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少女漫画と小説の感想ブログです

塩対応の先輩ヒーローに めげずにアタックし続けるドジっ子ヒロイン(※アンドロイド)

カラクリオデット 2 (花とゆめコミックス)
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ
カラクリオデット
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

進級して高校2年生になったアンドロイドのオデットだけど、人間に近づくためには、まだ知らないことがいっぱい☆ 友達の洋子が恋をして、目がキラキラとかわいく見えたオデットは、同じ様になりたくて…!?

簡潔完結感想文

  • 友達のために自分のボディを犠牲にするオデットは1話の意図的な再放送か。
  • 弟のようなクリスとの お泊り回や学校生活。2人の世話をする長兄役は朝生。
  • オデットがしたい知りたい新しい行動や感情は この世の中に まだまだ溢れる。

2年生に進級したので同級生と先輩後輩に それぞれイケメンを配置する 2巻。

『1巻』ではアンドロイド・オデットが遭遇する不思議な事件という側面が大きかったが、この『2巻』からは高校生活の日常に重きが置かれる。連載も継続されることになり、『2巻』から何人もの新キャラが顔を出す。これは多種多様な人間を投入して読者の反応を見て、レギュラーや準レギュラーを決定しようという試みなのか。白泉社らしい多数のキャラが出てきて いよいよオデットの学校生活は賑やかになる。

冒頭で2年生に進級したオデットだが、彼女の周辺にイケメンキャラが多く配置されていくのは連載継続への保険なのだろうか。
まず3年生の先輩には『1巻』から登場していた朝生(あさお)が引き続き登場する。彼は人間の男性の中で唯一オデットをアンドロイドだと認識している人で、ありのままの態度でオデットに接していると言えよう。オデットの彼への執着は確かにあり、おそらく正ヒーローなのだが、女性読者受けの悪さが予想されるために、他にヒーロー候補が用意される。

2人目が2年生として高校に編入するクリス。クリスは『1巻』2話に登場したアンドロイド。つまりはオデットと同類。彼は非常に見目麗しく造形されているらしく、本書の女性の心を瞬時に鷲掴みにする。学年としては一緒なのだが オデットにとって弟のような存在で、彼女は面倒を見たいが、クリスの方は お姉ちゃんに頼る自分じゃダメだと自立を模索する。『2巻』は2人の姉弟のような関係が微笑ましかった。

そして1年生からの新キャラで柚木村(ゆきむら)が登場する。彼は本書初のオデットに恋をする男性である。ただしオデットが普通の人間だと思っていて、彼の誤解が解ける日が来るのか、それとも人間と機械という立場の違いなど構わないかが今後の見所である。オデットが誰かに想われることで どう変わっていくかも楽しみ。

オデットが交流を求める朝生、同類のクリス、初めて告白される柚木村、3者3様の3イケメン。

うして3学年に3人のイケメンが配置され、少女漫画読者を目で楽しませようという目的は達成された。ただし この3人に作者は何を託したのかは最後まで分からない。クリスや柚木村など途中で行方不明状態になったりする。単純に賑やかな学校生活を演出するための、白泉社方式の新キャラ大量投入に終わった面もあり残念に思う。

日常漫画なのか恋愛漫画なのか、軸足が定まらない感じが読者にも受けが悪かったのではないか。思考実験のようにアンドロイドにおける感情を突き詰めるような鋭いエピソードを用意して欲しかったが、毎回の連載に追われたのか、どんどんと話が浅くなったように感じられた。学校生活の中でのオデットの成長に しっかりとグラデーションをつけるのはベテラン作家でも難しいだろうから仕方がないか。


6話。高校2年生に進学したオデットは吉沢(よしざわ)博士から小型の発信機を贈られる。これで いつでも居場所が分かる。『1巻』では通信不良から大変な事態になりかけたことが多かったが、これで万全。…でもなく、精密機械なのでオデットも通信機も水に弱いという弱点がある。

