《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

自分で浮気しといて 相手が増長したら たしなめてヒロインを優先する自作自演ヒーロー爆誕。

後にも先にもキミだけ(2) (フラワーコミックス)
川上 ちひろ(かわかみ ちひろ
後にも先にもキミだけ(あとにもさきにもキミだけ)
第02巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

「言っとくけど俺から誘ったんじゃねーから!」そういう問題?「向こうからセフレにしてくれって言って来たんだって!」…(;一_一)「第一さー何度も言ってんじゃん」「他の女とやった後ほどあーやっぱ芙美がいいなーって思うって!」……………………あーもう!悔しい!頭では最低なヤツって思ってるのに、ひたすらムカついてんのに、速人を目の前にすると、どうしてもどうしても嬉しくなっちゃう。だって…やっぱ…悔しいけどカッコいいから。新鋭・川上ちひろが描くイマドキ17歳のラブコメ事情第2巻!

簡潔完結感想文

  • 浮気すると彼女は自分を大切にしてくれて、自分も一層 欲情する俺得システム。
  • 私という母港に帰ってくるなら、他の港に立ち寄ることも許す旧世紀の価値観。
  • 芙美にキャットファイトさせないために、速人が浮気相手を説教する謎の展開。

気はするけど、避妊は忘れないヒーロー、の 2巻。

他社作品よりも性欲強めのヒーローが多い小学館少女漫画ですが、学校内や時には野外で発情しても、必ずコンドームを忘れないというのが小学館コンプライアンスらしい。それは水波風南さん『レンアイ至上主義』の頃から一貫したルールみたいだ。

逆に言えば、避妊さえしていれば何でもしていいのが小学館作品。本書ではヒーローが堂々と浮気をする。そして その罰を一切 受けない。それどころか自分が浮気した相手が調子に乗ったら 彼女の増長を指摘し、歪んだ考え方を責め立てる。

ヒーローは自分から誘いに乗り浮気をするが、自分の「彼女」はヒロイン1人だけで、その座を脅かすものや、彼女に害意のあるものは徹底的に排除する。それは間接的にヒロインの脅威やリスクを排除している。ヒロインのピンチを守ったから、浮気男もヒーローになるということなのか??

ヒーローでありヒールの速人。こんな設定は なかなか ない。さすが炎上系少女漫画である。

訳が分からない。『1巻』の親の恋愛反対の お姫様抱っこ解決事件も不可解な事件だったが、今回のヒーローの行動も それに匹敵するぐらい意味が不明だ。
自分でヒロインを苦しめてから、ヒーロー参上とばかりに彼女を守るというパターンは、星森ゆきも さん『ういらぶ。』に近いものがある。あれも意味が不明だった。俺様ヒーロー戦国時代を生き残るために工夫を重ねたら、ヒーローが こじれすぎてしまい、価値観が歪になってしまうのだろうか。

コンドームさえ使えば、DV男も浮気男もヒーローになれるのが小学館ワールドである。


して相変わらずヒーロー・速人(はやと)に嫌なことが起きない世界観である。

例えば速人は所属するサッカー部の校内合宿中、見学に来たヒロイン・芙美(ふみ)と休憩中に部室で性行為をする。やがて練習が始まり、無断で練習に参加しない速人は その後に顧問に鉄拳制裁を食らうはずだったのだが、彼は殴られた様子もなく終わる。

本書において速人は幸運の星のもとに生まれている。浮気をしても自分を責めるような言葉を絶対に使わない芙美がいるし、上述の通り、彼女の親も抱っこ一つで交際を認めてくれた。乱れた男女関係であっても浮気相手にも その周辺の男性からも恨まれることなく飄々と速人は生きる。

そして今回、浮気自体が速人にとって お得なシステムであることが判明する。速人は浮気で性的な欲求を満たすだけでなく、浮気をすることで速人に捨てられたくない芙美が優しくなり、速人自身も「ほかの女とヤッた後に限って 無性に芙美が恋しくなんだよね」と豪語するぐらいで、心身ともに速人の欲求を満たす万能のシステムなのである。

