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少女漫画と小説の感想ブログです

誰かに声を届ける声優という職業を志望する私だけど、毒親に願う自分の本心を 声に出せない。

声優かっ! 2 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ マキ)
声優かっ!(せいゆうかっ!)
第02巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

人気アニメのヒロイン声優を夢みて、名門ヒイラギ学園声優科に通う姫。2年生とのお昼の放送権を賭けた対決に勝ち、次の放送をアテレコに決めた姫たちおちこぼれ4人組。映像科1年のカリスマ動画作家・一条梅の協力をお願いするも梅は姫を敵視していて…!?

簡潔完結感想文

  • 2回目の お昼の放送は本格的なアニメ形式でアフレコ。早くも4人での最後の思い出??
  • 登場人物全員トラウマ持ち。その才能ゆえに友達との関係に悩む展開が3回は見られるよ☆
  • 白泉社伝統の男装展開のために、白泉社的な大人数のキャラが大半リストラ。ヒーローも!?

女逆転、舞台の転換、これまでの友達は切り捨て御免、の 2巻。

テンションの高さで騙されそうになるが、よくよく考えてみると話の軸がブレブレなのがヒロインと作品である。

まずヒロイン・姫(ひめ)について。彼女は架空のアニメ「ラブリー♡ブレザー」のヒロイン役を演じたくて声優を志した。ヒロイン役の声には強さと可愛らしさが求められると思われるが、姫には可愛らしい声が出せないという欠点があった。どうやら舞台となる、声優の登竜門的な名門の学園に入れたのも彼女の低い声、通称・王子ボイスが認められてのことらしい。自分が人を魅了できる声と、自分が出したい声のギャップが彼女の悩みだろう。
よって彼女は王子ボイスを認められスカウトされた事務所の話も一度 断っている(『1巻』)。一度 その方向性で業界に認められてしまうと、ヒロイン役の話が遠ざかると考えたからだ。その思考過程は理解できる。
だが人に強く否定されると その逆を行く天邪鬼体質であり ドM体質の姫は、簡単に路線変更する。作品内では困難な道を進む努力家という感じで描かれているが、ゴリラと呼ばれるほど考えがないだけにも見える。

娘を認めない母親に怒りを覚えるが、実は作品自体も「姫」を否定するという罠が待っていた。

そして『2巻』では彼女が王子ボイスを武器に業界に入り、いつか自分にダメだというレッテルを貼り続ける母親に認めてもらおうとする。実母との関係が健全とは言えないことで姫が一気に悲劇のヒロインになった。それで読者からの応援を得られるだろう。
だが気になるのは、姫が選んだ選択は彼女の2つの夢、1・ラブリー♡ブレザーの主演を務めたいというもの、2・世間に才能を認められた特別な自分になって母に褒められること、が両立できないことに思える点だ。姫が舞台となる学園に入ったのは この2つの夢を同時に叶えるためでもあっただろう。だが『2巻』では1つ目の願いを一切 考慮せず、2の実現の近道としてスカウトを受け入れている。当然あるべき姫の葛藤が全く描かれないまま、ただ負けん気の強い彼女が、母に否定され、その悲しみを原動力にして猪突猛進していく。さすがゴリラという感じではあるが、作品として作者が持っていきたい方向へ強引に姫を従わせたという感じがある。1への希望が見いだせないまま、2が発表され、それと同時に姫の男装路線が発表されるのには困惑しかない。

精一杯フォローするのであれば、1と2の切り替えが男装ということなのだろう。つまり1を叶える夢は学園で姫として学習することで実現しようとし、2は事務所所属のプロ声優として仕事で認められていく。二重生活は二刀流ということか。


が本書では男装路線が強くなり、1の夢、そして学園生活は忘れさられていくのが大問題である。せめて姫が二重生活に突入する前に、それぞれの生活における目標や意義を語らせるなどして読者を納得させる場面が必要だっただろう。
それなのに、秘密の男装をして華々しい世界に潜入、という白泉社趣味が丸出しの部分だけしかクローズアップされない。

ここが作品におけるブレブレな点である。この二重生活を上手く取り入れれば、2つの舞台で奮闘する姫はレベルアップが急速に達成できただろう。だが男装生活ばかり贔屓され、学園生活は無視される。

それはまるで母親に差別される姫と茜(あかね)の姉妹のようではないか。天性の華やかさや容姿を持つ妹・茜は母に贔屓されている。だが姉である姫は母を失望させてばかりで期待されておらず、その存在を否定される。

