《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

無表情で口下手なパパだけど確かに娘を想っている愛情は 父侯爵の態度に出る

黒伯爵は星を愛でる 8 (花とゆめコミックス)
音 久無(おと ひさむ)
黒伯爵は星を愛でる(くろはくしゃくはほしをめでる)
第08巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

エスターの父親である吸血鬼(ヴァンパイア)・ギルモア侯爵の元へ向かうレオンと、彼を守りたい一心で後を追うエスター。そのやさしさ故に同行を認めないレオンだったが、彼への想いと強い決意はエスターをスコットランドの地に留める!しかし、レオンの返答は「じゃあ婚約は解消しよう」――彼の覚悟もまた堅く…!? 人間と吸血鬼、明かされていく幾重もの過去!ハーフ吸血鬼のシンデレラストーリー、第8巻!

簡潔完結感想文

  • 守りたいから遠ざけたい、守りたいから離れ難い。離れなければレオンに安眠が訪れる。
  • 対等な夫婦になるためレオンは過去を話す。ただし10数年に亘る ストーキング 愛は秘密。
  • 吸血鬼の王たちが関わる2つの事件。現在の事件は犯人の名指しと同時に真犯人が判明。

出掛けすると事件遭遇。吸血鬼は もはや黒ずくめの組織、の 8巻。

『8巻』は、エスターの父親であるギルモア侯爵の邸(やしき)に行く前に、レオンが吸血鬼ハンター夫婦としてエスターと対等になることを決意し、夫婦の絆を確かにする。この流れがあるから これ以降おそらく どんなことがあっても2人は衝突しない。既視感が強かったけれど両想いでの初めての喧嘩と仲直りなのだろう。

そしてエスターは『8巻』で2つの過去を聞く。1つがレオンの両親惨殺事件について。2つ目が自分の両親の出会いと別れについて。これまでレオンによって過保護に扱われ、レオンが彼女の耳にしなくていいと判断した情報はシャットアウトされてきたが、対等になったことでエスターにも情報が届く。2つ目はエスターが聞くべき内容で、レオンは いくらエスターが危険に晒されるかもしれないとはいえ、勝手に父子の対面を却下するのは横暴だったのではないか。


オンは義父への結婚の挨拶という目的の他に両親の事件の真相を知る可能性が高いギルモア侯爵に問うが、それを聞き出す前に事件が起きる。
誰かの邸に向かうと そこで事件に巻き込まれるのは もはや本書の お約束のような展開だけれど、今回 特殊なのは事件の発端がエスターの単独行動ではない、という点だろう。いつもは何だかんだでレオンがエスターの傍を離れていまい、そこで事件が起こるのだが、今回 巻き込まれるのはレオンの方。エスターはアリバイ証明が出来るぐらい他者に囲まれた状態だったが、レオンは被害者と2人きり。以前からミステリ色の強い作品だと思っていたけれど、今回の事件は特に その特徴が出ている。1つの事件を追う内に もう1つの事件が発生するという構成も良かった。

ただし犯人当てのミステリじゃないので『8巻』ラストでレオンが犯人に仕立て上げられた時点で真犯人が分かる。おそらく『9巻』の本題は いつものようにレオンによる一刀両断の事件解決ではなく、レオンが不在の中、エスターが どう事件を対処するのか、というヒロイン側の成長を描くために事件があるのではないか。きっと それがエスターの吸血鬼ハンターの妻として役立つ自信の第一歩になるはずだ。


オンのウィンターソン家は人間と吸血鬼の橋渡し役を担わされた。その平和の象徴である家に人間と吸血鬼の混血であるダンピールのエスターが嫁入りする。
きっとエスターは前世代まででは叶わなかった橋渡しを夢物語ではなく恒久的なものにするために存在するのだろう。それは自分と父親の関係、そしてレオンと遺恨のある吸血鬼の関係を橋渡しするということを意味する。だからエスターはクリスと個人的に親しくなっているし、今回レオンから過去のトラブルを聞いている。

これまでレオンに守られていたエスターが彼女にしか出来ないことをする。エスターもレオンとの愛情を確認して自覚しているが、少女漫画のラストのヒロインは無敵。遺恨のあるヒーロー側の問題を解決していくのだろう。

前半は主にレオンが活躍し、エスターは後半に その活躍があるという構成も素晴らしい(多分、そうなるはず…)。

成し遂げられなかったことが成し遂げられる過程を物語は描く。全存在の星(エスター)

オンの傍にいるためエスターは彼の意向に背いて、ロンドンの邸宅に戻らないことを決意する。冒頭は1回分使って、エスターを家に帰したいレオンと帰りたくないエスターの行き違いを描く。これまでも こういう話は あったような気がするけど、エスターの動機がレオンが好き、というのが目新しいのだろう。2人の相手を自分が守る、という手法が違うことから生じる問題である。

エスターが婚約解消をしてでもレオンに付いていくと啖呵を切った言葉でエスターは自分で不安になる。が、それは勘違い。レオンはエスターの強さに完敗して彼女をギルモア侯爵の城に連れて行こうと考えていた。こうして再び同室で眠る夜が来て、今度は2人は見つめ合って愛撫が始まる(婚前交渉は許されないので邪魔が入る)。


