香純 裕子（かすみ ゆうこ）
古屋先生は杏ちゃんのモノ（ふるやせんせいはあんちゃんのモノ）
第07巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★★（6点）
祇園祭の季節が到来♪ なのに杏から誘われずひとりそわそわする古屋先生！ 大学時代の友人と祭りへ行くと、そこには君嶋と来ている杏の姿が!? 文化祭ではクラスでコスプレ写真館を開くことに！ 杏が先生との絆を深めるかたわら、なるるとジョーの関係にも進展が。そしてとうとうあの男が、本気を出す!! 禁断×三角関係ラブコメ、文化祭編スタート★ 【同時収録】古屋先生は杏ちゃんのモノ 番外編
簡潔完結感想文
- 杏ちゃんに好かれているから慢心する先生の倦怠期を吹き飛ばすのは当て馬の存在。
- 少女漫画での文化祭はコスプレ回。可愛い生徒の頼みならば先生だってコスプレ。
- 作品を支えてきた君嶋だったが、告白前後からセクハラを常習、そしてストーカー化。
イケメン無罪を盾にして、彼女の嫌がることを全部する 7巻。
本書は後天的な三角関係モノである。4話の短期連載の予定が、好評につき定期連載化。それによって方向転換がなされ、教師モノに加えて3話目から三角関係の要素を取り入れた。そこで誕生したのが君嶋（きみしま）という最強の当て馬である。
君嶋がいることで、ワンパターン胸キュン展開に陥りそうなヒロイン・杏（あん）と古屋（ふるや）先生の恋愛は彩られた。特に恋愛経験値のない古屋先生の気持ちを明確にするという点で君嶋は有能な当て馬だ。2人のライバルは切磋琢磨して自分の気持ちを磨き上げていると言える。お互いの存在が無ければ ここまで杏に執着しなかっただろう。古屋先生は誰かに取られそうな気配が常にあるから杏へのサービス精神を忘れない。特に この『7巻』では杏から愛されていることを当たり前に思い出した先生の慢心を改めるのが君嶋という存在だった。自分より恋愛経験知的に勝る人間に負けないようにヘタレで有名な先生が努力を重ねる。この所の先生がキスを連発しているのも、君嶋という仮想敵の動きが活発化していることと関係しているだろう。2人の危機感は連動しているのだ。
そして『7巻』では いよいよ君嶋が動く。彼は自制すると言いながら自制の効かない自分を理解しており、更に古屋先生が きちんと杏との距離を縮めている場面に遭遇し、焦燥に駆られて行動に移した。
三角関係モノの少女漫画的には待ちわびた場面なのだが、私の中は この前後から君嶋の株が下がった。
1つは告白前から彼がセクハラ三昧だということ。『6巻』の修学旅行を前に古屋先生に宣戦布告をし、杏への動きを見せ始めた君嶋。修学旅行では わざと遭難し、先生という邪魔者を排除した上でスキンシップを試みた。そうした杏への接触が彼女の中で自分を異性として認めさせる行為だと味を占めた君嶋は、そこから行動をエスカレートさせる。
これが単純な片想いなら少女漫画的にOKだと思うが、君嶋は杏には古屋先生という交際相手がいることを知っていて手を出す。笑顔を守りたいとか壮大な理想を語りながら、赤面する彼女に興奮してセクハラするのは矛盾している。相手の気持ちを自分に傾かせるための方法が真摯な気持ちではなく、性的な行動というのは幻滅だ。こういう相手によってはイケメン無罪を適用する少女漫画の都合の良さには辟易させられる。
そして もう1つは告白後から彼がストーカー化していること。杏は君嶋からの告白をキッパリ断る。その際の「1ミリも そんな風に見れへん…！」というのは お断りの言葉としては最強クラスに強烈だ。だが君嶋は諦めない。自分のセクハラに対して赤面したことを担保にして、彼の勘違いの上で成り立つ前向きな努力は続いていく。
