《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒーローが名門校で性欲ゾンビとなった女子生徒たちから逃げきるパニックモノ。

学園王子(4) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
学園王子(がくえんおうじ)
第04巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

黒王子、襲来!! 「おまえはお姫サマがたの高級なオモチャなんだよ」。黒王子・信長(のぶなが)の手先、杜(もり)&蘭(らん)が、飢えた女生徒たちを煽(あお)り立て、梓(あずさ)を追いつめる……。梓の躰(からだ)を悪魔の手が蝕(むしば)むころ、リセを密室に閉じ込めた赤丸(あかまる)は……!?

簡潔完結感想文

  • 公開処刑編の続き、そして続く。これまでと同じ内容を引き延ばして お送りしてるだけ。
  • イベント中の三角関係。ダメ男に人生を台無しにされないよう努力する誠実な赤丸さん。
  • 2人の男、それぞれの過去。水谷の過去が明らかになったと思ったら、赤丸に謎の過去⁉

谷(みずたに)が色々と刺される 4巻。

本当にゾンビモノみたいな内容になってきました。
好意を持っている女性のために安全を確保する男性がいたり、
極限状態の中で、これまで話してこなかった話をしたり、
性欲ゾンビに襲われる男ヒロインを女ヒーローが どうにか助け出したり、
ゾンビ映画としてはドキドキする場面の連続。

ただ、読みたいのは少女漫画なんですよね…。
相変わらず主人公・リセが水谷を助け続ける心理が全く分からない。
彼らが追い込まれたりピンチを脱出する様子は、
1回目の読書では楽しいのですが、2回 読みたいかと言われると微妙すぎる内容。

ずっと書いてますけど、本当に青年漫画のようなフォーマットなんですよね。
時折 挿まれるエロ描写で読者を釣って、
深い意味など考えさせない衝撃的な展開の連続で興味を惹かせ続けていく。
ちゃんと その目的は達成していると思う。
これは作者にある才能だと思う。

だが多くの青年漫画と同じく、その瞬間だけは読者は楽しいが、
作品としては完結後に評価が上がるような内容ではない。
話題を集めるから売れるが、大量に消費され、大量に廃棄される。

私は少女漫画、恋愛という何時でも普遍性をもった題材が読みたいのだが、
本書は そもそも その方向性が違う。
ゾンビモノが読みたいわけではないのだ。

そして『1巻』の感想でも書いたが、
少女漫画を巡る時代の流れによって本書の方針はやがて大きく転換する。
中盤のラブコメを誰が予想できたであろう。
今後は作者の信念の無さが露わになっていくだけである。


き続き公開処刑編。

そういえば この学園の男子生徒は そろそろ飽和状態だろうか。
2年生の男子は全員登場してるし、3年生も生徒会メンバーなどで出揃っているだろう。
男子生徒の価値を上げるために制限を設けてしまったから、もう簡単には男性キャラを増やせない。

処刑人の3年生たちには悲哀が見え隠れする。
この2人にはこの学園や制度に対しての恨みがあるみたいだ。
自分がこの学校で女性たちに蹂躙され、汚れ続けているから、
水谷にも「汚れてもらう」ことで、鬱憤を晴らそうとしているのではないか。
こうやって憎しみは連鎖していくのだろう。

彼らは女子生徒たちを軽蔑し、集団心理が性欲爆発の連鎖を生むと説明しているが、
男子生徒たちの行動もまた、下の代へと受け継がれていくのだろう。
これは厳しい部活動でのイジメや悪習と同じと思われる。


女子生徒たちが こうも熱狂するのは、水谷たち男子生徒が、
ただの男性ではなく、彼らが学園のVIP中のVIPだからこそだろう。
そして それは読者も同じ。
人数を制限して、訳あり設定とイケメン属性を与えることで、彼らに価値があるように思わせられている。
やがて その熱狂に読者も飲まれ、善悪の倫理観など どこかに忘れ、異常な祭りを楽しむことになる。


開処刑の内容は「狩り」。
体の自由を徐々に奪う薬物を注射されても尚、女生徒から逃げられるかが試される。
逃げきったら餌食になることはない、らしい。
ネクタイの交換、婚約式といい、何重かの安全装置によって男子生徒の安寧が確保できるようにはなっているらしい。
(それで安全だと思えないし、それを選択する男子生徒の必死さを楽しむ余興にすら思える)

