《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

アニメ放送に合わせたメディアミックス展開で売上倍増計画。けど そのせいで本編の内容 薄っ!!

虹色デイズ 11 (マーガレットコミックスDIGITAL)
水野 美波(みずの みなみ)
虹色デイズ(にじいろデイズ)
第11巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

運動の得意な恵一は体育祭で大活躍! でも、部活で楽しそうな希美を見てなぜかモヤモヤしてしまい? 一方、夏樹は修学旅行以来、杏奈とすれ違ったままで…。バスケ部の面々を描く番外編のほか、剛と幸子の出会いのエピソードを描くスペシャル番外編も収録!

簡潔完結感想文

  • お仕置きをする側の自分なのに、希美が自己の世界を持ち始め、疎外感を覚える恵一。
  • 修学旅行、体育祭が終わっても沈む杏奈。他の人の話や出版の都合もあって何も進まない。
  • 友情であれ恋愛であれ作者の話は事実の羅列でテクニックに乏しい。折角の秘話なのに。

1ミリも進まない話を読ませられる絶望、の 11巻。

『11巻』は2016年01月のアニメ放送開始直前に急いで出版されたものらしい。この時期、作者はアニメ化を前に馬車馬のように働かせられたようだ。その大変さは分かるし、出版社側のアニメ化とタイミングを合わせて新刊を出版しようという戦略も理解できる。
それは分かるのだが、せめて もう1話 本編を収録できないものか、と思わざるを得ない。気になる場面で終わっていると言えば そうなのだが、もう1話収録すれば降り出した雨も上がり、いよいよ物語に虹がかかる予感を得られたかもしれないのに。

『10巻』からボトルネックとなっているのは まり である。どうやら本書では失恋確定者が優先されるようで、望月(もちづき)に続いて まり が杏奈(あんな)に告白をする。杏奈が自分が相手の想いに応えられないことに対して過剰に傷つくのも予想外で、彼女は夏樹(なつき)も避けるように学校生活を送る。この時の杏奈の心境を説明してくれれば まだ理解に繋がるが、杏奈によるモノローグはなく、ただ夏樹を避ける事実だけが描かれる。恐らく杏奈は恋の痛み、負の側面を知って臆病になっているのだろうが、意地悪な見方をすれば悲劇のヒロインを演じて、自分だけが傷ついていることも隠しもしないのには正直 苛立つ。私には割と体温が低いように見えた杏奈だから、作者の中の杏奈像とのギャップが際立ち、違和感となっている。

まり の問題が片付くと連鎖的に、夏樹の視界が開け、智也(ともや)も まり にとって甘えられる唯一の存在になるので、出口は近いはずなのだ。それなのに、まり の告白が『11巻』の中盤~終盤から ようやく始まる。以前も書いたが、こういう ぶつ切りの感覚は4人視点の悪い面である。杏奈の気持ちの安定に時間を要するのは分かるが、連続性や走り抜ける疾走感を奪っていく。

しかも均等に4人を交代で出すことも難しく、このところ剛(つよし)と その彼女・ゆきりん は放置されている。その補填として2人の交際秘話が収録されている。しかし男性陣4人の出会いを描いた『8巻』のエピソードゼロ的な話でもそうだったが、大事にとっておいた話の割には普通である。本書に収録されている過去の読切短編でも思ったが、作者の作る お話は事実の羅列っぽく思える。キャラクタが あまり感情を表に出さないタイプが多く、激情に駆られないからかもしれないが、動きに乏しい。

剛のような人にとって「全然いやじゃない」は最上級の褒め言葉。変換すると「好きってことさ」。

私には少々 意味不明に こんがらがった本編は進まないし、代わりに収録された話も しっくり来ないし で散々な1巻である。そもそもアニメ化するほどの作品か、という疑問もある。男性4人を人気声優に やってもらえば、それだけで勝ち確定のコンテンツっぽくはあるが。オタク向けの要素は色々と感じられるが、肝心の「少女漫画」として面白いかは また別の話なのである…。


心の望月をバスケ部の面々が励ます「虹色日和」を挿んでは、体育祭回となる。そういえばバスケ部の同級生たちは、もう一つの男性4人組なのか。こちらも夏樹たちに負けないぐらい個性的だが、こちらは誰も交際しない恋愛エピソードゼロの4人組である。アニメ化に際してはライバルアイドルグループのようにユニット化したりしたら面白そう(そもそも筧(かけい)が登場してないみたいだが)。

体育祭は運動神経抜群という恵一(けいいち)の設定が活かされる回である。その日は学校になる恵一。希美(のぞみ)は恵一のために名前を刺繍したタオルを用意していたが、上手く渡せずにいた。その状態を察知した恵一は希美を追いかけ、彼女のタオルを貰って、彼女の気持ちを、自分たちの駆け引きを楽しんでいた。

だが恵一への想いによって世界を広げた希美は、恵一だけを見て日々を過ごしている訳ではなくなっていた。希美には彼女の世界があることを知った恵一は、自分が放置されていることに気づく。これは恵一にとって自分の主導権や優位性を奪われるショックな出来事だろう。剛にも指摘されたが、希美との恋の駆け引きは過去の経験則が当てはまらない。追いかけられて主導権を握るだけではないことも調子が狂う原因なのだろう。
きっと恵一は これまで、年上の女性と交際することで性的にはSだったが、その恋は年上の女性によってコントロールされて、恵一自身は何も考えずに彼女との関係を楽しめば良かったのだろう。そういう包容力に甘えられるから恵一は年上を好む。だが希美は年下で、今度は恵一が その恋を楽しむハンドルを握っているのに、希美は恋愛においては恵一に一途だが、その全てを恵一に委ねない。過去の女性のように上手く人を誘導できない自分の無力さを味わっているのではないだろうか。

だから恋愛的な やきもち というよりも、人間として成長して変化していく希美を目の当たりにしての焦燥感なのではないだろうか。その点、3バカは成長しないから安心できるし(笑)剛がコツコツと図書室で勉強しているのを見ない振りして楽しいことばかりを追求したツケが恵一に回ってきたのだろう。

追いかけられる立場で判明する自分の度量の無さ。年上でも精神的に幼い恵一には誘導は無理か!?

