《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

安直なカップリングは ファンがアンチ化しそうなので、君嶋くんは誰のモノでもありません。

古屋先生は杏ちゃんのモノ 12 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
香純 裕子(かすみ ゆうこ)
古屋先生は杏ちゃんのモノ(ふるやせんせいはあんちゃんのモノ)
第12巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

大学生になり、遠距離恋愛になった杏と先生。会えない寂しさが募る中、先生が会いに来てくれた! 思わず「泊まっていってください」と言ってしまった杏だけど…? 念願の結婚式。なのに先生とプチ喧嘩!? さらに将来の夢を叶えた杏の姿や、大人になったみんなのストーリーも♪ ほっこり禁断ラブに最高のハッピーエンド★ 【同時収録】古屋先生は杏ちゃんのモノ 番外編

簡潔完結感想文

  • 朝令暮改。結婚の先輩、杏の両親の話を聞いて古屋先生の結婚熱が大爆発。
  • 結婚式にキミシマン参上。お祝いをして彼女の門出を祝った、はずが…。
  • 両者賢い元友人カップルは、自分たちの交際の限界が早くも見えてしまう。

こまでも輝く未来を信じられるのが杏の強み、の 最終12巻。

大団円。結婚という いかにも少女漫画らしい結末を迎えた本書。
1話でまさかのプロポーズ失敗と、その相手とキスすらしていなかった古屋(ふるや)先生の無念も ようやく果たされたのではないでしょうか。ついでに言えば27歳前後まで大事にしていた彼の純潔も結婚という形で終わりを迎えたことが予測される(間接的な描写もないけれど)。

1話では古屋先生はヘタレでドジという設定だった気がするが、結局、ドジ設定は初回以降 顔を出さず、先生は いつの間にかに割と貫禄のある教師になっていた(恋愛以外は)。教え子の杏(あん)たちの裏に隠れて気づきにくかったが、彼らを担任した3年弱で古屋も先生として しっかりと成長していた。

最終話で明かされたが古屋は母子家庭で育ち、母と姉の厳しくも過保護な指導の下、人に言われるがままに生き、ヘタレな部分が見え隠れしていた。
だが教師という道を選び、初めて担任を任された杏たちを指導することで、彼は優柔不断さなど自分の欠点を克服したのかもしれない。教師になることが全てのゴールではなく、教師になることで古屋先生は人間的に成長した。

立場的には杏たちを見守る側だが、杏たちに支えられて、教師としての自信を深めたのだろう。もしかしたら君嶋(きみしま)は恋のライバルというだけでなく、彼のような優秀な生徒も指導する古屋先生には良い刺激を受ける存在だったのではないか。最初の担任で、杏や君嶋など個性豊かな面々が揃ったことは大きな転機だったのかもしれない。


でも杏との出会いは、プロポーズ失敗で男としての自信を無くしていた古屋先生の救いになっただろう。客観的に見れば、失恋直後の一番弱っている精神状態の時に、自分への好意を口にしてくれる女性に簡単に なびいてしまった純情男という感じも しなくはないが(笑)

そういえばドジ設定の他にも、この純情や恋愛経験知不足も古屋先生から消え失せていた設定である。いつの間にかに手慣れた感じでキスをしているし、据え膳が用意されても自制する余裕すら見せていた(眠れなかったが)。

これは杏は古屋先生だけしか目に入らず、他に比較対象もないことが、古屋先生を安定させたのかもしれない。きっと古屋先生は過去に元カレがいるような女性との交際では、上手くやろうと空回りして失敗を重ねていただろう。そんな自分に失望し、恋愛嫌いになり、アラサーを超えて永遠に独り身だったかもしれない。そういう意味では杏は古屋先生の聖母であることに間違いない。

一番のピンチは杏が君嶋に強引にキスされた時だろうか。ここで杏が君嶋と古屋先生のキス技術を比較し、君嶋のテクニックに陥落したりしたら、先生は男として再起不能だったはず。

それでも杏が自分と一緒にいる未来を見続けていたからこそ、古屋先生も30歳になる前に結婚できたのだろう。


一方で、自分たちの未来を信じられなかったのが君嶋と我妻(あづま)ではないか。

本編中から我妻の君嶋への特別な想いは描かれていたが、番外編で その伏線が回収される。25歳となった彼らは お互いフリーになったのを機に交際を始める。だが結果的には短期間で関係を終わらせる。

それは2人が自分たちの未来を予知できるだけの知性を持ち合わせていたからではないかと考える。我妻は君嶋の中にいる杏の存在に勝てないと思った。君嶋の表情以外は具体的に我妻が傷つけられたエピソードはないのだが、このまま交際を続けていると いつかは自分が君嶋の中の杏と勝負しなければならないと我妻は直感したはずだ。もはや架空の存在である彼が想う杏との勝負は絶対に勝てず自分が疲弊するだけ。その勝負を続けると現実の杏への気持ちも濁りそうで、賢い我妻は そんな未来を回避したのではないか。

