《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

人種の枠を超えて、加害者と被害者の枠を超えて、全ての人と心が通じる未来の国母。

ニブンノワン!王子 6 (花とゆめコミックス)
中村 世子(なかむら せいこ)
ニブンノワン!王子(ニブンノワン!おうじ)
第06巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

満天国の後宮で花嫁修行中の月子。他の姫たちからの嫌がらせに遭いながらも頑張るが、ジンからもらった大切な指輪を失くしてしまって!? そんな月子に、嫌がらせはますますヒートアップ! 一方、月子の現状を知ったジンが後宮に来ることになり…⁉

簡潔完結感想文

  • 国民をまとめる資質はあるが、恋愛脳で自分を律することが出来ない月子。
  • 月子の欠点を鋭く指摘するのは恋のライバル。口が悪いのは愛情の裏返し。
  • 後宮を抜けて王子に夜這い。そこからヒーロー側の家族問題が浮かび上がる。

来の夫婦は我慢しきれず それぞれに夜這いをかける 6巻。

『4巻』に続いて またもやヒロイン・月子(つきこ)が王子・ジンから贈られた指輪を失くす。少女漫画におけるアクセサリは愛の象徴で、ジンが近くに居ながら会えない日々が続く遠距離状態の月子にとって精神安定剤となっていた品である。工夫を感じたのは、月子が その指輪を発見するまでを描くのではなく、その指輪を手放すことを選択するまでを描いている点。月子が送り込まれた女の園後宮で侍女(犬)たちの信頼を得たことで、人海戦術によって指輪が発見され、この人望が月子こそ妃に相応しいと評価される、という展開でも お話は成立しただろう。だが作者は そうではなく、月子が指輪ではなく自身が輝くことで真に成長することを選ぶ道を提示した。私は この話の作り方に作者の落ち着きと、連載が隔月誌だからこそ お話を練る余裕があるのかな、と感じた。

やはりシンデレラヒロインは周囲に厳しい人を配置してこそ輝くのか。単純な溺愛よりも数倍 楽しい。

今回も『5巻』に続いて月子とジンの若さゆえの失敗や暴走が見られるが、それは2人が それだけ互いを想い過ぎ、そして周囲が見えなくなっているのかな、と割と寛容に受け入れられる。まぁ『5巻』でのジンの後宮侵入や、今回の月子の後宮脱出からの王子の寝所への潜り込みなどは、完全に性欲を抑えられない行動に見えてしまうが…。

ただし その騒動が少女漫画のクライマックスと言えるヒーロー側の家族問題を提起していく。これまで理解しえなかった父子・異母兄弟の関係が整理され、その後に月子とジンの結婚が控えていることが予想される。隔月誌でありながら完全に長期連載化した中盤からのペース配分が完璧で、惜しまれながら次で最終巻を迎えるという構成も良い。

『5巻』でも描いたがユラの存在が今回も良くて、ツンデレながら月子よりも長くジンを想っていた彼女の心を思うと切なくなった。そして その心を月子だけが しっかりと理解し、2人が互いを深く分かり合うという流れも素晴らしかった。この理解や、その前の自分の罪の自白があるからユラは女性ライバルながら、物語から追放されないのが救いである。2人なら これまでの諍いを乗り越え、今後も仲良く友情を育むことだろう。
そして この件に関してはジンが とことん鈍感という彼の配置も良かった。ジンは半種というコンプレックスがあって、それでも王子という立場だけで言い寄ってくる周囲に辟易している。だから照れ隠しに半種であるジンに悪口で応じてしまうユラの その言葉の奥にある恋情を感じることなく、ジンはユラに接している。言葉の棘で言えばユラの方が酷いことを言っているのだが、無関心という点においてはジンの方がユラに失礼であることを王子は気づいていない。気高いユラ様はジンの慰めの言葉など必要ないから、ジンが気づかないまま ひっそりと この恋に幕が下ろされるのも そんなに悪いことではないように思った。


統な物ではないけれど自分とジンの婚約の証を意味していた指輪を紛失してしまった月子。犯人はジンからの愛を一身に受ける月子を恨んだ同室のユラ。ジンとの絆、愛の象徴を失って月子は絶望し、睡眠時間を削って その発見を急ぐ。だが そのせいで妃になるための修行が疎かになり本末転倒。しかも この国の出身ではない月子は文字の習得から始めなくてはならず、補習が言い渡され、自由時間が奪われる。

月子のトラブルは後宮に送り込まれた密偵によってジンに伝わっている。それでもジンは静観する。なぜなら これは月子自身が乗り越えるべき問題だから(ジンの軽率な行動によって起こった、とも言えるのだが…)。

