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少女漫画と小説の感想ブログです

まだ杏ちゃんは古屋先生のモノではないらしいので、一度フラれた当て馬がゾンビ復活。

古屋先生は杏ちゃんのモノ 9 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
香純 裕子(かすみ ゆうこ)
古屋先生は杏ちゃんのモノ(ふるやせんせいはあんちゃんのモノ)
第09巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

ある日、君嶋が風邪で寝込んでしまい、みんなでお見舞いに行くことに。理性を失くしたキミシマンに杏はたじたじ…!? さらに3学期が終わり、高校3年生に進級。杏は古屋先生とクラスが離れてしまい、大ショック…。新クラスではジョーが爆モテでまさかのひと波乱が!! 青春の純度120%! 禁断ラブコメ絶好調 【同時収録】古屋先生は杏ちゃんのモノ 番外編

簡潔完結感想文

  • 杏ちゃんが まだ誰のものにもなっていないことを知った君嶋が戦線復帰。無限ループ。
  • 三角関係を有効にするため、ヒロインを優柔不断な浮気者にしてしまいラブコメ感 激減。
  • 長い交際期間で生まれる慢心。それを気づかせてくれたのは君嶋であり古屋先生なのッ!

て馬に依存し過ぎたら、彼に作品の主導権を奪われる 9巻。

当て馬・君嶋(きみしま)の華麗なる復活である(絶句)。『8巻』では古屋(ふるや)先生が復権したが、結局『9巻』で君嶋が返り咲き。
君嶋を柱にした話は何巻でも続けられるが、先生メインでは1巻しか もたないという編集者側のシビアな判断でしょうか。ドラマや映画に例えるならば主演俳優が顔は整っているのだけど演技もいまいちで華もなく、脇役の実力派で色気のある新人俳優に食われると言った感じか。

ただし三角関係が復活することは、2つの欠点も 甦るということである。1つは君嶋のセクハラおやじ化。正攻法のアプローチしかしない古屋先生とは違う、ちょっと強引でドキドキする攻めを見せるのが君嶋の役割。しかし、一度フラれた相手に強引にキスをしようとしたり、指を舐めたり、少女漫画内のイケメン無罪が適用されなければ、独善的なセクハラでしかない。

そして もう1つが、そんな君嶋にドキドキするヒロイン・杏(あん)の優柔不断さと一種の淫乱さの復活である。先生に操を立てようとするが、身体は反応してしまう、という抗えない快楽が作品に蔓延する。この揺らぎこそが先生からの愛を当たり前だと慢心していた杏の反省に繋がるのだろうが、このところの杏は中途半端な態度で好きになれない。

これまでは君嶋の好意に鈍感で、彼を華麗にスルーしてきたからラブコメとして成立していた。その状況に我慢できずに告白した君嶋の気持ちは分かる。だが告白と その拒絶があってからの同じことの繰り返しには辟易するばかり。この再放送は杏や君嶋、作品の価値を大いに下げる。

じじいの夫の留守中に若いツバメとの遊ぶ若妻は修羅場を迎える。不機嫌な時こそ年齢差を感じる。

私は良い少女漫画の条件は、同じテーマを繰り返さないことだと思う。本書は今回で その資格を失った。しかも今回で2度目の拒絶をしても君嶋は まだ杏を あきらめないようだ。女性ライバルは即座に排除するのに、男性ライバルを排除する勇気を持たないのが少女漫画の歪んだ伝統だ。便利で人気の高い君嶋に依存し過ぎた結果、彼なしでは作品が成立しなくなり始めている。
それにより人気の低迷が怖い作者は勇気を持って君嶋と お別れすることも出来なくなり、君嶋に実権が委ねられていく。例えが酷いが、これが生物なら寄生虫に身体をコントロールされているようなものだろう。

作中で杏たちは高校3年生になり受験を控える。高校卒業後の展開を予定しているのなら、高校3年生の描写を極力 減らして、新たな局面になった時に君嶋を再始動させるではダメだっただろうか。

私の中では君嶋は、3話という早い段階で登場していた者の、連載化に向けての後付けの新キャラでしかなく、三角関係を作品の核にすることに未だに違和感がある。君嶋が作者の贔屓のキャラなのかは定かではないが、君嶋人気に乗っかったのは確かだろう。君嶋は作品人気の立役者ではあるが、もはや老害の域に達している気がしてならない。


頭は そんな君嶋の風邪回。『2巻』では杏の風邪回に君嶋が見舞いに来ていたが、今回は その逆。ってか もしかして君嶋の高熱って、杏が古屋先生と肉体関係になったショックによるものなのか!? ナイーブ君嶋。

先生の許可を得て、修学旅行でグループになった男女4人で、日中は家に1人の君嶋家に行く。高級マンションに住む君嶋は、普段なら騒がしいクラスメイトたちの訪問を拒絶するだろうが、高熱で判断基準がバグっている様子。

君嶋の飼い猫の名前は「杏」捨て猫を君嶋が拾ったらしい(巻末の番外編)。ペットに なかなか叶わない片想いの子の名前を付けるのは、超有名な作品でも ありましたね(とても良い場面のネタバレになるので匿名で。こういう中途半端な隠蔽はイライラするのは分かりますが(苦笑))

赤ちゃん返りの君嶋は まだ杏の貞操が守られていることを知り、セクハラおやじに成長する。

バグってる君嶋が杏の言うことを素直に聞くのを見て、未だ杏と君嶋の交際を信じている成瀬(なるせ)が気を利かせて他のメンバーと買い物に出ると言い残し去っていく。
結局、部屋には若い男女2人だけという危険な状況になる。これまでは不可抗力で先生の同意済みという言い訳を用意しただけである。

