池山田 剛(いけやまだ ごう)
萌えカレ!!(もえカレ!!)
第06巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★☆(7点)
ずっと天敵だと思っていた新(あらた)のマジ告白に、ひかるは大混乱!宝(たから)くんを忘れて新とつき合うなんて、絶対ムリだよ――!!だけど、新の優しさに少しずついやされていくひかる。同時に、不器用な愛し方しかできない新の一面を知って…!? ●収録作品/「萌えカレ!!」#26~30
簡潔完結感想文
- まだ元カレを忘れられない女性との念願の初デート。目標は笑顔にすること。
- 風邪回で知る彼の本当の素顔と過去。歴史を繰り返してしまうのはヒロイン!?
- 始まったばかりの交際に吹き荒れる嵐。宝の戦線復帰で三角関係が再始動か。
少女漫画あるある:複雑な血縁関係を生み出した親は大抵 死んでる、の 6巻。
『6巻』で高熱を出して弱った新(あらた)が自分の半生を語っている。そこで語られるのは異母兄である宝(たから)と共通の父親の身勝手さだった。
彼らの父親は、日本に妊娠中の恋人(宝の母親)がいるのに、イギリスで別の女性(新の母親)と関係を持つ。そしてイギリスの女性を捨て、帰国後に恋人と結婚。帰国時にはイギリスの女性は妊娠が発覚していたのにである。
まず単純に色々と順番や行動が おかしい。まず なぜ日本の恋人が妊娠していると分かっているのに籍を入れないのか。そして妊娠を放置したまま外国での浮気である。しかも そこでも妊娠させる彼の下半身の緩さよ。それでいて日本に帰国後は責任を取って恋人と結婚するというのもチグハグな行動だ。これは新に複雑な家庭環境と、そっくりな異母兄弟を誕生させるために必要なのだろう。物語の序盤に新という謎の存在を謎のままにするために、その父親は物語から除外=この世からの退出を余儀なくされている。これが身勝手な行動に対する彼の罰なのだろう。
さて ここで大事なのは、この親世代の三角関係である。三角関係というよりは浮気男と その被害者たちなのではあるが、性別こそ逆転しているが、この三角関係は そのままヒロイン・ひかる を含めた宝・新との関係に移行できる。つまり ひかる は父親役なのである。そして宝の役は彼の母親、新は彼の母親の役割を担っている。
最初に交際していた日本の女性=宝で、次に出会った女性=新なのだろう。ひかる は妊娠こそしないが、出会った時間差も一時的に距離を置くことになったのも、交際の順番も同じである。この『6巻』で ひかる は新の優しさを知り、彼との交際を始めた。ひかる の名誉のために言うと彼女の場合は浮気ではないが、彼らの父親と同じく、最初に交際していた人とは距離が出来たところで新しい出会いに恵まれている。
ここで重要なのは、ひかる が彼らの父親役であるならば、その三角関係のエンディングも同じではないかと推測できる点である。つまりは ひかる は新という現地妻を捨て、元々 交際していた宝のもとに帰り彼と幸せな結婚をし、一家を設けるというのが考えられる結末である。
ひかる の気持ちは新の方に傾いてばかりいると思わせて、一世代上の事例を挿むことで この恋の結末を匂わせている。こういう点は作者が達者なところである。
ただ どうして新の家族が、父親の背景を知ることが出来たのかは疑問だ。だって父親のような浮気を簡単にしてしまう男が、現地妻に対して日本に恋人がいて妊娠中だ、なんて自分に得のない話をするとは思えない。しかもイギリスからは与り知れない帰国後のことまで承知しているのも謎だ。新の生活の豊かさを見る限り、現在、彼の後見人となっているであろう祖父は相当 裕福だと思われる。そんな彼が娘を騙した男を調査したのかな、と脳内補完しておこうと思う。
この過去からは宝が優勢に見えるが、もう一つ重要なのは素直になった新が ひかる にトラウマというべき愛されなかった半生を語っている点だろう。少女漫画に必要なのはヒーローのトラウマ。ヒロインは それを解決・解消するために存在していると言っても過言ではない。父親が早くに亡くなっているとはいえ宝は愛されて育った人。それに対して新は愛を知らない。ヒロインの無限の愛が注がれるのは、セオリー通りならば新である。さて、作者は どんな結末を用意しているだろうか。
しかし考えてみるに宝と新と、その外道な父親は外見が そっくりらしい。そして推察するに この男性陣3人は共通して女性だけでなく人間を魅了するフェロモンの持ち主なのだろう。新は父親そっくりに乱れた性を謳歌していたし、硬派だった宝も、嫉妬も含めてだが、キス魔に変身した。きっと性に目覚めたら狂い咲きするタイプなのではないか。ひかる とは1回きりだったし、今は亜美への罪悪感でいっぱいだろうが、いつの日か亜美から解放されたりしたら、父や新みたいに暴走するかもしれない…。差別するようでなんだが、少女漫画ヒーローとしては安心できない血筋である…。
見せないと決めていた宝への涙から守ってくれた新に感謝を述べる ひかる。だが、そう簡単に彼女は心変わりしない。『6巻』冒頭では ひかる は確かに宝のことがまだ好きだと言う。
だが新も そう簡単には ひかる を諦めない。自分に1か月の時間をもらい、その間に ひかる の気持ちを動かして見せると言う。それが新のラストチャンスとなる。当て馬は いつまでもいつまでもヒロインに つきまとう生き物だが、新は きっちりと制限時間を設定しているのが潔い。
