《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

大ヒット作の二匹目のドジョウを狙ったが、凝った学園設定を ほぼ使わないのは前作の二の舞。

声優かっ! 1 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ マキ)
声優かっ!(せいゆうかっ!)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

ヒイラギ学園高等学校・声優科へ入学した木野姫。声優界の超名門校である学園で、夢は大人気アニメシリーズ「ラブリー・ブレザーズ」の主人公声優になること!…のはずが、ダミ声で演技下手の姫は、早速おちこぼれ組に入ってしまい…!? 声優志望青春バラエティ期待の第1巻☆

簡潔完結感想文

  • 前作とは反対の落ちこぼれヒロインが泥水を啜りながら成長していく話、…なのは1巻だけ。
  • アイドル男性声優と男性アイドルが共存する世界観は逆ハーレムだが声優特化が消滅する。
  • 仲間と共に成長する場面はなく、ヒロイン優遇が続く。一方 ヒーローは途中から行方不明。

ーローをヒロインにした設定で読みたい作品、の 1巻。

特殊な環境の学校なのに、その設備や人員を使わないのは白泉社作品の中でも贅沢(皮肉)

もちろん それで全てが解決するとは思わないが、ヒーロー・久遠 千里(くどう せんり)は女性にした方が面白かったのではないか、と彼の存在感の無さを読むにつけ思った。『ガラスの仮面』と被ってしまうかもしれないが、マヤと亜弓(あゆみ)のように正反対の境遇である2人が対峙することで、ヒロイン・木野 姫(きの ひめ)の下克上的なストーリーになるし、切磋琢磨する2人の様子が物語の縦軸になったのではないか。姫にとって千里が どういう存在なのかが描かれておらず、それはつまり いつまでも始まらない恋愛を意味する。それなら千里が女性で いっそ恋愛感情抜きで接した方が千里に存在理由が出ただろう。アイドル・瑞希(みずき)は徹底的に「紫のバラの人」で良い。Wヒーロー制を狙ったかどうかも曖昧な、中途半端な人間配置が とにかく気持ち悪かった。

傑作というのは、もうそれ以上 手の加える余地がないような作品を言うのだろう。だが本書は、作品を再構成したいという気持ちが生まれる、どこか惜しい作品になっている。同じエピソードを描くにしても、順番を入れ替えたり、人の配置を変えるとガラッと印象が変わりそうな印象が拭えない。

厳しい言い方をするならば、前作からの成長が感じられない。読切連載から長期連載になった前作『S・A』と違い、本書は ある程度の長期連載を念頭に置いて作られた作品だろう。『S・A』連載終了後から準備期間は短かったようだが、もう少し練った話を用意できなかったものか。私には本書は目先の人気を獲得ために、派手な展開に走り、そのせいで作品の方向性がブレたように思えた。もしかしたら これは本書の構成協力として5人の名前があることに関係しているのかもしれない。彼らから出されたアイデアを全て採用したら、何をしているのか、何がしたいのかが全く分からない、船頭多くして船山に上る状態に なってしまったのかもしれない。

ヒロインの行動の方向性を決定するのが、彼女の負けず嫌いというのも『S・A』と同じで既視感と飽きを感じた。奇しくも私は『S・A』の感想文の中でヒロイン・光(ひかり)を「ゴリラヒロイン」という蔑称で呼んだことがあったが、本書のヒロイン・姫の作中での蔑称が「ゴリ姫」となった。要するに、負けず嫌いで直情的で脳筋なヒロイン像が同じだということだ。彼女たちを思い通りに動かしたければ、ヒーロー役がプライドを傷つけるようなことを言って、彼女を怒らせればいいのだ。作品が違っても お話の作り方や動かし方が同じであることには既視感以上に落胆を覚えた。

ブチ切れヒロインが暴走するのも前作同様。題材は新鮮なのに話のフォーマットが変わっていない。

材は選びは とても良かったと思う。連載が始まった2009年は本来 裏方だった声優という職業に注目が集まり、声優個人が人気を獲得してきた頃だろう。漫画を読む人の中には声優に憧れる人、なりたい人も一定数いるだろう。

