《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインにとってはハッピーエンドだけど、読者にとっては地獄のバッドエンド。

甘い悪魔が笑う(6) (なかよしコミックス)
鳥海 ペドロ(とりうみ ペドロ)
甘い悪魔が笑う(あまいあくまがわらう)
第06巻評価:(2点)
 総合評価:★☆(3点)
 

一心(いっしん)は、一番近くにいてくれるけど、一番キケンなハルルの専属執事。毎日ドキドキしながらも、ハルルはピュアな思いを寄せている。ある日、新作の口紅発表パーティーにお呼ばれしたハルル。親友のため、急きょモデルとしてステージに立つことに! そればかりではなく、なんと一心以外のオトコのコとキスをしなくてはいけなくなり!? ハルル、最大のピンチ――!! ピュアピュアお嬢さま×悪魔な執事のデンジャラス・ラブ、ついにクライマックス!!

簡潔完結感想文

  • 最終回を見据えてか、いきなりヒロインに夢と才能が開花する。甘い世界だ…。
  • 何年も、何年もかけて配達ミス。世界を救うのはヒロイン・ハルルお嬢さま☆
  • 伏線? なにそれ 美味しいの? 甘い甘いキスがあれば この世には何もいらない。

わゆる「壁本」が決定的になる 最終6巻。

壁本」とは「読後、壁に叩きつけたくなる本」であり、本書は紛れもなく その一つに数えられる。いや一応、少女漫画的にはハッピーエンドなのだが、それまでの伏線や登場人物を全て丸投げしているから肩を落とさざるを得ない。最初から いつだって終われる作品をダラダラと続けてきたことが証明されてしまった。

以前から宮城理子さん『花になれっ!』と同じように、ゲストイケメンキャラがヒロインをちやほやする漫画だと指摘してきたが、どうやら その終わり方も『花になれっ!』と同じく徒労のハッピーエンドになってしまった。長編に見せかけたオムニバス形式の漫画で、途中の思わせぶりな伏線は放置されるのも一緒。『花になれっ!』は色々と振り切っているが故に忘れられない作品になったが、本書は何もかも中途半端に終わった。00年代後半の執事ブームに乗っかり、ヒーローのトラウマを匂わせ、少しアダルトな雰囲気や三角関係も匂わせたが、結局そうやって自分に注目が集まるようにした自己顕示欲の塊のような作品だった。

この終わり方は、唐突に打ち切りが宣言されて、作者の準備が整わなかったのか、とも考えられるが、その割に突然ヒロインに進路を考えさせて、彼女の自立を模索していることから(『6巻』の1話)、そこから3話分は時間の猶予はあったと見られる。それだけの時間があれば様々な問題に けりをつけることも可能だったと思うが、作者は関係のない話を展開し、最終話付近で一気に物語を畳み始める。最後まで構成を考えられなかったようだ。

ハルルと即席の執事である一心には身分差は存在しないのに、最後の関門のように描く違和感。

まずはヒーロー・一心(いっしん)の問題。序盤にあれだけ家柄に秘密があるような描写があったのに全無視。傾いた会社とはいえ一心が社長令息であることも忘れさられ、ヒロイン・ハルルとの間には身分の差があることになっている。
それなら ここまでに2人が思い悩む描写を入れるべきなのだが、ずっと平和に暮らしてきて、最後の2,3話で主人と執事という立場の違いが示されるだけ。唐突さに理解が追いつかない。
それならばラストは一心の家族関係を蒸し返した方が、序盤の描写が伏線だったということに なったのに。

そして千莉(せんり)と香月(かづき)の問題も言及されない。香月は当て馬・千莉が送りこんだスパイだったはずなのに、すっかりハルル陣営の1人に成り果てている。香月は最終話で1コマだけ出てきたが、千莉に至っては『6巻』では消息不明になっている。『4巻』で あれだけ「あきらめない」と息巻いていたのに、結局 少しもハルルに近づいて来なかった。

その時点では千莉を当て馬として継続するつもりだったのか、それとも思いつきで台詞を言わせただけだったのか、作者の考えていることは まるで分からない。そういえば『2巻』で出てきた音楽教師・花音(かのん)も再登場は叶わなかった。登場人物を大事に出来ない作者を好きになることは出来ない。

この惨憺たる結果は、デビュー作が連載化したことで作者の時間・覚悟が足りなかったことによるものなのか、それは次回作で判明するだろう。2023年現在も お仕事を続けられているということは、作品が読者から支持されているということである。それは作画だけでなく、物語を創る能力も向上したからだと考えられる。作者の真価が問われるのは次回作であることは間違いないだろう。