つまり最初に舞台となった学園生活は地味で、あまり評価されないから切り捨てられ、読者からの人気が見込める華やかな世界へと作品の興味が移行していく。母を非情な人間と描きながら、作品自体が「姫」という存在を否定している。これでは本来の姿を歪められ、伸びしろの限界を勝手に決められた姫の悲哀は積もるばかりだ。

せめて上述の1と2のリンクが上手くいっていれば、その構成に納得できたが、作品は人気獲得に必死。声優も人気商売で替えはいくらでもいる、というようなシビアな現実が作中で山田(やまだ)Pによって語られているが、漫画作品も同じなのか。読者の人気や評価を受けて内容も変わっていく。変わっていかなければ評価されないのだろう。


の学園の必要性は どこにあったのだろうか。実践的なカリキュラムで、声優になる道筋を具体的に描くのが目的なのだろうが、それを活かせず、学園は放棄される(実質的に)。そこにいる多くの仲間と共に。舞台の放棄は前作の二の舞である。

1話から姫が山田Pに認められて男装声優になる、という展開じゃダメだったのだろうか。上述の通り「姫」の存在意義を消失してしまうぐらいなら、初めから男装で話を進めれば良かったのではないか。早い段階から男装路線は用意されていた節はあるが、路線変更をする意義が私には いまいち分からない。

そして学園と同様に早くも その存在意義がなくなりかけているのが、本来ヒーローであるはずの久遠 千里(くどう せんり)である。『2巻』での登場は確か1シーンだけで、それも通行人Aのような存在感の無さだ。姫との縁が生まれるような描写もなく、彼もまた学園内の生徒と同様に放置される。

上手く構成すれば 相当 面白くなりそうな二重生活なのだろうが、2人に分かれた姫の人格を作品は同時に同じぐらい愛してくれなかった。結果として思いつきで路線変更したような出来に終わり、そして それが本筋や結末にも大きく影響が出た。ここから先、私はずっと姫を返せ、と思いながら作品を追うことになりそうだ。


園内の番組である「お昼の放送」の担当の2回目が回ってきて題材を考えるる通称・居残り組の仲良し4人。そこで動画サイトで見つけた字幕と音楽だけのアニメ動画にアテレコすることにし、学校内にいる作者・一条 梅(いちじょう うめ)に許可を貰いに行く。だが彼女は学校に在籍する男性アイドルユニット「AQUA」の熱心なファンで『1巻』で姫を目の敵にした人だった。そして姫のせいでAQUAの雰囲気が変わり「萌」を失った彼女は覇気がない。

そこで梅に萌を再燃させることにするが、姫の王子ボイスも発動せず、全員失敗。動画は勝手に使用しろという梅だが、それよりも姫は原動力を失った彼女の身を案じる。少し天然で お節介なヒロインが周囲を変えていく、という王道パターンだ。
梅は自分の萌の喪失は自分の責任だから気に病むな、と言ってくれる。彼女もまたツンデレで悪い人ではないのだろう。この後、梅が唐突に階段から落ちるアクシデントがあり、そのピンチを救うヒーローが現れたことで彼女の萌と恋が生まれる、という急展開となる。


うして動画提供者のご機嫌を窺いながら、台本が完成。だが居残り組の演技は酷いもので、その演技指導で梅が恋する高柳(たかやなぎ)がキレ、梅が過去のトラウマを再発してしまう。どうやら梅の萌は、過去のトラウマで自分に自信が持てない彼女のオリジナリティや生き方の模索だったらしい。

こうして放送前1週間で動画の使用が不許可になる。4人は自分たちで動画を作成しようとするが苦労する。ここでは梅の(アニメーターの)の大変さと技術を見せるのが目的であろう。アニメの周辺事情を描こうという努力が見える。

ただ個人回では それぞれトラウマを用意して、それを乗り越えるというテンプレが安直に使用されるなぁ(少なくとも3人は同じ展開)。そして総じて考えると、この学園に入学するぐらいの才能があるがあるから、それを持たない者との差が残酷に露わになり、それが人間関係を崩壊させる、という展開となっている。確かにシビアな世界で、好き だけでは乗り越えられない部分もあるのだろう。だが3人のトラウマは基本的に人間の配置が同じで、話に工夫が感じられない。

