《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

私のそばから いなくなったら絶許 → アメリカに行ってこい ゴルァ。…意味不明だお。

あのコの、トリコ。(4) (フラワーコミックス)
白石 ユキ(しらいし ユキ)
あのコの、トリコ。
第04巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

既刊はすべて緊急重版!!一途男子が胸キュンすぎると人気爆発中!! 4巻では、頼と雫がラブラブ海デート♪雫の水着姿に頼、ドキドキっ(>_<)そんな幸せな二人の前に現れたのは、雫の憧れのスター俳優・伶。「雫に惚れた」と伶が強奪宣言しちゃって、さらなる三角関係勃発です!「雫は絶対、渡さない」、雫を護るため頼のさらなる才能が開花する―――。

簡潔完結感想文

  • 雑誌の撮影でハワイ。ドラマ視聴率20%。いつの時代の日本なのでしょう…。
  • 彼女の意見を無視して女性をトロフィー化した男同士の密約バトルが始まる。
  • スーパースターになる夢も、互いの初恋も全てを叶えるパーフェクトな人生。

載の延長につぐ延長で、作者の役作りの浅さが露呈する 4巻。

結果的に全6巻となった本書だが、本編と言っていいのは この『4巻』までだろう。ネタバレになるが『4巻』では性行為も結婚も果たしたので、2人の間に少女漫画的イベントは何も残っていない。そして作品的にも主人公・頼(より)は世界で最強になったので、もうインフレも起きないだろう。

本書は役者や演技をテーマにした作品だったが、最後まで頼の演技の凄さは何も伝わってこなかった。彼には才能がある、素晴らしい、と作中で言われたら、それが現実として固定されるだけだった。頼は演技について悩んだりせず、ただ大好きな雫(しずく)への気持ちをパワーに変換しているだけ。頼は最初から最強主人公であるため、その成長を全く感じられなかった。読者は万能感を覚えるかもしれないが、演技の世界の奥深さは全く描かれないから無双状態に やがて飽きがくる。

1人舞台でもない限り、演技は人とのコミュニケーションの上で成り立つものだが、頼は ずっと1人で演技をしている印象を受けた。幼なじみの雫、そしてライバルでもあった昴(すばる)と何度も同じ作品に立っているのに、頼は彼らから刺激を受けない。その逆も然り。お互いに切磋琢磨したり、劣等感に苛まれたりしないから、平和だけど退屈な描写が続く。

全体的に本書は頼を頂点とした生態系になっており、ヒロインの雫も恋愛以外は蔑(ないがし)ろに されている。頼が演技を通して雫のプロ意識や役へのアプローチ方法を尊敬するなどの描写があってもいいと思うが、頼は他者をまるで顧みない。
特にライバル関係となった昴、または頼の目標でもある伶(れい)の存在を もっと上手く使えなかったのか、と残念に思う。『4巻』の昴なんて いるだけで存在感がまるでない。それなのに作中で彼を落ち目にしないために、幼なじみ3人が出演したドラマの大ヒット後は頼より多くのオファーを受けた、という言葉だけの空虚な設定が用意されている。作品開始時から人気の若手俳優だった昴だが、結局 その実力も人気も あやふやなままだった。

そして昴を超える存在としてアメリカを拠点とする伶が登場したからか、最後は頼も本場アメリカに挑戦せざるを得なかった。結局、本書は頼を世界で一番 価値のある男にするだけの物語である。芸能や演技の世界に入って1年半余りでアメリカ進出とは驚きの展開である。この1年半で頼が こなした仕事は作中ではCM(代役)・舞台(代役)・ショートドラマ・ハワイロケのドラマ、そして3人での深夜ドラマだけである。世界に一気に拡散する音楽の世界ならまだしも、役者の世界で このシンデレラストーリーは無理がある。どうやら語学力の問題も演技力が圧倒するらしいが…。
しかもアメリカ行きを渋る頼が渡航を決意する際の雫との会話も支離滅裂で幻滅した。2話前に泣きながら頼にそばにいてと言っていた雫が、その2話後にはアメリカ行きを自分の願いとする。演技バカの雫の思考なのかもしれないし、彼女の強がりなのかもしれないが、どうにも雫の思考に ついていけない。雫の心情より、頼のキャリアを優先して不自然な話の流れになっている。

死ぬことは絶許だが、生きていれば遠距離恋愛OKってこと? 作者の描く女心は私には分からぬ。

連載が延長・再延長するばかりで短期的な目標しか立てられなかったのは分かるが、もっと頼と昴で『ガラスの仮面』並に熾烈な演技合戦を繰り広げて欲しかった。雫以外の誰も必要としていない頼が ここから良い演技を出来るとは思えない。いつまで経っても顔が良いだけの二枚目演技をするんだろうと予想される。そういう背景を含めてハッピーエンドなのに、薄っぺらい印象を受けたエンディングだった。


