吉住 渉(よしずみ わたる)
ミントな僕ら(みんとなぼくら)
第05巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
赤い髪の男・栗栖に交際をせまられ、ぶちきれそうなのえる。一方、大輔にふられたまりあ。ピンチのふたりに、思いもよらないできごとがまっている…!?
簡潔完結感想文
- 学校イベント連発。反比例して恋愛イベントは少なめ。恋愛成就は最終巻で。
- お姫さま抱っこは胸キュンイベント。誰がやっても まりあへの成功率は100%。
- 弟の身体の変化。姉と同じではいられないモラトリアムの終焉は 恋の始まり⁉
ヒール役がいるからヒーローが際立つ 5巻。
『5巻』はこれまで描かれることのなかった学校イベントが連発する。
そもそも のえるが中学2年生で年度の開始から1か月遅れで転校してきたため、
入学式もないし、年度の始まりにある級友たちが交流する遠足などもなかった。
もし本書が21世紀の漫画ならば、転校直後の5月に体育祭があったかもしれないが、
『5巻』時点で1999年の連載分なので、体育祭は秋にやる習慣だったのだろう。
そして その後も学校イベントはないまま今日に至った。
それは学校イベントに頼らなくても、初期設定だけで話が成立したからであって、
ここで一息付けたから、初めて学校イベントに手を出したと言える。
長編作品では、学校イベントは恋愛の安定期に読者サービスのために使われることが多いが、
本書の場合は誰の恋愛も成就しておらず、
イベントを通して、1人の男に注目が集まる経緯を示したものである。
いわば最終回へ向けた伏線を張っている状態であり、中弛みとは無関係である。
次巻で最終巻なので、ずっと事件が起き続けるまま終わりそうだ。
以前も書いたが、吉住作品の「好き」に関しては共感が出来ないが、
読者の心を離させない構成の素晴らしさを改めて感じた作品である。
『5巻』で学校内の注目となるのは佐々(ささ)だが、
これまでしっかりと作品を読んできた読者なら、佐々の心意気の美しさは既知のものだろう。
その佐々の評価をダメ押しするのが『5巻』の役割。
これまで表立っては人気者の描写がなかった彼が、
2つのイベントを通して、真の学園の王子様になる過程が描かれる。
物語も終盤に差し掛かって、こんなに作品内での人気が上昇するキャラも珍しい。
本書では主人公・のえるが男性なので(しかも女装してるし)、人気者ヒーローが不在だった。
その役目を佐々に任せ、誰もが憧れる人との交際という夢物語を創り上げていく。
一方、彼を祭り上げるために存在するのがヒール役がお似合いのクリス(栗栖)。
設定では佐々と女性人気を二分している彼が卑怯な手を使って堕ちていくことで、
相対的に佐々の人気が上がる仕組みとなっている。
『5巻』は学園の王子様を巡る争いであって(クリスにとっては)、
その戦いに無欲の勝利をした佐々が一層 映える。
もう作者が企むクリスの道化っぷりに同情しそうになるほど、クリスが可哀想だ。
女性の心は移ろいやすいから、作品だけでなく学校内でも人気が凋落しそう。
大して人気がないのに王子様ポジションしている芸能人のように滑稽になってしまうのだろうか。
佐々の人気が急上昇したのは2つの学校イベント。
まずは学園祭。
そもそもはクリスのバンドメンバーに病欠が出て、臨時メンバーとして佐々が指名されたことから始まる。
このバンドはエアバンドなので、楽器は弾けなくても人目を惹くビジュアルがあればそれでいいらしい。
彼らは10数年後に紅白歌合戦とかにも出場するのでしょうか…。
舞台上で佐々は楽器を持っているだけなのに、女子生徒の注目の的。
元々、佐々はクリスと女性人気を二分する存在らしいが、
佐々が女子に興味がないため、客観的な人気については語られなかった。
(クリスなんて何の噂もなかったが…)
今回、それが可視化されることになり、改めて佐々人気を示す格好となった。
そして、自分が学園の王子だと疑わないクリスにとって、この学園祭は屈辱的なものとなる。
この件がクリスの佐々への執着と、彼への復讐を決意させる。
この学園祭では、まりあ の恋愛脳が作動しなかったのが意外なところ。
