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少女漫画と小説の感想ブログです

好きな人の名前を書いた消しゴムを見られてしまい、消えた 機械仕掛けの初恋。

カラクリオデット 3 (花とゆめコミックス)
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ
カラクリオデット
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

柚木村に告白されたけど、まだ恋愛の好きが分からないオデット。洋子が恋が実るおまじないをしているのを知り、自分もやってみようとするのだが…!? そんなある日の事、朝起きるとクリスが動かなくなっていた! どうやら、バッテリーの故障が原因らしいのだけど…!?

簡潔完結感想文

  • 自分が一人前であると認められたくてしたオデットの行動が徒になる。
  • 恋も交流も上手く出来ないオデットの「悩み」がバッテリーを大きくする。
  • 自分の気持ちを優先するだけでなく、相手の気持ちを気遣うことを覚える。

恋も まだの白泉社特有の鈍感ヒロインのアンドロイド、の 3巻。

オデットの周囲に恋の嵐が吹き荒れる。クラスメイトの洋子(ようこ)は順調に岡田(おかだ)との関係を深めているし、オデットのことを好きだと言ってくれる人間の男性・柚木村(ゆきむら)も現れた。この年頃の人間なら誰でも恋をするもの、そして教えられなくても恋とはどういうものかしら、ということを知っていることをオデットは知る。

アンドロイドも すなる 恋の知ったかぶり。恋に恋する年頃を駆け抜けた後、本当の恋を知る!?

だから彼女は焦る。アンドロイドである自分が その感情を上手く理解できないことを。そして自分と周囲が同じであることを望むから彼女は、おまじないに頼る恋をしている10代女性に なり切ろうとする。その必死さが痛々しく見えた。そして理解できないものを理解している振りは大きな労力を使う。今回、議題に上がるバッテリーの消耗は彼女の精神力というべきものの消耗と同義であろう。

初恋を知らないオデットは白泉社作品特有の鈍感ヒロインのように見えるが全く別物である。彼女は自分への好意に気づいているし、自分でも恋をしたい/知りたい と思っている。だが その感情が人間とは違って自然に湧き上がってこない。その違いに苦悩するのは、恋愛におけるマジョリティとマイノリティの違いのようである。例えば同性愛者が それとはバレないように異性愛者の振りをするような、自分を偽って生きなければならない。オデットの場合は恋愛感情だけでなく、自分が人間ではなくアンドロイドだということを秘匿している。自分を人間
として好きになってくれた柚木村に対しては愛が分からないこと、そして正体を隠しているという二重の罪悪感が生まれている。
それでもオデットは不器用ながらも自分や他者と関わりを続けており、そして上手くいくこと いかないことを繰り返しながら生きている。それは人間にとっても普遍的な成長の過程であり、今の彼女の気づきの多くは きっと その後に繋がっていくはずだ。
『3巻』は失敗が多かったように思えるが、1歳を超えたばかりの存在が失敗しない訳がない。人間は その頃の記憶を持ち合わせていないが、オデットを通して、失敗が成長の種であることに気づかされる。


ただ初読の時は思わなかったが完読後に再読すると、作者は この話で何がしたかったのだろう、という気持ちが湧いてくるエピソードも多い。『3巻』で新たに登場する、または再登場するキャラも全員 恋愛感情を持っているのだけれど、そのどれも消化不良に終わるから、再読していても新たな気づき はなく、中途半端な伏線だけが気になるばかりなのが残念だ。
読者人気を得て物語を増築している状態なので仕方ないが、恋の嵐が吹き荒れるだけで、その後始末をしないので立つ鳥跡を濁す印象が残ってしまう。


12話。家出猫を探すことになったオデットたち。オデットは自分で学校での学びを望んだのに、自らそれを放棄して猫探しをしたことを博士に怒られる。まるで親と子の説教である。
だがオデットは博士の言い分に納得できず、クリスの協力のもと自分を改造し、猫探しに特化させる。学校をサボることよりも、アンドロイドが自らを改造できるということの方が問題のように感じられる。ロボット3原則を無視するプログラムを書き換えて武器を装備したら人類は滅びるだろう。

オデットは博士から自分の身辺のことも ちゃんと出来ないくせに、と言われたことが引っ掛かる。親に否定された気持ちなのだろう。やはりロボットというよりも、子育て要素の方が強い。

捜索の結末は少し苦いが、物語の結末は明るい。独身で天才で経済的余裕があるからなのだろうが、博士の方が人間の母親よりも愛情深いように描かれる。オデットたちもまた猫と同じで、博士のいる場所が住む場所になるだろう。


