《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

17歳で世界進出を果たした俳優が、20代半ばに日本の朝ドラ出演という尻すぼみ。

あのコの、トリコ。(5) (フラワーコミックス)
白石 ユキ(しらいし ユキ)
あのコの、トリコ。
第05巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

みんな待ってた、あのトリ最新5巻! 1年ぶりに帰国した頼と、頼の誕生日を一緒に過ごすことになった雫。「誕生日プレゼントは雫がいい」その言葉に緊張していたけど、急な仕事が入って!? ヒミツの結婚式の前、学生時代、そしてオトナになった2人…。いろんな頼と雫のワンシーンを切り取った第5巻!
Contents あのコの、トリコ。・オマエを食べてやる!!・忠犬は一途に恋する。

簡潔完結感想文

  • 実写映画化発表に合わせて発売された商売丸出しの番外編集+読切短編2編。
  • 長期撮影中の発覚する俳優夫婦のプロ意識の欠如と、意味不明なアドリブ炸裂。
  • 社長一家が社宅に住む謎の設定。同じ最上階でもタワマンとは意味が違うよ?

きたいもので溢れている印象は一切 受けない 5巻。

完結詐欺を繰り返してきた本書だが、この『5巻』は実写映画化の発表に合わせて、一般読者への知名度を上げるために発売されたようだ。作者も言及しているように続編と言うよりも「番外編読み切り集」という表現が正しく、時系列のバラバラな番外編と全く関係のない読切短編が抱き合わせ商法で併せて収録されている。

番外編集ではあるものの、基本的な話の構造は本編と同じ。読切短編も含めて、掲載誌が低年齢向けのSho-Comiということもあり、ヒーローの設定が極端なように感じられた。恐らく それだけキャラが立っている方が若い読者の受けが良いのだろうが、本編と同じようにヒーローのインフレが凄すぎて思わず笑ってしまうところが多い。世界的な役者、御曹司、元日本代表すら負かすスポーツの才能など本書は普通の人が全くいない。
また『5巻』では最後の話はともかく、ヒーローのその行動は果たして素敵なの?と首を傾げるシーンが多かった。これは過激なことをやらないと受けないからと倫理観を失っていく動画配信者と同じような構図ではないか。こうやって読者に受けることだけを考えた暴走で、2000年前後の成人向けエロ漫画みたいな方向性に行きついたのだろう。

頼といいスペックが高いけど彼女一筋。いや束縛レベルのヒーローが番外編集の共通点か。

外編集の内容は いたって普通。相変わらず主人公の頼(より)が どれだけ雫(しずく)を好きかを描いたものが多い。良くも悪くも本編の続きでしかない。連載ではなく雑誌掲載が断続的なので説明にページを割かれるのも番外編集の特徴だろう。

そもそも本編も連載形態が特殊だったので話を端折った部分が多かっただろうと推測される。特に もう一人の幼なじみ・昴(すばる)は立ち位置が安定せず、当て馬でいられる時間も短かった。なので番外編集では、幼なじみ3人の関係性など、本編で触れる機会がなかった部分に焦点を当てて欲しかったものだ。

作者の溢れ出る想像力や、泣く泣くカットした部分を復活させるような描ける喜びを感じられる作品なら良かったが、メディアミックスに合わせただけの、魂が入ったようには感じられない番外編集だった。


あのコの、トリコ。 Happy Days Vol.1」…
頼がアメリカ進出して1年。雫は まだ一流女優になるために奮闘するグラビアアイドルという肩書のまま。頼が約1年半で世界に羽ばたいたのに、ずっと演技の世界にいる雫は地位が変わらない。この辺に劣等感や無力感を覚えると思うのだが、その辺は無視して、またも頼が格好いいだけの物語が始まる。

頼は自分の18歳の誕生日の前日に突然 帰国する。突然の恋人の出現に戸惑う雫だったが、2人で甘い誕生日を過ごすことを約束する。だが頼に雑誌撮影の仕事が入ってしまい、彼に乞われて雫も撮影現場に同行する。その仕事は まるでグラビアアイドルのような撮影で、頼は1年で変わった肉体を間接的に雫に見せつける。その後の男女カップルでの撮影の相手は なんと雫。その手の撮影は雫の本業なので張り切るが、やがて暴走する頼に雫は お仕事モードからプライベートモードになる。撮影は夜まで続き、お互い疲労困憊だが、愛を確認し合って、若い2人は そこから再び奮起する…。

うーん、内容がない。熱心な読者が喜ぶような小ネタとかテクニックがないんだよなー。

あのコの、トリコ。 Happy Days Vol.2」…
20代半ばの結婚後の2人の お話。2人は夫婦で朝ドラで共演しており、その撮影も佳境と言う時期。しかし現実的に考えれば世界進出した頼が、拘束時間・期間の長い日本の朝ドラに今更 出演するメリットが全く感じられない。でも夫婦共演をしている という設定のためには雫に合わせて仕事をグレードダウンさせるしかないのだろう。

だが放送直前に3か月前に撮影した過酷ロケのテープの紛失が発覚し、再撮影に臨まなくてはならなくなった(しかしテープで撮影するドラマって21世紀にあるのだろうか。巻き戻し、のような言葉の綾なのか作者の知識不足なのか判断が難しい)。

