鳥海 ペドロ(とりうみ ペドロ)
甘い悪魔が笑う(あまいあくまがわらう)
第01巻評価:★★(4点)
総合評価:★☆(3点)
さぁ、お召しかえですよ、お嬢さま――。ピュアピュアお嬢さま×悪魔な執事のデンジャラス・ラブ、開幕!! 超名門男子校に通う一心にあこがれているハルル。ある日、一心がハルルの執事として現れて!?? ファッション、メイク、マナー。ぜんぶ教えてくれるカンペキな一心に、ドキドキしすぎてこまる毎日。だけどカレ、なんだかキケンな予感が……!?
簡潔完結感想文
- 小学生向け。話の連続性よりも1話1話の盛り上がりに重点が置かれている。
- 様々な職業のイケメンがゲスト参戦し、一心に返り討ちにあう の繰り返し。
- 連載直後は伏線を張っていたが、無かったことになるので記憶するだけ無駄。
執事とはヒロインを怠惰にするだけの存在である、の 1巻。
小中学生をメイン読者に想定している掲載誌「なかよし」の中でも小学生を対象とした作品だろう。自分を お嬢様と夢見ることが出来る読者なら楽しめる設定ばかりだが、それ以外の読者には現実離れした設定と、格好つけたのに格好がつかない物語に羞恥を覚えるだろう。
そして何より長編としての面白さが皆無だったので読まなきゃ良かったと心底 思った。序盤に張られていた伏線は終盤に回収されるかと思っていたら、伏線を一切 無視した終わり方で唖然として、徒労を感じた。基本的に様々な職業イケメンが1~2話限りのゲストとして登場するのが本書の基本なのだが、中盤になって初めて作品に長く居座ったキャラも その後 音沙汰なくフェイドアウトしていった。
全体的な印象は宮城理子さん『花になれっ!』を連想した。1話限りのイケメンキャラを通して、様々な職業をヒロインが体験するという形式が似ている。1983年生まれらしい作者が、1997年連載開始の『花になれっ!』をリアルタイムで読んでいた可能性は高いのではないか。そして残念なことに、序盤に予想された展開を無視して最終回を迎えるのも同じ経過を辿ったが…。
本書は作者のデビュー作でもあり、デビュー後に続編(2話目)が掲載され、3話目から連載化していった。連載部分からヒーローに何かあると匂わせ始めたのだが、上述の通り 無視。これは誰に責任があるのだろう。推測されるのは人気の急落で用意していた展開を発表する前に作品が終わったのか、それとも作者が話をまとめられなかったのか。新人作家への編集者の丁寧な指導・先導が足りなかったのだろうか。
2010年にデビューして2023年現在も活躍している作家さんで、デビュー作が いきなり連載化するぐらい才能に溢れている内容なのかと思ったが、本書では才能の片鱗を あまり感じられなかった。画力はメキメキと向上しているので、その変化を辿るのは楽しみだけど。
本書で一番 気になるのはヒロインの描き方。少女漫画、特に こういう小学生向けの作品で女性を無知で無力なものとして描いているのは気分が悪かった。
読者と同じ小学生レベルの精神年齢・知性にして共感を得なければならないのは分かるが、自分で通う学校を「おバカな お嬢様学校」と認識しているのも哀しいし、男性たちに振り回されているだけで思考を奪われているヒロインの姿は少女漫画による女性蔑視のような気がしてならない。そもそもメインの人物たちが高校生である必要性を感じない。読者が憧れる近未来の自分の姿と年齢じゃないとダメなのだろうか。
そこにセクハラ行為を是認するような描き方である。女性は常に男性の支配下にあるかのような構図とイケメン無罪というルッキズムが気持ち悪い。21世紀にもなって こういう少女漫画が望まれているなんて。同じ「なかよし」でも1992年連載開始の『セーラームーン』は知的で気高い作品だったのに。作家としてのレベルの違いなのだろうか。
また少女漫画における執事はヒロインを怠惰にするのも気になる。本書のヒロインも執事が来るまでは ほぼ1人で生活できていたのに、執事が来た途端 彼に依存し、自分で何もしなくなった。設定的には憧れるのかもしれないが、生活的にはヒロインは退化している。
あと単純に高校生執事はダサい。特に本書は通学に車を使っているが、結局 運転できないから執事もヒロインと同席していて間抜けだ。2人で暮らすようになってからは徒歩にすれば良かったのに。ボディガードになるし、彼氏と間違われたりもするだろう。
