を当て馬という役割から救う。後述するが、菜乃花に対して確かに鷹人にも「鍵」を持たせているのは本当に良い設定である。だから間違いなく鷹人もまたヒーローであり、彼の初恋も成就させている。そして鷹人の存在は菜乃花だけでなく、隼太にも大きな影響を与えている点が私は好きだ。ライバルでありながら彼らは相手のことを理解し信頼している。
そして1人の感情が他の2人に影響を与え、その循環が最後まで止まることはなく、物語を常に動かし続けた。もちろん3人だけでなく、彼らには友人がいて、その友人との微妙な関係性の変化も描かれているから世界は閉じていない。

またヒロインがヒーローよりも能力が劣ることが多い少女漫画だけれど本書は その前提から脱している。年齢は菜乃花が上だし、ネタバレになるが進学先も同じになる。彼女が隼太に何か劣っている面が全く描かれていない男女の対等性も好ましい部分である(鷹人は菜乃花より頭が良いっぽいが、少なくとも女性の能力を貶めるような描き方はしていない)。

やはり本書の魅力は清濁併せ呑む点だと思う。善悪の どちらも許容しているから本書のスケールは大きい。澄ましたように見える菜乃花が汗だくになって走る姿に、笑顔が魅力の隼太が醜く顔を歪ませた表情に、全てを奪おうとした鷹人が彼の中での真実の愛に辿り着いた場面に大袈裟に言えば人生の美しさを見た気がする。間違える自分を発見したから、彼らは間違えないように自分の好きな人を大切にする意義と意味を見つける。

ここまで特殊な三角関係を描いたのだから賛否両論は当然だろう。でも結末に憤る読者は いても、本書の個性を否定する人は誰もいないだろう。これまで読んだことのない物語を提示し、大きな瑕疵なく成立させたことを私は高く評価したい。


2年以上ぶりに隼太は菜乃花の目の前に現れた。烏丸(からすま)によると菜乃花の失われた隼太の記憶を呼び起こすのは「声」だという…。

だが隼太が菜乃花に言葉を掛けても、彼女の前で電話で話しても菜乃花の記憶は戻らない。彼女の中で隼太の声が自分の頭を揺さぶる感覚はあるが、どうやら鍵は鍵穴に刺さったが上手く回らないようだ。
けれど菜乃花は その男性が「ハヤタ」という名前であることを知り、立ち去ろうとする彼を呼び止める。それは まるで1話の出会いの再現だった。

逡巡したものの隼太は菜乃花の呼びかけに足を止め、2人は近くの公園で話をする。
ここで隼太は、覚えのない人とは話し辛いでしょうと、と菜乃花を気遣うが、逆に2年以上経っても彼女の中に自分がいないことを思い知らされた隼太が話すことも辛いと言っているように聞こえた。
まるで自分の傷口をえぐるように隼太は菜乃花が この2年で鷹人を好きになったことを確認する。菜乃花は隼太との対面を果たしたら自分が破裂すると思っていた。けれども隼太に恋愛感情がどこにあるのか聞かれても、菜乃花は彼の目を見ながら鷹人への想いを隠さないぐらい揺るがなかった。それが2年間での自分の結論だと菜乃花は答えを出す。

当然ながら その答えは隼太を絶望させるものだった。どこかで愛が奇跡を呼ぶと思っていた幻想は粉砕した。だから隼太は菜乃花に自分への恋は その程度だと思って綺麗に忘れてもらおうとする。そうして隼太は立ち去った。

もちろん これは隼太の精一杯の虚勢である。本当の彼は深い傷を負っている。ただ だからといって菜乃花の気持ちに介入するのはマナー違反だろう。『1巻』で出会って間もない菜乃花に指摘された失敗を、隼太は自分が楽になるために もう一度 繰り返してしまった。彼がそれに気づくのは もう少し後である。

隼太にとって、自分に恋愛感情を持たない菜乃花と接するのは初めて。今の自分が味わっている絶望を鷹人はずっと抱えていたことを隼太は身をもって知る。そして自分に少しも恋愛感情を見せない彼女なのに、それを美しいと思う自分に気づく…。


