白石 ユキ(しらいし ユキ)
あのコの、トリコ。
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
女子1人男子2人、芸能界を舞台にした幼なじみの三角関係ラブ!! 地味で冴えないメガネ男子・頼が大好きな雫のためにキッラキラに輝いちゃいます!!2巻は頼に恋する新たな女子が登場!! 四角関係勃発でますます恋が盛り上がる(>_<)そして、ついに頼、昴が雫に告白・・・?? その答えは・・・!?
簡潔完結感想文
- 当て馬と女性ライバルの投入で一気に四角関係が成立。展開早いが内容薄い。
- 頼の根拠のない自信より、昴の方がずっと誠実で説得力があるのが大問題。
- 仕事に私情を挟む2人は各方面に迷惑を掛けた上に熱愛を自白。干される…。
当て馬・昴の視点から見ると悲惨な恋愛、の 2巻。
『1巻』の5話分の短期連載で当初は完結するはずだった物語の結末を改変し、この『2巻』の5話分まで連載を延長した作品。なので恋愛的決着を この『2巻』で迎える。
3人の幼なじみの再会を描いた『1巻』では、奥手で純情なヒーロー・頼(より)の雫(しずく)への恋を、もう1人の幼なじみ・昴(すばる)がアシストするような形だったが、連載延長によって昴が当て馬になり、その役どころが急遽 変更されている。そして『2巻』は この3人の三角関係をメインで良かったのだが、天然鈍感ヒロインの雫の気持ちの変化を起こさせるために女性ライバルとして同学年の実力派女優・華(はな)が投入され、四角関係となる。
しかし この四角関係は5話で動かすことに無理があり、どうにも昴と華の気持ちが弱い。華は どうして頼に執着し好意を寄せるのかなどの理由も ほとんど明かされず、ちょっとちょっかいを出して、潔く撤退していくだけ。
新キャラの華はまだ それでもいい。問題は昴である。再読すると どうにも昴の不憫ばかりを感じ取ってしまう。親の都合かもしれないが雫の前を去り、その才能をコントロールできないから役者から遠ざかっていた頼が急に戻ってきて、そして自分と肩を並べる存在になり、雫を奪っていく。その頼の行動や活躍は理不尽にすら映る。頼は たった2回の芸能活動で、10年以上 努力をしてきた昴と対等になる。いや『2巻』で描かれている彼らが出演する映画では昴より頼の方がメインのカップルで格上の扱いとなっている。一方で昴は頼のいない10年間、ずっと雫のそばを離れず、彼女との夢を果たすために演技を磨き、実力をつけ、芸能界でも一目置かれる存在になった。その彼の努力と純情が あまりにも軽視されているのが本書である。
雫が昴に その想いに応えられない趣旨を伝えた言葉は全カットされている。おそらく作者は雫に昴を否定する説得力のある言葉を用意できなかったのだろう。そのぐらい悪い所がない昴を振るのは難しいのだ。
『2巻』の中で頼は「俺の演技は全部 好きな人のためのものだから」と言う。だが この発言には根拠がない。作中で頼が演技をしたのは今回の映画で2回目。そんな彼に演技を語って欲しくない。その才能だけで生きている頼より、実績と経験、そして努力をした昴こそ この発言に相応しいだろう。作中で頼には格好つけた発言をさせているのに、昴は雫に対して深い想いを言葉に乗せて伝えられていない部分に隔靴掻痒の もどかしさを感じた。
これ以降も連載が、というか正確にはシリーズとして作品が続くのならば、もっと昴を当て馬として長く活躍させて欲しかった。でも昴が長く活躍するほど、彼の良い部分を出すほど、頼の良さが消えて、美味しい部分を攫っていく役のズルさが見えてしまうかもしれない。流れ星のように急に現れ、どんな星よりも強く輝き、一瞬で消えていく頼のためにも、このぐらいの力技で あっという間に ねじ伏せる手法が本書には適切なのかもしれない。
再読すると こんなにも頼が苦手になるとは思わなかった。
『1巻』のラストの頼の告白は、鈍感ヒロインの雫によって伝わらず。
しかし頼が代役主演を務めた舞台の成功で、頼も芸能界で注目の存在になったらしい。そして彼らの夢だったトリプル主演ではないものの、幼なじみ3人は揃って一緒の映画に出演できることになった。
この映画撮影期間で起こる事件は3つ。
1つは昴が当て馬として動き出すこと。5話で連載終了のはずだった『1巻』では頼の背中を押すような動きを見せていたが、連載延長と共に雫に本当に恋をしている設定になる。こうして雫は仕事中に火花を散らしあう男性2人から狙われる。この状況に読者は歓喜するだろう。男性主人公という話だが、結局 雫の幸福を描いているように見える。
2つ目は雫への枕営業の誘い。
役者業では まだまだ新人の雫にステップアップの機会だとプロデューサーが性行為を強要する。しかも頼の名前を出し、彼を潰されたくなかったら、と脅迫材料を用意していた。頼のために身体を投げ出そうとする雫だったが、そこに頼が登場する。なぜ頼が この場所が分かったのか、自分が雫を絶対 守ってみせる という根拠が薄弱すぎるとか色々と問題はあるが、全体的に雑で ご都合主義の話だから仕方がない。
雫のことになると すぐに飛び出してしまう頼をサポートするのは昴。雫に性行為を強要するプロデューサーの動画を撮影し、主導権を握る。そうなると随分前から2人(少なくとも昴)は その場にいたことになるが、よく飛び出さなかったなぁ。本書ではヒール役は すぐに撤退するのが お約束。