居残り組はリストラ組。これが卒業制作か。リストラで新たなトラウマが生まれそうだよ…。

柳の奮闘もあり動画使用禁止の危機は去ったが、放送5日前にして梅が脚本と動画を変更すると言ってきた。今度の梅の脚本は自分の願望を投影した夢物語ではなく、居残り組それぞれに合ったキャラを充てていた。彼女が4人のことを知り、考えてくれたという証拠でもあるのだろう。こうして声優の心配事は減ったが、梅の負担は大きい。居残り組が それぞれに彼女を気遣いながら、何とか動画は完成する。

こうして居残り組は、実際に近いアフレコを体験する。1回目がラジオドラマで、今回がアニメというのも声優スキルのレベルアップを表しているのか。この動画へのアフレコ体験は居残り組と梅の友情を確かめるものとなり、放送の手応えも上々。こうやって仲間を1人ずつ増やして、大きな作品を作れるだけの組織が生まれる、という話の展開でも良かったのに、ここから物語は急激に進路を変える。


2度目の王子ボイスを披露した姫の前に、山田Pが現れ、彼が姫を事務所まで呼び出す。そこで山田Pは姫に戦隊物作品のゲストキャラ役の出演を打診した。『1巻』で初のプロの現場では山田Pは姫を二度と起用しないと言ったはずなのだが…。

しかし『1巻』での失敗後、姫は山田Pから とは知らされず大量の課題をこなして、知らず知らずにレベルアップしていたらしい(大量の文章を読むだけで成長するなら苦労はしない。せめて どんな教材と課題をクリアしたのかぐらい書いて欲しい)。

こうして姫は両親から承諾を得た後に、事務所に所属することになる。
トントン拍子に進む話だが、ここで山田Pはシビアに事態を見据えている。彼は それほど姫の才能を買ってはいない。ダメなら二度と使わないだけ。他の候補は いくらでもいる。声優のタマゴたちは夢を見るが、山田Pは夢が絶対に叶うなんて約束は絶対にしない。スカウトされたから安泰な訳じゃなく、ここがスタートライン。日々の努力を怠れば、簡単に その椅子は誰かに奪われてしまう。そういう世界であることを山田Pは重々承知なのだろう。


は自分がスカウトされたことを母が知ったら自分が認めてもらえると思っていた。

だが山田Pとの面談で、姫の母は 姫の仕事内容が正体を隠すものだと知り幻滅する。姫の妹・茜は少女モデルをしているのに、姫は情けないと彼女の頑張りを認めない。母は姫でなく茜を山田Pに売り込もうとするが、彼は それを拒絶。姫をスカウトしに来たのだと、彼女を連れて家を出る。

この事態は海千山千の山田Pも想定外。だが落ち込んで泣いていると思った姫は にっこにこ。なぜなら これが夢の第一歩だから。彼女の前向きさは山田すら感化される。姫は もう母にガッカリされないように努力を続けるだけ。こういう時に泣かない姫は強いのだろうけど、もう感情が壊れているようにも見える。アニメキャラ「ラブリー♡ブレザー」に心酔するのも逃避の一種のように思えてくる。

こうして姫は山田Pにとって思い入れのある新人声優となった。そして彼は姫に自分の夢を託した。彼の夢とは何なのか。伏線が張られるが…。


が山田Pは姫を姫としてではなく男性声優として売り出したいという、途方もないプランを用意していた。姫の王子ボイスも このための布石だったのか。

ある日、山田Pに呼び出されたのはアパートで、その一室にはAQUAの2人もいた。そこが姫の新居となるという。カツラなど男装グッズも大量に用意され、姫は男の子になる(これだけ男装に投資してくれるなんて良心的に見えるほどだ)。これは いかにも白泉社的な展開だ。ここでも『花ざかり』的な二匹目のドジョウを狙っているのか。

姫は家を出るにあたっての話し合いの場を母と持ちたいと山田Pに告げ、彼から覚悟が決まったら部屋のカギを渡すと言われる。だが別件の学校の保護者面談があることを告げた姫に対し、面談でガッカリさせられるのは嫌だと母は娘を否定した。こうして自分が母に1ミリも認められてないことを思い知った姫は、家を出る覚悟を決める。母に恨み言を言わず、自分が一人暮らしをすること、生活費のこと、そして自慢の娘になるために行くことを告げる。しかし梅といい姫といい、他の人たちといい、この学園の生徒には誰かに迫害された過去がないとダメなのだろうか。トラウマが決して その人の背景や性格を深く描写するとは限らないのに…。

こうして姫としての学園生活、新人男性声優としての二重生活が始まる。わー、たのしみー(棒)