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少女漫画と小説の感想ブログです

芸能界で輝く幼なじみとの10年の差を埋めるため シンデレラボーイは階段を3段飛ばし。

あのコの、トリコ。(1) (フラワーコミックス)
白石 ユキ(しらいし ユキ)
あのコの、トリコ。
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

地味で平凡、女子に見向きもされない鈴木頼、16歳。でも、恋したキミを笑顔にしたい。大好きな幼なじみ・雫のためにキラキラのスポットライトを浴びる舞台へ!! アイドル×俳優×メガネ男子…フツーじゃない幼なじみのキラキラ三角関係ラブ!!

簡潔完結感想文

  • メガネで地味な俺が 君のピンチの時にはシンデレラボーイになってみせる。
  • 舞台本番まで1週間なのにオーディションに1日、疑似デートに1日使う謎日程。
  • 1巻5話で終わるはずだったが好評につき連載延長。最終回の内容が差し替え。

12時の鐘が鳴っても終わらない物語、の 1巻。

結果的に全6巻となった『あのコの、トリコ。』だが、果たして本書を長編と呼んでいいのかは悩ましい所。当初は5回の短期連載(1巻収録分)だったのだが、好評につき連載が延長され『2巻』分が、そして同じように『3巻』分が描かれた。そして最後には作中の芸能界の話を、現実の芸能界が利用して映画化が実現し、それに合わせたメディアミックス展開で最終『6巻』が発売された。長編と呼べるのは『4巻』までで そこまでが本編、そこからは番外編集といった感じである。

そんな増築を重ねた構造の本書だから基本的に展開が早い。表紙は三角関係モノを予感させるが、当初 それほど物語を こじらせるつもりはなかったからか、アッサリと関係性はまとまる。最初から もっと連載の回数が確保されていたのなら三角関係は長引いただろう。男2女1の三角関係だが、ヒーローではない方の男性・昴(すばる)は当て馬にもならない かませ犬の役割で損ばかりしている。実際『1巻』では昴は、他の2人の幼なじみの関係を進めようと背中を押し、自分は身を引こうとしている。そんな序盤の行動があるため、その後に当て馬になろうとしても どうにも切実感が薄い。

珍しい男性主人公だが、才能と地位を持つ2人の男性に無自覚ヒロインが奪われる典型的な構図。

最初から三角関係をメインに推していくことが出来れば、1人の女優を巡って、2人の俳優が公私ともに争う、派手でスキャンダラスな場面が用意できたのに、と残念に思う。実際『1巻』のラストは、そこで終わっても良いところを急遽 台本を書き換えたような部分が見え隠れする。白泉社作品のように、一度 全部 関係性をリセットして、人気がある限り連載を継続するスタイルなら良かったのに。最初の連載の延長を5話で区切って、三角関係に明確な答えを出してしまったのが悔やまれる。恋愛的には昴を早々に退場させてしまったが、中盤から登場する新キャラ・第三の男の役割を昴が担えば面白かっただろう。実写映画は絶対に見ることはないと思うが、原作漫画では出来なかったことを上手く再編集すれば面白くなりそうな気がする。


のように当初は短期連載の5話という時間制限があったため、5話でヒーローで主人公の頼(より)を既に芸能界で活躍しているヒロイン・雫(しずく)と昴と同格にしなくてはならなかった。なので頼は最少の歩数でシンデレラボーイとしての道を進む。

地味な人がメガネを取ったら誰もが息をのむ美しさで、演技をさせたら天賦の才能を発揮するというインフレヒーローである。最初からカンスト(能力値が最大)しているような状態で、彼に挫折の二文字はない。同時に演技することの難しさや意義、成長の描写もないから、俳優という仕事は芸能界という舞台で読者の心を掴むための設定に過ぎない。

彼女のためにメガネを取ると、イケメンになる変身モノ。2つの意味で彼女を食うのか心配。

そんんあ頼だが幼い頃、1度挫折している。それは彼の能力が高すぎて「子役」としての役割を全う出来なかったからである。そんな彼の高すぎる能力は時に欠点となるはずなのだが、その悪い部分についても言及されない。特に余り才能があるようには描かれていないヒロイン・雫との関係においては、頼と一緒に仕事をすることで雫の劣等感が常に発動してしまうような気がするが、その辺の描写もない。誰よりも才能のある頼が雫 ≒ 読者の分身を愛することで その能力を最大限に発揮する、という状況があれば読者は嬉しいのだろう。