周囲の人気、すなわち競争率の高さが彼女の闘争本能に火をつけると思いきや、
2度の軽はずみな恋愛で己が傷ついた彼女は、3度目は正直な恋をすることを誓っている。
続いては体育祭。
クリスは裏工作をして佐々出場の種目の全てで妨害をする。
更に、自分で直接 手を汚す真似までしており、
佐々と まりあ が組む二人三脚の途中で、クリスは まりあ の手を引っ張り、彼女を転倒させる。
転んで足を挫いてしまった まりあ。
それをお姫さま抱っこしながらゴールを目指す佐々。
そして もはや懐かしい広部(ひろべ)コーチの時と同じ、お姫さま抱っこによって まりあの中で何かが目覚める。
佐々の人気が上がっても目覚めなかった恋心が、簡単に起きる。
誤解されるような書き方になるが、肉体的接触が彼女のスイッチなのだろうか…。
もしかしたら前カレの大輔(だいすけ)も お姫さま抱っこをすれば交際も安泰だったかもしれない。
まりあ の身持ちの固さは、たった2話で崩れ去りました。
うん、さすが まりあだ。
実践の中で恋愛をしてこそ まりあじゃないか。
ただし、まりあ は自分の交際の過去全部を佐々が知っていることに複雑な心境である。
恋多き彼女の一種の「軽さ」が物事の障害になっているのが面白い。
共感は出来ないが、まりあの恋愛は、良く配置されていると思う。
まりあ は佐々を意識するあまり、これまでの友達関係だった頃のように上手く接することが出来なくなる。
だが その逃亡が結果的に功を奏し、
まりあ が自分を避けることにショックを受けたことで、佐々は自分の恋に気づき始めた。
のえる は佐々の まりあ への気持ちを勝手に代弁してしまった。
(性差別的であまり言いたくないが、男だから許されるような のえる の気配りの無さだが、
のえるが本当に女性ヒロインだったら、色々と嫌われるような面を持っているなぁ…)
だが、のえる のデリカシーのなさが佐々に覚悟を決めさせて、彼の告白に繋がった。
彼は まりあを知っており、彼女の嫌な所もひっくるめて、なんか好きなのだ。
もはや彼は ちょっとやそっとじゃ まりあ に幻滅しないだろう。
これは一目惚れではなく、長い時間をかけて友人関係から好きになった恋愛の利点だろう。
しかしそれを素直に受け入れられないまりあ。
なぜなら佐々の恋は、元々 のえる に向けられたもの。
顔や性格は好きだが、性別が残念だった のえるを諦めたから、
性別が適合する自分を選んだのだろうと邪推してしまうのだ。
この辺は、姉妹で同じ人を夫にした未有(みゆう)の家族の事情と似ている気がする。
兄弟間で同じ人を共有するのは難しい問題なのだ。
この経過で、のえる と まりあ の間に遺恨が残るのは嫌だなぁ。
そうして まりあ も佐々との交際を前向きに考えていた頃、最初の恋人・良陽(よしあき)が再登場する。
本書では珍しい使い捨てられないキャラです。
良陽は元カノ問題を清算し、2人の別れの原因となったことはなくなった。
2人の男から どちらかを選んで交際する選択肢がまりあの前に広がる。
恋愛に関してはどこまでもドラマティックな人である。
失恋から早期に回復するのはクリスも同じ。
体育祭での佐々への妨害を知った のえるは、これまで以上にクリスに強く出て、
「おれ男にはキョーミない 女の子が好き」と性別を偽りながら、偽らざる本心をぶつける。
それにショックを受けるクリスだったが、直後に知った未有の存在を知り心がときめくのだった…(笑)
こいつは初期まりあと同類ですね…。
だが、のえるにとっては、未有を好きなライバルが増える結果になってしまった。
クリスの仮想敵は佐々から のえる へと移行する。
本書一のヒール・クリスの活躍はまだまだ続きそうだ。
そんな頃、のえるの声変りが始まった。
それは女装生活の終焉を意味する。
このところ ずっと のえる と一定の距離を取っていた未有だが、
男性としての変化を迎えた彼を気遣う。
だが2人の声変りに関する会話をクリスに聞かれてしまい…。
またもや性別バレで巻をまたぐ。
でも5巻中2回もやられると、もはや衝撃度は低い。
これは伝家の宝刀だったのではないか。
しかし まさか のえるを好きになったクリスがラスボス的存在になるとは思わなかった。
ナルシストのまま目まぐるしく彼の立ち位置の変化は面白い。