3か月前の撮影では季節が穏やかだったが、今回の再撮影では厳冬期に入ってしまい役者への負担も大きくなる。そんな時、頼だけが感知していた雫の体調不良が妊娠である可能性が発覚する。それを知り頼は雫に危険で身体に負担がかかる撮影を止めさせようとするが、仕事バカの雫は夫婦の合作である このドラマの完遂を第一目標とする。小さい頃から変わらない雫の気質に触れた頼は、自分と雫の妥協点を見い出す。それが本来の崩れ落ちた橋を渡るシーンとは違う、冬の川を頼が抱えて雫が水に濡れないよう渡河するというアドリブに走ることだった。

自分が格好よく映るために断りなしでアドリブを入れる頼。こういうのスタッフから嫌われるよ。

えっと…、この変更が何を意味しているのかが全く分からない。最初は2人で渡河するはずだったのを、頼が雫を抱える変更なら雫の負担が減ることは分かるが、崩れ落ちた(という設定の)橋を渡る方が安全に思える。しかも急にリハとは違うことを独断で始めるという頼のチームワーク無視の描写も気になる(作品上の演出だろうが)。本書が全体的に頼を どう格好よく見せるかにしか特化していないのは分かるけど、整合性のない物語に価値はない。これが頼の雫を守ること、そして父親としての最初の自覚という表現なのだろうが…。

ってか、朝ドラ撮影中に妊娠するとかプロ失格なんですけど…。これは頼だけの責任じゃない。雫の手落ちでもあるだろう。本書や作者は格好よく描こうとした場面が、あまり恰好つかないことが多い気がする。

あのコの、トリコ。 Happy Days Vol.3」…
時間は行き来して17歳の頃の お話。高校生の頼は、創立祭でシンデレラの役をすることになった。相手役は昴。

この小さな劇で頼は おそらく本書で初めて役作りに悩んでいる。そこで女心を知ろうと雫に協力してもらう。雫の部屋に初めて入り、メイクやダンスなどレッスンを重ねる。だが恋人になったばかりの2人は役作りに集中しきれない。だが頼は、イチャイチャする中で雫が見せた表情に役作りのヒントを掴んだようだ。そこで雫を放置して役を固めに帰宅する。彼もまた役者バカなのだろう。

こうして劇は大成功。頼の演技力が昴をある行動に走らせているのは良いオチだ。

「オマエを食べてやる!!」…
中学2年の此見 千花(このみ ちか)は生まれて初めて先輩から告白されるが、彼女には横暴な幼なじみ・錦 郁巳(にしき いくみ)のお世話という役目があった。郁巳は千花の父親が務める社長の御子息だから、出会ってからというもの千花は彼の下僕に成り果てた(社長の息子が社宅に住むという謎はツッコまずにはいられない。タワマンじゃないんだから最上階に住めばセレブ、という訳ではないよね…。)

ちなみに社宅の最上階は お風呂だけでも かなりの広さ。勉強会の途中で郁巳に掃除を言い渡された千花だったが途中で寝てしまい、目が覚めると郁巳が入浴していた。そこからドキドキの お風呂シーンとなるのだが、気になるのは この場面の前の割愛された部分。郁巳は眠る千花を見つけ、自分は全裸になって彼女の横を通り、お風呂で千花が目覚めるまで待機していたということだ。中学2年生の男子が気に入ってイジメている女子の前で全裸とか郁巳の心身は爆発寸前だろう。そこまで考えると なかなか面白いシーンである。

告白してきた先輩は千花を召使いとして使おうとしているのを、真意を見抜いた郁巳が助けることで善悪が反転する。いや、反転したのだろうか…? 結局 最後のモノローグで「おぼっちゃま と召使いの日常は」続く、と書いてあるので、千花の地位や立場が向上した訳ではない。素直になれない郁巳を愛でるのが正しいのだろうが、おぼっちゃんのワガママ・幼稚な独占欲の域を出ていないのが残念。

「忠犬は一途に恋する。」…
前の話とは性別が逆で、小柄ながら活発で正義感の強い女性・水嶋 鈴(みずしま りん)に温厚な男性・八谷 皐月(はちや さつき)が忠義を尽くす お話。どこまでも鈴への忠犬っぷりを発揮する八谷ことハチ。142cmの鈴と188cmのハチの身長差は46cm。あと4cmで身長差50cmの男女を描いた雪丸もえ さん『ひよ恋』と並べたのに。

身長のハンデがあろうと鈴はバスケットボールに打ち込むが、以前 男性コーチの女生徒へのセクハラを指摘して以降、彼に過酷なメニューを課されてイビられていた。懸命に課題をクリアする鈴だったが やがて倒れ、その上コーチが彼女を侮辱したことでハチがキレる。ハチは元日本代表のコーチに勝負を挑み、そして勝利する。忠実な犬は優秀な番犬でもあった。

その姿に鈴は初めて恋を知る。おそらく作者が描きたかったのは最後の1コマだろう。この犬に必要なのは去勢かもしれない…。