れで恋愛の決着はついたように見えたが、「鍵」となる隼太の声に関する新情報が提供される。隼太はアメリカで少女を火事から救出した際に喉に熱傷を負い、以前の声とは違うという。つまり菜乃花の心の鍵は、鍵が熱で変形してしまって機能しなかったのだ。

また その後の健介(けんすけ)との再会で隼太が飛び級をして健介や菜乃花たちと同級生になったことが明かされる。これは1年の学年差で苦労してきた彼が、努力によって時間を超越したことを意味する。おそらく飛び級を実現させるために日本国内ではなく、アメリカという地が選ばれたのだろう。実際、諸外国における飛び級って どの程度の割合で起きるんだろうか。少女漫画では飛び級=努力や才能の証拠で、ヒーローの価値を上げる勲章のような使われ方ばかりだけれど。


日、鷹人は菜乃花が隼太と再会したことを聞き、記憶が回復したのかと肝を冷やす。だが予想に反して菜乃花の記憶は まだロックされていた。菜乃花の話では隼太は身を引いたし、菜乃花も自分の鷹人への恋心を全面的に信じられることに安堵していた。

帰国した隼太の情報を聞き出そうと鷹人は健介に連絡を入れる。それが丁度 隼太が健介に再会したタイミングだったので、2人のライバルは2年ぶりに再会する。ここで鷹人は隼太側の事情を知り、菜乃花の記憶が封印され続けることを理解する。鍵が壊れていることは鷹人にとって有利な状況である。

隼太が潔く身を引いたのは、菜乃花の一種の「極端さ」を理解しているからだった。彼女が「好き」と思ったら それが簡単には揺るがないことを隼太は理解している。だが鷹人の前では隼太は態度が違った。菜乃花を幸せにするのは自分だと対抗意識を隠さない。その隼太の雰囲気に鷹人は圧倒される。こんな貪欲で なりふり構わない隼太は見たことがない。


人は無事 志望校に合格し、菜乃花に お祝いをしてもらう。その日は菜乃花の父親の帰りが遅く、彼らには十分な時間がある。そして鷹人は いつかのキスの約束を(もしかしたら その先も)実行しようとする。この時、菜乃花が父親の不在にしか言及しないのは彼女は父子家庭なのだろうか。そう考えると菜乃花は周囲の生徒とは苦労の量が違うから、学校内で独特の波長を発していたのだろうか 。苦労や もしかしたら不幸が彼女を際立たせるのかもしれない。ただ菜乃花が家事をしている描写もない(料理上手ではあるが)。もちろん家事は女性の役割ではないから父親が全部やっている可能性もある。ただ、もし菜乃花の過程環境が特殊なら菜乃花のストーカーである鷹人は そこに言及するだろうから、特に問題はないのかなとも思う。

隼太は健介に続いて、隼太は中学の元同級生たちと再会する。そこで元カノの女性と話し そこで隼太は彼女から、菜乃花との別れ際に話した彼女の「好き」という気持ちを軽んじた発言の間違いを指摘される。その元カノは かつて菜乃花が隼太の心に介入しなかったことで自分との圧倒的な差として思い知らされたから、隼太の犯したミスを指摘できたのだ。


乃花は隼太との再会後から、彼への気持ちを軽く見積もることで表面上の気持ちは楽になった。だが その裏側で怒り狂っている感覚を覚える。それは隼太の記憶を持つ菜乃花の中の菜乃花からの猛烈な抗議だろう。

確かなはずの鷹人への気持ちを、もう一人の自分が否定している。その苦しみから逃れるために菜乃花はキスや性行為によって自分を鷹人で満たそうとする。これは間接的には隼太が2人の関係を進めた とも言える。
鷹人は菜乃花が何かから逃れるように自分にキスをすることに逡巡を覚えるが、彼女の不安を払拭するためにも彼女の唇をむさぼる。それは鷹人にとって菜乃花の合意を得た初めてのキスで、花畑で初めて気持ちが通った時のように彼の頭は幸福感で沸騰する。