本書の理想形としては、演じるという点では白泉社の大先輩である『ガラスの仮面』、エンタメ業界の裏側という点では本書の連載開始の前年(2008年)から少年ジャンプで始まった『バクマン。』なのではないかと推測する。クリエイターとしての成長と裏側を描くのが本書の目標だったのだろうが、少女漫画読者の受けを狙い過ぎて、変な設定を盛り込んでしまい、軸がブレブレになったように思う。

序盤の、主人公が声優としての基礎をトレーニングし、お仕事漫画として情報を提供する場面を面白く出来れば、その後にステップアップする様子を楽しめたのに、スタートダッシュの目玉となるような展開を用意していない。大した努力をしないままヒロインだけがプロの世界に足を踏み込む。そうなると せっかく用意した特殊な学園という舞台が必要なくなり、キャラの半数がリストラ状態となる。これは前作『S・A』と同じ轍を踏んでいる。これにより2作連続で学園モノとしての面白さ、読者が望むような青春模様が自ら放棄するようなスタイルとなり、読者の首を傾げさせる。声優業の仕事の幅広さは少し描かれていたが、奥深さまでは到達できていないような気がした。

更にはヒロインには別人格が用意され、話は一層 混迷を極める。読者が望んだような単純なシンデレラストーリーは封印されて、読みたかった「姫」の成長エピソードは描かれない。これも過去作の人気設定を借りるような安直な手法のように思う。姫に関しては彼女が何を最終目標にして、彼女のスキルで どうやって そこに辿り着くのかという道筋が最後まで描かれない。


作『S・A』が『桜蘭高校ホスト部』っぽいものを狙ったように見えたが、本書は『バクマン。』っぽいものを狙ったのだろうか。悲しいのは先行作を決して超えていないことである。

更に本書においては 作者が『S・A』の幻影を追っているような気がいた。期せずして『S・A』の大ヒット、アニメ化で二匹目のドジョウを狙ったように思えた。2作連続でアニメ化されたら作者の地位は確立していただろう。確かに本書は題材的にアニメとの親和性が高く、アニメ化できれば より多くの読者と人気を獲得できたはず。だが そうはならなかった。単純にアニメ化するほどの魅力をアニメ制作陣が感じなかったのだろう。
白泉社の お約束を守ったこと以外、私には面白いとは思えなかった『S・A』だが、その偶然の成功に味を占め、勝てるコンテンツに手を伸ばし、どうにか人気を獲得しようと もがいて溺れたように見える。本書は多くのアシスタントさんに囲まれて制作したようだが、それに見合うだけの内容と結果が出せなかったのではないだろうか。

そんな作者の悩みが、作品の迷走と、恵まれない終わり方に繋がったように思う。本書の連載において作者は人気は簡単にコントロールできないものだと思い知ったのではないか。


少期から自分が大好きなアニメ「魔法戦士ラブリー♡ブレザーズ」の主人公声優になりたい木野 姫は、その作品の主人公声優が皆、優秀な成績で卒業しているヒイラギ学園高等学校声優科に入学する。声優科は1学年に1クラス25人しかいない狭き門。入学すること自体が声優デビューの近道といっても過言ではない。

同じ科の生徒には既にアイドル声優として人気を獲得している久遠 千里がいた。そして彼は姫が憧れる初代ラブリー♡ブレザーの声優・青山(あおやま)さくらの息子である。そこに運命を感じる姫。

だが姫には大きな欠点があった。それは彼女が無理に出す美少女ボイスは すごいダミ声になってしまうこと。そんな残念ボイスに加えて、青山さくらを侮辱した久遠千里にキレて暴れたために、姫はクラス内で「ゴリ姫」のあだ名を頂戴する。姫は七五三の時に来た お姫様のようなドレスが汚れた時、当時ラブリー♡ブレザーの声を担当していた青山さくらに助けられた。それが姫が さくらを信奉する理由で、彼女の侮辱は息子でも許されないのである。これは当時 青山さくら がアイドル声優として顔を出してヒーローショーにも出演していた際の出来事だと思われる。アイドル声優がコスプレして人前に出て喜ぶのは、小さなお友達ではなく大きなお友達だけのような気がするが…。


年、声優には幅広いスキルが必要とされるので、発声などの基礎以外にも、歌やダンスも学ぶ。こういう授業風景を楽しく しかも実践的に描けたら本書は もっと面白かっただろう。