君嶋は理想の相手だが、彼の中の杏の亡霊と戦い続けることは困難。傷の浅い内に この恋を終わらせる。

自分が我妻に完全に夢中になることはないのは君嶋も分かっていたのだろう。我妻から告げられた別れも淡々と受け入れる。我妻への好意はなくはない。だが やがて気持ちの齟齬が大きくなるのは君嶋にも予感されたのだろう。大切な友人を恋人として傷つける関係よりも、まだ戻れる地点で戻る決断をするのは、やはり賢い選択だと思う。

杏と違って頭でっかちな恋愛だと思うが、彼ららしい恋愛だったように思う。


して作品的には、我妻の未練を回収しつつも、君嶋は特定の女性と結ばれないという結末が必要だったのだろう。最強の当て馬の処遇は一つ間違えると、それまでの熱心なファンをアンチ化させる危険性を はらんでいますからね。書名からしてネタバレだった本書はともかく、三角関係モノの作品は結末次第ではレビューや感想文が阿鼻叫喚に包まれるのを何度か見た。

君嶋が、何の非もないように見える我妻を選ばないということは、杏の絶対のヒロイン性が守られる、ということでもある。それは作品にとって重要なことだろう。杏 = 自分の分身として君嶋からの寵愛に頬を緩めていた読者は、その愛がいつまでも消えないことを知る。間接的に言えば、君嶋くんは私(読者)のモノという関係性がエターナルになるのだ。君嶋ファンの読者にとって これほど喜ばしいことはないだろう。この結末は もしかしたら君嶋を贔屓している印象を受ける作者の願望かもしれないが、それでも この選択は悪いものではなかったはず。

それにしても君嶋は どうやったら成仏できるんでしょうか。1ミリも恋愛対象として見られなかった文化祭でも、別れの儀式をしたクリスマスイヴでも、杏の純潔に終止符が打たれる結婚式のスピーチでも、そして人妻だけでなく杏が人の親になっても彼の気持ちは不変だった。もちろん それは時間と共に広い意味での愛に変化しているだろうが、彼の中の杏の特別性は変わらない。もしかして もう二度と手に入らないものだから我妻が感じたように より厄介になったと言える。少女漫画の当て馬に生まれたばかりに…、と君嶋の不幸に同情する。

おまけ の4コマで約24歳差のロマンスの予感が匂わされているが、まさか そんな未来はないだろう。杏に王家の血が流れている訳でもあるまいし、杏の血縁を狙う理由は君嶋にはない、はずだ。でも稀代のプレイボーイが子供の頃から知っている女性に手を出すのは日本の伝統か。古屋先生も君嶋という最強ライバルになら、と認めそうなのが怖い。そこは40歳を超えた未来の杏に しっかりしてもらおう。


距離恋愛の先生が家に訪ねてきた際、彼を家に引き留める杏。完全に性行為を匂わせていたのが、相変わらず杏は先生との性行為など考えていない。
それよりも杏は先生と結婚がしたい。だが古屋は結婚は杏の大学卒業後だという。まだ大学1年生の杏にとって4年後は果てしなく遠く感じる。

2人が玄関で抱き合っていると、杏の家族が乱入する。どうやら杏は忘却していたが上京する予定だったらしい。強引な杏の家族に誘われて、杏の家に泊まることになった古屋。そして そのまま週末は杏の家族と一緒に東京観光をすることになる。
先生が1人で泊まるはずだったホテルは無駄になった。そして大して広くはないだろう杏のマンションに布団が2組も常備されているのは謎である。


の観光で、古屋は杏の父親と交際後、初めて腰を据えて会話をする機会を得る。父親は杏が自分の夢を持てたのは古屋のお陰だと感謝する。そして距離や学生という杏の立場を考え結婚を躊躇する古屋に対し、好きであれば一緒になるのは自然なことと告げる。

そして杏は、母親と結婚の心構えを聞く。結婚しても不安はなくならない。でも好きな人と過ごす毎日は楽しい。不安を解消するために結婚するわけではないのだ。

こうして図らずとも2人の結婚の意識が一致したところで、古屋は杏の両親に頭を下げ、杏との結婚を願い出る。杏の両親は それを快諾。母は以前から そう言っていたが、父親も大事に育てた娘が選んだ人なら心配はないという。この考えは杏にもちゃんと引き継がれている場面がありましたね。


婚式に向けて、両家で具体的に話が進む。場所は京都で杏は話し合いのたびに帰省する。
招待客は高校の同級生たち。君嶋にも招待状を出したが、行けたら行くという返事だった。

両家、そして杏と古屋でも結婚式に対しての意識の相違が出てくるが、それを一つずつ乗り越えるのも結婚への通過儀礼なのだろう。2人での話し合いの際、杏は古屋の父親が小さい頃に亡くなっていることを知る。これまで育ててくれた家族や、お世話になった人たちに感謝を伝えるのが結婚式だと古屋は杏に教える。この結婚式観や人生観の違いは、育ちもそうだが年齢による実感の差も大きいだろう。