最後は共演の山田 華(やまだ はな)という同じ年の女優の存在。
今度の映画は高校生4人のラブストーリー。華がヒロインということは、その相手役の頼が主役格なのだろうか。随分と頼の扱いが良い。そして若手人気俳優のはずの昴の扱いが悪い。この世界のネット上では場外乱闘が起こっていることだろう。
華は初対面から頼にキスをする。これは雫の恋心を刺激するためだけで、特に意味はない。というか華の頼への執着の理由は明かされない。そういう状況が完成すれば そこに深い理由なんて用意しないのが本書のスタイルである。
天才と謳われる華は変人でもあるらしい。頼が華に対する陰口を叩くスタッフを注意したところを華が見ており、2人の仲は接近する。しかし頼は普段の存在感がないからなのか、周囲の陰口に遭遇する(『1巻』でも見たよ、この展開)。
華の演技が絶賛される中、初めての映画撮影に臨んでいた雫は実力が出せない。それは頼と華のキスシーンが頭から離れず集中できないからだった。そんな雫のピンチを救うのは頼。彼女に助言をして自信を取り戻させる。
そして雫は頼との時間を作るために芝居の練習として撮影後、頼を公園に呼び出す。だが約束の時間に頼は現れず、雫の前には昴が登場する。そして昴は雫に好きだと伝えた。
頼が遅刻した理由は、撮影現場で華が倒れたからだった。倒れた彼女を頼が お姫様抱っこをして運ぶ。病室で今夜は付き添って欲しいという華の願いを頼は拒絶する。華は頼の演技に共感できたと言うが、頼は全て雫のためのものだと理解を拒む。うーん、何か良いこと言っているようでいて、10年間のブランクがあって、事情があって代役を引き受けただけの頼に言われても説得力がない。これを昴が言うのなら分かるが、頼は その才能が邪魔をしたという事情はあるものの、演技から逃げた情けない人間には変わりないだろう。
その日、頼は結局 雫と連絡がつかないまま。そして翌日、撮影現場で気合の入った演技をしている昴から雫への告白を聞かされる。昴から告白された雫は またも私生活の悩みを現場に持ち込んでいた。そして頼が昨夜の待ち合わせより華を優先したことを知る。2人は互いに相手が自分よりも他の異性を優先しているのでは、と心配になる。
そんな中、映画のワンシーンで雫が頼の役が別の女性に惹かれていることを知り、身を引く場面の撮影となる。だが雫は演技と本音が混じり合い、撮影中に「行かないで」と頼の名前を呼ぶ。その溢れ出る感情に頼も応えようとするが、そこでカットがかかる。2人は演技の中で それぞれに相手の気持ちを感じ取っていた。戸惑う雫が誤魔化そうとしても頼は それに乗らない。昴の存在もあり、頼はグイグイいく。昴は完全に踏み台である。
当初の脚本では頼と華の役が結ばれるだけの脚本だったが、昴と雫の2人も結婚し、キスをするという変更が加えられることになった。
昴は雫が その脚本の変更に動揺していることを見抜く。もう雫の気持ちが どこにあるのか昴には分かっている。それでも強がる雫に対し、昴は彼女の首筋にキスマークを残す。2人の幼なじみの男の子とは、本当に自分のことを女性として好いてくれていることを雫は知る。
そして結婚式のシーン、雫は覚悟を決めて昴からのキスを受け入れようとするが、そこに頼が登場する。芝居でも雫のキスは渡せないらしい。演技の全てを雫に捧げ、演技であっても雫に昴を受け入れてもらいたくない。もう公私混同の極みである。頼は天才であってもプロではないことが明確になった。雫のキャリアも台無しにしそうである。
花嫁を連れて逃げた頼は、雫に告白する。雫は既に昴に自分の気持ちを伝えたことを話し、そして自分の頭の中には頼しかいないと、頼への好意を口にする。その後、雫の首に残る昴の痕跡を見た頼は、その上書きを、そして華とのキスが許せない雫は頼にキスをしてリベンジを果たす。頼のファーストキスは華に奪われたが、雫の(ファースト?)キスは守られる。この辺も男性主人公だが、結局 雫をメインに描き、読者のための展開を用意している部分である。
仕事現場に戻った2人は土下座して謝る。その後、昴と雫の撮影がどうなったかは謎のまま。頼は血の涙を流しながら耐えたのだろうか。そして昴も結局 当て馬から元の応援団に呆気なく戻ってしまう。昴の気持ちも扱いも終始 軽すぎる。
公開された映画は大ヒットとなる。その記念にイベントが開催され、4人は久々に集合する。撮影後、昴と頼は1度も会っていないらしいが、舞台挨拶など宣伝活動もなかったというのか。そんなまさか。
そのイベントで恋愛に関する質問があったが、雫は仕事一筋だと堂々としており、頼を落ち込ませる。その仕返しに頼は壇上で雫に一筋であることを発表し、会場は阿鼻叫喚の様相を呈する。
これにて頼と雫のキャリアは終わった。頼は下積みもなく代役から のし上がった奇跡を自分で終わらせたと言えよう。昴のように固定ファンもいない新人が共演女優と交際宣言などしたら そこで人気は打ち止め、業界内の評判も悪いだろう。ここで交際発表することは雫のキャリアにも影響することを全く考えていなさそうなのが腹が立つ。
作品としては雫以外のことを全部 放棄できるような溺愛が読者に受けるのだろうが、頼の溺愛は破滅的で周囲が見えていない。昴なら こんなことしないだろう、と思ってしまう部分である。ちなみに私は昴のファンではない。頼が あんまりにも酷いから相対的に昴が良く見えるだけだ。