しかも上述の通り、速人を罰するものは この世界には誰もいない。こうして速人は万能感に支配されるのだろう。だから浮気相手の増長に偉そうに説教できる神経を持つ裸の俺様に変貌していく。運動系の部活だが かつての先輩や顧問に抑圧されることなく、速人は伸び伸びと育つ。

しかし それは好きな子や両親の気を引きたくて、わざと意地の悪いことを言う子供と同じなのである。自分のその精神構造に気づかない所が、速人が俺様ではなく、お子様な部分である。読者だけが、速人が裸で ふんぞり返っていることを知っている。


気を前提にして物語を紡ぐ本書は、もはや少女漫画ではない。浮気相手は単なる少年漫画のバトルモノの敵だろう。そして連載継続のために次から次へと敵が現れて、あれっ、なんで戦ってるんだっけという目的を見失うヤツである。
そうなると速人は ただの浮気マシーンで、敵を生み出すためだけの道具である。速人はシステムに組み込まれた ただの甲斐性なしなのかもしれない。

また速人の浮気を前提とした女同士の戦いは、大奥とか不倫モノとかに近いイメージである。浮気は発端に過ぎず、芙美が どうやって正妻に上り詰めていくかという彼女の物語である。本当のファイターは芙美である。ここでも速人は ただの甲斐性なしである。

そう考えると本書で最も輝かせたいのは、芙美なのかもしれない。大抵の少女漫画はヒーローの格好良さの宣伝に利用されるけれど、本書は芙美を好きになってもらうための構成に見える。女ライバルの存在は勿論、ヒーローの速人さえも芙美を立派な常識人に見えるようにするための道具である。
芙美より最低の人間を配置することによって、相対的に芙美の価値が上がる。更に芙美は非戦を貫くことにより、悪意を持つライバルの卑小さが際立つ。


3年生に進級した芙美たち。クラス替えがあっても2人は同じクラス。やはり速人に悪いことは何も起きないのである。

これを機に2人が出会った1年前が回想され、1話から交際中の2人の出会いまでが描かれる。ただ何度 語られても2人が互いのどこに惹かれたのかが全く分からない。すっかり速人に魅了された芙美は「頭で考えるより先に体が動く」ような状態だし、その速人の魅力が読者には ちっとも分からない。

芙美は交際前から速人が評判が良くなくても、現段階で2・3件清算しなくてはいけない関係があっても、彼を選ぶ。恋する乙女には客観的意見なんて意味がないのだろう。

好意的に見れば速人は最初から芙美のことをよく見ているし、本気で恋愛をしようとしているから彼女の告白から交際前までは一切 思わせぶりな行動をしない。

そして速人が晴れてキレイな身になってから、交際初日でディープなキスをする。芙美にとっては初めてのキスなのに快楽に溺れているように見える即物的な2人である。2人を結びつける最大の要因は快楽だという話なのだろうか。


美はサッカー部の新マネージャーが速人のことを狙っていることに勘づき、部の校内合宿で何かが起きると予感が消えない。

予想通り、新マネは合宿中に速人のセフレにしてもらうため彼を夜の部室に呼び出す。ここで選択権は速人に託されたが、据え膳食わぬは男の恥。彼は部室に現れる。速人は早々に新マネ・栞(しおり)と契りを交わし、「初めて」なのに積極的な彼女の性格を面白がる。

速人を巡る女性たちの戦いは、まず速人と「一戦」交えてからじゃないと挑戦者の権利を得ない。

自分の身体を投げ出してまで速人に近づきたかった健気にも思える栞に対して、速人が「ほかの女とヤッた後に限って 無性に芙美が恋しくなんだよね」というデリカシーの欠片もない発言をすることに驚く。ここまで最低な人間だったとは…。

栞は性格の破綻している速人も含めて好きというが、こういう発言が芙美に対する嫉妬を生むとは考えないのかね。速人は女心への理解度がゼロである。
だが、こういう点も栞からすると速人は心にもない嘘とか綺麗事は言わない人だから信頼できるという。嘘がない速人が自分を彼女にしてくれた時の達成感を栞は目指しているのかもしれない。