本書の中で唯一しっかりと進展する恋愛が洋子(ようこ)と岡田(おかだ)の恋である。洋子の気持ちの乱高下はオデットにとって貴重なサンプルであり、彼女から恋の奥深さを学ぶ。
洋子が岡田とのデートに向かう際、彼から贈られたハンカチが風で飛ばされてしまう。それを阻止するためにオデットは川に落ちる。そしてオデットはショートし始めるのだが、オデットは それを隠し、洋子を岡田のもとに走らせる。このオデットの自己犠牲は『1巻』1話の時と同じような構図である。

そんなオデットを助けるのは朝生でも吉沢博士でもなく2話に登場して以降、行方不明だったクリス。博士が貯金をはたいて最新型にカスタマイズしてくれたらしい。テロリストが作った道具を博士が直したのは、クリスに心の発生を感じたからだろうか。


7話はクリス再起動の余波を描く。クリスを回収しようとする業者が買い物途中の2人に近付く。どうやら回収業者の探知機は彼の発する固有の電磁波を受信しているらしい(次の話では発信機が埋め込まれていることになっているが)。

なのでオデットはクリスを催眠術で眠らせ、電波の発信を止める。でも実際には眠らせるのではなく物理的に壊しているのが笑える。物語の前半は何かと故障や破壊が多い印象を受ける。

この話での博士と同級生の再会は、クリスを匿う者と追う者である立場の違いを お互い感知しない者同士のスリルのある会話にしたかったのだろうか。一見 平和だがスパイ同士のような緊張感ある空気を出したかったのだろうが、それを あんまり感じられなくて残念。博士パートは無くてもいいぐらいである。

オデットのクリスの守り方は、機転が利いているし、人間社会のルールや自分の性別をフル活用していて高度なことのように思う。


8話は引き続き回収屋から逃げるため、オデットとクリスは朝生の家に滞在する。ちなみに朝生には無許可で突然の訪問となる。朝生を選んだのはオデットの意思と言える。好意もあるだろうが、結局 何でも許してくれる朝生の器の大きさもオデットの計算の内か。

博士は発信機をクリスの以前の体に埋め込んで、回収屋の目を欺くため別行動で、それが終わるまで2人は危険のない場所にいる必要がある。

クリスにとって最初の人間との交流は朝生一家となった。朝生には妹の花梨(かりん)がいて、彼女はクリスを いたく気に入る。この後、クリスは女性のモテモテライフを送る。おそらく人に好かれるために美しい容姿を持っているであろう彼らだが、クリスは異性から人気が出ても、オデットの方は容姿をいたく気に入る男性は今のところいない。この差は何なのだろう。人間である私にも分からないことが多い。

そしてクリスは朝生がオデットのことをロボットと知りながら、遠慮する部分がなく、そして優しいことに気がつく。朝生はクリスが意思や意見を持たないことに気づき、注意する。これはスペックの差なのか、それともスペックは一緒だが経験値の違いで差が生まれたのか。クリスはオデット以上に成長の余白があり、彼の成長も物語の楽しみの一つになる。

早くもクリスは自分の感情を一つ見つける。以前からオデットに乱暴な言動をしていた朝生にクリスは嫌いだとハッキリと口にしたのだ。きっとクリスがオデットを好ましく思っているからこそ朝生の言動を受け入れられないのだろう。

「不器用で世間を上手く渡り歩けない」朝生だが、そのツンデレや塩対応にアンドロイドが学ぶことは多い。

9話の冒頭でクリスがオデットが忘れた予備のバッテリーを届けに登校途中の彼女に届ける。だが一緒にいた朝生に1人で家に帰れないとバカにされ、自分の世界が狭いことを思い知ったクリスは学校へ行きたいと申し出る。

こうしてオデットと同じく学校生活をする。この前後でクリスの抱える気持ちは姉に対する弟のようなものだろう。先に生まれ経験値の差が大きく、知性や感情も発達しているオデットに対しての劣等感、そして彼女の世界の住人である朝生への男としてのプライドという自我がクリスの中に渦巻く。