せめて書名が違えば、少女漫画界で3％ぐらいの確率（私の統計）で起こるとされている当て馬の大逆転も夢見られるのだが、本書において それは絶対にない。
これ以降、君嶋は この恋の忘れ方を忘れる。当て馬がいつまでもヒロインを好きという状況は読者にとっても承認欲求を満たす嬉しい展開だが、本書は それが酷い。それもこれも作者の君嶋への偏愛が招いた事態だ。少しネタバレになるが、最終回や その後まで この気持ちを継続させるのには唖然とした。作者が君嶋を前に進めさせなかった。
作品の功労者である君嶋が、作品の評価では足を引っ張る存在なのが残念だ。
2年生は（学校）イベントづくし。修学旅行から祇園祭、そして文化祭。1年生の時は君嶋と体育祭ぐらいだったが、2年生では ようやく杏にも友達が出来て、少し世界が広がった。
作品的には1年目にイベントを消費しなかったことで、中弛みが激しい中盤をイベントに頼って乗り切ることが出来ている（君嶋も動くし）。
これによって ずっと変わらない恋愛模様の中でも新鮮味が感じられる。
杏は カップルで行くと別れるジンクスがある祇園祭には先生を誘えないので、それぞれ別行動をすることに。杏は修学旅行のグループで、そして古屋先生は大学（?）のサークルメンバーで祭りに向かう。
君嶋は杏の浴衣姿に見惚れる。どんどん君嶋の溺愛が加速している。逆に先生は杏を褒めることが自分の弱みぐらいに思っているから素直に褒めない。こういう逆転した部分もヒーロー人気に大きく関わっているだろう。
しかも君嶋は その溺愛を隠すことが、杏のためだと思っている。こういう健気な所も、やや可愛げのない先生とは違う。ただ君嶋は口で言うほど好意を隠し切れていないし、この後 この発言を自分で否定するダブスタ男になるのだが。
このところの先生の劣勢を覆すためか、先生は大学時代の栄光を後付けする。バレー部のエースアタッカーで隠れファンが多くいた（サークルなのか部活なのか よく分からん）。外見はモテる容姿をしているけれど、純粋さや純潔を保ったままのような奇跡の存在なのだろう。
杏にとって、大学時代の先生は自分の知らない先生。その疎外感から杏は先生から距離を取ってしまう。それをフォローするのは君嶋。弱っている杏に つけこむような真似はしないが、スキンシップの機会は窺っている。口周りの杏の食べかすを取ってあげることに乗じて顔を接近させる。更に杏は君嶋の距離の近さに普通にドキドキすると赤面したことで、彼の理性は決壊する。これで自分にも脈があると思い始め、彼の暴走が始まる。
その場面を古屋の同級生が目撃し、古屋にラブラブ情報を伝える。そこで遅れて恋愛戦線に馳せ参じる。杏から祇園祭に誘われると思い込んでいた自分は慢心していた。ずっと待ちの姿勢では いつか杏は離れてしまうかもしれない。距離はお互いが歩み寄って近づけるものなのだ。先生は杏を見つけ、君嶋には する資格のないキスをして杏との心理的距離を解消する。ちなみに先生は お面をつけているので絶対に人にはバレないという設定。
作品的にも先生的にもキスへのハードルが低くなって連発している。その分 価値が下がる気がするなぁ。禁断感は薄れて、三角関係に比重が置かれている。私の読み方の問題もあるだろうが、こういう話じゃなかったような気がしてならない。
杏のクラスの文化祭での出し物はコスプレ写真館に決まる。生徒の提案で古屋先生も高校時代の制服を着ることになり杏は それを心待ちにする。杏は祇園祭で先生との年齢差を実感しており、コスプレで同級生気分を味わいたかったのだ。そんな杏の気持ちを知らないから当初は制服を拒否する古屋先生だが、彼の心は杏ちゃんに征服されているので結果的には従うことになる という話。