そして体型にも問題がある。ヒロインとのバランスの問題なのか、「なかよし」連載作だからなのか分からないが少年体型で成人男性たちに比べると見劣りする。だから執事が自分より年長の男性に対峙するのも あまり格好よく見えない。また彼がイケメンをやりこめる場面も快哉を叫ぶような言動じゃないから格好よく見えない。持ち上げて無理矢理 格好よく見せているだけのアイドルといった感じである。
長編作ではあるが、短編集みたいな構成なので1話ずつ感想を。
devil's lesson 1…
ヒロイン・白咲(しろさき)ハルルは隣の学校の超名門男子校の生徒が好き。そんな彼が、親の会社の援助をするハルルの母親に せめてもの恩返しとして執事として働くことになった。名前は里本 一心(さともと いっしん)。
なぜ妙齢の娘に同世代の男子高校生を執事にさせるのかは謎。全ては設定のため。特に読切短編のため展開重視。だがハルルが最初から一心を好きで、しかも名前も知らず見た目だけで選んでいるから恋愛漫画としても中途半端。
一心のセクハラは意味不明。イケメンになら こんなことされたい、という少女漫画読者の願望とでもいうのか。女性側のセクハラ容認と勘違いされるから やめればいいのに。
ハルルの家と一心の家は服飾関係の会社を経営していて、一心も後継ぎとしてスタイリストのような知識を学んでいる。父親との食事のためにドレスアップしてもらって結局 行かないという意味不明な行動。一心の仕事を無駄にしているし待ってる親の気持ちはどうなるのか。ツッコみ所が多い。
ラストの行動も幼稚すぎて全く理解できないハルルの行動だが、この話では自分から行動しているから まだマシである。執事がいる女性は本当に怠惰になる。なぜならヒロインが動いてしまうと執事の出番が輝かないから。女性側をバカでドジに仕立てることで、それをフォローする男性が有能に見えるのだ。
devil's lesson 2…
パーティーに一心を誘いたいけど誘えないハルルの困惑を描く。
冒頭からハルルは淫夢を見ているし、一心は女性の服を勝手に脱がす。刺激的な場面で読者獲得という新人作家の努力だろうか。初期の一心のセクハラも読者へのサービスのつもりなのか。
そしてドレスを汚した お嬢様のために お嬢様ごと風呂に運ぶとか意味不明。水で汚れを落としているようだが、お嬢様も風邪を引いてしまうではないか。
この話でハルルがしたことと言えば最後の最後で一心をダンスに誘ったことだけ。それだけで褒められるなんて お嬢様は楽な仕事である。そして なんと中身のない漫画なんだろうか。
devil's lesson 3…
この回から連載開始で、ここから1話だけのゲストの参加が続く。
今回はハルルが体調を崩す風邪回で、専属医師の夜雲(やくも)が登場。この段階では登場人物が増えて賑やかな話になると思っていたが、以後、夜雲が物語に登場することはない。ハルルがゲストイケメンにも大切に されることが読者の承認欲求を満たすのだろうか。
一心が夜雲に逆襲するシーンの意味が分からない。夜雲が一心を金で退けようとしたことをハルルの両親に報告して、夜雲の今の立場を奪うということ? ハルルに悪意をもって接しているとかなら ともかく、夜雲と一心の問題に両親が関心を示すだろうか。意味不明。
これを一心の頭の回転の速さ・冷静さ・判断力としているが、そうは思えない。ちなみに この回のハルルは雪で遊んで風邪を引いて、寝ているだけ。あとはヒロインらしい無邪気さを見せたぐらいか。5歳児ヒロインである。
devil's lesson 4…
ハルルの家の車と事故を起こしたのはホストクラブのオーナー兼ホストの虎城(こじょう)。この人も名前を覚える必要もない1話限りのゲストキャラ。数話に1回ぐらいゲストキャラも顔を出せば まだ長編として楽しめる部分が出てくるのに、それもない。
最初はハルルの家の金目当てに近づいた虎城だったが、やがてハルルに本気になる。海千山千の大人の男がハルルのどこを好きになったのかが全く分からない。毎回 ハルルが男性から気に入られて、でも一心が最後に登場して守るというのがパターンとなるのだろうか。ますます『花になれっ!』と同様の虚無マンガに なりつつある。
この回では一心はカリスマ性と、そして訳アリの背景によって虎城を撃退しているが、この訳アリの背景は一切 出てこない。一心の里本家が特別な家系のような伏線が張られるが回収されない。せめて一心の背景ぐらいは用意して欲しかった。