《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

お出かけ回の天候急変は高校生なら お泊り回になるが 子供(中学生)なので大人しく帰ります。

流れ星レンズ 9 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
村田 真優(むらた まゆ)
流れ星レンズ(ながれぼしレンズ)
第09巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

夏休みがスタート! 夕暮くんの兄・環に誘われて、みんなで海に! いつもと違う場所、いつもと違う格好で…。凛咲も夕暮くんもいつもよりお互いを意識しちゃって!? 【同時収録】流れ星レンズ─Galaxy─/夏夜に滲む

簡潔完結感想文

  • 悩んだり泣いたりしたけど充実した1学期が終わり 夏休み。世界は広がり続け、海へ!
  • 中学生の性欲とか性的な視点とか、見てはいけないものを見させられている感じの海回。
  • 最強当て馬という嵐が通過した後だから内容は薄め。脇役の恋も畳ませる準備な感じ。

くなる前に帰らないと恋の嵐が吹き荒れるぞ! の 9巻。

本書の1つのルールとして星の輝く夜空の下で出会った男女は恋に落ちてしまうというものがある(と思われる)。凛咲(りんさ)と統牙(とうが)の出会いもそうだったし、凛咲と武智(たけち)の出会いもそう。巻末に収録されている同級生・由井(ゆい)の話も例外ではない。『9巻』でも登場する統牙の兄・環(たまき)と香織(かおり)の出会いも夜だった(『5巻』収録)。
もっと言えば本書に収録されている無関係の読切短編でも多くが出会いは夜だった気がする。特に本書の連載が始まって以降の作品は ほぼ夜が2人の出会いになっている。これは本書の連載をして以降、作者が夜を特別に濃密な時間帯だと設定して、そこでの出会いを大切にしたからだろうか。

また読切短編について話すと、出会いが どれも夜である『6巻』収録のバレンタインデーのお話は季節が冬、本書収録のものは水華(すいか)ちゃん と夏の出会いのお話で夏である。可能であれば『8巻』収録の話も出会いが夜なので秋担当になって欲しかったが、こちらも夏なのが惜しい。『8巻』の短編が秋になったら、『2巻』収録の春うらら の話と合わせて、収録短編で春夏秋冬が完成したのに…。どの読切短編も季節感が強いのは季節の増刊号で発表しているからだろう。作者は通常の連載に加えて、どれだけ作品を描いたのか。そのアイデアの豊かさと体力的なタフさも確かな筆力に加えて出版社側から重宝されるのだろう。

そうなると『3巻』の読切だけが季節感もないし、夜の出会いも無いしで共通点が見いだせないのが残念。この読切が発表されたのは本書の連載前だし、掲載誌が増刊号でもないので仕方ないが。

怖いのは嵐の到来よりも暗闇が迫っていること。星空は想像だけにしなければ無駄に恋が発生してしまう!

が横に逸れましたが、とくかく夜というのは本書にとって恋の時間なのである。だから今回、皆で出掛けた海に嵐が来ようとも、夜になる前に帰らなければ、また凛咲に恋をする人が出てくる可能性があった。特に雨が上がって、満天の星空の下で語り合ったら もう100% 恋に落ちてしまうだろう。引率役となった環が中学生(特に女性)を家に帰そうと、電車が止まってしまう中、色々と手を尽くして全員を早々に帰宅させた目途をつけたことは、恋の嵐を回避するという点で非常に有能だった、と言うしかない。

凛咲に恋をしてしまう相手は環の友達のチャラそうな高校生男子か、それとも失恋したばかりのフジモンか。はたまた最強の当て馬の武智(たけち)が やっぱり諦められないとか言い出すか…(蛇足&重複だけど)。もし連載を更に続ける意思があるのなら、ここで恋の嵐を吹かせることで可能だっただろう。凛咲側だけじゃなく、統牙を好きになる女性の出現も可能性的にはあった。

そう思うと嵐の到来(夜の接近)の際に統牙が凛咲に夏の天体について解説する音声を聞かせたのは、彼女の脳内に満天の星空を用意し、自分以外の誰かと恋に落ちないようにするための予防措置なのかもしれない。しばらく凛咲と離れるけど、たとえ雨が止み晴れ上がっても彼氏の存在を忘れるな、という浮気の牽制だったのか。

だが作者は恋の嵐を発生させることなく、物語を閉じにかかっていく。海回は凛咲の周囲の友人たちを ことごとくカップリングしていく伏線だろう。あとは統牙と出会って凛咲が一番 遠出する=世界が広がっていくことの最高到達点として どんな世界とも繋がる海を用意したという意味もあるだろうか。表面上は中学生同士が互いの裸にドギマギする、ということぐらいしか内容がない気もして、『8巻』までの話の濃密さは消失してしまう。なので今回は良くも悪くも日常回なのだが、これまで出会った人たち ほぼ全員で世界の端っこである海に行く、というのは感慨深いものがある(『進撃の巨人』を連想したと言うと さすがに大袈裟か)。