だが菜乃花を愛撫する中で、鷹人は再び過去の菜乃花の姿を見る。それで鷹人は動きを止めるが、菜乃花は性行為だけが自分の中にいる自分を封印する手段だと訴え、行為の続行を望む…。少々 下品な表現になるが、これは鷹人自身が鍵になって、菜乃花自身に鍵を差し込み、その記憶を封印すると言うことなのか。ここも作者のキャラへの平等性の証拠なのだろうか。隼太だけが記憶を開放する鍵を所持していているのでは、彼が絶対的に「運命の人」になってしまう。だから作者は鷹人にも鍵があることを示したかったのではないか。そして この時点では恋愛の結末は鷹人が握っていることになる。そして彼は ここで自分だけが幸せになる未来を選ばなかった。鷹人派の人たちは この本人の選択を尊重しなくてはならないのだろう。

記憶を戻す 開くための鍵だけでなく、記憶を戻さない 閉じるための鍵も存在する。そこに痺れた。

おそらく ここまでが鷹人を他の2人と同等の幸福と不幸を提供するための展開だろう。初めて心から好きになった人と思いが重なること、一方的ではないキス、そこまでが菜乃花と隼太が先に叶えていたイベント。そういう当たり前の幸福を鷹人に与えるために この「if」の世界は存在する。


カノの指摘によって自分の過ちと欺瞞に気づいた隼太は菜乃花の高校に出向く。彼女に会うのが目的だが、まず隼太が向かったのは菜乃花が転落した外階段。彼は菜乃花の記憶は ここに置き去りにされていると思ったからだった。

ここで今更、鷹人を好きな菜乃花を混乱させるようなことをするのは、隼太は自分の一連の行動が自分に正直ではなかったという後悔があるから。菜乃花のためという方便を使って、自分の弱さを誠実さで隠蔽した。だが菜乃花の記憶は「現場」ではなく、一緒に落ちた「人」が持っていると隼太は考える。

一方、鷹人は その記憶の持ち主である烏丸の病室を訪れていた。それは彼に「好き」を教えるため。
鷹人は車椅子を押して烏丸と病院内を歩く。そこで鷹人は、烏丸が眠っている間に見た夢について聞く。烏丸は菜乃花とずっと落下していて、菜乃花は ずっと涙を流し続けている。おそらく烏丸の中にいる菜乃花は、隼太の記憶を持った菜乃花なのだろう。その菜乃花が泣き続けている=幸せではないことは鷹人にとって辛い事象だろう。


人は階段の際のギリギリまで車椅子を前進させる。
菜乃花の記憶の鍵は もう一つある。それが烏丸の発する声。オリジナルの鍵は変形していることが発覚し、残るはスペアキーともいえる烏丸の声帯しか鍵に成り得ない。鷹人は どの菜乃花を自分のものするために、その鍵で菜乃花の記憶を戻そうとする。菜乃花が完全体になるのが望みか、それとも その菜乃花が自分を選ぶのかを確かめるのか。烏丸に生命の危機を感じさせ、脅迫をすることで鍵が発動するかを鷹人は確かめたい。

だから鷹人は菜乃花との繋がったままの携帯電話を胸ポケットに潜ませていた。烏丸の声を聞かせて鍵を回したかった。だが そもそも菜乃花は緊急時以外は隼太と烏丸の声を聞き分けていたので鍵は上手く回らない。ただ逆を言えば緊急時には声を混同し、彼女を誘導した実績があるとも言える(『11巻』文化祭)。

鷹人は菜乃花を抱くことは出来なかった。彼女がそれを望んでも、それが この関係に終止符を打つものだとしても菜乃花の一部分を「殺して」まで彼女との幸福を追求できない。それが一度は一方的に心中を考え、彼女を永遠にすることは過去の自分が得た反省である。鷹人は菜乃花が生きて発する波長や、彼女が選ぶ選択肢が好きなのであって、その波長や自主性を止めることは自分の幸福ではない。
菜乃花を完全体にすること、それは鷹人の愛だと言えよう。たとえ それで自分が彼女に選ばれなくなっても、それは菜乃花が選んだ、という鷹人の中で最も尊いものなのである。


