夜神 里奈(やがみ りな)
制服でヴァニラ・キス(せいふくでヴァニラ・キス)
第06巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
やっと正式にカレカノになった万里と心愛。けれど、「初めて」はまだ。ふたりきりの旅行で今度こそ!と思うけれど、そこに四谷たちイケメン5人衆が乱入してきて!?万里と心愛の「はじめて」を描く「early summer night」や雨の日のふたりの秘め事を描く「スコールと秘密。」ほか収録で大充実の第6巻、完結巻です!
簡潔完結感想文
- 5年後も変わらないヒロインのメンタリティと逆ハーレム状態。Hしたいだけの女。
- 今回のヒロイン兄妹を そのまま次回作に流用!? 先生の次回作に期待が持てない…。
- デビューから10年以上 経って劇的に向上する画力と、何も変わらない作者の好み。
デビューから10年が経過し、ヒロインの精神年齢は低くなるばかり、の 番外編の6巻。
書名は『制服でヴァニラ・キス』の6巻となっているが番外編集で、しかも収録5編中『ヴァニラ・キス』の番外編は2編。その他は次回作の番外編が1編、その他 読切作品が2編収録されており、『ヴァニラ・キス』のページ数は約半分。また、最後に収録されている短編は作者のデビュー作で、デビューから(この時点での)最新作の番外編まで作者の全てを閉じ込めた作品集と言えよう。
本書に収められた10年間で画力は格段に向上していることが分かるが、作風や志向は変わらないということが分かる。中高生たちが知り合う範囲の中で一番 格好良い男性が、ヒロインのことを(最初から)好きというのが共通の設定であった。男性の方が上手く愛情表現をしてくれなくてヒロインが振り回され、時に涙するのだが、自分が愛されていることを知りハッピーエンドというのが作者の手法だということが分かる。まぁ少女漫画の大半がこういう話だが、特に作者の場合はヒロインが打たれ弱く、一方的に男性からの愛を求めてばかりである。
デビュー作よりも どんどんヒロインの精神年齢が下がっていることが気になる。掲載誌の「Sho-Comi」読者の年齢に合わせた結果かもしれないが、自分の気持ちが相手に届かないと逃げて、相手が追ってくるのを待って、最終的には自分の望むような現実になるという何の努力もしていないヒロインばかりが誕生していっている。『ヴァニラ・キス』の番外編は5年後でヒロインの心愛(ここあ)たちは20歳になっているのだが、交際5年でも万里(ばんり)に自分の考えを伝える手段を持たない心愛は、まるで駄々っ子のように相手に当たり散らして、その後、彼が本音を言うのを待っている。自分の本音も「Hがしたい」なのに、それを言わないで彼に愛されている実感だけを欲しがる姿勢は何年経っても変わらなかった。「甘々」という言葉を使えば、作品の中身や成長がなくても許される世界なのだろうか。
デビュー作が今更 この番外編集に収録されるのは、『ヴァニラ・キス』がこれまでの作者で最大のヒットとなり抱き合わせ商法には うってつけだと判断されたからなのだろう。作者最大のヒットとなった本書で、連載の極意を習得し、より一層ブラッシュアップされた物語が生まれることを祈るばかり。現状では画力は向上したけど、話は…というのが私が隠さない本音です。
作者の中では裏設定はいっぱいあるみたいだが、そんなことより描くべき話が番外編集でも描かれていないのが気になった。
特に万里の義母・アキの その後が全く描かれていないのが気になる所。まさか…、心臓の手術の成功率10%だから…、…なのか??とハッピーエンドに水を差すようなことを読者に考えさせるぐらいなら、きちんと登場させて安心させて欲しい。
あからさまな連載継続策である空手部の7人の5年後を描いても、一言も喋らない人がいたり、そもそも5年前から影が薄かったりで再登場に喜びを感じない。イケメンを出しとけばいいだろうという編集部の読者を軽く見た態度が見え隠れする。