そうして夏休みには未知なる世界の冒険があり、最終巻では学校生活が戻っていく。広がってから出会いの場に戻っていく構成が素晴らしい。本書を通して作家さんとして好印象を持ちました。


分の恋をキチンと清算した武智は髪を切る。同日、統牙も髪を切ったところは親友同士の以心伝心といったところか。そしてテスト期間が終わり、夏休み目前。統牙の兄・環から みんなで海に行くことを提案される。作品的には頼れるお兄さんの環に誘われて保護者代わりなのだが、得体の知れない高校生だから娘の同行を許さない親がいるところが妙にリアルである。凛咲の家は母親が統牙に偏見を持たないし、娘への信頼が不安を打ち消したのだろう(何かあった時には後悔が消えないだろうが)。

総勢は14人。うち中学生9人、高校生5人。中学生組は男性が6人に女性が3人。統牙たち4人組+久しぶりの登場の蜂野(はちの)、それを狙うトモに、凛咲と ゆっこ、そして違う学校の彼氏・ハルがいる。環たち高校生組は男性が3人、女性が2人(環の彼女・香織と愛美(まなみ))。今回は これまで登場回数の少ない男性陣の顔が似すぎて誰だか判別が つかなかった。

海回・水着回なので当然 互いの水着姿や肉体にドキドキということになるのだが、それを意識し過ぎる中学生というのは早熟というかマセているというか。ちょっとでも性の匂いを漂わすのは 止めて欲しいなぁ。統牙の歯止めも限界っぽいし。高校生ならOKだが中学生に この描写は早い、という私の判断基準かな。

あと海で ゆっこ が溺れたと勘違いしたフジモンが彼女を助けるシーンがあるのだが、その際の海の深さが不安定なのが気になる。海難救助してる時は水深3メートル以上なのに、直後に胸から上を出したぐらいで立ち上がっている(ように見える)。救出場面はイメージ映像なのか? 大事なのは海の深さよりも そこで成立する恋のフラグと鞘当てなのだろうけど。この回で ゆっこ・ハル・フジモンの三角関係が成立する。でも思い入れのない3人だし、フジモンが入り込む余地が全くないので読み応えがない。これ以上、話を継続させないのは武智以上の当て馬候補がいないからだろう。1話から登場していた武智の後では、どんな転校生などが登場しても人気は出ないだろう。

結局、この世界にはゴージャスでファビュラスな美男と美女しかいないと痛感させられるページだ。

着姿にドギマギし過ぎて距離が出来かけたところに嵐がやってくる。
統牙は緊張し過ぎて いつも通りに凛咲に接することが出来ない。そんな彼の心境を一番 分かるのが色々と似た者同士の武智だった。統牙が独占欲を たぎらせるように、これまで秘密にしていた凛咲へのデコチューを自白する。露悪的な発言をして彼らの仲を取り持つ武智は泣いた赤鬼か。今後は何でも話すと決めたように、こういう お節介もしていく方針なのだろう。

どうでもいいが、環の彼女・香織は何だか派手になっているような。親や教師からしてみれば、派手な彼氏と交際することでの こういう変化が心配なのではないか、と思ってしまう。

雨が止まない上に電車も運行見合わせ。高校生カップルなら ここから お泊り回への流れになるだろう。だが中学生で そんなことは さすがに出来ないので、環たち高校生チームがコネクションを最大限に活用して帰る手段を考える。

そうして帰る間際に更衣室でキスをして、2人のギクシャクも解消した夏の思い出になる。でも やっぱり これまでに比べるとエピソードが弱いなぁ。そして危機回避のためにも本書には二度と夜が来ないのだろうか。


「流れ星レンズ─Galaxy─」…
統牙たちのグループの かわいい担当・由井の お話。全員に恋をさせるのが「りぼん」クオリティーといった感じか。お相手の華は両親が営む定食屋が苦境で、それに加え小さい弟妹の お世話をする(させられる)健気な子。いわゆる「良い子」が報われるのが本書で、当然 恋に落ちる出会いは夜である。由井は物理的に発光しているけど(笑)


「夏夜に滲む」…
台風が接近する夜、路上で倒れていた男性に いきなりキスをされた高校1年生の橋本 水華(はしもと すいか)。学級長で頭でっかち、口調も固め。対する夏(なつ)は人生転落中。彼は虐げられる立場で、作品の雰囲気は これまでになくダークだ。でも夏がキスする動機が全く無いように思え、水華の過干渉もヒロインの聖母力以外に動機が見つからない。上手く作品世界に没入できなかったのでキスされたら恋に落ちた、としか読めない。相手の名前が夏なのは、夏とスイカで夏の短編だからだろう。