白石 ユキ(しらいし ユキ)
あのコの、トリコ。
第03巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
ついに両想いになった頼と雫のラブラブお付き合い編スタート!!
役者の仕事が忙しくてなかなか会えない頼と雫だけど、雫の「頼の家に行きたい」の大胆発言で、二人きりで頼のおうちへ…(>_<) さらに、修学旅行では一夜を共に…!? きゅんきゅんエピソード満載な日々に嬉しすぎる頼。でも、そんな2人の前に、「雫の初恋の人」が現れて…!? ますます目が離せないラブ度MAX最新刊!!
簡潔完結感想文
- ピンチにヒーローが駆けつけ、悪役は素直に撤退という変身ヒーロー展開が続く。
- 仕事を舐めて怪我をしてライバルにも失望される。頼は全体的にプロ意識が欠如。
- 雫の初恋の人へのライバル意識で、またも暴走する頼。冒頭の注意が全く効果なし。
芸能界は人気の持続が一番 難しい 3巻。
少女漫画的には演技において天性の才能を秘めた主人公・頼(より)が、ヒロインの雫(しずく)を溺愛するというシチュエーションが受けているのは分かる。頼が雫への愛情をエネルギーにして、その無限のパワーで彼は一気にスターダムを駆け上がった。
だが『3巻』の彼は事務所が入れたショートドラマ1つしか仕事がない。一緒にスターになろうと誓った雫や昴(すばる)が それぞれ仕事をする中、彼は暇なので修学旅行を満喫しようとしたり、雫への欲望を滾らせたりと一般の男子高校生に戻っている。
これでは一躍 注目を集めたが、キャリアや人間性の浅さが露呈して、世間からの注目が一気に失われた芸能人である。現実にも大手事務所のゴリ推しで知名度だけは高いが、ファンは誰もいないのではないか と思う芸能人がいるが、頼も そんな1人なのかもしれない。
そして この作品の読者からも頼は人気を失っているのではないか、と思う。なぜなら彼が雫への愛だけでゴリ推しているからだ。自分の全部が彼女のため、というのは読者を満足させるようで失望させる。ここでも頼の人間性の浅さが問題となる。役者仕事も激減した上に、彼が俳優として何を目指しているのかなど根幹となる部分が見えてこない。才能以外に自発的な欲求や成長する場面が全く描かれないから、つまらない人間に見える。
しかも『3巻』は徹頭徹尾、頼のプロ意識の欠如が描かれていたように思う。『2巻』のラストで映画のイベント内で公開告白をし、ファンをざわつかせた頼。連載再延長の機会を得たこともあって、昴が それをフォローすることによって事なきを得たが、頼は自分の都合を優先・暴走させるばかりでバランス感覚が欠如している。この辺も雫や昴が仕事に対して高い意識を持っているのと対照的で、頼だけが幼稚に見えてしまう部分である。雫の全部を自分が支配したいという偏執的な欲望と相まって、周囲との折り合いを付けずに自分の欲望だけで生きているように思える。
いつの間にかに所属していた事務所からの注意や、撮影現場での失敗や苦言を結局 聞き入れないという頑固さや未熟さも見えてしまう。この辺は作者の頼の役作りの甘さが原因でもあるだろう。連載の延長に耐えられるだけの魅力を彼に用意できなかった。最後のファッションショーの場面なども そうだが、彼が周囲に迷惑を掛けているようにしか見えない。『3巻』巻頭の注意を結局、最後まで頼は理解していない。そんな彼の成長の無さだけが描かれていた。
いくつも頼がヒーローのように描かれる場面を用意しているが、冷静に読むと、えっ それは格好いいの??という場面が多い。あまり評価しづらい内容に対して批評家がよく使う言葉「ファンなら楽しめる」という言葉が浮かんで来た。
出演映画の大ヒットイベントでの熱愛宣言という、ファンにとっては最大の裏切りをした頼。だが昴は それを映画のPRだと機転を利かせて、事態を収拾する。これは連載が継続することになったから生まれた終わりの続きでもある。
いつの間にか頼は、雫の母が社長をしている芸能プロダクションに所属している設定になっており、弱小事務所なので稼ぎ頭である所属タレントのスキャンダルは厳禁と言い渡される。
そして もう一つ いつの間にかに頼はプライベートでのメガネを外した。最初にメガネをしていたのは容姿を地味にするためなのだろうが、どういう心境の変化なのか、そういう部分は描き込まれない。雫への気持ちを封印していたのがメガネで、今はいらないということなのか。
映画のヒットで一躍 有名人になった頼と雫は、それぞれに学校内でファンが急増する。だが雫に関して沸点の低い頼は、雫が告白してきた男性と握手することすら許さない。雫に対しての営業妨害だと思うが、頼は押し通す。溺愛というよりも偏執という印象で、割と怖い。
しかし頼と雫が両想いになった際のキス(『2巻』)を撮影している生徒がいることが発覚する。わー、凄い偶然だ。その男子生徒たちに写真を脅迫材料にされ、雫は性的な撮影を要求される。
当然、そこに現れるのは頼。握手の拒絶から短いスパンで同じことを繰り返していて内容がない。頼(と雫)は威圧で相手を黙らせて、それで この最大のスキャンダルは終了する。以前から そうだったが頼の言葉は大言壮語だが中身がない。何の力も無いのに一生懸命 吠えているようにしか見えない。そして悪役が すんなりと撤退するのが本書だが、どう考えても相手の方が有利な状況なのが気になる。
秘密の交際という制約があるのに、それでも学校でのイチャラブ、結局 この人たちは我慢が出来ないという内容も残念。交際編だからイチャイチャさせたいが、芸能人だから それが難しいというジレンマが見え隠れする。