丸の声でも鍵は発動しない。そのことに不安を覚える菜乃花に、烏丸は事故の再現をすれば菜乃花は元に戻ると囁く。中途半端な自分に苦悩する菜乃花だから、洗脳は簡単に完了し、彼女は屋上に走る。

鷹人は菜乃花を追うが、階段前で隼太と遭遇する。このタイミングで隼太が ここに現れたことに意味を感じた鷹人は、彼に菜乃花を追うように命令する。
この場面、考えてみれば、隼太は鷹人と一緒に行く方が菜乃花を救える確率は高くなるはずだ。彼らには2年前の救出の失敗という苦い思い出があるのだから。あの時は2対2で、持ち上げる側に負傷があったとはいえトラウマ級の失敗を犯した。
ただ やっぱり ここは隼太が1人で助けることに意味があるし、そして今の隼太も鷹人とではなく自分一人で彼女を助けるという自信と、そして良い意味でエゴがあるのだろう。菜乃花を救うのは自分か鷹人、どちらかしかあり得ないということは隼太も理解していて、その上で鷹人の願いと そこに込められた彼の意図を汲む。
そして鷹人が一緒に行かないことも意味がある。彼は烏丸が勝手に菜乃花の記憶を連れて心中することを防止している。烏丸がやりそうなことを鷹人が先読みできるのは、彼らが己に戸惑いながら菜乃花に惹かれた似た者同士であるから、ということが後で語られる。鷹人にとって隼太は信頼できるが共通点のない人なのに対し、烏丸は信頼できないが お互いの理解者なのだろう。


乃花は鷹人を好きになるほど彼が自分の欠落に囚われていることを感じていた。時間の経過は記憶の欠落を埋めることなく、その欠落の大きさを示すだけだった。そして菜乃花も前に進めなくなり、進退窮まった菜乃花だから烏丸の洗脳がストレートに効いてしまう。自分の息苦しさを救うには記憶の回復しかなく、今の菜乃花は記憶喪失の再現だけが それを可能にすると思い込んでいる。

続いている烏丸との通話で、烏丸は菜乃花と それを追った鷹人と一緒に3人で同時に落下することを望む。だが その烏丸の電話を鷹人が奪う。この予想外の鷹人の行動に烏丸は目を丸くする。そして鷹人は烏丸に菜乃花の解放を懇願する。
この2年間、2人は菜乃花を自分たちの夢を閉じ込めた。だが 愛とは きっと、どんな時も好きな人に心から笑って欲しいと願うことだと鷹人は思い当たる。そして鷹人は菜乃花の救出を隼太に託したことを烏丸に伝える。菜乃花を閉じ込めた自分たちと違い、隼太は この2年間、菜乃花に近づくために全速力で走り続けた。そんな彼だから菜乃花を救えると鷹人は確信した。

そしてクレイジーに見えた烏丸が本当は最初から菜乃花を好きでいて、だからこそ彼女の気持ちを閉じ込め続けていたことに鷹人は理解を示す。なぜなら自分が そうだったから。

鷹人に真実を当てられ、烏丸は再び菜乃花と通話する。そして この世界で唯一 残された鍵を使って、隼太が菜乃花に言いそうな言葉、いや、今、菜乃花の背後で手を差し伸べている隼太が心で叫ぶ言葉を彼女に伝える…。


憶の解錠によって菜乃花はバランスを崩し、落ち始める。その彼女を隼太はしっかりと掴む。記憶の戻った菜乃花は、2年前と同じように再び隼太が傷つく未来を回避しようと、彼に手を放すように懇願する。だが隼太は2年前の自分の後悔と、初めて あの時の菜乃花の身勝手さへの不満に言及し、今度は菜乃花に自分の意思で隼太の腕を掴んでもらう。

そうして 双方が力強く相手を掴むことで2人の繋がりは強固になり、2年前とは違い、肩に故障を抱えない 逞しい青年・隼太は菜乃花を引っ張り上げる。隼太への愛を取り戻した菜乃花は彼に抱きつくが、やはり過去の隼太への「好き」と この2年間の鷹人への「好き」の混在で彼女は混乱する。そして その情報の氾濫で彼女を強制的にシャットダウンする。