オンはエスターを、自分の家 ウィンターソンの妻と認め、彼女に家と吸血鬼の関係を語る。吸血鬼ハンターのウィンターソン家は人間と吸血鬼の協定が結ばれた際、和平の象徴として両者の橋渡しを高貴な方々から仰せつかる。交流が主な活動で、年に一度 晩餐会が催されていた。

その晩餐会に幼き日のレオンが初めて参加した時、レオンはクリスと出会った。それがレオンの初めて見る吸血鬼だった。その後もクリスとは年に一度、ウィンターソン家か黒薔薇城で開かれる晩餐会で顔を合わせ、主にビリヤードで交流を深めた。クリスは幼いレオンの当主としての素質を認め、その成長を見つめてきた。クリスとも良好な関係を築くレオンによって吸血鬼との関係は明るいはずだった。

だがクリスマスの惨劇が起こる(『3巻』回想)。クリスは使用人に手を引かれて逃亡する際、母親の声を聞き、彼女を助けるために吸血鬼に立ち向かった。怯ませたものの逆襲され、現在も残る肩の火傷を負った。そして母が刺される場面を目の前で見ながら使用人に抱えられ邸を脱出した。その時、邸の中で最後に見たのがクリスの姿だったのだ。両親の惨殺にクリスが関わっている。その裏切りの事実にクリスはショックを受け、そして彼を許さない。

最後にレオンはエスターに逃亡中に吸血鬼の襲来を受けてロンドンの下町で ある親子に会って助かったという話をするが、エスターは それが自分たち母子のことだとは気づかないまま。

惨劇の日 以来、レオンは他者がいると眠れない体質になってしまったが、エスターの隣では眠れる。どういう日程なのかは分からないが、エスターが同行しなければ ギルモア侯爵のいる邸でレオンが眠れることはなかったかもしれない。彼の心身の健康のためにも同行するという事実でエスターは十分に役に立っている。そして今のエスターには同行を願うレオンからの言葉がある。それで無敵である。緊張を強いられる吸血鬼の城への出発前に夫婦の絆は確かになった。


ルモア侯爵との出会いは邸ではなく、そこに向かう道中で起こる。ギルモアは馬車の中から出てきたエスターをメグ、と彼女の母親の名前で呼ぶ。この出会いでギルモアはエスターの衣服が雨で ぬかるんだ泥で汚れないよう配慮してくれた。そこにエスターはギルモアの気遣いを感じる。

邸の中での正式な会談で、レオンは挨拶の後、侯爵の娘であるエスターとの結婚を申し出る。その本題の前にギルモアは父子2人だけの会話を望む。ぎこちない会話の後、エスターは人間を食糧として考える一派の長であるギルモアにとっての母・メグという存在について尋ねる。

そこから また回想が始まる。人間との共存の肯定と否定の二派に分かれる前、クリスとギルモアは親しく交流していた。ギルモアがメグと出会ったのはクリスの黒薔薇城。そこでメグはメイドをしていて、ギルモアが彼女に ひと目惚れした。共存否定派のギルモアが人間に恋をして、足しげく黒薔薇城に通った。そして2人は恋仲になり、結婚を考えるがギルモアの転向を周囲は納得しない。

結婚話が暗礁に乗り上げた頃、メグがギルモアの前から姿を消す。のちのアルとエスターを身籠っていたメグは、ギルモアと一緒にいると、子供たちが殺されてしまうと考えたというのが行動の動機。ギルモアに黙って出ていったので、彼が双子の存在を知ったのは その後。恋仲の男に話さないのは子供の命を優先したということなのか。さすがエスターの母、という感じがしなくもない。


数年前にはギルモアの手の者がロンドンの下町に母子の存在を突き止めたが、ダンピールの能力によって一家は「幽霊」から逃げおおせていた。
それから愛する人の幸せを守ることが出来なかったギルモアは罪の意識に苛まれ、更に最愛の人が亡くなったと知ってギルモアは食事を取らなくなった。彼は今、緩慢な自殺を試みている。ギルモアから生気を感じ取れなかったことに納得したエスターは彼を抱きしめる。

罪の意識を抱えるギルモアにエスターは一家で暮らした16年間は貧しいながらも幸せだったという言葉をかける。エスターの命はギルモアが くれたものでもある。エスターは母親がギルモアを恨んでいるとは思わない。だから生きていて欲しいと願うが、それはレオンの家業と相反する気持ち。そしてレオンもまた吸血鬼に良い印象がないのは聞いたばかり。だからエスターは言葉を呑み込む。


オンはギルモアと2人きりになれるよう、エスターも退出させた後、結婚の挨拶以外の もう一つの話に切り込む。それは あの惨劇の日のこと。あの日、吸血鬼たちの話す言葉に このギルモア邸のある地方独特の訛りがあったことをレオンは記憶していた。だからレオンは事件の黒幕がギルモアではないかという可能性を考えていた。だが その考えはレオン自ら否定する。対峙してみてギルモアは事件を起こす愚かな人間ではない、そして動機もメリットがない。

過去の事件の口封じと現在の権力闘争の一挙両得。捕まっても罪状は自殺幇助かも

だがギルモアは真の首謀者を知っているとレオンは睨み、名前を聞き出そうとするが、その直前にギルモア侯爵が吐血する。飲み物の中に、吸血鬼の弱点である銀の粒が混入していた。その犯人としてレオンが名指しされ投獄されるが、それを喜んで指摘する者が犯人なのは明白だ。