もちろん上述の連載の形態の問題もあるのだが、全ての描写が淡々としていて、絵は綺麗だけど話が薄いという印象が最後まで抜けなかった。作者を一躍人気にした本書の次の連載で作者の本当の実力が分かるはずだ。頼とは違い、長い下積み生活を送ってきた作者に やっと巡ってきたスターへの道。それを どう掴むのか、作者のシンデレラストーリーを見守りたい。


10年ぶりに幼い頃に住んでいた土地に戻って来た鈴木 頼(すずき より)。彼が転入した学校には2人の芸能人がいた。1人は超人気若手俳優・東條 昴(とうじょう すばる)。そして もう1人が新人アイドルの立花 雫(たちばな しずく)だった。そして その2人と頼の3人は同じ幼稚園に通っていた幼なじみで、彼らは「スーパースターになる」という約束を交わした仲だった。ちなみに頼が10年ぶりに この土地に帰ってきた理由は最後まで不明。10年間の頼の生活も語られない。

突然、学校で雫と再会した頼は全力で殴られ、なじられる。その罰として頼は雫の1日マネージャーになり、彼女の初めてのCM撮影に同行する。雫は現在グラビア活動を中心にしているが、役者になる夢を虎視眈々と狙っていた。

だから今回の下着のCM撮影で多くの人に囲まれながら、相手役の男性がいることに羞恥を覚える自分を隠して挑んでいた。頼は そんな雫の強さと弱さを知って彼女に寄り添う。
しかし雫の この大きな仕事は相手役のワガママによって違う女性タレントを起用することが発表され、雫は降板させられる。これに対し雫は業界内では よくあることと物分かり良く引き下がろうとするが、契約書を盾に頼は雫の出演の正当性を訴える。こうして雫は出演権を確保するが、相手役が女性タレントを追って撮影現場から行方不明になり、撮影が続行不可能になる。

契約書も台本も一瞬で覚える頭の良い のび太くん。変身前後のギャップが読者を魅了した!?

そこで立候補したのは頼だった。雫の仕事のために一肌脱ぐことにしたのだ。でも彼女のピンチにヒーローの出番となるのは理解できるが、それこそスポンサーとの契約外の素人の起用など許可される訳がない。頼は雫の1日マネージャーなら、彼がすべきことは相手役の男性を呼び戻すことだろう。それが頼が求めたように契約の履行となる。代役展開は仕方ないのなら、せめて この会社の人が頼に目をつけ、彼を起用することに前向きという場面が欲しかった。ページや連載回数の制限があるからか、どうも話の進め方が雑。いくら少女誌の中でも低年齢向けの「Sho-Comi」掲載であっても、色々と目に余る。

こうしてメガネを取った頼は急にイケメンモードになり、発言も行動も大胆になる。その広告は繁華街でも大きく起用される。それを見るのは もう1人の幼なじみ・昴だった…。


2人のCMは思わぬ話題を呼び、頼は謎の男性として世間で噂になる。

その頃、幼なじみの3人は初めて学校で集合していた。だが頼は昴に劣等感を持っていた。人気俳優となった彼とは違い、子役時代の自分はオーディションに落とされ続けていた。だから彼は この10年間 芸能や役者業から離れていた。しかし役者に挑戦しようとしない頼を2人は何とか足を踏み入れさせようとする。スーパースターという目標の達成は「3人で」というのが彼らの根幹にある。

3人の内、現在 役者として一番評価されているのは昴で、彼が主演を務める舞台の相手役に雫が起用される。2人が夢を叶えようとしているのを目の当たりにし、頼は胸が痛む。それは敗北感や劣等感だろうか。

学校で2人が台詞合わせをするのに頼も参加するが、彼は自分が彼らの横に立つ資格がないことを思い知らされるだけだった。これは他の2人が頼を刺激して、彼の役者への渇望を自覚させようとしているように思う。じゃなきゃ、まるで嫌味のように自分たちの仕事の話を学校内で、頼の前でしないだろう。

ある日、昴が仕事で来られず、頼は雫と2人で台詞合わせをする。頼は短時間で台本を覚え、完璧な演技をする。頼の完全無欠を表すエピソードだが、雫からすれば何だか頼といると自分がダメな人間に思えるのではないか。

スイッチの入った頼は無敵であることを仕事と嘘をついて昴は確かめていた。実は子役時代の頼がオーディションに受からないのは その卓越した演技力が主演の大人すら食ってしまうから。だから頼は「綺麗な怪物」として恐れられていた。昴なら周囲の演技力に合わせて自分の演技を変えるような器用さがあるのだろうが、頼はオンかオフしかないのだろう。その意味では空気が読めないというのは彼の欠点で、才能のなさのような気がする。