隼太は菜乃花の記憶の回復で こうなることは予測していた。だが それでも2つの好きを抱えた菜乃花を隼太は愛すると決めていた。それは鷹人も辿った道。記憶喪失から急接近した2人の関係は、その喪失の期間に隼太との交際で菜乃花の性格や思考が変わった上で成立していた。男性たちは菜乃花の嘘偽りのない2つの恋を許容しながら彼女との関係を紡いでいく。


年後、隼太は菜乃花の大学に進学を決める。夢見ていた同じ高校での生活は送れなかったが、大学で同じになれた2人。われても末に逢はんとぞ思う、である。しかも隼太の努力によって、越えられないはずの時間も超越して彼らは同級生になる。これで隼太が長年抱えていた劣等感は完全に消滅した。

菜乃花は この半年で随分 気持ちに整理がついたという。だが やはり2つの好きは菜乃花の中に同居して菜乃花は葛藤している。

鷹人は菜乃花の記憶の回復と同時に音信不通になる。直後の卒業式にも顔を出さず、彼は姿を消す。これは菜乃花に余計な混乱をさせたくないという配慮でもあるのだろう。それに鷹人の方は自分の罪を抱えたまま菜乃花と交際できるような器用さはない。飽くまで彼は、記憶と実在の2つの意味で隼太が消滅していたから菜乃花に付け込んだ。そこで彼女を抱くことが出来なかった鷹人が、隼太の存在を身近に感じながら、これまで通りに彼女と接することが出来る訳がない。

だから鷹人は菜乃花の様子を遠くから見つめるだけ。相変わらず鷹人は1人でいる菜乃花の波長を受信している。
この時、彼が喪服を着ているように見えるが、これは烏丸の死を意味しているのだろう。彼が長くないことは彼自身によって明かされていた。烏丸は鷹人にとって「if」ルートを開通させるのに重要な役割を担った。その彼が死んだということは、鷹人ルートもまた消滅したということなのだろう。烏丸の能力は作品にとって便利なだけでチート過ぎると思わざるを得ない。


乃花の葛藤の要因は、隼太と見るはずの花畑を鷹人が見せたことに由来するとも考えられる。花畑を鷹人が見せてくれた記憶が、隼太との約束の未達成となり、2つの心に折り合いをつけさせないのではないか。

隼太もまた、既に鷹人が菜乃花に あの花畑を見せたことを知っているので、違う場所の花畑の候補地をリサーチしていた。彼にとって折られ続けた約束フラグ。それを果たすことで彼も本当に前に進めたという実感が湧くのだろう。

菜乃花は隼太の引っ越しを手伝いに行く。この時、菜乃花が部屋に行きたいという言葉に何かを期待している隼太がおかしい。中学生だった隼太も もう17~8歳だもんね…。当然の反応だ。隼太は聖人君子じゃない、普通の「欲」を持った人間だもの。

だが一人暮らしの隼太の部屋は、かつて入った彼の部屋と同じく簡素だった。これは旅立つ準備ではなく、単に物を持たないことに慣れてしまったのかもしれない。でも これからの彼は もう自分の意思で暮らす場所を決められる。だから もしかしたら この一人暮らしの部屋は初めて物で溢れるかもしれない。

菜乃花は その部屋に置かれた勉強机の天板の上に、菜乃花が渡したメモが大事に並べられて置いてあることに気づく。最初に隼太に自分のメアドを書いて渡した菜の花の柄のメモ、そして部活に励む隼太に渡した2つのメモ、合計3つのメモを彼は大事に持っていた。

そして菜乃花は その3つのメモの花柄の中に花畑を見つけ、涙を流す。
おそらく これにより菜乃花は少なくとも鷹人との花畑の記憶に、隼太を好きな自分の気持ちが引きずられることはなくなっただろう。もっと言えば やはり ここから鷹人への気持ち薄らいでいくのだろうと私は考える。もちろん菜乃花は鷹人への感情を否定することはしないが、やはり現在進行形と過去形の「好き」とに分かれ、その2つに濃淡は出てくるだろう。