そして新は強引に ひかる をデートに誘う。新は本当に ひかる が待ち合わせ場所に来るかから不安だった。だから彼女が顔を出しただけで安堵の表情を浮かべ、デートを断るはずだった ひかる も その表情を見て何も言えなくなる。宝は女性が憧れるタイプだが、新は母性本能をくすぐるタイプだろう。
前夜にデートプランを考えた新だったが、自分が ひかる を喜ばせられるのは手作り料理しかないと考え、公園でのピクニックを選択する。腕によりをかけ お弁当を作ってきた新のお弁当を見て ひかる も自然に笑顔を見せる。その笑顔に新は充足感を覚える。そんな彼の満ち足りた表情は今度は ひかる の気持ちを動かす。
その後も ひかる は新といる自分が自然体でいられることを自覚する。それは きっと宝が危惧していた2人の特別な関係だ。
更に ひかる は新の歪んだ性格を理解する。自分に対して言っていた暴言は全て反対の意味。彼はずっと自分のことを好きだと声高に叫び続けていた。
それから新は毎日 学校にも お弁当を作ってきて ひかる に食べさせる。その ひかる の姿を慈愛が満ちた表情で見届ける新に ひかる は彼からの好意を全身で感じる。
しかし新と一緒にいる時、宝の名前が聞こえただけで ひかる は新を拒絶してしまった。ひかる の反射的な動きだったが、それが新を傷つけたことを ひかる は後悔する。
だから雨の中、夜遅くまで新の家の前で彼の帰りを待ち、傷つけたことを謝罪する。ひかる は宝に揺れる心もあるが、新を傷つけたことに自分が想像以上に傷ついている。新を傷つけ、遠ざかることは ひかる には恐怖となっていた。ひかる の心の天秤は確かに揺れている。
雨に濡れた ひかる は宝の家でシャワーを浴びる。以前みたいな新からの性暴力の恐怖こそないが、男女間に流れる雰囲気に ひかる は固まる。そんな ひかる を察して、新は ひかる が完全に自分だけを見つめるまで待つと宣言。それが彼の誠実さである。まさか宝だけじゃなく新にも誠実さを感じる日が来るなんて。
シャワーを浴びた後、ひかる は同じように雨に打たれていた新が風邪を引いて高熱であることに気づく。風邪回の始まりである。守られてばかりの ひかるが看護側に回るのは初めてだろうか。宝は自己管理が徹底しているからか体調不良にならなかったし、『4巻』の遭難回では新は怪我を隠したまま、彼が ひかる の高熱を気遣っていたし。
ちょっとしたスキンシップがありながら新を看護する ひかる。そこで知る新の一面に2人の距離は ますます縮む。
この風邪回を通して新の これまでの人生が語られる。誰にも愛されることなく育った新。だから甲斐甲斐しく看病する ひかる に触れて、人の優しさを、そして相手を愛おしいと言う気持ちを初めて知った。ひかる もまた、今回 初めて新の孤独の深さを知って庇護欲が刺激される。ヒロインはトラウマには滅法 弱い存在ですからね。
長い時間を一緒に過ごし、ひかる は新といる時、自分を飾らないことに気づく。どんな自分も新なら認めてくれるという安心感が生まれている。だから ひかる は自分から新を次のデートに誘い、自分を新の彼女にして欲しいと お願いする。新が無邪気に喜ぶ姿が楽しい。あんなに 捻くれていたのに誰よりも素直になっているではないか。
だが、2人の交際が始まった その日のことを宝が目撃していた(多いなぁ この展開)。
事故から5か月、亜美(あみ)はリハビリに励み、退院する。左足に麻痺が残るが、支えを利用して歩けるまでに回復した。完治したら自分から離れるかと聞く亜美に対し、宝は命の恩人だからという理由で側にいようとする。亜美はそれが偽りだと見抜くが、自分にとって都合がいいため黙っている。離れない理由で、亜美を愛してるなどとは決して言わないのが宝らしい。
亜美の退院は、宝の戦線復帰となるのか。少なくとも学校での遭遇は これまで以上に多くなるだろう。
宝は空手部に復帰、そして亜美もマネージャーとして空手部に籍を残す。新との交際を決意しても、ひかる は宝と亜美の2人を見るのは辛い。そんな気持ちを新は察してくれる。初々しい交際が始まって、新は常に優しく、ひかる は彼を裏切りたくない。自分の心の天秤が動くことを誰よりも恐れているのは ひかる自身であろう。
そう思っているのだが、ある日、サッカーボールにぶつかった ひかる を宝が保健室まで運んでいく。そこで事故後 初めて(多分)、宝のモノローグが入り、彼がまだ ひかる を想っていること、そして新との交際に胸がはち切れるほど苦しんでいることが語られる。この胸の痛みは きっと これまで新が宝に対して思っていたこと。
目覚めた ひかるが目撃したのは物思いに沈む宝の姿。彼女は寝たふりをして やり過ごそうとするが、宝は ひかる にキスをする。それはまるでクリスマスの別れのキスの再現、いや その続きで、彼の唇から ひかる は自分への確かな愛を感じ取る。心理的に遠距離にいた宝が、いきなり誰よりも近い場所に現れた。
これによって まだまだ三角関係が継続していたことが発表され、いよいよ選択権は ひかる に託された。彼らの父親のように、最初の恋人のもとに帰るのか、それとも今の恋人を大事にするのか。前者の場合、新は2つ目のトラウマを抱えることになり、これまで以上に誰も信じず、性に溺れた生活になるんだろうなぁ…。