《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

何度も不合格を出した辛口審査員を認めさせることで、最後の学校生活は自立の1年となる。

カラクリオデット 6 (花とゆめコミックス)
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ
カラクリオデット
第06巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

オデットを奪うため、オーウェン博士がついに実力行使に出て!? 一方オデットは朝生が卒業してしまうと知ってショックを受け…。最後まで目が離せない、オデット完結巻!!

簡潔完結感想文

  • もしや ウチキリオデット!? 私たちの次のステージは ここからだッ!! 日常は続いていく。
  • チャペルでの2人の男による決闘で花婿が決定か。博士とは住人が増える宿命を背負う?
  • 辛辣な朝生から見てもオデットは もう人間社会に溶け込める常識と感情を持っている。

デットを脅かす者も、オデットが頼る者も、そして誰もいなくなった、の 最終6巻。

怒る、ということは甘えるということに似ている。本書でロボット(またはアンドロイド)のオデットが怒ったのは、おそらく生みの親である吉沢(よしざわ)博士と、第2の同居人となるロボット・クリス、そして学校の先輩男性・朝生(あさお)の3人ではないか。オデットは この3人だけには身内のワガママみたいな感情を爆発させる。それはオデットが娘であり、姉であり、そして乙女であるからだろう。家族というもの、恋愛というものを通じてオデットは その人にしか出せない感情を放出していた。

朝生に対して怒るのはオデットが朝生にいて欲しい願望があるから。その願望が彼女の心である。

中でも異質なのは朝生だろう。完全な一般人でありながらオデットは彼に対しては遠慮がない。そして困った時は何かと朝生の名前を出し、彼に おんぶにだっこだった部分もある。

だが最終話で卒業により学校を去る朝生からオデットの学校生活に お墨付きをを貰えたことが一つの到達点となっている。朝生は本書の中で唯一 オデットがロボットであることを承知していて、そして そのことをオデットに隠さない。『1巻』でロボットが人間様と同じようなことをするな、みたいな発言をして以降、度々 オデットを凹ませてきた朝生だが、それと同じぐらいオデットを励まし続けてきた存在。それは他の人間と同じように「心ある」存在としてオデットを扱っていると言える。双方に遠慮のない=嘘のない関係において、朝生は最後にオデットが人間社会の中にいられることを保証する。手厳しい彼から合格を貰い、オデットは朝生のいない=困っても頼る人のいない環境の中、また新たな一歩を踏み出す。博士から生まれ、学校に行きたいと自我を持ったオデットが、朝生には頼りながら生きてきたが、最終回では真の自立を果たす、というのが本書のラストであろう。


1話でオデットが行きたいと言い出した学校生活。それが親の手も離れ、先輩の手も離れて、心配なく友人たちと楽しい日々を過ごせるようになった。もう自分らしさに迷い、電力消費が激しくなり、大きなバッテリーを背負う必要もないだろう。その前にトラヴィスとの決別で個としての生き方を選択したオデットだから尚更だ。

…そんな一定の結末は分かるが、恋愛面では色々と「宇宙へポーイ!」と伏線回収を放棄しているのが やっぱり気になる。最終回でオデットが告白するかと思ったけどしなかったのが残念。ただ朝生がロボットとの交際にすぐに返事が出来る訳もなく、真面目に お断りされても最終回としては相応しくないので告白するという選択肢は消滅してしまったのだろう。

途中から出てきた柚木村(ゆきむら)は最終回で久々に顔を出したけど、いかにも取ってつけた感じなのが残念。まぁ ちゃんと告白しただけ彼は幸運と言えるけど。というか柚木村自体が私には作者が何を意図して登場させたのかが分からなかった。正ヒーローの座すら狙っていたみたいだが、どこで人気が出ると思ったのか…。また柚木村のクラスメイト・ミカも途中から行方不明で(最終回に1コマ出たけど)、朝生に対する好意は無かったことになった。朝生も洋子に対して想いを告げないままだし、何だか色々と片想いさせた割に成就率が低い。内輪カップル続出も嫌だけど、中途半端は もっと精神衛生上 良くない。


キャラ数を増やして多方面からロボット・アンドロイドを照射するという手法なのだろうが、どれも中途半端に終わってしまっている。学園モノに舵を切ったのなら、もっと学校行事を多用しても良かったかもしれない。

