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少女漫画と小説の感想ブログです

記憶の欠落が生じさせる、同級生の俺が触れられないお前の「過去」に手を伸ばす。

菜の花の彼―ナノカノカレ― 13 (マーガレットコミックスDIGITAL)
桃森 ミヨシ・鉄骨 サロ(とうもり ミヨシ・てっこつ サロ)
菜の花の彼(ーナノカノカレー)
第13巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

菜乃花が半年間の記憶を失ってしまったことを踏み台にしてもう一度、恋をやり直そうとする鷹人。不器用で、ぶっきらぼうだけど本当は誰より純粋な鷹人に菜乃花の気持ちは傾いていき…。

簡潔完結感想文

  • 隼太という人の存在を聞いても記憶にも記録媒体にも その姿は見当たらない。
  • 鷹人が横並びに歩くのは「気持ちの あるく早さが合った」からではなく逃避。
  • 花畑は ここにはいない3人目の気配を濃くする場所。鷹人の場合は4人かな?

達と恋人の一線を越えるのに必要となる時間、の 13巻。

きっと ここまで鷹人(たかと)が通ったルートだけが幾つもの平行世界で、彼と菜乃花(なのか)の気持ちが完全に寄り添うルートなのではないかと思う。後述するが、それを成立させるためには多くの条件が必要だった。特殊な環境と、平穏な年月が確保できて初めて鷹人の中で完全に満たされた想いが成就する。

だが その「if」ルートの完結は、本来のルートへの復帰を意味している。そこが作者が鷹人に残酷なところだ。いや、これだけの条件を用意してくれたのだから作者は鷹人を愛していると言えるか。
鷹人ルートの終わりを告げるように隼太(はやた)が物語にカムバックする。彼が日本に来るためにも作中での時間経過が必要だったのだろう。そして隼太の復帰の直前に、菜乃花の隼太の記憶を戻す鍵の存在が語られる。菜乃花は隼太の姿を見ても記憶が戻らなかったし、約束した花畑でも隼太以外の記憶だけが戻った。菜乃花が隼太に関して してないことがある、という盲点の作り方に感嘆した。第1部と大きな矛盾なく、第2部の鍵を用意する作者は本当に凄い。この辺はミステリを読んだ時のミッシングリンクが繋がる快感に似ている。人の心のうねりを描きながら、一方で ひどく冷静にロジカルに物語を作っているのは合作が なせる業なのだろうか。

本書は3人が一度は幸せになる話で、菜乃花は別の2人の男性を心から好きになっている。そして結末は彼女に託される。隼太と再会したら結局 菜乃花の気持ちは元通りになりそうだ。しかし作者は鷹人への希望も用意している。
今回、菜乃花は隼太以外の記憶が戻る。菜乃花は鷹人が自分の状況を利用したと分かっても、それでも彼への好意は消えなかった。となると隼太の記憶が戻っても、彼の不在の時間を共に歩んでくれた鷹人に気持ちが残る可能性も十分ある。

恋愛の主導権をヒロインの菜乃花に戻し、そして彼女に選ばれる可能性を男性の どちらにも残している。少しの皮肉を込めて大変ドラマチックな仕上がりの第2部だが、このバランス感覚は素直に称賛すべき点である。


きなりネタバレになるけれど『13巻』の中で一気に時間が2年以上 飛ぶ。そして交際から2年以上が経過して初めて菜乃花の中に鷹人への恋心が明確になる。こうなると ゆっくりと想いを寄せ合ったように見えていた隼太との恋愛が とても速足に見えてくる。それぐらい鷹人との恋の成就は難しい道のりだったのだろう。

私は この菜乃花の記憶喪失編は鷹人のために用意されたものだと思っている。そして今回、鷹人は人生で初めて幸福に包まれる。この場面を描くために第2部はあったと言っていいだろう。そして この場面を成立させるために必要なものの多さに唖然とさせられる。