学校ではクリスはオデットの従兄弟という設定。病気で登校できなかったというのも設定なのだが、説明を求められたオデットが「お腹に爆弾抱えて大変だった」というのには笑った。比喩として捉えれば胃や腸の病気に聞こえるが、実際は文字通りお腹に爆弾を抱えて博士を巻き込む自爆テロをしようとしていたのだから…。この一文は強烈に冴えている。

上述の通り、クリスはなぜだかオデットと違い美形扱いされて女性に囲まれる。それをフォローする お姉ちゃんオデットだったが、クリスは1人で対処しようとする。だが転校生であることや その容姿で人気になってクリスは情報処理能力に負荷を与え続けていた。その上、前日からのミスが続いて自分の電池の残量を見誤ったクリスは下校途中で倒れる。その際に目の前にいたのは朝生だった。オデットを頼れという彼の言葉をクリスは拒絶する。弟として頼りたくないし、本当は守る側にいたいから。クリスの男の子らしい部分が微笑ましい。

朝生にはオデットに内密に事を運んで欲しかったが、朝生はクリスをオデットに託してしまう。だが こうして会話の機会を得た2人は この日1日の心のすれ違いを修正する。朝生は何だかんだ正しく、そして面倒見が良い。


10話。新しく料理に興味を持ったオデット。このところクリスのお姉さん役をしていたが、彼女だって1歳未満の好奇心旺盛な年頃なのである。

家庭科の調理実習の授業で作った お弁当は朝生に食べて欲しかったが目の前で転んでしまう。おそらく ずっと姿勢制御が働いているはずなのに転ぶのは それだけ嬉しかったのだろうか。
朝生は その お弁当が洋子の手作りでもあることを知り惜しむ。それをオデットは朝生は自分が作ったお弁当が食べたいのだと曲解し、料理に励む。このオデットは自分は見向きもされていないのに一向に気にしない前向きなヒロインのようである。

だが味覚がないオデットは見た目でしか料理を作れない。朝生は嗅覚と、オデットによる説明によって、一口も食べずにお弁当を突き返す。それに落ち込むオデットに対し、クリスがお弁当を平らげる。それは彼の中の優しさであるが、「おいしい」という感想は味覚がない彼の嘘である。ただアンドロイドが嘘をつくことは非常に高度なことだろう。

そこでオデットは洋子に協力してもらって料理を学ぶ。彼女が家庭科室にある食材だけを使った料理を考えてくれて、おにぎりを作る。形こそ不格好だが、そして作り立てを朝生に届ける。彼はそれを ちゃんと褒めてくれた。何だか時計野はり さん『 学園ベビーシッターズ』にでも出てきそうな子供の失敗と成功体験のようである。


11話には悪友・羽柴(はしば)に振り回されて不良に片足を突っ込んでいる柚木村が登場する。彼はオデットの姿を見て一目惚れする。柚木村の服を拭いたオデットのハンカチは、洋子にとっての岡田のハンカチと同じ意味があるのだろう。

そんな中、朝生に対する嫌がらせとして羽柴がオデットを拉致する。朝生には逃亡した洋子から情報が伝わる。朝生の到着前に柚木村はオデットに恋愛の好きを伝えて、彼女を逃亡させ、朝生との決着に挑む。
こうして人間である柚木村がアンドロイドに恋をして これまで踏ん切りがつかなかった生活を一変させる。人間の生活を見てアンドロイドが変化するだけではない、という逆側の発想である。

本書にはアンドロイドとヤンキーというミスマッチがあるが、何となく たくさんの やさぐれた生徒たちと普通ではない女性が1人という構図は漫画・ドラマが人気となった森本梢子さん『ごくせん』のようである。ドラマシリーズは2002年から始まっており、本書が発表された2005年には第2シリーズが放送された年であり、その影響があるように感じられる。