《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

DK3の俺が3D彼女とアニメに耽って 勉強シーンが一切ないが、貯蓄があるので問題ない。

3D彼女 リアルガール 新装版(1) (デザートコミックス)
那波マオ(ななみ まお)
3D彼女 リアルガール(スリーディーかのじょ)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

つっつんこと、筒井光はアニメやゲームのバーチャルな女の子で満足している高校生。ある日、プール掃除を一緒にやるハメになった、派手でツンツンしてて男グセの悪い完全リア女・色葉がナゾの急接近!「あたしと付き合って」って…いやいやいや…あんたとオレ、接点なさすぎですからっ!! 大人気!少女漫画界最弱男子とリア充女子のありえない純愛、新装版でスタートです!

簡潔完結感想文

  • 陰キャ陽キャと交際する少女漫画が跋扈した2010年代で男女逆転が特徴的。
  • 偏見ばかりの世の中。三次元に偏見を持つ主人公とも偏見なく接するヒロイン。
  • 少年誌のような男子に都合のいい展開も期間限定の恋というマイナスで調整。

女漫画あるある も多いが、少女漫画ないない に驚いた 1巻。

陰キャ・コミュ障などは2010年代に市民権を得て、やがて漫画の主人公として起用されていった。
本書は、私が呼んだオタク系・陰キャ系少女漫画の中でも その連載が最速に近いと思われる。

しかも女性の陰キャが学園の王子様ポジションの男性に見初められる夢物語ではなく、
全てにおいて男女逆転の立ち位置であることも目を引く。
なので1話を読んだときは、少年誌のようだと思った。

また、キャラクタのデザインや立ち位置などが 新川直司さん『四月は君の嘘(1巻だけ読了)』に似ている気がした。
連載開始も本書が2011年09月、『四月は~』が2011年05月で時期が近く、
同じ講談社から出版されているのも気になるところ。
大まかに言えば似ている設定を少年誌と少女誌で描いてみた、と言われても納得してしまう。

オタクへの偏見に苦しめられている つっつん もまた偏見をもって人に接する。

して最も驚いたのは、本書の主人公の設定の、
オタクや陰キャという部分ではなく、高校3年生である点だった。

主人公が高校1年または2年生から始まって、連載が続いて3年生まで進級することはありますが、
開始時点で主人公たちが高校3年生なのは、私の読書経験ではなかったこと。

3年生に突入すると進路や、その実現のための勉強に時間が割かれてしまうので、
交際中でも恋愛の描写が少なくなる時期なのに、本書の場合3年生から全てが始まる。

これは最初から主人公の筒井 光(つつい ひかり)、通称・つっつん と、
彼のことを色眼鏡なく見てくれて、彼に世界に溢れる色を教えてくれる
五十嵐 色葉(いがらし いろは)の交際期間が半年と限定されていて、
作者が最終回の構想を考えてからの逆算の設定なのだろうか。

高校生という時代が残り少なくなってくる頃、
迫りくる受験日、将来への不安に重ねて、
色葉とのタイムリミットも近づき、焦燥ばかりが募る構成にしたかったのかな。

傍から見ると、つっつん は高校3年生なのに これまでのアニメに加えて、
3Dの彼女にも没頭してしまう遅い色ボケが始まったような転落人生に見える。
が、そこは「実は俺 勉強できない奴らを見下すことで心のバランスとって生きてるからな」と言い切れるぐらい、
これまで真面目に(連載開始時点で学校は皆勤賞)勉学に励んだことを保険にしているのだろう。


だし真面目な つっつん と、校風が合わないという問題がある。
少女漫画あるある としては、主人公の在籍する学校、序盤は治安が悪すぎ、というのがありますね。

これは序盤に主人公に酷い目に合って、そこからの奮起によって
読者の共感や好意を得るというシステムなんでしょうが、
荒くれた学校だったのに 連載の長期化とともに やがて何事もなかったかのように平和になっていく。

大体、連載中の2010年代の学校において、オタクを白眼視するどころか、
彼らに平気で言葉の暴力を投げつける極端にデフォルメした世界観は歪んでいる。

高校3年生にもなって人の価値観に直接的にケチをつける生徒の多い学校が とても賢いとは思えない。
なぜ つっつん が、そんな他人が気になって仕方がないから人権侵害・迫害をするレベルの人と一緒の学校にいるのかが謎です。

