《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

一般人のブログの漫画化みたいな内容になる前に、誰か作者に連載 止めなっていいなよ。

好きっていいなよ。(16) (デザートコミックス)
葉月かなえ(はづき かなえ)
好きっていいなよ。(すきっていいなよ。)
第16巻評価:★★(4点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

思い出のたくさん詰まった高校をついに卒業し、めいと大和はそれぞれの目標に向けて新たな道を歩みはじめる。保育士になるためあさみと同じ専門学校に入学しためい。一方、大和はカメラの道を目指しつつ大学に進学。また、めぐみも本格的にパリでの活動をはじめたけど…。ちょっと大人になった2人の新生活は……、新キャラも登場で波乱の予感!?

簡潔完結感想文

  • 新生活編。生活環境の違いが カップルたちの関係性も変えていく。変わらないのは既視感。
  • 卒業式後も連載を継続して描きたかった内容ってこれなの?? 人生ドラマ? 生活の深み?
  • 「波乱の予感」はマンネリの予感。作品も主人公たちが成長していない証拠ばかり集まる…。

心の距離がこんなに離れたら、お付き合いし続けることは難しいですね、の 16巻。

そんな心の距離があるのは、主人公・めい と大和(やまと)のカップルではない。
読者である私と作者の、である。

『15巻』の あとがき で高校を卒業しても本書を続ける理由として、
卒業後の これから「人生ドラマ」「生活の深み」が出てくるということを書いていた作者。

えっ?? 『16巻』の どこに それらを含ませたの?
と、読了後に本気で問いただしたくなる内容が腹立たしく、悲しい。


専門学校や大学入学で、これまでとは違う時間の使い方になった各人。
そんな新体験と変わりゆく日常のスタイルが、ゆるり と、いや、だらだら と展開していく。

編集者側の要望なのか、あらすじ に「波乱」2文字を入れたいがための、
どうしようもない恋愛トラブルを用意しているが、既視感たっぷり。

物語がフワフワしているのは、作者が手探りで物語を構築しているからではないだろうか。

作者が知らない世界(学校やモデル業界)について、
大層 取材はしているのだと思うけど、それが作者の血肉となっていない。

そして逆に、取材したことを全部 詰め込もうとしているように思う。
もっと情報を取捨選択すれば、物語を濃縮して短縮できたのではないか。

経験がないから間違わないように、と慎重になった姿勢が、
ありきたりな、進学における恋愛すれ違い あるある のオンパレードに繋がっている。

それを描くにしても、「3日ぶり」の連絡や、スケジュールのミスマッチなどではなく、
もっと めい だけが感じる象徴的なエピソードを創出すべきだ。

恋愛漫画の名手たちは、そういう一瞬の気づき を逃さない。

ここのところ、ずっと めい が書いた長文の日記やブログを読まさせられている気分。
そうではなくて、作者が独自の観点で切り取った編集済みの「作品」が見たいのだ。


書の群像劇的な性格も、1巻分の内容を希釈してしまっている気がする。

主に、めい・大和・めぐみ の3人の新生活を追っているが、
そのどれもが中途半端にしか語られないことが満足感を損ねているのではないか。
振り返ってみると、どの話も ちょっとずつしか物事が進んでいない。
三本柱が物語を散漫にしている気がしてならない。

本書では登場人物の多くが高校在学中から夢を持って卒業した。
だからなのか、ここからの2,3年は そのための知識と経験を蓄える期間と捉えている。
その目的意識の高さも恋愛の優先度を低くしてしまっている要因だろう。

新しい生活、新しい出会いに軸足を置きたいのは分かるが、
大して活躍させない(させられなかった?)新キャラの背景ばかり無駄に作り込んでいる印象。

そんな新キャラも、人と違ってもいい、スタートはいつでもいい、
という作者の人生観を滲ませた感じが全開だったなぁ。

そんな新キャラの一人・佐々木 奈月(ささき なつき)は、
めい の友人・愛子と あさみ を足して2で割ったような容貌ですね。
キャラクタの外見の引き出しも、もう尽きてしまったのか…?
…というか、めい も含めて女性陣は全員同じ顔に似通ってきている。

大学は高校以上に色んな経緯で入学する人がいる、
という一つの例として奈月がいるんだろうけど、高校でも海(かい)が いたから新鮮さが無い。

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ゴメンね、歳を取ると聞かれてもないのに自分語りしちゃってさ。作者のことじゃないよ☆

しかし大和って「学校一のモテ男」という失笑ものの称号を持っている割に、
自分へ好意を持っている女性の あしらい方が下手すぎますよね。

見た目だけで自分に惹かれる女性(めぐみ等)を容赦なく突っぱねていたのに、今回はワガママも受け入れる。
『15巻』における めい と彼女に想いを寄せる下級生・蓮(れん)、それ以前の海(かい)もそうだが、
誰も過去の経験から何も学んでいないところも本書に辟易とする部分。

これは作品全体に言えること。
成長を描きたい、世界の広がりを描きたいというのなら、
それに見合うエピソードを、過去のものより一層 洗練された事象を用意しなければならない。

でも、本書は同じような事件を、同じようにグルグルと周回しているだけ。
お話を作る練度が足りなさ過ぎている。

ちなみに、あさみカップルには1ミリも興味がありません。
むしろ ずっとつき合っていることに違和感があります。


それに、そもそも めい と大和の居住地は高校の同じ学区の ご近所さんなのである。

今回、友人・あさみ のピンチに めい が駆け付けられたように、
本来、会おうと思えば会える距離に2人はいるのだ。

学校が夜まである訳ではないし、毎日 飲み会がある訳でもないし、
会えないことへの説得力も弱い。


体でまとめて読みたいのは、渡仏したモデル・めぐみ の話。

今回、めぐみ の夢であるパリコレのステージに立つことになったモデルの凛(りん)とパリで再会する めぐみ。

フランスに渡って地道に努力している自分と違い、東京で活躍している中で直接の出演オファーを受けた凛。
そんな境遇の違いを まざまざと感じていた めぐみは凛の前で「あたしなんか」を連発してしまう。

めぐみ の卑屈さは、そんな経験のない私も思わず共感してしまう。
売れる 売れないが目に見えて分かる世界は本当に孤独な世界だろうなぁ。
めぐみ は自分を謙遜・卑下することで純粋な相手の言葉を心ならず否定してしまった。

一方の凛の気持ちも分かる気がする。
自分の活動の原点である人への気持ちは不変のものなのに、
自分の状況や周りの環境が変わったことによって、
それが軽んじられる世界の残酷さを感じるのもまたスターの孤独な道なのだろう。

ただ、めぐみ は自分の失策に気づいて、
彼女に自信を復活させて、ショーへと送り出すことが出来た。

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劣等感が卑屈さを生み、こちらの勝手な卑屈さが 彼女の純真さまで汚してしまった。

ここは、この巻で一番いいと思ったシーンです。
めぐみの焦燥と失態、そしてそれを挽回する彼女の心の動きが詰まっている。
精神的に一番成熟しているのは めぐみ かなぁ。

そして序盤で成長が止まったのは主人公カップルかぁ…。

好きっていいなよ。(16) (KC デザート)

好きっていいなよ。(16) (KC デザート)