やがて月子が探し物をしていることは彼女の姿を見た侍女(犬)たちにも伝わり、人と犬を区別しない月子のために侍女たちが進んで捜索する動きが見られるようになる。
これに対しユラは人望がありジンに一途な月子に対して厳しく当たるが、月子は自分にとって指輪がどれだけ大切かを訴える。それでもユラは指輪にすがることが王妃の資格ではない、と月子に目を覚まさせる一言を発する。その発言の裏にはユラのジンとの記憶があった。幼き日、母を亡くしたジンは母の遺品が全て捨てられるのを静かに見送っていた。ユラが善意から遺品の一部を持ち出しても、ジンは母の思い出に縋(すが)らずに強くなることを決意していた。だからこそユラあけは月子の弱点とジンの生き方の違いが分かり、強い口調で月子を非難してしまうのだった。


がて月子は教育長である おババに後宮内の女学校での授業態度の悪さを指摘され、彼女が権限として持つ追放の可能性を匂わされる。月子の存在は犬の侍女たちを動かす大きなものだが、それは後宮の調和を乱すという表裏一体の減少であることを おババは指摘する。

そして実際に人と犬が口論している場面に遭遇し、月子は私情を捨て この場を丸く収めることを優先する。それは物ではなく生き方でジンの側に居ようとする月子の意思表明だった。ユラは決意した月子の薄情さを突っつくが、月子はジンに誇れる自分像を もう確立していた。王子の横で光っているのは指輪でなく、自分でなくてはならないのだ。

その月子の決意を理解したユラは その夜、自分で湖に捨てた指輪を捜索し、取り戻す。だがユラが率先しなくても周囲の月子への当たりは柔らかくならず、いよいよ食べ物にガラス片を混入された事態となる。その情報を聞いたジンはユラに会いに後宮に来る。

謁見のメインはユラだが、月子はジンと直接 会えるだけでも心が浮き立つ。ジンはユラとの会話を通して、月子に手を出さぬよう後宮中の女性たちに圧力をかける。だがユラは月子にジンの前で恥をかかせ、彼女の心を折ろうとしていた。それでもジンは月子ばかりを助ける。それはユラの完全な敗北で、彼女は自分の罪を全て白状し、ジンの側室になる機会すらも捨てて潔く散ることを選ぶ。口は悪いが幼い頃からジンを見てきて、そして一族の願いのためにも この道を進んできたユラだったが、月子との努力と決意の差を きちんと自覚し、その立場を自ら降りたのであった。
そんなユラの潔さの中にジンへの恋情を感じ取った月子は、自分以外にも、そして自分より前からジンの良さを分かってくれる人がいた事実に涙する。2人は徹底的に勝敗が別れたが、その後には互いを認める女同士の友情が残ったと言えよう。


ラは後宮内の窃盗の罪によって、いわくつきの場所に謹慎処分を受ける。侍女たちも近づかない その場所に月子はユラのための食事を運ぶ。そこは王の夫人たちが暮らしていた場所で、今は王に妃がいないので使われていない。

王宮のこと、ジンの過去を月子は自分が何も聞かされていないことを気にする。かつて側室など他の妃候補がいることをジンが意図的に秘していたように、自分に聞かされていない話が彼との距離や非対等な立場を痛感してしまう。だから月子はジンから その話を直接 聞こうとする。そのためにジンに会えるまで後宮内の噂話から逃げるのだが、段々と それが難しくなる。そんな ある日、月子はユラの謹慎場所で秘密の通路を発見し、それがジンの生活拠点に繋がっていることを知り、思わず彼に会いに行ってしまう。

だが その場所の情報はユラの過去の記憶を基にしており、年月の経過で目印や配置が変わってしまった。更に宮仕えの者たちに発見されて大ピンチ。それを救うのはジンではなく、彼の側近のガク。月子はガクの力を借りてジンの部屋まで到着する。ジンは寝入っていたが、すぐに目を覚まし、まず一発キスをして互いの存在を確認し合う。

異世界だろうと、男女の禁制だろうと乗り越えてしまう2人。それで騒動が起こるんだけど…。

互いの存在を確かめ合った後、落ち着いて月子はジンについてパーソナルな情報を聞き出す。そこでユラの謹慎場所がジンではなく異母弟・シビの母親の住まいだったことを聞く。また自分たち異母兄弟の母親は姉妹であったこと、そして彼女たちは続けざまに この世を去ったことを聞く。

だが その話を全て聞く前に月子の行動が王城を騒がしていることを知る。ジンはその対処に向かい、月子は せめて人目のつかない場所で大人しくしていようとした。だが そこにシビが現れ、『2巻』のシビ初登場時と同じように香を焚かれ身体の自由が奪われる。

一方、ジンは月子の潜入について何とか言い訳をして、月子を すぐに後宮に帰さなかったことを謝罪するガクの判断も責めず、問題を鎮静化させていた。だが この発覚騒動の裏には、秘密の通路の存在を知る者= かつて そこに住んでいたシビの存在があるのではないかと考え、月子の安全を確保しようとするが、指輪だけが残され、彼女は既にシビの手の内に落ちたことが発覚する。

そこから冷静さを欠いたジンは、すぐに父王と対面することになる。ジンの責任を追及する国王だったが、おそらくシビによってジンの部屋に意図的に置かれた女物の着物を見て、国王は反応を見せるのだが…。