作品内における普及率や科学技術といったロボットの位置づけも いまいち分かりづらい。読切短編から出発したから仕方ないが、もう少し人間社会とロボットの関係性など大局的な視点が欲しかった。扱うテーマに関しても数十年前の手塚治虫さん や その後の萩尾望都さんなどSFの名手たちの方が絶対に深い考察をしていると思われる。
序盤の方がロボットの描写の切れ味が鋭かったように感じられた。連載が続けば思考も深まるかと思いきや、作者の中でも結論が出ない、または手に余る問題に直面してしまったように思う。

作中の ある期間に恋の嵐を吹き荒らしたのに、結局 誰の恋も真剣に考えてくれなかったのかと残念だ。朝生ならキッパリ断っても後味が悪くならなそうだから失恋エンドを試してみて欲しかった。

何となく打ち切りの匂いすら醸し出している本書だが、方向性が不明確だったのも揺るがない事実である。連載継続以上に作者の目標が見えなかったのが良くなかったのではないか。序盤の期待が萎んでいく音が聞こえた。


30話。科学技術は発展するため、いつかの最新式のロボットも やがて旧型と呼ばれる。人間は加齢するが、それで明らかな世代交代が起こる訳ではなく、何とか幅広い世代が社会に参加している仕組みを構築しているのとは そこが違う。そして人間とは違いロボットは人に価値を見出されなければ廃棄が待っている。

そして世界最高の性能を求めるのも科学者の本能的な欲求である。オーウェン博士は自分の最高傑作であるトラヴィスと、吉沢博士の最高傑作・オデットの融合を計画する。
オデット捕獲の刺客として送り込まれたのが一世代前のロボット・グレース。だが捕獲に失敗したグレースは逆にオデットに面倒を見られる。その交流でグレースはオデットの捕獲を諦めるが、生みの親である博士に失望されてしまう。


31話。この回で朝生の卒業決定がすることは、=本書の連載終了決定だったりするのだろうか。ここでオデットは朝生が学校からいなくなること、そしてロボットは結婚できないことを初めて理解する。このオデットの失望感は、作者の連載が永遠ではないという落胆と繋がるか。

そんなオデットの心の隙間を埋めるのは今回もトラヴィスだった。学校では人との差異ばかりが気になるが、トラヴィスは何もかもが同じ。ロボット的A.T.フィールドを無くす「ロボット補完計画」がオーウェン博士の目標だろうか。

そのオーウェン博士は直接オデットの捕獲を試みるも失敗。だからウェイターのバイト中の朝生をスカウトし、今度は朝生を刺客にしようと試みる。だが朝生は それを拒否。これは『5巻』の吉沢博士への買収工作と同じ構造だろう。朝生にとってオデットは迷惑ばかり持ってくるヤツであっても、それを他人が壊すのは許せない。


32話オーウェン博士とオデットの接触を避けるために朝生は走る。

オデットがオーウェン博士の滞在するホテルに来たのはトラヴィスに呼び出されたからだった。トラヴィスはオデットが花嫁になりたいことを知り、それを叶えさせるためにホテルのチャペルを用意した。
そして2人が融合することは更なる高みへと進むことで、ロボットの頂点に君臨すること。だがオデットはそれを望まない。オデットは個として自分の存続を望む。なぜならオデットは1人じゃないから。そして周囲との関係、社会がオデットを作ることを学んだから。時に傷つくことも社会の中では当たり前。だから閉鎖された安寧より、解放された社会を望む。

ただしオデットは人間社会にいながら疎外感を覚え続ける運命にある。そのことを指摘するトラヴィスは まるで「心理攻撃」をしているみたいだ。それこそがオデットに宿る心の証明のように思える。

朝生は吉沢博士に連絡を取り、オーウェン博士が「オデットを魔改造しようと狙う悪の科学者」だということを知る。それを信じた彼はオデット救出に向かう。
グレースの銃撃による威嚇に遭いながらも朝生はオデットを救いに行く。この際、朝生はオーウェン博士から渡されたロボット用ショックガンを使った。朝生が これを持っているのは物語の進行のためだろうが、オーウェン博士は朝生がオデット捕獲依頼を承諾する前に これを渡し、そして回収しなかったのは初歩的なミスである。

この場面だけ見るとロボット漫画ではなく吸血鬼と人間の対決に見える。作者は人外がお好き?

