タアモ
あつもりくんのお嫁さん(←未定)(あつもりくんのおよめさん(←みてい))
第03巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
東京から遊びにきた高校生の敦盛を追いかけて高校進学を機に上京した錦は、少しずつ新しい生活にも慣れてくる。敦盛にどんどん惹かれる錦は、成り行きで彼の家族と食事をすることになり、期間限定で敦盛とお付き合いをすることに!
でも、食事会で家族と接しているうちに敦盛の孤独に触れた錦は、どんな時も彼の味方でいようと決意する。そして彼女(仮)も終わりかと思いきや敦盛からのキスで正式なお付き合いをすることに。でもそんな錦を、地元の婚約者の宝くんが待っていて――!?
結婚したい人・敦盛と結婚しなきゃいけない人・宝くんとの三角関係から目が離せない!!! 田舎のピュア女子×都会のオレ様王子の不器用婚前ラブ第3巻!
簡潔完結感想文
- 当て馬の来訪と夢の三角関係だが、帰る時期が決まっている当て馬なんて恐るるに足らず。
- 親友を大切に思うからこそ敦盛の不誠実を責める かの だが、敦盛の処理速度が遅かっただけ。
- 何の変哲もない夏服を見て かっこいい・かわいい と思い始める、恋は盲目の魔法使いカップル。
三角関係が始まるようで、その実態は当て馬の悪あがきに過ぎない 3巻。
せっかく断ち切ったはずの地元の しがらみ が東京で復活する。諸悪の根源は誰なのか、探りたくなる『3巻』である。そして全ての根源には家柄・家格や家同士の約束という「家」という結婚から生まれるが、結婚を阻害するものがあるように思う。
ヒロインの錦(にしき)には、親が決めた許婚・宝(たから)がいた。だが親友の かの が宝と幼なじみ かつ 彼に好意を持っていることから錦は どうにか自分が身を引くための好機を窺っていた。そんな時に御曹司・敦盛(あつもり)が目の前に現れ、彼が地元から東京への脱出ルートを錦の前に示してくれた。息詰まる地元から逃げるように錦は東京行きを決め、その新天地で自分の人生を見つめ直す。
当初、錦は自分の存在が宝と かの の関係において邪魔だと考えていた。かの が本当は好きな宝への想いを封印するのも自分という存在があるからで、それが2人の友情のボトルネックになっていた。だから錦は地元から存在を消して、後は若い人同士でってな感じで、幼なじみ同士の関係性に任せるようにした。そんな自己犠牲の精神が錦にあるから読者は彼女に共感した。
だが視点を変えると本当に邪魔なのは誰だったのか分からなくなる。そして地元に置いていったはずの人間関係が東京にも持ち込まれて錦を苦しめる(敦盛の存在で無敵状態だが)。
もちろん諸悪の根源は錦の父親だろう。彼が娘に対して生き方を強要する、人権を無視するようなことがなければ、ことはスムーズに進んでいたかもしれない。そもそも錦は、宝本人への嫌悪はなく、むしろ彼に好感を持っていた。だが宝との結婚話が進んでしまうことで自分が犠牲にすることの多さ(進学の夢・将来)があることに気づいた錦は、そこからの脱出を図った。家同士の約束ではなく、自然発生的に若い彼らに恋愛感情が生まれることを見守るような忍耐力が父親に あれば良かったのか。
そう考えると『3巻』ではストーカーチックに思える宝も被害者の一人だろう。宝は家同士を縛る許婚という制度で錦と出会ったが、彼にとって その制度は幸運だったのだが、錦には逆であった。錦に そう思わせたのは、やはり2人の結婚を急がせ、娘に自由を認めなかった父親だろう。幼い頃から10年以上は宝の中に根幹としてあった錦との結婚という未来予想図を今更 あちらの家庭の事情で撤回されても困るのは確かだ。
そして『3巻』では かの も少々面倒くさい動きをする。錦と かの は、お互いの存在が互いの恋や将来を邪魔すると思い、2人とも正直な気持ちを封印していた。それは相手を気遣えるだけの優しさがあるから発生するジレンマだと思うが、その気遣いが火に油を注ぐ結果となった。