杏も露出度の高いコスプレをするが、それを見た杏が大好きな男性2人の反応が面白い。だが先生は その衣装を禁止する。いつも先生の役割が嫉妬という後手に回るのは損だなぁ。1話の中での君嶋の役割が大きすぎて、ラストに ちょっとだけ動く先生が挽回できていない。
君嶋の衣装の試着を杏が指名されたりモテモテ。自分にも脈があるかもしれないと期待が膨らむ君嶋はセクハラまがいの行動に出る。箍（たが）の外し方が なんか間違っている。
放課後、古屋先生は杏のために学生服を着る。杏が到着するまでは学校内で1人でコスプレする変態教師である（笑）
どちらかというと和風な先生は学ランが 良く似合う。それにしても古屋先生は高校卒業後から体型が変わっていないのだろうか。これが女性ならスカートがきつくて入らないとかの描写がありそうだ。
高校生の先生のモテが「隠れファン」止まりだった証拠に、彼の制服の第2ボタンは健在。その事実を知った杏はボタンを貰い感涙の涙を流す。その表情から杏が自分に制服を着てもらいたかった理由を察した古屋先生は、自分が今の杏と同じ高校2年生の時の席に座る。その隣に杏を呼び、同級生気分を味わい、自分の高校時代の話を語る。
年齢差から共有できない思い出もあるが、相手に知ってもらうために その話を語ることは出来る。
そんな2人の接近を教室の外で感じる君嶋。彼は分かっていた事実を改めて見せつけられて焦っている。そして杏を赤面させることの出来る自分には杏に近づく権利があるとも思っている。
セクハラおやじと化してきた君嶋だが、文化祭中の空き教室で、遂に杏に気持ちを伝え、キスをする。うーーん、確かに「好きでいる分には自由」だけど、いきなりキスすることが杏の笑顔に繋がらないと思うよ…。1話でキスするような作品だからインパクト重視なんだろうけど、君嶋の冷静な思考的とは合致しない展開に思える。
杏は君嶋の気持ちに驚き、そして先生に言えない秘密が出来たことに苦しむ。
そんな杏の気持ちと反対に、君嶋は覚悟を決めてセクハラに励む。またもや杏の口元に食べかすがついていれば、今度は それを自分の口で取り除く。キモい。完全にセクハラだ。
君嶋的には、杏が自分の行動にドキドキしている、というのが行動の理由で、作品的にもヒロインがドキドキしているというエクスキューズを用意しているのだろう。だが、キモい。
先生にも君嶋にも話せないことで これまで頼ってきた男に頼れず、杏は次の相談者候補の我妻（あづま）に話をする。彼女は こういう展開のために用意されたのだろう。
そして我妻は君嶋のことをずっと見ていたからこそ、彼がどれだけ杏を想っているか、その想いが真剣なのかを彼から聞いた言葉を交えて語る。そして城ケ崎（じょうがさき）に失礼な態度を取った成瀬（なるせ）の頑張りにも刺激されて、杏は君嶋に向き合うことにする。
杏は君嶋に友達に戻れないかと訴える。君嶋は本気だからこそ、これまで通りの関係ではいられない、という。でも杏は友達以上の感情はない。「1ミリも そんな風に見れへん…！」というのは強烈な言葉だ。
だが君嶋は再び杏にキスをしようとし、それで杏が赤面することに希望を持つ。自分のセクハラを肯定しようと必死だ。
杏は結局、古屋先生に全ての事情を話す。杏が古屋先生の過去も全て知りたいように、杏の情報も古屋と共有したいのだろうか。
それを知った古屋先生は、後夜祭が続く学校から一歩出て、ただの男性として杏にキスをする。それは君嶋菌の消毒作業だった。2人の関係は盤石だが、杏は これまで通りの世界に居られない苦しさを覚える。