宿最終日に芙美は速人の様子を見に学校に向かう。そこで栞とバッティングし、彼女の態度から何があったかを悟る。芙美は頭は悪そうだが勘は良い。

芙美は速人の休憩中に部室で会い、そして この部室で何があったかを上書きするように自分から速人を誘う。今度は栞が 恋人たちの情事を知る番となる。性行為中、芙美は速人の浮気を前提に話を進め、速人もそれを否定しない。この時点で芙美は快楽を優先し、速人の浮気を許容している。お前にプライドはないのか、と言いたい。


は そんな速人の彼女の座を狙う。芙美の間接的な反撃を受けてから栞は積極的に動き、事後、速人のピアスを貰う。これは芙美が速人から贈られた新品の指輪とは違い、速人が肌身離さず身に着けていたピアスだから価値が高い、と栞は心中でマウントを取る。そこからは自分の野心も速人に隠さない。

芙美の速人への怒りは、彼の顔を見ただけで消えてしまう。芙美は指輪を貰った時の速人の言葉と好きという言葉だけで生きていけるから。芙美もまた速人には裏表がなく、彼が本当に愛情表現をするのは自分だけだと分かっているのだろう。その意味では芙美も心中で栞に対してマウントを取っている。

彼女の敵は浮気をする速人ではなく、速人が浮気していることをピアスの消失でアピールする栞だ。

一方で、芙美は速人には文句を言わないのに、グダグダと悩んでいる。自分たちは もうすぐ別れるのではないか、これが最後のキスなのではないか、既に勝負はついているのではないか、彼女の悩みは尽きない。
そんな気持ちを友達に話したら、栞との徹底抗戦を提案された。そこで自分に喝を入れ、女同士の戦いが始まる。


『1巻』の浮気でも しばらくは速人と距離を取る芙美だったが、結局、身体は重ねる。
芙美は速人を自室に呼んで、来月の彼の誕生日用のプレゼントを先行して渡す。その品は偶然にもピアスだった。浮気相手が速人のピアスをねだり、芙美は新しいピアスで彼の耳を支配する。部室での性行為といい、芙美は負けん気が強くて、栞にしっかりと対抗している。そういう間接的な反撃が栞の不興を買うのだろう。

だが栞が図に乗ってきたことを認識した速人は一方的に栞との関係を終わらせる。栞が速人の部屋に上がろうと願ったこともあるが、彼女の野望は速人の逆鱗に触れるものだった。

浮気をした本人の速人が栞の態度を たしなめる。ただ栞もバカじゃないから、速人が「いちばん ひどいことをしてる」と反論する。だが速人も それを栞の逆ギレだと指摘し、彼女を黙らせる。俺様理論が酷い。だが このような速人の態度は栞に芙美への敵意を倍増させるだけ。栞が直接攻撃に出るのも間近だろうか。

そのような状況で芙美と栞は廊下で出会うが、芙美は栞に呪いや悪口を言わない代わりに、嫌味を言ってスッキリする。こうして作中で一番 我慢強い人間が芙美となり、彼女だけが間違ったことをしない。さすがはヒロインである。


「年上リトルガール」…
大学3年生の あかり は、5歳年下の高校生1年生の烈にナンパされてから彼のことが気になるが、年齢差が気になり2か月間、彼への気持ちの答えが出ない。年上なのに振り回される自分が情けないが…。

この話もヒロインが男のペースに巻き込まれて話が進み、身体を重ねると年齢差なんてどうでも良くなるという快楽主義が見える。経験豊富な彼がヒロインにだけキスマークを付けることが この愛の特別性を演出しているのも、本編と同じである。似たような話なのは作者の願望が詰まっているから、こういう話しか描けないからなのか。

この話のヒーロー・烈は速人と同じ精神構造で、こういうことを芙美の知らない所でしていても何の不思議もない。彼らの「本物」が見えてこないから、全く信用ならない。