だが姫は25人の中で落ちこぼれる 居残り組の4人の中の1人になってしまった。それぞれに居残り組になる訳がある。この4人が仲良しグループになって切磋琢磨していく(ごく初期だけは…)。4人には色々と個性をつけている。しかし最後まで彼らの個性が声優として花開くような場面は見られない。彼らは作品内でも落ちこぼれ、居残り組となってしまうのが可哀想。こういう惜しい部分も他の作家なら、少年ジャンプだったら絶対に努力の末に成長する感動エピソードを用意するのに、と思わざるを得ない。落ちこぼれこそ成長の伸びしろがあるというのに放置したまま終わる。彼らの成長プランを用意しないまま、ただ白泉社的な流儀に従って登場人物を増やすためだけに登場させたのが残念である。

本来なら ここで この3人の名前や特徴を個別に紹介するところだが、物語にとって さほど重要な人物でないんで割愛する。この仲間共に姫がプロの仕事をする喜びとか、青春っぽいエピソードが作れたはずなんだけどなぁ…。


えられた課題を なんとかクリアして居残り組から脱却した4人だったが、2年生から陰口を叩かれ、それが原因で2年生と対決することになる。それが「お昼の放送」。声優科は「お昼の放送」において2年生がボイスドラマを担当していて、この放送は業界内の注目が高く、生徒も力を入れているコンテンツである。

1週間後10分間のボイスドラマを1年2年が それぞれ生放送をして、生徒の投票が多かった方が勝ち。1年が勝てば2年の放送枠を一部貰え、2年が勝てば この4人は来年お昼の放送に出演できなくなるという勝負内容となる。演目は共通で「白雪姫」。

姫は、まだ固定観念が抜けず自分が声優として かわいい声を出すことばかりを目標にしているが それが出来ない。居残り組の仲間にも その欠点を指摘されても認められない自分がいた。だが仮想敵で目標の久遠 千里が自分を眼中に入れていないことが発覚し、姫は こだわりを捨てる。割と簡単に信念を曲げるのが姫という人である…。
だが姫は今はダメでも いつか姫の声も出せる自分を信じている強さを持っていた。そして旗色の悪い この勝負も自分だけは勝つと信じて精一杯やる。その姫の意識が全員を前向きにさせるが、直前に仲間の王子役が腹痛でリタイアするアクシデントが起こって…。


のまま生放送が始まる。だが王子役の男子生徒は登場シーンまでに戻ってこず、そこで姫が王子を演じるアドリブを見せる。すると姫は王子ボイスに天性の才能を発揮。どうやら これが姫の武器で、彼女が この学校に入学できた秘密らしい。姫は お姫様ボイスばかり考えていて、自分の才能には無自覚だったようだ(面接では出したんだろうけど)。

更に姫のボイスで悩殺され使い物にならなくなった仲間の代わりに久遠 千里が飛び入り参加。こうして1年生の演目は大成功し、久遠千里も姫を、名前を覚えるに値する人間と認識してくれた。序盤は どうにか千里をヒーロー役に収めようという努力が見られる。いつしか放棄されるけど…。


の放送で姫は業界関係者の1人に目を付けられるのだった。
それが この学園の俳優科2年に在籍する2人組の男性アイドルユニット「AQUA」の超人気プロデューサー・山田 遥(やまだ はるか)。こうして姫には早くもプロの道が開かれた。…だが姫は それを拒絶。理由は男役で売れると その仕事しか出来なそうだから。アニメのヒロイン役を目指す姫とは活動の方向性が違うのだ。だから姫は学園内でも王子ボイスを封印し、自分が思う声優道を進む。

一方、久遠千里には声優活動を通じての目的があるらしいことが示唆される。これは なんだったかなぁ…。最後まで読んでも思い出せないぐらいのレベルだ。
もう一つ久遠千里は小動物に弱いという特徴も明かされる。なんと彼には姫が猫に見えるらしく(背が小さいからか?)、時々 彼女のことを助けたりする。だが千里はツンデレ男らしく、優しくしている自分が恥ずかしくなり、途中から姫を罵倒して結局 仲良くはならない。順番的にはデレツンか。