それが かの が感じた敦盛の不誠実な態度。敦盛は正直で嘘をつかない。だが恋愛は初心者で自分の気持ちが判然としない。だから かの に錦のことが好きかどうか わからない、と自分の率直な気持ちを伝えるのだが、かの には敦盛が錦を遊びの対象に思えたのだろう。だから錦が真に幸せになるために、宝の背中を押してしまう。地元の身近な人が誰も幸せになれない未来よりも、自分が悲しむことになっても誰かは幸せになる未来を選んだのだろう。間違いなく かの は優しいのだけれど、全体が見えていないことも確かだ。御曹司で成績優秀な敦盛が、恋愛感情においては重役出勤で、のっそり顔を出すことも事態を ややこしくする要因となる。
通常なら片想い → 交際 → 結婚という段階を踏む関係性を逆から言っている錦と敦盛。2人は結婚を成立させるために仮交際が始まるという外箱を最初に作るスタイルとなり、『2巻』では錦が敦盛を真に愛おしいと思い、そして相手を思い遣るという自分より広い視点を獲得した。この『3巻』では敦盛の方が錦を好きになっていく様子が描かれている。
それぞれに片想いし、そして真の交際が始まり、それはすなわち本当に結婚への道が開かれ、そして2人で様々な困難を乗り越えることの始まりである。今回、敦盛は当て馬・宝によって奮起した部分があるが、その宝に諦めてもらう必要や、家の格の違いに改めて挑まなくてはならない。
少女漫画の幸福度的には最高潮だが、本書においては それは戦闘準備の開始に過ぎない。でも錦のポジティブさ、新しい感情や経験を学んでいる伸び盛りの敦盛なら きっと平気だろう。以前のかりそめの交際ではなく、本当の交際となってから、もう一度 人生の困難に2人が立ち向かう姿を早く見てみたいぐらいだ。
交際を断っても断っても つきまとうストーカーの宝が東京に襲来する(語弊あり)。だが彼の姿を認めた敦盛は開口一番、錦との交際を宝に伝える。宝は交際の事実を認めつつも、許婚である自分を軽視するなと敦盛に対して敵意を漏らす。どうやら宝は地元で務める市役所の仕事の都合で しばらく東京に住むという。せっかく地元に置いてきたはずのものに追いかけられるのは錦にとって悲しく苦しいことではないか。
宝は錦との仲直りとして彼女に東京観光を頼むが、地図の読めない錦に代わり、敦盛が その役を買って出る。2人の男性が1人の女性=ヒロインを巡ってバチバチに争う、少女漫画の お約束が展開される。しかし錦は宝の襲来よりも、その前の敦盛との初キスに頭を支配されていた。宝は登場が一歩遅かったと言えよう。
翌日、3人は東京観光する。そういえば原宿での買い物も男2女1の3人デートだった。この辺は冴えないヒロインが夢のような状況になる少女漫画的展開だ。そこで宝は錦が敦盛の彼女として それに見合う人間になろうとしていることを知るが、そこまでする必要があるのかと問う。そして改めて敦盛に対して宣戦を布告する。
敦盛は宝に対して表面上は温厚に接した。それは彼が錦にとって大事な人だから。同時にそれは敦盛にとって錦が大切だから出来る我慢でもあるだろう。そのぐらいの配慮は出来るが、嫉妬深い彼氏としての本音では他の男と一緒にいさせたくないはず。
このデートで2人は お揃いの物を一緒に持つ。そして敦盛が自分の手を強く握ることが、錦にとって彼女の証明のように思える。今回の件を通して、敦盛に夢中な錦は宝とは友達になれたと喜んでいるが、宝は それで納まるような人ではないだろう。
敦盛は彼氏として、錦を家まで運転手付きの車で迎えに行くし、その腕には自分の腕時計を装着させる。男性からのアクセサリは所有欲の表れというが、敦盛も そんな感じだろう。
学校で、錦は やちょる に、敦盛は蓮人に自分の交際を報告する。それに驚いた蓮人が錦のクラスを訪れ、そこで やちょる の顔を見る。なんと彼は3年前の やちょる との出会いのことや彼女の顔を覚えているらしい。蓮人を敦盛が連れ帰った後、そのことに感動して やちょる は涙を流し、少しだけ欲張りになる。
だが放課後、錦と一緒に3年生の教室に向かった やちょる は蓮人と話す前に逃亡してしまう。誰もが錦のように猪突猛進でいられる訳ではない。やちょる と この後に登場する かの は立ち位置が似ている。錦がグイグイ行きすぎという面も多々あるだろうが、長期間 憧れ続けると身動きが取れなくなってしまうのだろう。
だが殿様である敦盛には やちょる のような恋する乙女の機微が分からない。「俺は したいことをする」のが彼のモットー。