「devil's lesson 21」…
進路調査票が渡されたハルルはデザイナー志望を明言。そんな彼女の進路を知ったクラスメイトがハルルに告白をする際の服作りまでお願いする。一心の助言もあってハルルは彼女のための服を完成させ、告白も無事成功する。

ハルルが いきなり夢を持ち、そして能力まで開花する話となる。いきなり服の構造が複雑そうな「テールジャケットも つくったの」と言い出す。天才か!
これまでの万能執事・一心との交流で、ハルルが夢を固め、その技術を向上させるための努力を描いてきたのなら分かるが、ハルルは最初から躓(つまづ)くことなく才能を発揮する。結局、ハルルは お嬢さまだし、将来も明るいし、恋愛も自分の気持ち1つで成就させてしまう。そんなイージーな人生を見させられて読者は どう反応すればいいのか。

それに このクラスメイトの告白、服の効果は もちろんあると思うが、相手の反応を見るにクラスメイトが どんな格好でも告白すれば上手くいった可能性が高い。

「devil's lesson 22」…
一心同伴でパーティーに参加するハルル。このパーティーは口紅の新作発表会でもあった。何年もかけた新作の開発だが、口紅が別の会場に届くハプニングが! そこで事前に その口紅をつけていたハルルがモデルとして登場することになるが…。

生ものじゃないんだから、発表当日に口紅を輸送する意味が分からない。完成品の最初の1本をハルルにプレゼントしたのに、その他全部を社員の誰1人も持ち歩いていないの!? 本書は一心が有能なのではなく、周囲がバカなだけ。本当に小学生だけをターゲットにした漫画なんだろうなぁ…。

ハルルを舞台の主役にするためなら、ありえないミスと設定を用意する。ハルル女王、バンザーイ!

「devil's lesson 23」…
引き続き口紅の新作発表会は、ステージの中央でキスをする演出。ハルルがエリオとキスするのを阻止する執事の一心。エリオは それが執事の領分を超えていると指摘するが、それでも前に進む一心を見て、2人にキスを実行させる。

執事のタブーうんぬんより会社の発表会に乱入した方が問題だろう。
実はこの演出はエリオの計画。ハルルのために彼女のピンチを演出し、そこで一心が進み出ることを予想していたのだろう。このキスの演出の中にエリオに下心がないのは、彼が同性愛者であることから明らかということか。
そう考えるとエリオの計画に一心は乗せられた、ということになり本書で初めてゲストキャラに敗北していると言えるのかもしれない。

一心は、飲料をこぼすことで周囲の電気をショートさせ、シルエットでキスをしたように観客に見せる。この方法は危険すぎるだろう。そして その修理費は誰が出すと言うのか。
エリオの意図を一心が見抜いていたという設定にして、彼が合図をしたら会場が暗転する方が良かったと思う。なんて作者に こんな「高度な頭脳性」を描けという方が難しいか。

その後、彼らは取材陣や観客に囲まれそうになるが2人で逃避行を繰り広げる。そして2人っきりで夜のプールに落ちて語らう。そこで一心はフリではなく本物のキスをしようとして…⁉

この後、キスをした流れではあるものの、ハッキリとした描写がない。これは ちゃんとしたキスは最終回まで お預けということなのだろうか。何話中の何話でキスしたかをメモしている私には重要なことなのに。面倒くさいので本書のキスは最終話としているけど。

「devil's lesson 24」…
最終話。ハルルはキスをしたという認識だけれど一心の気持ちを聞いていない。両想いになったと思っていたのに、一心は執事として一線を引いてきて…。

ここにきて彼は「主人に特別な感情は いだ」かないという。それは一心がハルルと過ごす時間のためであった。一線を越えてしまうと2人は同じ空間にいれないから。一心も前回 思わせぶりな発言をしたのなら、ハルルに説明をすればいいのに。あの一心でもハルルのことだと余裕がないという演出とも受け取れるが。

だがハルルは欲張り。執事と彼氏の2役を一心に命じる。そんな彼女に一心も根負けする。そして今度こそ恋人の誓いとして2人はキスをするのであった…。

めでたし めでたし。ここまで乱暴にまとめた少女漫画も他にない。掲載誌「なかよし」って こんなレベルなの!? あー、久々に読んで損した少女漫画だった★