奈は修学旅行から帰って しばらく経っても元気がない。彼女の精神状態を見極めて 自分の気持ちを伝えようとする まり だったが、まだ早計のように思えた。ゆえに夏樹の告白も延期になる。なんで ここが連関しているのかは どうしても謎だが。

まり は自分の状態を見極めてくれる智也や待たせている夏樹のためにも早く行動しようとする。だが当の杏奈は望月と上手く接することが出来ない。望月の方はバスケ部仲間たちの存在によって回復しているというのに。まり は望月の姿や現状が自分と重なるのだろう。杏奈に告白すれば友達という快適な地位も失うのかもしれない。そして本来なら沈んでいる杏奈を友人として支えるべき所に、また杏奈を傷つけてしまうかもしれないから まり の悩みは深い。

告白を決意した日、智也は まり に寄り添う。まり にとって支えてくる人は智也となっている。彼がいるから告白を遂行できる。別に智也を第二志望としているという訳ではないだろう。ありのままの自分を認めている彼の存在が勇気となるのだ。

放課後、まり は杏奈に自分の気持ちを伝える。そして自分の杏奈に対する独占欲が どれだけ強いか、どれだけ杏奈の周囲の人間(主に夏樹)に酷いことをしたかを正直に話す。それは杏奈の存在が つまらない灰色の学校生活を彩ったからでもある。だから彼女なしの自分を考えたくなくて、恐怖に思って、周囲を威嚇した。自分の愚行を認めることは、自分の幼さを認めることでもあろう。成長したい、変わりたいと思う心が、具体的な行動を起こさせる。


う思えば本書の女性たちは大切な人と出会って毎日が虹色に変化していったと言える。杏奈は夏樹と一緒にいて、多くの時間を過ごしてから彼に恋をする自分の気持ちに気が付いた。そうすると日常が輝きだした。まり は杏奈が自分を認めてくれたことで、学校生活が何年かぶりに楽しくなり、そして同時に彼女を失うのが怖くなった。
希美は恵一と出会い、それまでの何も出来ない自分を変えようと努力をして、今や恵一を置いてけぼり状態になるぐらい急成長している。ゆきりん は自分と同じジャンルを語れる大好きな人がいることで毎日が楽しい。それでなくても彼女は自分の好きを追求できる人だ。

女性陣の方が、男性陣より以前は色のない生活を送っており、虹色の日々を送るための努力をしていると言えるかもしれない。


「虹色日和 ~つよぽんゆきりん~」…
『1巻』1話の読切で いきなり彼女=ゆきりん が出来た剛。その少し前からの2人の出会いと交際への経緯が描かれる。

ゆきりん との出会いは書店。同じ本を偶然、手に取ろうとするベタな展開から始まる。続いてコスプレイベントの帰りの電車で再会する。ここで趣味が同じ方向性だということを知った ゆきりん は次の再会の機会を自分で作るために連絡先を交換した。そこから3か月ほどは本当に純粋なオタ友としてのスマホ上での交流となった。

だが3バカが補習となり、一人になった剛の方から3度目の機会を設ける。ゆきりん が剛にベタ惚れだと思わせて、それに負けないぐらい剛も ゆきりん のことが好きなのが このカップルの素晴らしい点である。
だが これまで女性と交流をしてこなかった剛は この気持ちに名前を付けられないままクリスマス直前となる。剛は ゆきりん と過ごすクリスマスを思い描くが、実際に誘うとなると勇気が出ず、彼女からクリスマスの話題を振られても友達を遊ぶと嘘をついてしまう。

そんな剛に罰が当たったのか インフルエンザに罹患し、剛は『1巻』の読切では幻の人間となる。クリスマス当日、熱が下がり、ゆきりん への気持ちに正直になり、剛からメールを送った直後、彼女の方から剛の家にやって来た。ゆきりん は勇気が出ず嘘をついた剛に違和感を覚えていたのだ。そこで剛は自分が ゆきりん に会いたかったことを正直に伝える。

この過去回想、本来なら ゆきりん は黒髪のはずなのだが、今の髪色に慣れた剛による脳内変換により、ずっと今と同じ髪色でお送りされている。確かに読者としても本編初登場から ゆきりん は現在の髪色なので、今更 黒髪になっても感情移入しにくいだろうからベターな選択だろう。でも作者の出会いのエピソードは普通すぎる。最後まで変化球がないし、考えた事実の羅列に思える。この部分の改善が次回作以降では見られると嬉しい。

あと本編で恋愛要素が不足した場合に、この2人が上手く担ぎ出される感じが好きじゃない。そうすれば一定のファンは勝手に歓喜してくれるという便利なシステムに成り下がってはいまいか。そして今となっては唯一の他校生である ゆきりん は本編に登場させにくいのは分かるが、もうちょっと上手く絡ませてあげて欲しいものだ。