だが姫は究極の負けず嫌いだから、ツンの千里に罵倒されると負けん気が発動し、敢えて困難な道を進む。そうして絶対に世話にならないと思っていた山田Pに連絡をして、姫は新たなステージに立つ。姫の性格が物語を動かすために用意されているのは分かるが、衝動的な行動で好きになれない部分にも なってしまっている。結局、南マキ作品のヒロインはゴリラなのだ。脳筋的な単純な性格で、人物に深みが出ていない。今回は家庭環境で不幸を加えたからって、それが姫の人間像にはならない。


うして姫はプロの現場でモブ役を手に入れる。ただし失敗したら山田Pから二度と仕事は回ってこないというリスクも はらんでいた。

この仕事で姫は、このアニメに主役で出演している千里のプロとしての実力を初めて目の当たりにする。彼は役に没入していることを知り、姫は自分に演技プランがないことを思い知った。

モブ役の一言の台詞すら上手くいかない姫に、千里が声を掛ける。だが再び素直になれない千里の暴言によって、姫の負けん気に火がつく、という いつものパターンとなる。仕事場でも「居残り組」なった姫は寝る(疲れ果てたのだろうがプロとして いかがなものか)。そんな眠る姫に対し、千里の小動物愛が爆発し、ちょっかいを出した後、急なデレツンが発動し姫に突然いわれなき暴力を振るう。その際に姫が文句を言った言葉は、今回、姫がモブとして与えられた台詞と同じ。こうして役柄を掴み、姫のアフレコは成功したかに思われたが、山田Pは それを却下する。それにしても この現場において ただのマネージャーみたいな存在の彼に一体 何の権限があるんだか分からないが…。

実は山田Pは姫の活用法を思いついたため、「姫」としては失格の烙印を押していた。


うして姫のプロの仕事は1回で終わり、舞台は学校に戻る。
ここで居残り組で仲良くなった月乃(つきの)が、勘違いタイプの上級生の男性から告白され、つきまとわれる状態を解消すべく姫が動く。月乃が交際相手がいると嘘をついて遠ざけようとした際、今すぐ呼べと言われ、姫は こともあろうか学園内にいた人気男性アイドルの春山 瑞希(はるやま みずき)に服を借り、男装と王子ボイスを駆使して先輩を撃退した。

この男装と瑞希との出会いが、姫を次のステージに連れていく。この話の流れは良く出来ていると思う。ただ上述の通り、これからの話の展開を読者が望んでいたか、というと別の話なのだが…。

当初からの予定だったのか、一層の人気を獲得するためなのか分からないが、姫の周囲に男性アイドルが出現するようになり、早くも声優という職業が一切 関係がない話が出来上がる。

声優の魅力を伝える前に単純な男性アイドルとヒロインの交流開始。それは別作品でやって、という感じ。

このアイドルユニット「AQUA」は山田がプロデュースしており、メンバーの河合 周麻(かわい しゅうま)は瑞希を溺愛するあまり、瑞希が興味を持った姫に嫌がらせを始める。どうやら周麻は瑞希が一度 女性関係で心に傷を負ったため、それを回避するためにも姫を遠ざけたいらしい。

周麻は姫にスキンシップや頬にキスをすることで取り巻きの女子生徒たちに姫を牽制してもらおうと狙う。間接的に女性ファンを扇動するなんてアイドル失格である。だが当の瑞希と会話をした際に、彼が制服貸与の件を怒っていないことを知った姫は、この裏に周麻の影があることを見抜く。

そこで彼らの取り巻きの女子生徒と周麻を一か所に集め、周麻が姫を好きだという根も葉もないことを事実化のように大声で話す。その誤解を解くために周麻は全てが瑞希のためにしたことだと自白し、それを聞いていた瑞希が周麻の悪事を理解する。彼は最近の姫が傷だらけである原因が彼にあることを知り、周麻に お仕置きをする。

これにて一件落着かと思ったが、どうやら瑞希が姫に一層 興味を持ってしまい、姫の学園生活は華やかになる。
しかし もはや誰がヒーローだか分からなくなる。早くも影が薄い久遠 千里が行方不明。瑞希の登場前に もう少し姫と千里の距離の接近を描いておきたかったところ。