最終盤の展開も含めて、設定の浅いところを なぞっている印象を受ける。
人気が無ければ いつでも終わらせられる展開だし、
中盤は「友人の恋」で物語を横に広げているだけにも思える。
交際の入り口、そして出口は、もう少し物語に重みを出せれば良かった。
ちょっとずつ安っぽいのが残念。


『1巻』は特に展開が早い。
1話で告白まで至るし、2話では交際している。
そんな男性の妄想のような展開を引き締めるのは、期間限定の恋とヒロインの裏設定。
最後には何かがあると思わせることで、甘い物語に ほのかな苦みを加えている。

つっつん側も肉体的な痛みや、女性からの過去のトラウマ的言動、
そして色葉のことに振り回される精神的な揺れの幅が、
彼を格好良く見せたり、過剰な反応をさせたり、情けなく見せたりと つっつん の色々な顔を見せる。

互いが互いのヒーローとなり、そのままの自分でいることを許してくれる。
展開は早い中で、そんな2人の距離の縮め方は必要なところを抑えている。

その人のギャップ、思いもよらない行動が2人の心に忘れられない感触を残す。
これまで出会ったことのない種類の人間との邂逅は、新たなる世界へと続く扉だった。
そうして世界は、次元を超えて広がり始める。

そう考えると1話で つっつんが色葉とプールに落ちるのは象徴的な場面に思える。
絶対に入りたくないと思っていた場所に、色葉が(転んで)導いてくれる。
水に濡れたことで つっつん は、これまで休んだことのない授業を休んだり、未知の世界に足を踏み入れている。
これが転生なのか、転落なのかは これからの つっつん次第。
まぁ、2人でホテルに行っても自分を律する(フリーズする)つっつん だから、
色欲に溺れて、自分の人生を台無しにはしないだろうけど。

一緒にプールに落ちることで2人は運命共同体となる。相手のピンチは自分が救う!

本書は交際してからが本番で、交際を通して2人の成長が描かれるのだろう。
その一方で2人でなければならない、という運命性や説得力では弱い部分がある。

そんなことは決してないが、色葉の行動が全てハニートラップと言われても驚かない展開だ。
それぐらい男性にとって都合の良い場面が続くから。


序盤で、つっつんが自分を奮い立たせなければいけない時に、
脳内で好きな魔法少女アニメが浮かんで、
そのキャラに叱咤されることで行動に出るシーンは丹波庭さん『トクサツガガガ』を連想した。
本書の方が先行しているが、オタクの脳内の共通点に笑ってしまった。

熱心に視聴したものは自分の経験と変わらないぐらいの説得力を持つんですよね。


つっつんの母親は、息子の趣味に悲嘆したり批判したりしないかわりに、
最低限の社会的活動だけを願うリアリストなのが面白い。
少なくとも彼には家に居場所があって良かったと安心できる。

俺の初めての交際は期間限定の恋。好きになっただけ未来の自分が辛くなる茨の道。

ストの少女漫画あるある としては、遊園地では観覧車が一番大事。
2人きりで じっくり話せる空間が少女漫画にとっては必要。

ただ、つっつん は、色葉へのプレゼントをポケットに入れてたけど、
あんな物を入れたまま行動したら、バッキバキに壊れると思うけどね(特に棒部分)。

どうやら つっつん は器用な設定らしい。
頭も良くて器用で、勇気も持っていて、悪いところがどんどん消えていく。
少女漫画界最弱男子、らしいが1話で空手部男子にボコボコにされただけで、
つっつん の強さは彼女を助けようとした その心にある。
色葉は豊富な交際経験で培った嗅覚で、最高の優良物件を分かっていたのではないか。

あと、髪型以外は つっつん が あんまりオタクに見えないのも気になるところ。
伊東は少し小さいが、この後 登場する新キャラも含めて全員がモデル体型でスタイリッシュ過ぎる。

登場する男性の医師も、つっつんが誤解する容姿でなければならないのは分かるが、
若くすぎて彼らと同級生にしか見えない。

全男性キャラを横一列に並べられたら、親友コンビ以外は絶対に見分けがつかない自信がある。
絵は綺麗なんだけど画風に幅がない。
それは本書の作風にも言えることかもしれない。