緊張した杏がコップの水を自分に こぼしてしまい制服の乾燥が終わるまで足止めになる(コップの大きさと こぼれた量が合っていない)。君嶋にパーカーを借りる杏だが、その「彼シャツ」っぽい姿は君嶋の高熱を悪化させた。

その熱の高ぶりのまま君嶋は杏に甘え、そして彼女をベッドに押し倒す。だが そこで力尽き、君嶋は寝てしまう。杏はベッドからは抜け出せたものの、君嶋が掴んだ手を離せずに、ベッド脇で彼の眠りを見つめる。杏が目を覚ますのは、成瀬たちが一度 顔を見せ帰った後らしく、結局、男女2人なのは変わらず。

熱が下がり、やや平静さを取り戻した君嶋は、杏が身も心も古屋のものになったと思っていたのが勘違いだと知る。杏と古屋先生は清い関係のままだった。
それに安心する君嶋。そして それなら自分にもまだ勝機があると思ってしまったようだ。古屋先生が杏と結ばれるまで、君嶋の横恋慕は続くのだろうか。君嶋がゾンビとして復活する序曲であった…。


くも3年生に進級し、杏の担任は古屋先生で なくなってしまう。そして修学旅行グループも、杏・成瀬・城ケ崎(じょうがさき)と、我妻(あづま)・君嶋(こちらの担任は古屋先生)の2クラスに分かれてしまう。

ここで少女漫画の脇道「友人の恋」が始まる。以前からフラグが立っていた成瀬と城ケ崎の恋物語である。しかし私は友人の恋には興味が湧かないので割愛。特に本書の場合、修学旅行のグループも即席で、それ以降 特に5人の絆などを感じなかったので、一層 無関心な話題であった。
作品としては、杏の交際は順調で、三角関係も停滞しているから、どこかで恋愛的進展を見せる必要があったのだろうか。このカップルの成立を見届けて、君嶋ゾンビのセクハラが復活する。

この話で1人の性悪女が登場するのだが、清きヒロイン・杏が絡まない話だから、その女性に対しての仕打ちが容赦がない。


ールデンウィークに勉強合宿をすることにする5人。場所は城ケ崎の家が持っている別荘となる。古屋先生は仕事で行けない。

君嶋は、杏の純潔が守られていることを知ったからか、またも攻めの姿勢を見せる。つまりはセクハラを重ねる以前の君嶋に戻ってしまったということだ。杏も そのセクハラにドキドキするという発言を繰り返し、セクハラを肯定する勢い。

しかも『7巻』では1ミリも君嶋を恋愛対象として見ていなかったのに、「今はハッキリ拒否できひん」と言い出す始末。この2巻での心境の変化が きちんと描かれていれば納得もいくが、それがないから唐突さしか感じない。
杏にとって君嶋は大切な存在だから拒否できないという気持ちは分からんでもないが、少女漫画的には やはり二股しているように見えて 良くない。三角関係の維持が本書の生命線だから仕方ないのかもしれないけれど。

この勉強回では杏は どう見ても文系っぽいのに高校3年生の この時期にも数学を勉強しているのが謎だ。
そして君嶋は志望校の赤本(慶應 義塾大学)を持ってきており、見てくれと言わんばかりに机に置いているが、それを発見した我妻には黙っていろという謎の指示を出す。なら合宿に持ってこなければいいのでは…??

見る限りは君嶋に惹かれつつあるのに我妻は君嶋と杏の仲を応援する。君嶋に杏の居場所を連絡し、彼らを2人きりにしてしまう。そこで君嶋は再び強引な手段に出て、杏を抱き寄せ、そしてキスをしようとする。

そこに現れたのが仕事を片付けてきた先生。杏は浮気現場を見られる形になってしまう…。ラブコメであることが面白かったのに、普通の三角関係になった(しかもヒロインが優柔不断の)。君嶋支持の読者だって こんな半端な杏は見たくないだろう。


いで先生のもとに走り謝罪する杏だったが、先生は冷静に、何に対する謝罪なのか問う。少しでも君嶋に心が動いた浮気であることを杏は完全に否定できない。

ここで君嶋の志望校が皆に発表される。それは卒業後、彼は東京に行くことを意味し、この5人の集まりも この1年で終わってしまうようだ。

勉強会を始めても、先生とは目も合わず、会話すら ままならない。しかし城ヶ島が成瀬に頑張ってアプローチを続ける姿に刺激を受け、杏は先生に会いに行く決意を固める。

だが その前に君嶋とも もう一度話す。杏は君嶋から もう一度 アプローチされるが、それをキッパリはねのける。それが杏の答え。いや、分かってたでしょ。『7巻』文化祭回と全く同じ展開じゃないか、と眩暈を起こす。完全な再放送である。しかも君嶋は まだ あきらめないという。最強の当て馬の処理方法は少女漫画の永遠の課題かもしれない。

そして杏は、『7巻』の夏祭り回で先生が自分の慢心を感じたように、自分も先生との関係を当たり前と受け入れていたことを自覚する。先生は杏の1番でいれるよう頑張ると言ったように、杏も頑張らなければならなかったのに、愛されることを当然だと思い始めていた。
いつの間にかに交際における好きの矢印の大きさが逆転していた。こういう逆転現象は交際編ならではのこと。いつの間にか男性の方が愛が大きくなっているのが少女漫画の定石である。

それに気づけたのは、先生が冷たく指導してくれたから、と杏は都合よく考える。本当は古屋先生が嫉妬で大人げなかっただけなのだが、そんな杏のポジティブさに先生は救われる。3者3様に自分の行いを反省して欲しい内容となった。明るいラブコメは もう戻ってこないのだろうか…。