33話。朝生はオデットを助けにチャペルに入る。映画「卒業」ばりの花嫁強奪の場面である。この2人の決闘が男性キャラの最後の戦いということなのだろうか。ここに参加できない柚木村は もう敗戦が決まっている。

だがトラヴィスと朝生による決闘をオデットは阻止する。目の前で人が傷つくことを避けるのが心優しきロボットの従うべきオーダーである。

そこへ侵入者を排除することだけに使命を燃やす暴走したグレースが現れ、オデットは彼女に銃撃されてしまう。だが追撃はトラヴィスが身を挺してオデットを守った。守りたかったというのはトラヴィスに生まれた意思であろう。
その光景に衝撃を受けたグレースは、動かなくなったトラヴィスのボディを持ち、その場を去る。

この回でオーウェンは その昔にコンテストに出品したロボットと、優勝した吉沢博士のロボットの出来に次元の違いを感じた。そしてオーウェンは その敗北感と劣等感から自分の創作物を愛せなくなったことが明かされる。
オーウェンと吉沢博士の関係は、そのままグレースとオデットの関係とも言える。グレースの気持ちを誰よりも理解できるのはオーウェンなのかもしれない。


34話。こうして2人の博士の それぞれの最高傑作は破損する。
だがオデットを叱りながら心配する吉沢博士とは違い、オーウェンは新しい最高傑作「アイリス」とトラヴィスの融合を試みる。なので もうトラヴィスのボディも直さないと宣言する。それを知ったグレースは博士はロボットに本当に愛情を注がないことを知り、彼の元から去る。

そして吉沢博士の自宅にトラヴィスを持ち込み修理を依頼する。それは吉沢博士ならオデットへの愛の1%でもトラヴィスに愛を注いでくれると推理したから。

そうしてオーウェンの薄情さを知った吉沢博士は2人きりでの対話をしにオーウェンを訪問する。博士はトラヴィスは設計図がないと直せないという診断を下し、その設計図を言い値で買い取りに来た。それは親権の譲渡にも似ている。

吉沢博士はロボットに心があると思っているから修理を試みる。それを信じられないオーウェンだが、博士に もう一度向き合うよう促され、吉沢博士から提示された小切手を破ることを その答えとする。こうしてグレースたち姉弟の家出は終わる。吉沢博士が幾ら積まれてもオデットを売らなかったようにオーウェンもまた親権は売れない。ロボットに「心」が宿るように、無機物にも愛情や愛着を持つのが人間という生物なのだろう。


35話。この一件でオーウェンは融合を断念したらしい。そしてトラヴィスたちは去り、そして3年生も自由登校となり朝生のいない学校生活が始まろうとしていた。

この頃、白雪(しらゆき)は他者の心の声が聞こえなりつつあった。解説のA子さんによると自己形成と共に能力は減衰していくものだという。強引かつ駆け足の説明で、打ち切り説を考えずにはいられない。それに白雪の家に雇われた人間がそれを知っているのなら、早く白雪を社会生活を送らせろよ…、という野暮なツッコミをせざるを得ない。

こうして変化の時期を迎えようとしているが、オデットは何も変わらないことに焦る。3年生の登校日に久々に朝生の顔を見て、オデットは寂しさを爆発させる。一通り乱暴を働いてからオデットは もう知らないと彼を放置するが、好きならば洋子(ようこ)に気持ちよく送ってあげようと諭される。上述の通り朝生に我儘を言うのは甘えであり、そして洋子との友情がオデットを改心させるという流れが良い。

そうして2人の出会いの場所である保健室で2人は落ち着いて話す。感情豊かに どうにか自分を送り出そうとしてくれるオデットを見て朝生はオデットは もう人間社会の中にいても問題がないと言ってくれた。それは朝生からの第二ボタンかもしれない。第二ボタンは心臓に近いから贈られるもの。彼がオデットの中に人の心を認めたことで、白雪同様、、オデットの社会進出は成功したと言えよう。

作者は何年か後にでも続きが描きたくなったら描いていいと思う。いや描いて下さい。赤瓦もどむ さん『ラブ・ミー・ぽんぽこ!』同様に続編での恋愛の結末を いつまでも待ってます!