んな頼の変わらない資質を見届けて、昴は自分が雫と交際していることを発表する。頼は自分の不在の10年を、幼なじみが男と女になっている痛感するが、不在だった自分に口を出す権利はないと何も言わず引き下がる。しかし恋も役者も今の現状でいる頼に、昴は発破をかける。相手の発情を引き出すのが本来の当て馬の役割である。
そして昴と雫の交際は彼の狂言だった。こうして男性2人は1人の女性を巡って三角関係となっていく。

2人に巻き込まれて練習に付き合う頼だったが、そんな時 昴が交通事故に遭ってしまう。
本番から1週間前の事故。怪我の程度は軽いがスタッフは昴の降板を決める。そこで頼は昴から代役出演を求められる。1話に続いて代役である。素顔では目立たない、コネもない頼が最少のチャンスで成り上がるための大きな仕事。頼こそ一番 狡猾なんじゃないか、と思えてくる。

頼は当代きってのスターである昴との器の違いを知っており、自分の力不足を理由に代役出演に首を縦に振らない。だが舞台の中止、そして世間では雫がグラビアアイドル上りとしか思われていないことを知り、陰口を言う共演者を成敗し、自分も動く。昴との友情で動くのではなく、雫への愛情で動くという頼の現金な部分が見え隠れする。その意味でも昴は不憫である。まぁ そうであるからこそ少女漫画読者が嬉しくなるんだろうけど。

一方で雫は舞台中止の危機に落ち込んでいなかった。舞台に賭ける昴の無念を知っているから最後まで諦めていなかった。ここで雫も強いところを描いているのは良い。安易にヒーローの頼に導かれるのではなく、頼が導かれている。改めて自分の雫への恋心を実感し、頼は立ち上がる。女性の存在で仕事を決めるなんてプロ意識が全くない。まぁ 実際この時点で頼は素人なのだが、この後の展開では彼の意識の違いが少しは表現されるのだろうか。


台本番まで残り1週間なのに、代役オーディションが開催される。そこで気難しい監督に認められたのは頼だった。

天性の演技力を持つ彼だが、雫との共演は初めてで緊張で舞い上がってしまう。
そんな頼に相談された昴は、舞台で恋人同士ということもあり、雫との疑似デートをすることを提案する。本番まで1週間という限られた時間の中で、1日をオーディションに、1日をデートに消費している…。

頼は雫とのデートを意識するが、雫は それが全部 舞台のためだと考えているだけ。どうやら雫は白泉社的な無自覚最強ヒロインみたいだ。役者バカで、なかなか恋愛には発展しなさそうなタイプだ。メタ的に考えると この頃には連載の延長が決まっており、雫が仕事バカの恋愛音痴に設定に手が加えられたのかな、と考えられる。

2人が来たのは幼稚園の遠足でも来た動物園。手を恋人つなぎ して回る。同じ場所に来たことで、さすがの雫も10年前とは違う自分たちの関係を意識し始める。雫が赤面する場面に遭遇した頼は、もしかしたら彼女と同じ気持ちなのかもしれない、と舞台の終了時に雫に伝えたいことがあると彼女に言う…。


調に稽古を重ねるが、頼は無名の自分に昴ほどの集客力があるか不安。そんな時、昴はテレビ出演した際に自分の代役が天才だと大々的に宣伝する。人気俳優の発言にマスコミが騒ぎ、チケットは完売する。

というか当日券じゃないんだから、昴ファンは もうチケットを買っているし、彼が出ないなら返金している。そして いくら昴の発言があっても、昴が出ないのなら彼のファンの動きは変わらないのではないか(もちろん その後にマスコミの記事に踊らされる人はいるだろうが)。

この時点で残り3日程度だろうに、全てが好転するのは ご都合主義だが、作中も作品も一定の結果を出さなくてはならない仕方がない。

こうして舞台は滞りなく進み、話題が話題を呼び、大成功を収める。でも上述の通り、頼が天才なら、雫は劣等感を抱えるのが自然なのだが その辺の彼女の葛藤や、頼の出色の演技が相対的に雫の演技を稚拙に見せるのでは、という問題は描かれない。

そして全舞台の終了後、頼は雫に気持ちを伝える。だが天然ヒロインには上手く伝わらず、頼の苦難の日々は続く。そして昴も本格参戦を匂わせ、物語は続く。このラストシーンは連載の好評を受け、本来とは違う展開になったのだろう。頼と同じように、作者も予想外の起用に対し、しっかりと結果を残し続けなければならない。プロの道は厳しい。