中で久々に頼に仕事が入る。ドラマの主演で海外ロケ(ハワイ)。ラストの視聴率対決もそうだが、バブル経済がはじける前の日本でも参考にしているのだろうか。

雫はプライベートでハワイに来ており、撮影後は2人で遊ぶ予定。もはや秘密の交際などという制約は一切 感じられないのが残念。テレビスタッフの口が そんなに固いとは思えない。

そこから海回の基本的な展開が続く。そして昴と伶もハワイに雑誌の撮影で来ていることが判明。合流した4人の話題は伶以外の幼なじみ3人で出演する深夜ドラマに関するものだった。『2巻』の映画が話題となって、3人にオファーが来たという。これは3人でスターになる、という夢が具現化したということなのだろうか。そして伶は同じクールの月9に主演するという。


じくハワイでCM撮影していた女優が駄々をこねて崖からダイブするシーンが撮影できないことを知った雫。そこで自分がスタント役を申し出る。『1巻』の頼と同じく代役を引き受けた(ワンパターン)。ステップアップのためなら どんな仕事も引き受けるのが貪欲な雫のスタイルである。

その仕事への姿勢を見た伶は、月9の相手役に雫を引き抜こうとする。そのオファーに喜びながらも雫は それを断る。月9は雫の夢だが、その夢と天秤にかけても頼と昴との約束を果たしたい。それにしても女優が駄々をこねたり、俳優が自分の お気に入りをキャスティングしたりワガママ放題の芸能界である。というか頼や雫を善人に描くために同じような手法で他の芸能人をワガママにしているのだろう。

危険な仕事を終えた雫は緊張と暑さでバテてしまう。そこに現れた頼は自分が雫を運ぶと言うが、伶は その権利を渡さない。雫の正しい姿勢を見て伶が惚れたという。伶のライバル宣言に対し、頼は「それでも雫は譲れない!」と いつもの感情論に走る。通常の敵役なら 頼の凄みだけで怯(ひる)むのだが、さすがに一流俳優の伶には通用しない。頼は口だけだと見抜かれ、具体的な勝負に持ち込まれる。


を巡って争う2人は視聴率対決を始める。こうして月9と深夜ドラマという頼にとって不利な戦いが始まる。

頼たちのドラマのタイトルは「BG」。ボディーガードである。ちなみに この4年後、2018年に同名ドラマが現実で誕生している。しかし現役高校生が挑むボディーガードなんて現実以上にコスプレドラマにしか見えないだろうなぁ。作中ドラマでは彼らの役は幾つの設定なのだろうか…。

頼は雫が絡んでいることもあり、ドラマ撮影のへの気合いが違う。しかし初回視聴率は月9の伶が21.9%、それに対して24時台の頼は5.8%。その結果が出た時、頼は伶と撮影所で再会する。勝利を確信した伶は、自分が雫をアメリカに連れていくと宣言する。どうやら伶からすると雫は原石らしい。環境を与えれば役者として輝く才を持ってる、と言う。えっと…、伶さんは登場してから雫の演技を見たことがありましたっけ?? と思うし、いつの間にか雫にも才能が与えられている。頼も含め、雫も昴も いわゆるアイドル演技しか出来ないのではと本書の描写を見る限り思う。作中で役者としての凄みを一切 出せていない。

こうして視聴率という現実を目の当たりに、この勝負が無謀だと思い知った頼は、更に負ければ雫を失うという絶体絶命のピンチに陥る。ってか、男たちよ、雫の気持ちは…?と思わなくもないが、それは最後に回される。こういう部分も頼の独り善がりな性格が出ている気がしてならない。


けられないから自分に負荷をかける頼。疲労困憊で帰宅すると雫が料理を作って待っていた。ってか雫は合鍵 持ってるの?とか、撮影が始まってからレッスンを入れたり、料理で手に怪我をしていいのとか色々と疑問が絶えない。ただ雫は頼の入りすぎた気合いを感じ取って癒そうとしてくれたことは伝わる。気分転換が出来て、頼は撮影に全力を出し切ることを改めて誓う。

だが撮影に向かう際、頼は ひったくり犯に遭遇する。レッスンを受けたであろう体術で犯人を取り押さえるが、その際に犯人の持っていた刃物で脇腹を怪我してしまう。

倒れた頼が目を覚ましたのは病院。隣には泣きじゃくる雫がいた。怪我によりアクションシーンはスタントで行われるとの話を聞き、頼は それを鬼の形相で拒絶。これまで通りの撮影法を継続する。しかし凄みのある表情をする頼は顔が崩れすぎているように思う。今回も鬼瓦みたいな顔である。顔の幅が広がって、顎がしゃくれているように見えるからなのか。前半の伶を睨みつける横顔もだったが、ちょこちょこ顔が崩れている。

(左)は目と鼻が離れたアバタ―状態で(右)は青木琴美作品の「頼」っぽい。いつもの顔以外は苦手?