まずは前提として菜乃花の隼太の記憶の喪失することである。そして その喪失のために烏丸(からすま)が用意され、隼太の引っ越しによる諦念も必要だ。中学時代に上手くいかなかった恋愛を、どうにか再開させるために大掛かりな舞台装置が必要になる。
そして彼ら自身の変化も必要だ。改善点が多いのは鷹人だろう。照れ隠しのための横暴な態度を改めなくてはならない。だけど彼が柔和になったのは、菜乃花が隼太に惹かれたという過去の失敗と反省が必要で、実は ここが鷹人の一番 ズルい点なのではないかと思う。菜乃花は隼太の記憶も情報も一切なくしているのに、鷹人は隼太という人間に触れ、彼にはなれないことを痛感して自分の弱さや下劣さに向き合った。隼太のいない世界を望みながら、鷹人は隼太との半年間を しっかりと踏み台にしている。
菜乃花はトラウマの根源だった鷹人に委縮しない自分が必要だろう。中学時代は溜め込んでいた不満を鷹人に言えるようになって、時には彼を操縦するようになったから菜乃花は鷹人と一緒の季節を過ごせるようになった。


回の見どころは何と言っても花畑の場面だろう。この場面で鷹人の幸福を本物にするために作者は非常に難しいことに挑戦している。ここでは菜乃花を本物の菜乃花に戻しながら、隼太の記憶は戻さないという難しい状況を成立させなくてはならなかった。これによって菜乃花は鷹人に記憶喪失を一方的に利用されるだけでなく、彼女は鷹人の その卑劣さを糾弾しつつ、彼を否定できないという彼女側の意思が そこに生まれている。菜乃花が鷹人の悪い部分まで許容し、そこも好ましく思うために2年の月日が必要だったのだろう。

第1部では自分の汚い部分を3人が三者三様に認めていく、という清濁併せ呑むことに主題があったように思えたが、今回 菜乃花は相手の悪い部分も その人の一部として考え、それを含めて彼のことが好きだと認めている。隼太が人として彼氏として完璧な動きをしたのに対し、鷹人は未熟としか言えない。ただ誰もが完璧な人との恋を求めるのではなく、総合的に、長い時間をかけて育む愛もあるんだよ、と本書は2パターンの愛で教えてくれているような気がする。最初から共鳴した隼太との恋愛と、最初は違和感のあった鷹人との交際。ここでも大事なのは、その愛が菜乃花の中で自発的に育ったということだろう。

2人の男性への どちらの愛も本物にするという究極の三角関係が成立した後でのヒロインの決断が次の最終巻で語られる。こういう2つの本物の愛は池山田剛さん『萌えカレ!!』を連想した。どちらも月2回の雑誌連載のスピード感を味方につけ、特殊な三角関係を読者に提供している。先発の誠実ヒーローと後発の横暴ヒーローという構図も似ている。お話の骨格がしっかりしている部分も私好みの作品である。


分の性格の変化に気づいた菜乃花は、初めて記憶のない半年間に興味を覚える。改めて友人に半年間の話を聞くと、そこで記憶を失って初めて「隼太」という名前が出てくる。菜乃花は それが自分の「好きな人」と教えられた実感が湧かない。でも彼の前にいた自分は、今の自分が分からない「好き」という気持ちを知っていた自分だという。

菜乃花スマホには隼太の写真が1枚もない。それどころか出会ってから半年間で隼太からのメールは4件のみ。だが通話履歴は すごく多いことから菜乃花が半年間で多くの会話を交わしたことが分かる。隼太が、言葉が誤解なく伝わるようにメールよりも通話、そして大事な話は通話よりも直接 会って話したい という人なのは物語の序盤からの彼の特徴として描かれていた。でも まさか これが彼の透明人間化に一役買うなんて思わなかった。私の中では作者側は第2部を最初から用意していなかったと思っているけれど、作者は菜乃花と隼太のメールの少なさは最初から伏線として張っていたのか、それとも その特徴を後出しで利用したのか どちらなんだろう。

