《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

人魚姫、君が海に還ってしまったら俺は追いかけられない。泳いだこと ないからね☆

金色のコルダ 15 (花とゆめコミックス)
呉 由姫(くれ ゆき)(原案:ルビー・バーティー
金色のコルダ(きんいろのこるだ)
第15巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

後夜祭後、柚木とダンスをすることになった香穂子、そこで!? 一方、やがて来る卒業を控え火原と柚木の関係にも変化が! その頃、留学を目前にして香穂子との日々を思い返す月森。二人でアヴェ・マリアの演奏をするうちに、辿り着く想い…。そんな月森の変化に気づいた土浦は!?

簡潔完結感想文

  • 香穂子が音楽に魅かれるきっかけの曲を2人で演奏。月森に去来するのは…。
  • 月森にコンクールを聴きに来てほしいとお願いする香穂子。だが その日は…。
  • 留学の件に続き、その出発の日を香穂子に敢えて伝えない月森の真意は…。


元サッカー部の土浦(つちうら)選手、試合の結果は 2アシスト ノーゴールに終わりそうな、15巻。

15巻は まず表紙が暗示的に思えます。
両手に花の香穂子(かほこ)だが、一方とは腕を組み、もう一方とは手を握る。
『14巻』の文化祭でも土浦と加地(かじ)の両者に手を差し出されて、結果どちらか、または両方と手を繋ぐのではなく2人と腕を組んだ香穂子。

彼女の指はヴァイオリンを弾くためと、そして好きな人に触れるためにあるのかもしれません。
だから腕を組むのは友情の証。
好きな人の手ならば、手に手をとって喜びを表現したり、指切りをして約束をするんです。


さて、ウィキペディア情報によると土浦のサッカー部時代のポジションはミッドフィルダーだそう。
そのポジションの習い性からか土浦はフォワード・月森に いいパスばかり上げている気がしますね。

と、サッカーを よく知らない人による サッカー例えでした。
第一、ライバル同士の土浦と月森が同じチームという前提からして変ですね。


そんな土浦選手が知ったら歯噛みして悔しがりそうな、冒頭の香穂子と月森の相合傘。

これまでの展開なら、傘を持っていない月森に香穂子が傘を差しだした時点で土浦や他のメンバーが現れて邪魔をしたのだろうけど、終盤戦なので、恋の鞘当ての場面も少ない。

そして、そのもっと前の展開なら、香穂子は月森に声を掛けるか躊躇ったり、月森が香穂子の提案を無下に断ったりしただろう。

躊躇いなく一緒の傘に入れる、それが今の彼らの距離感なのだろう。

その帰り道、香穂子は月森の寄り道にも付き添い、お店を回って放課後デートのような過ごし方をする。
留学という事実がなければ、普通の高校生カップルなんですけどねぇ…。

お店から出たら雨が止んでいて、そのことを残念に思う香穂子は、完全に恋する女の子です。

ただ、雨が上がったことによって月森との夢を1つ叶える機会が巡ってきた。

学内コンクールで弾いたアヴェ・マリアが君にとってどんな思い入れがあるのかと月森に問われ、
月森の弾くアヴェ・マリアを聴いて「あんな風に弾けたらな…って 初めて そう思った きっかけの曲」と答える香穂子。
そして香穂子は1回だけ一緒に弾いてくれないか?と月森にお願いするのだった…。

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君は「かけがえなきもの」。月森が初めてそう思う きっかけの曲にもなったアヴェ・マリア
これまでに3回登場したアヴェ・マリアはどれも印象的な場面で流れている。
出会いの1回目、魔法を使わず独りで弾いた2回目、そしてお別れの前に2人で弾く3回目。


そして本書の(広義の)異世界設定も立場を変えてみると思わぬ面が見えてくることも分かる。

ここにきて、普通科から異世界に召喚された香穂子だけでなく、
普通科に行けない異世界人・月森の方にも深い苦悩があることが判明する。

特に彼女への好意に気付いてしまって以降、
香穂子にもう一つの世界があること、そこに戻る権利も手段もあることが月森の苦悩を倍増させる。

普通科の人間にとっては異世界の音楽科、その中でもエリートである月森が、実は狭い世界の中で生きている、そこでしか生きられないという運命を背負ってるという反転する構図が面白い。