その後、突然 雫が頼の家に行きたいと申し出た。
連載の引きとして、この発言が出た回では頼が1人暮らしという話だったが、次の回では親が仕事で帰って来ないから実質 1人暮らしということになっている。さすがに1人暮らしでは、10年ぶりに この街に頼が戻って来た理由がないと考えての変更なのか、それともミスリードのための言葉遊びだったのか。しかし少女漫画の親は家にも帰れない、有能なのかブラックなのか分からない状態が多すぎる。
雫が家に来た目的は頼の両親に交際の挨拶をするため。なら最初に親の在宅を確認するべきだし、平日の日中ではなく、せめて週末にするべきだ。だが それもこれも漫画のシチュエーションのためだし、そして雫の計算だった。彼女は頼と離れたくなくて理由を こしらえたらしい。
2人は家の中で新婚ごっこに興じてイチャつく。だが雫に仕事が入って中断する。雫の電話が鳴らなければ そのまま一気に完遂しそうな勢いである。全体的に慎みがないというか切なさがないというか。常に急ぎ足の展開だから、求めても手に入らないという渇望感が足りない。
雫の長期の仕事によって学校で会うこと出来ない状況に悶々とする頼。だが学校の一大イベント・修学旅行でなら雫を満喫できると鼻の穴を膨らます。
しかし京都での修学旅行も、事務所が仕事を入れてしまい当地で撮影となる。京都に行くついでに仕事を入れたというが、経費節約が目的なのか よく分からない話である。
頼は仕事を早く切り上げて雫との観光をすることを諦めない。だが雫のことを考え、魂の抜けた演技をした頼は、殺陣の途中で怪我をしてしまい、共演の昴に その姿勢を非難される。今回も頼は撮影現場でのスタッフの陰口を聞いてしまう(通算3回目)。そこで自分への酷評を聞き、奮起する。
激しい殺陣の最中、昴はプライベートな恋愛について頼を問い詰める。漫画的な演出として2人の男が死力を尽くして雫を奪い合いたいのだろうが、撮影中である…。昴もまたプロ意識がないじゃん、と思われかねない場面である。頼が雫への気持ちだけで演技をしているのも相変わらずで、それで演技力が向上するみたいな描き方も好きじゃない。
どうやら昴は再び2人の応援団となったようだが、『2巻』の感想文でも書いたが、本書で一番誠実なのは昴である。それなのに チャチャっと彼の恋を終わらせたから消化不良な印象が拭えない。当て馬がゾンビ復活する展開は好きじゃないが、昴をキチンとライバルとして立たせた展開も読みたかった。
撮影後に頼が帰ったのは修学旅行で学校の生徒たちが宿泊する宿。怪我と疲労で倒れてしまった頼だが、目を覚ますと隣には雫が寝ていた。彼女は頼を心配して、わざわざ頼が眠る男子部屋に様子を見に来たらしい。
頼の愛の言葉に目を覚ました今日の撮影で頼のことを見直した雫は彼に大好きだと伝える。頼が雫を抱きしめると彼の暴走が始まる。いわゆる少女漫画で多用される言葉「理性がとぶ」というやつである。頼の独占欲と性欲が無限の欲望を生み出すのだろう。これは早々に性行為に至る匂いがする。
だが その刺激的な愛撫で、雫は頼を避けるようになった。それに落ち込む頼。でも2人の距離は あっという間に縮まる。その後 分かりやすく雫が無礼な若者に絡まれ、それを助けに着ぐるみが現れる。当然、中身は頼。2人は物陰に避難し、そして本音を語り合う。そうして過激なことはしないが、気持ちが寄り添い合っていることを確かめ、2人の修学旅行は終わる。妄想とは随分 違う出来事ばかりだったが、気持ちを通わせるという最大の目的は達成したのだろう。
彼らの順風満帆な交際を壊しかねないのは、桐島 伶(きりしま れい)という男性の存在。「モデル出身で俳優業でも頭角を現し、賞を総なめにして今は海外を拠点に活躍している超実力派の俳優」という とんでも設定。そして頼は昴から、伶が雫の「初恋の相手」だと聞かされる。幼なじみ3人でスターになるという展開でも非現実的なのに、そこに もう1人加わって、雫の恋心に過去が追加された。こうして無敵状態の頼にも手を出せない「過去」があることで彼の狂気は暴走するのだろう…。
頼は伶との面識はなく、事務所で初対面となる。お互いを褒め合うが、頼は それとなく雫が自分のものだとアピールして伶を牽制する。
だが そんな男性たちの緊迫感を察せず、雫は憧れの伶との再会と、彼の出演するファッションショーへのゲストモデルに呼ばれて舞い上がっている。恋人の前では してはいけない反応である。
当然、頼は嫉妬する。それは頼が、そのショーの開催日に ある思いがあったからだった。
ショーの当日、頼はモデルとしてショーに潜り込む(ご都合主義の極み)。そこで雫と一緒に並んでランウェイを歩き、突然ひざまずいて彼女の左手の薬指に指輪をはめる。それは頼からの雫への誕生日プレゼントだった。雫本人は忘却していたが、頼は覚えていて どうしても祝いたかったから、雫のショー出演と その浮かれ具合が一層 恨めしかったのだ。
そして雫は自分の初恋は伶ではなく頼だと訂正する。これは昴の情報が間違っていただけなのか? 頼は雫が持っていた傘で顔を隠し、舞台上で雫の頬にキスをする。頬なので演出に見えるからセーフで、頼はハットを装着しているから正体不明という怪盗的な完璧な変装だからセーフなのだろうか…?
こういう公開での告白やプロポーズまがいのことは読者が喜ぶと思っての描写なのだろうか。私には やっぱり頼のプロ意識の薄さとしか思えなかった。