菜乃花は隼太という人の声が聞けるかもと通話ボタンを押そうとするが、その直前に鷹人から連絡が入り、彼の呼び出しに応じて公園で2人で話すことになる。

もし この時 電話を繋げたら鷹人の幸福は訪れなかった。それだけ鷹人の幸福は偶然の上に成立している。

人は菜乃花が知りたいであろう自分が知る隼太のことを話し始める。ここで鷹人は隼太のことを嫌な風に言うことも出来ただろう。だが彼から見ても隼太は良い人であった。

しかし菜乃花は隼太の人となりを聞いてもピンとこない。そして今の彼氏である鷹人が そうあって欲しいのなら記憶を取り戻さなくてもいいと考えている。そんな、以前なら絶対に言わない台詞に鷹人は驚き、正直に少し前まで菜乃花は隼太だけを見ていたこと、鷹人なんて視界に入っていなかったことまでも伝える。鷹人は、自分が隼太とは何もかもが逆であるから絶対に菜乃花から好かれることはないと思っている。そんな劣等感を抱えながらも、それでも鷹人は菜乃花を想い続けるしかない自分を思い知ったから、下劣でも卑怯でも現状の菜乃花に付け込んでいる。

それは軽蔑されるものなのだが、菜乃花は今の鷹人に対して好意を持ち始めている。その日 鷹人が見たのは、隼太に恋をしている菜乃花が見せた恥じらいの表情だった。それは菜乃花が恋をしていることを意味する。

ここで重要なのは菜乃花が決して二股ではないということだろう。隼太の記憶が欠落、すなわち彼の存在しない世界が成立している場合の話である。飽くまでも これは中学時代の鷹人が菜乃花に対して虚勢を捨て、弱さも格好悪さも出せた場合の「if」の世界線である。鷹人も菜乃花も相手の性格を知って、自分のことを伝える勇気を持つことが出来て初めて この未来が到来する。


乃花の中に好きの発露を見い出したけれど鷹人は持ち前の臆病さから現状維持を優先し、菜乃花に答えを急がせない。ただ それは菜乃花が隼太の元カノのマネージャーと違い、隼太に自分を好きかと聞かなかったのと同様に、自発的な好きが その人の中に宿るまで待った、という過去例に類似する。「好き」という感情を植えつけるのではなく、育つのを待っていれば、それは いつまでも枯れることのない花となって その人の中で永遠になる。

やがてバレンタインデーが訪れ、鷹人は学校の女子生徒から たくさんチョコを貰う。それを横目で見ていた菜乃花は彼と一緒に下校する際に、探るように その話題を振る。鷹人が義理という建前の本命チョコを受け取らなかったことを知り菜乃花は少し不機嫌だった気持ちを安定させたように見えた。その証拠に その後、鞄に潜ませていたチョコを鷹人に差し出す。そうしたのは菜乃花がチョコを作りたい、渡したいと思うぐらいに鷹人に惹かれ始めているから。そんな想いが詰まったチョコだということを知り鷹人は嬉しさで震える。その鷹人の自分への愛に溢れた表情を見て、菜乃花も赤面する。
その空間が愛に包まれたことで鷹人は菜乃花にキスをしようとするが寸前で止める。そしてキスは いつか菜乃花が本当に自分を好きになってくれたら許可を下して欲しいと言う。菜乃花は それに答えられなかったが、それが遠くない未来に自分が実現する予感に包まれていた。


が彼女の予想に反して2年が経過する。3年生になった2人はキスもしないままプラトニックな関係を継続していた。バレンタインデーから2年後なので、菜乃花たちは受験シーズンの真っ只中にいた。菜乃花は先に大学進学を決める。この合格は鷹人による家庭教師のお陰でもあった。鷹人の この2年間の菜乃花に対して真摯な態度は、隼太びいき だった千里(ちさと)の考えも変えさせた。