字通り死力を尽くして撮影に臨む頼。そして ひったくり犯を制圧した頼の映像が拡散され、それが思わぬ宣伝効果を生む。3話の視聴率は驚異の16.4%となる。そして第6話で18.2%を視聴率を取ってもランキングは5位。伶の主演作以外にも上に3つもあるという。同じクールのドラマ5本が視聴率20%前後、そんな時代はいつまで遡ればいいのだろうか。

私は この視聴率の下克上展開はかなり楽しめた。捕り物動画の拡散が話題を呼ぶというのも現代的だ。ただ それを頼だけの手柄にする手法は好きじゃない。テレビ局の偉い人が この視聴率の伸びは話題性だけじゃない、と頼の才能を絶賛する。確かに一度 掴んだ視聴者を離さないのは頼の演技力の お陰なのだろう。昴なんて完全無視だし、雫も「原石」というの割に誰にも演技を褒められていない。そもそも頼に演技力があったとしても、脚本の面白さが追いついていないのでは、という疑問もある。

結局、放送分では伶に一度も勝てないまま撮影の最終日を迎える。だが頼に不安はない。しかし撮影中、頼の傷口が開いてしまうハプニングが起きる。随分と日にちが経過してから開く傷だなぁ…。
だが頼は撮影を続行する。傷に気づいた雫も彼の決意を感じ取り、演技に集中する。頼と雫のシーンでの頼の台詞は、そのまま雫に向けられた言葉であった。

こうして「BG」は感動の最終回を迎える。気になるのは街頭テレビでドラマに見入る人々の1コマ。えっと…これ 深夜24時台のドラマなんですよね…。人気沸騰で急遽パブリックビューイングが開催なら分かるが、どう考えても街頭テレビである。

こうして視聴率0.2%差で伶のドラマを超え、今季頂点に立った! わー、感動。


のドラマは年間ドラマ大賞を獲得する。そのパーティーの日、雫は立腹していた。どうやら伶経由で自分が賭け事の対象になっていたことを知ったらしい。そんな雫に頼は自分が負けたくないという一心で賭けに臨んだこと、それは雫にふさわしい男になるためだと誠心誠意 気持ちを伝える。

雫は血を流しても演技を続ける頼が怖かったと泣きじゃくる。パーティー会場となっているホテルの一室で2人は性行為をしようとするが、邪魔が入り中断。だが雫は交際から1年の記念日に その続きをしようと頼に囁くのだった。その日を前に2人は それぞれ性行為についての お勉強を書籍にて学ぼうとする。変装はしているものの、実店舗の書店でエロ本を買い漁るなんて、バレたら恥ずかしいヤツである。

伶は離日前に頼に会う。自分の完敗を認め、頼の演技と才能を褒める。ただ頼にあるのは やはり雫への想いを演技に変換しているということ。これは『1巻』から変わらない彼の理論である。というか本書の核は これしかない。少女漫画としては正しいが、内容としては発展性に欠けた。


して約束の日曜日。2人は緊張でギクシャクするが、雫は親に嘘をついて家に帰らない決意を示したことで、2人は遂に結ばれる。この時、頼の脇腹に縫合の痕が残っているのが芸が細かい。

ドラマの大ヒットで頼に仕事が殺到する。事務所の社長が選んだ仕事は撮影期間1年のアメリカからのオファーだった。しかし雫と離れたくない頼はそれを断る。それを聞いた雫が激昂。男なら上昇志向を持てと頼に喝を入れる。雫は頼の演技を、頼という存在を1人でも多くの人に見て 知ってもらいたいという気持ちを持っているという。
それが雫の密かな夢だという。えーー、でも2話前に「私の そばから いなくなったりしたら 絶対に許さないんだから…!」と言ってましたけど…。どうも その場その場で感動的な言葉を並べているだけで、登場人物たちだけの言葉が見受けられない。

なんと昴もドラマ効果で頼以上のオファーが来ているという。こうして頼はアメリカで、昴は日本で、いつかW主演で世界を震撼させるために頑張る。頼と昴の間に友情が感じられなかったなぁ。

空港で頼は雫に、スーパースターになるという雫の夢が叶ったと思ったとき、結婚してくださいと伝える。その約束を胸に2人の遠距離恋愛が始まる。
頼の語学力など様々な問題がありそうだが、愛のパワーを演技力に変換した頼は無敵である。でも これまでの経験が息づいている、と絶賛される頼に、そこまでの人生経験がないのが残念である。雫への煩悩で集中力が途切れたことはあったが(『3巻』修学旅行回)、挫折も努力もしていない。

数年後、頼と雫は結婚式を挙げて本編は完結する。2人の交際は噂レベルでマスコミに騒がれたりしていないらしい。雫が結婚を決意した ということは、彼女も順調なキャリアを積んだということなのだろう。作中の感じからすると月9にコネでなく呼ばれた、とかなのだろうか。やっぱり頼の活躍しか描かれないから雫も昴も小物に見えてしまう。