香穂子にとっての月森の留学以上に、月森は香穂子が普通科に戻ることが何よりも恐ろしい。
もし彼女が元いた世界に戻ってしまったら、自分には追いかけられない。
音楽のない世界、それは月森にとって空気の無い世界も同然だから。

だからこそ、香穂子には音楽を続けてほしいと思う。
ただ、強制はできない。
彼女がそれを選んでくれることを願うだけ。
世界の隔絶を知る月森の恋は辛い。

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君の未来も この約束で縛ることが出来たなら…。
ライバルでありながら奇妙な友情で結ばれた土浦と月森。
好意を持ちながらも香穂子に冷淡な態度を取る月森に土浦は説明を求める。

土浦は異世界人・月森と香穂子を繋ぐ通訳ですね。

普通科でありながら音楽と共に生きてきた土浦は どちらの言語も分かる。
そして多少なりの恋愛経験もある。
だから恋の概念も持たない異世界人と香穂子が上手くいかない原因まで分かってしまう。
分かってしまっては見過ごせなのが土浦の優しさ。
2周目に攻略するなら絶対に土浦ですね。
そうは思うものの漫画は1周目の1人しか選ばれない…。

土浦に、なぜ香穂子に出発日を告げないのか、逆の立場になって考えろと忠告された月森はわずかな激昂の後、
「もし俺だったら 少なからずコンクールの演奏に影響が出るだろうから」言えないと理由を告げる。

物語の序盤で香穂子に、演奏会では緊張などコントロールするのも技術の内と言っていた月森がそんな言葉を言うなんて…。
月森にも良い面・悪い面の両面で演奏に表出するような感情が生まれたのですね。


話変わって中盤で、「嫌いな奴は視界の端にも入れたくない」という逆説的な言葉で香穂子への好意を暗に示す柚木(ゆのき)。

もちろん、この言葉で香穂子のことを口説いているのは間違いない。
でもこの言葉は、土浦の参加するコンクールに加地くんだけ呼ばれないことへの説明に思えてしまう…。

気に入ったコンクールメンバーにはチケットまで購入してあげて、追加キャラの「嫌いな奴」はガン無視。
柚木の容赦ない仕打ちで『15巻』で1回も登場しなかった加地くん。柚木… ガクブル。

その次の場面の火原(ひはら)の、(たとえ進路が別であっても)卒業後も関係性は変わらないという、彼らしい楽観的な、そして嘘のない言葉は柚木にとって嬉しい言葉ですね。
それだけで、おばあ様に折檻されてまで進路を変えたことが報われるような気がします。

そんな火原だから、彼が撮影した写真の中の柚木の表情は柔らかいのでしょうね。

金色のコルダ 特別編」…
文化祭前のある日の出来事、志水の様子がおかしくて…。

収録は冒頭。
お手紙だけの登場だった志水姉が驚くべき登場の仕方で実体を現す。
文化祭のメンバーでの発表、女性メンバーは志水姉のお手製服だったんですね。
男性メンバーも着ればよかったのに。
黄色い歓声か、爆笑のどちらかは絶対に起きたはず!
そして志水の好意はお姉さんにはお見通しだったんですね。
でも弟くんの恋、終わっちゃったような気もしますが…。

金色のコルダ3」…
本編から8年後の星奏学院のお話。
転校し編入してきた かなで は初日からオーケストラ部の部員たちと交流の機会を持つ…。

8年後も学校は健在で一安心。
吉羅(きら)理事は学校の立て直しに少なからず成功したみたいですね。

今巻の発売日から約10年後の2020年時点では「コルダ3」の独立した著者の本が発売中。
結果論ですが「無印・2」までと「3」以降は分けて欲しかった。