そんな彼が錦を連れてきたのは自宅。錦は敦盛の したいこと に貞操の危機も考えるが、彼が提案したのは勉強だった。どうやら敦盛の中で、錦の望むこと=好きな勉強、それを彼女が好きな自分と一緒に出来たら最強のコラボと考えたらしい。人との繋がりについて学び始めた敦盛だが、恋というものには無知な部分が多い。
だが それでも錦は敦盛が自分のことを考えて行動してくれたことに感動する。そして彼女も自分の心に正直に恋人っぽいことがしたいと伝え、同意を得て、敦盛に触れる。だが敦盛の両頬を両手で挟み、顔を近づけてくる錦に敦盛は照れる。されるよりも することを望む敦盛が錦にキスをして、敦盛の自分への気持ちが伝わり錦は涙する。
宝の東京への引っ越しに、地元の かの が手伝いに上京してくる。かの は宝と夜行バスの同乗の許可を、許婚である錦に取る。まだ彼女は遠慮していることを知った錦は、かの に初めて敦盛の存在を話す。自分の存在が かの に気持ちを抑えさせていたと謝る錦だが、逆に かの から、自分に遠慮して宝との関係を曖昧にしたり、東京に行ったのかと問われてしまう。だが錦は敦盛との出会いと彼の存在が原動力であったことを伝える。
かの は まだ宝への好意を認めないが、錦が宝に好きな人がいると話し、友達に戻ったことに対し安心を覚えたのも事実だろう。確かな友情の中にあった微妙な関係が2人の間では消滅し、この上京が意味のあるものとなった。
この前、観光には つき合った敦盛だが引っ越しの手伝いは拒絶する。だが親友の かの には挨拶をするべきと考え、結局は参加する。こうして4人は宝の新居で顔を合わせる。敦盛は庶民の引っ越し作業、そして掃除を初体験。更には狭すぎる庶民の家に驚くという殿様っぷりを見せる。
作業の合間に、かの は敦盛と話す。かの は敦盛に錦がすごい好きなんですね、と冷やかすが、敦盛は それは わからない、と答え波紋を呼ぶ。敦盛としては、自分の気持ちに名付けることが まだ出来ないから正直に答えただけだろうが、かの には それが不誠実に思え、許せないことだと敦盛を責める。
皆で きりたんぽ鍋を用意し、皆で一つの鍋を囲むことも敦盛には初めての経験となる。そして敦盛は かの に言われた好きという気持ちを、その帰り道に唐突に理解する。ほんの数時間差で敦盛は かの に誤解されてしまった。敦盛は恋愛に関しては情報処理が上手くいかないようだ。
その夜、恋をする錦に感化されて、かの も宝への好意を認め、そして例え彼が自分の方を見ていなくても、彼のことを頑張ってみようかと思い直した。だが宝は まだ錦に未練があるようで…。
翌日、かの は宝と2人で東京観光に行く前に、告白するどころか、宝を焚きつけるような発言をしてしまう。それは前日に敦盛が錦を好きかわからないまま交際している、という話を聞いてしまったからである。宝が錦を ちゃんと幸せにしてくれるなら、それが彼女にとって一番の幸福だと考えたのだろう。好きな人に好きと伝えるのは とても難しいことだということが やちょる や かの を見ると感じられる。そして錦のポジティブさよ。一般的な表現とは違うのだろうけど肉食獣といった感じか。
同時期、敦盛は錦が かわいくて仕方なくなっていた。彼女が光り輝いて見えるし、2人だけで登校するために電車を利用したり、以前は簡単にしていた手を繋ぐという行為も恥ずかしさを覚えて上手く出来ない。だが電車利用には危険が多いと感じ、翌日からは車での登下校にする過保護っぷり。
敦盛は自分がバグっていることをを自覚する。錦が魔法を使えるのではと疑う敦盛は確かに非科学的で壊れている。そして敦盛は錦を好きであればあるほど彼女に好きと素直に伝えることが困難になる。
だが錦を特別に思えば思うほど、家というものが敦盛にとって重しに思えてくる。社会的には家庭環境が同じで釣り合った方が良いというのが一般的な考え方のようだ。それでも敦盛は錦に救われたと考えている。彼女の行動力があって自分は変われた。だから敦盛は彼女に好きという言葉を初めて伝える。
物語の ちょうど半分の地点である ここが ある意味では出発点である。ここから彼らは双方の しがらみ に向き合わなくてはならない。