だが鷹人が菜乃花に手を出さないのは、彼が菜乃花の向こう側の菜乃花の幻覚を見ていたからだった。2年前のキスも未遂で終わったのは、菜乃花に触れようとした時に、菜乃花の背後に もう一人の彼女の姿を見たからだった。それは欠落した記憶の象徴。鷹人は菜乃花が記憶を取り戻すのが怖い。だから彼女を大切に思えば思うほど、その幻覚も濃くなる。その幻覚は自分を友達としてしか見なかった、絶対的な一線の向こう側に い続けた菜乃花だろうか。

幻覚は菜乃花の無言の抵抗で、鷹人の良心の呵責。いきなりキスをした鷹人が今は出来ない。

また これは中盤の隼太の焦燥と種類を同じにするものだろうと思う。1学年年下の彼は どうやっても自分が鷹人とは違って菜乃花の過去や同級生という立場など、自分が手の届かない部分に懊悩していた。
それと同様に鷹人は菜乃花の中の半年分の欠落に手が届かないことに我慢がならない。それは自分では埋められるものではなく、そして埋まってしまえば その時には、菜乃花の恋の記憶が隼太に上書きされた状態になるパンドラの箱のようなもの。欠落した記憶は誰にも触れない。ずっと菜乃花を見てきた鷹人に触れられない「過去」があることが幻覚の原因なのだろう。

鷹人は幻覚を見たくないから、菜乃花と並んで歩き、並んで座り、並んで同じものを見ていただけだった。2人の交際は「気持ちの あるく早さ」が一致しているのではなく、恐怖から目を背けるための彼の臆病さがとった行動だった。


こで鷹人にとって大切な花畑の記憶だけでも隼太ではなく自分の記憶に再度 書き換えてしまおうとする。鷹人にとっては中学時代の失敗を上書きする機会でもあり、隼太に奪われた花畑の思い出を奪還する意味もある。鷹人はパンドラの箱を新しい記憶で梱包してしまおうと考えている。

だが花畑に行く道中、菜乃花は隼太との時と記憶の混同を見せる。それだけ花畑はリスクが高い。だが菜乃花の記憶の上書きを完了したら鷹人の中でも苦い記憶が書き換えられる。

これは そのまま『3巻』との鏡写しの構成になっているのが素晴らしい。あの時の菜乃花は確かに隼太とのトリプルデートにドキドキしていたのだろうが、その一方で その日 菜乃花が考えていたのは鷹人とのトラウマデートのことばかりだった。それが原因で隼太が神経質になり、その彼を菜乃花は泥だらけになりながら必死で追った。

それと同様、今回は鷹人が隼太の影に怯えている。2人で来ているのに、見えない3人目がいる。いない人のことを考えてしまうのが この場所なのかもしれない。しかも鷹人は菜乃花の幻覚という4人目も連れて一緒に行動している。


の花畑に全てを懸ける鷹人は神経質になり、急に曇り始めた天候に過敏に反応する。彼は自分が思う理想的な環境で菜乃花に花畑を見せたいという考えに固執した。完璧な状況が菜乃花の完璧な記憶となって上書きされると信じているからだろう。

だが花畑への接近で菜乃花は呼ばれるように そこに足を向ける。鷹人は そこに嫌な予感を覚える。そして その予感通り、菜乃花は初めて満開に花の咲く花畑を見て、自分が ここに来たかったことを思い出す。それは鷹人ではない「誰か」との約束だったから。

欠落した記憶が戻りかけ、オーバーフローした情報に菜乃花の頭は一時的にシャットダウンする。降り出した雨から逃れるために鷹人が逃げ込んだのは、中学時代にも入った あの休憩所。すぐに菜乃花は再起動し、鷹人の制止も聞かず再度 花畑に向けて歩き出す。

そうして鷹人の先を行く菜乃花は鷹人が見る幻覚の彼女と重なる。それは菜乃花の記憶の一部の回復を意味していた。

その菜乃花が問うたのは文化祭での鷹人の行動。あの日、教室に花畑を作って隼太を待っていた菜乃花の背後に鷹人は近づいた。そして それが心中目的だったことを菜乃花に初めて話す。鷹人が話さなかったのは隼太のことだけではなかった。弱さや虚勢を認めても、心中とはいえ菜乃花への殺意を意図的に隠していた。鷹人には それが菜乃花の記憶喪失の発端だということが分かっているから言わなかったのだろう。