人生経験や年齢差で杏からの尊敬の眼差しを受ける。失望されないために古屋も成長し続けないと。

結婚式当日、同級生たちが集まる中、君嶋は姿を見せない。杏は披露宴でのスピーチを成瀬(なるせ)と我妻に頼んでいた。だが成瀬は控室にスピーチ原稿を忘れてしまう。

杏の結婚式のピンチに駆けつけるのがキミシマンだった。原稿の用意もないのに、淀みなく お祝いの言葉を述べる君嶋。これは彼からの杏への最後のメッセージだろう。友達に戻れないはずだった誰よりも大事な君嶋に杏と古屋の結婚を素直に祝われ、杏は世界一幸せな花嫁となった。

そこから数年後、杏は双子の女児の母親になっていた(番外編から逆算すると26~28歳ぐらいか)。出勤する古屋を取り合う双子たちだったが、古屋先生は杏ちゃんのモノなのである。めでたし めでたし。


「番外編1」…
杏たちが25歳、つまりは本編の古屋先生ぐらいの年齢になった頃の お話。
我妻は彼氏から別れを切り出され、君嶋に愚痴っていた。我妻は しっかりし過ぎて男性の庇護欲を刺激としない。それ故に男性と長く続かないらしい。そして君嶋はフラフラ遊びと割り切って女性と付き合っているという。
ここで気になるのは受験生だからと謎に黒髪にしていた君嶋が社会人の25歳でも金髪っぽいこと。やっぱり黒髪は君嶋の反省からの自粛期間だったのだろうか。

そんな2人が「お試し」で付き合ってみる。それは我妻にとって格好の機会だった。
いよいよ本編中の伏線回収。…かと思われたが、まさか結末は破局。傍から見れば無敵のカップルだったのに。

間接的な原因は、杏の家に双子の子供たちを見に行ったことかもしれない。君嶋は特に変わった言動はなかったが、我妻は杏との接近で君嶋の中に杏の存在を探してしまった。
また そこで成瀬と城ケ崎の年内の結婚が発表される。もしかしたら6人の男女でカップル3組という いかにも「りぼん」な内輪感を回避するために我妻が不幸になったのかもしれない。

ある日、我妻は自分をフッた元カレと遭遇する。お互いに新しい相手が横にいる中、自分のプライドを守るために元カレは我妻に嫌味を言う。その精神的屈辱を助けるのは君嶋だった。そうして全てにおいて君嶋は元カレよりも格上になる。だが そのスマートさは きっと彼の本心を隠して交際させることが我妻には分かっていた。

原因は我妻にあるが、君嶋も自分の杏への気持ちを否定していない。杏の価値は絶対に下がらない。色んな面で我妻が可愛そうな結果になった。我妻が最初は古屋先生狙いで、杏にとってライバル的存在だったのが悪いのか。本当に少女漫画は女性ライバルに厳しい。国外追放を免れた我妻も幸せになれないなんて…。


「番外編2」…
杏が教育実習として京都の高校に やって来る。その担当指導は古屋先生。この時に2人は既に結婚しているが、それなら指導役が古屋にはならない気がする。まぁ 作品の面白さを優先したのだろう。でも夫婦で指導しても杏のためにならないだろう。

杏は古屋のクラスの中に彼に恋する生徒・有沢(ありさわ)を発見する。杏は、本編で思い出深い場所だった資料室で古屋先生に有沢について聞く。先生は鈍感だから自分への好意に気づいていない様子。有沢は そんな夫婦のイチャつきを廊下の外で聞いていた。そして杏は有沢が古屋のアパートにまで押しかけていることを知る。彼女は そこまで真剣なのだ。
人を呪わば穴二つ。かつての自分が やっていたことを されて、杏は高校時代の自分の無鉄砲さに気づかされ、今、同じことをされている責めるに責められない。

有沢は杏への嫌がらせとして結婚指輪を隠す。動機は2人の交際の確証があるというよりも、古屋先生に近づく害虫の駆除目的だろう。

指輪紛失という大ピンチを こういうことには察しの良い古屋が助ける。更にクラスの生徒たちも助けてくれ、有沢も流れで参加する。杏は有沢が犯人だと気づいているようだが、彼女に懺悔の機会を設けるためにも輪に引き入れたようだ。

翌日、有沢は偶然を装い杏に指輪を返却する。指輪の刻印で杏は自分が古屋の結婚相手だと推定されていることを知り、正直に関係を説明する。杏の素直な恋心を知った有沢は改心し、自白をする。それでも杏は古屋先生には指輪は自分のミスとして報告する(有沢以外のクラスメイトの徒労が気になる)。

女性ライバルと あまり直接対決のなかった杏だが、湊(みなと)と有沢の2人は自爆させて、それを許容することで格の違いを見せつけ聖母となる。心が広くないと、または相手がコロッと改心しないと、ヒロイン稼業はやっていけません。