13話では『2巻』でオデットに愛を告白した柚木村が再びオデットにアプローチする。この回で初めて本書のイケメン3人が一堂に集う。そして この回から柚木村の女友達としてミカが登場するが、彼女の役割が いまいち分からない。柚木村の話相手、恋の相談相手として用意されたのだろうか。なぜ こんなにも個性が癖が強いのかが謎だ。

この回も結末が ほろ苦い。消しゴムに好きな人の名前を書いて使い切ると想いが叶うという おまじない を巡る話なのだが、それを知ったオデットは その実行を試みる。だがオデットの行動を知った柚木村に消しゴムを触られてしまい、しかも…、という展開と真相が胸を打つ。同級生の女性たちは当たり前のように知っている恋心をオデットは まだ理解できない。こうしてオデットが望んだ初めての恋、好きな人は「消えた初恋」となってしまう。


14話。この回からクリスが動かなくなり、オデットは1人で登校する。クリスのバッテリー消費が激しいのは彼が「悩み」を抱えているからか。その前の13話で起きたことと言えばオデットが朝生に積極的に話しかけ、それを苦々しい表情でクリスが見ていた、という場面である。クリスは自分が弟ポジションから抜け出せないのが深い悩みとなったのか。

1人で登校するオデットだったが、そこに柚木村が声を掛ける。だがオデットは柚木村の言ってることの半分も理解できず、それを責められているようで彼から逃亡する。恋を知らない自分に好意を受ける資格がないと思っているのかもしれない。

教室では洋子が1年生から告白されたと悩んでいた。そこでオデットは好きな人は1人きりで、人間は その座を巡って争っていることを学ぶ。そして実際に洋子が告白を断っている様子を見て、オデットは急速に電池を消耗する。複雑怪奇な人間社会を学ぶのは大変なのだろう。

それを察したオデットは早退して充電をしようとするが、その途中で柚木村に会い、またも彼から逃亡してしまう。オデットが逃亡するのは彼に自分の正体を明かしていないストレスもあるのだろう。朝生のように受け止めてくれる可能性もあるが、失望される可能性もあるから怖いのだろう。

学校内を逃げ回るオデットは朝生に助けを求める。クリスが不在なのは電池の消耗の件の布石と、この状況を生むためでもあるのだろう。こうしてオデットは朝生に抱えられて保健室に運ばれるのだが、柚木村、そしてミカは その様子を見守るだけだった。

相手に失望されたらというオデットの恐怖が逃亡という選択肢を取る。恐怖とは想像力である。

15話以降、オデットは大型バッテリーを持ち歩く。しかもクリスも しばらく起動しないという。このクリスの中座は何か意図があってのことなのだろうか。オデットの周囲を人間の男性2人だけにするためにクリスが排除されたのか。

大型バッテリーはオデットに自分がアンドロイドだということを常に自覚させる。そして やはりオデットと柚木村の間に秘密と能力と立場の差があるために上手くいかない部分もある。それでも2人は互いに行動を間違えながらも心を通わせていく。上手くいくこともあれば その逆もある。それが人生だ。


16話では抱えていた「悩み」が解消したことでオデットのバッテリー問題も解決したので一時的にバッテリーから解放される。

ここでミカの恋心が明かされ、ミカにはオデットと初めてライバル関係になる人間としての役割があることが分かる。ただオデットは そのライバルとも向き合って対話を試みる。だがライバルからの質問にオデットの悩みは再発し、バッテリー問題が再び持ち上がる。
しかしオデットが相手の心拍数を感知して、それを相手に伝えるのはマナー違反だと思う。恋心を安易に指摘してはいけない、と学ぶ日は来るのだろうか。


17話。洋子と岡田の遊園地デートにオデットも参加する。Wデートの体裁をとるためにオデットは問答無用で朝生を拉致する。朝生は博士を除いて、一番オデットによる迷惑をこうむる人間なのは間違いない。

朝生が遊園地に来るのは洋子がいるからなのだが、岡田がいることで朝生は落ち込む。朝生は自分にとって不本意な状況を楽しむ気にならず、オデットにも塩対応。それがオデットの心の穴になる。でも彼が優しくないのは、彼にとって嬉しくない状況だからだ。オデットの誘い方と状況判断にも誤りがある。

それでも朝生は徹夜明けで調子が悪いにも関わらず、オデットに付き合う。オデットは朝生のことなど考えず、自分を優先するから、彼は どんどん調子を悪くする。

再会した洋子が岡田から合わない靴の心配をされたと知って、オデットは朝生の調子や都合を全く考えていなかった自分に気づく。そうして朝生の体調を案じたオデットは彼を気遣い、そして朝生が ここまで我慢して付き合ってくれたことを知って満足する。自分の至らなさに気づいて、反対に気がつかなかった相手の優しさが見えてくる。