人の最後の隠し事を聞いた菜乃花は妙に納得する。極端な思考の持ち主である鷹人なら それはあり得る選択肢に思えたから。そして菜乃花は鷹人の弱さを糾弾する。だが その菜乃花の絶叫の中で彼女に隼太の記憶が戻っていないことが判明する。

糾弾しながらも菜乃花は鷹人に同情してしまう自分を認める。なぜなら この2年間 彼女として過ごしたから。鷹人という人格に触れ続けたことで、彼女は彼に理解を示し、その理解と許容の根本に自分の彼への好意がある。心中計画も その極端さが納得できるし、また彼が それを実行できないことも手に取るように分かる。今の菜乃花にとって極端で不安定な鷹人は、彼の個性として認められるものなのだろう。

菜乃花から発せられる「好き」は鷹人が死ぬほど望んでいた感情。それと同時に鷹人は そんな菜乃花を この世から消そうとした自分の愚かさを心から悔やみ、涙を流す。


福を知った鷹人は菜乃花と並んで花畑の美しさに目を奪われた。

けれど雨に打たれ、菜乃花に自分の服を貸した鷹人は その後 風邪を引く。風邪回である。鷹人の風邪は張っていた気持ちが緩んだからでもあるだろう。欲しかった言葉、自分の罪など緊張と解放で身体が環境の変化に対応できなかった。
鷹人は見舞いに来てくれた菜乃花の手にキスをする。それを菜乃花は残念に思う。彼女はキスを待ち望んでいた。そんな自分の本音が漏れたことに動揺し菜乃花は帰宅する。

そういえば花畑での雨では、鷹人が菜乃花から贈られた傘を出しても良かったと思うが、それだと菜乃花に完璧な花畑を見せることを理想としていた鷹人が、傘を持ち歩いていると保険みたいに映ってしまうのかな。風邪を引く理由も消えちゃうし。あと漫画では1巻分だけど傘が贈られてから2年以上経過しているのか。それに傘は菜乃花からの初めての贈り物として鷹人は一生 使えないような気もする。菜乃花が見舞いに部屋に入る場面で、祭壇のように傘が丁重に奉納されていても面白かったかもしれない。

その後、鷹人の携帯電話が鳴る。出てみると隼太の声が聞こえた。だが その声の主は烏丸。彼は鷹人の号泣に連動するように昏睡状態から涙を流しながら目を覚ましたのだった。

翌日、鷹人は烏丸に面会する。そして彼は もうすぐ自分が二度と目覚めない眠りにつくことを鷹人に話す。脳に腫瘍があるという。以前、健介によって彼が高校を休学した情報が出ていたが、それは病気の治療のためだった。だが根治はせず、それが もうすぐ命を奪うことが烏丸には分かるらしい。

別れ際、烏丸は菜乃花の中の隼太の記憶を戻す鍵が、花畑ではなく声にあることを鷹人に伝える。その話に目を丸くする鷹人だったが、その頃 菜乃花の前に帰国した隼太が現れる…。
記憶の回復の鍵の設定に痺れる。顔が鍵なら『12巻』の偶然の再会で記憶が戻るし、友人たちが隼太の写真を どこかから手配すれば それで戻るかもしれない。だが声ならば確かに『12巻』で隼太は菜乃花が自分の横を素通りしたことに意気消沈して声を掛けていない。イチャイチャ動画とか留守番電話があれば それが鍵として作用したのか。『13巻』でも交際通話が繋がるかどうかは別として、菜乃花が隼太へ通話を試みれば、そこで記憶の回復が起こったかもしれない。

そして今回、隼太は絶対に菜乃花に声を掛けるだろう。なぜなら菜乃花が迷子になった隼太の知り合いの子供を助けたから。律儀な隼太は その人に対して お礼を言うのは必然と言えよう。こんな魅力的な巻の跨ぎ方は滅多にない。