作中で16歳前後の男女が婚約式をしようとしたぐらいなのだから、番外編では結婚してもよかったのに、20歳の初Hにフォーカスしたのが残念だった。しかも年齢的には大人だが、上述の通り、心愛は子供のまま。心愛は この作品の中で精神年齢が低下していった気がしてならない。
「制服でヴァニラ・キス 番外編 スコールと秘密。」…
『4巻』のお泊り回の後、突然 降られた雨に濡れる2人の放課後を描いた お話。
微エロと男の子たちの半裸など読者のニーズを分かってらっしゃる、と言った感じで、それ以上の内容はない。あと東京で降る雨をスコールとは言わないのではないかと思った。
ちなみに月見里(やまなし)が男友達といるとBL妄想する女性が現れる、というネタは全然 面白くない。作者がBLが好きなのだろうか。そういう妄想はファンがやればよくて、公式がやることではない。
そして一応『4巻』で急に万里が、四谷(よつや)と心愛の待ち合わせ場所に現れた理由を説明している(これでも場所の特定は出来ないと思うが)。
「制服でヴァニラ・キス 番外編 early summer night」…
2人の出会いから5年後の20歳の夏。5年経過しても まだ性行為をしていないという、ある意味でメルヘンな設定である。今回は、やっと邪魔が入らないように2人きりでの旅行。お互いに やる気満々なのだが、その本音を話せないというだけの話。
現在、万里は大学の法学部に在籍し、将来は警察官の義父と同じ職業に就きたいという。その旅行先に現れる元・空手部男性7人+月見里。四谷は まだ心愛が好きだというのもメルヘン設定。
万里は空手部の面々と楽しそうにしている心愛に気を遣って、月見里の別荘に宿泊することを提案するが、やる気満々の心愛は それが裏切りに感じられる。こうして万里が自分の思い通りに動かないと、自分のミスは棚に上げて、彼を責める幼稚な20歳の姿が浮かび上がる。相変わらず自分の意思を伝えないで、彼に分からせようとする姿勢が腹立たしい。
1人でホテルに逃げ帰り、万里が追いかけて来てくれてから本音を話す。もしかして自分の思い通りにHをするために彼を誘導したのかもしれない。性の話なのに、少しもヴァニラの香りについての指摘が無いのも気になる。ヴァニラの香りの設定は どんどん変わっていき、そして最終的になかったことにされた。書名は その残り香か。
「兄に愛されすぎて困ってます 描きおろし番外編」…
後に全11巻の長編となる次回作の前日譚(?)。心愛たち兄妹の関係性をそのまま持ち越したような お話で、それほど興味を惹かれない。番外編では中学生だが、本編は年齢が少し上がってヒロインも成長してくれているだろうか。そうでないと読むのがキツいかも。さて、どうなるやら…。
「おやすみのチューはくちびるにして。」…
幼なじみの5歳年上の大学生・光騎(こうき)と名ばかりの交際をしているアリス。キスをして欲しいと願うアリスだったが、いつまでも子ども扱いする光騎で…。
これもヒーローが裏ではヒロインを溺愛しつつ、感情を表には出さないイケメン、という既視感たっぷりのパターン。タイトルからしてヒロインの幼さが出ている。少女漫画らしい作品だと思うが、どこかの少女漫画で読んだ設定の流用して成立している漫画で、作者の工夫が見られない。
「スパイシーBOY☆」…
鬼の風紀委員長・有瀬 勇気(ありせ ゆうき)に校則違反が見つかり絶対服従を命じられた瑞菜(みずな)。
作者のデビュー作。上述の通り、このヒロインが本書収録作品の中で1番 大人びた容姿で1番 年相応の思考力を持っている。むしろ飴の個包装を大切に持ち歩き、内出血(?)の痕が残るほど腕を必死に掴む有瀬がヤバい奴である。自分から告白せずに彼女に告白させるという姿勢は、本編の心愛と同じで、完全なる男ヒロインであることが証明された。そう考えると有瀬はツンデレ悪役令嬢っぽいか(男)。