そもそも これで人を欺き続けてきた水谷が許されるとは思えない。
でも水谷は自己保身に走って来たし、問題から目を背けて逃げるのは得意なのではないか。


一方、水谷を心配するリセは、彼女の身を案じた赤丸によって軟禁される。
だが説明の足りない赤丸の行動が、リセに不信感を増幅させる。

赤丸の意図に反して、リセは無理にでも水谷を助けに行こうとするが、
彼と揉み合いになった際に、赤丸に怪我を負わせてしまう。
これでリセは罪悪感と責任感から赤丸の傍から離れられなくなった。
リセという頼みの綱を切ることによって、水谷に完全に独り立ちしてもらうためでしょうか。

赤丸が怪我をしたことで、ようやく冷静に話し合うことになる2人。
リセは、赤丸の水谷への態度の真相を聞き出そうとするが、
赤丸は水谷に関する情報を持っている訳ではなかった。

実際には赤丸の権限では水谷の経歴等の情報を得られなかったから警戒していた。
こうして水谷の背後関係は謎のままとなる。
だが何かある人間であることは確かみたいだ。

どんどん大きくなる水谷の秘密。それに見合うだけの秘密が本当にあるのか疑わしいところだが…。

リセは水谷のことをどう思っているのか赤丸に問われる。
その答えは「…わからない…」。
だが、自分をかばってくれた水谷に嘘はないと信じている。

うーん、かばうような原因を作ったのも水谷だし、それまで卑怯な立ち振る舞いをしていたと思うんだけど…。
以前も書いたが、DV男に たった1回 優しくされた思い出を美化しているようにしか思えない。

私は よく少女漫画のヒロインは結果的に「聖母」になる、と書いてますが、
本書の場合、全く良い所のない水谷に対して聖母になっているから目が当てられない。
これでは どんなにダメな男でも許してしまう女性にしか思えない。

もう少し心を通わせた状態で、
リセが水谷という人間を分からなくなり、それでも手を差し伸べるという距離感の遠近があれば よかったが、
結局、ダメ人間である水谷をリセが許容してしまうだけの話でしかないから、
今回の騒動も自業自得の他人事にしか思えない。


セの助けがない水谷に手を差し伸べるのはクラスメイトの2年生男子たち。
彼らは友人として水谷を助ける。
学園のアイドル男子が やっと動き出しましたね

彼らが考案したのは女装して狩りに紛れて、上手く逃げるという作戦。
だが水谷は注射の影響があるため、その内に動けなることは必至である。

しかも自分が得た仲間は、水谷の弱点ともなる。
時間差で捕らえられた水谷とクラスメイトたち。
彼らの解放と引き換えに、水谷が観念することを提案する。

そして水谷の相手は、この学園のトップともいうべき3年生のSクラスの女生徒たち。
いよいよ行きつくところまで行きついた感じがします。
性欲ゾンビとしてはボスクラスの人間でしょう。
これを退治したら、もう学校で襲われることもなくなるのかな?

3年生の女子生徒たちは「ネクタイ交換」をしている男性がいる。
やはり 女生徒たちの欲望に対しては、学校の儀式やルールなど形骸化していくらしい。
その上でも水谷の躰を求める彼女たちを彼は嫌悪する。
それは自分がリセに対する裏切り行為を水谷に自覚させるのであった…。


上級の存在である自分たちに反抗的な態度を取る水谷に、3年生たちは彼をいたぶる。
全裸に剥かれ、あらゆる暴力を加えられた水谷。

そんな彼の居場所をリセは突き止め、突入。
何とか彼を救出して、リセは今度は水谷と落ち着いて対話をする。

そこで知ったのは中1で家を飛び出し、生活能力がないから、女性の所を転々として、
求められるままに どんなことでもやってた彼の過去だった。

水谷は色々な意味で頭が悪いから、その方法以外 思いつかなかったし、
そうやって生きていくことを悪いことだとは思わなかった。
だからリセに対しても傷つける意図なく、彼女を傷つけてしまった。

それを最近になって親に見つかり、家に戻らないかわりに この学校に入れられた。
それが水谷の過去。
過去は分かったが、水谷がどうして家を飛び出たのか、
そして そうまでして飛び出たかった家の秘密はまだ明らかにならない。

人の振り見て我が振り直した水谷。こうやって何度も間違えて水谷は真人間になっていくのだろうか。

そして今回も水谷は自分が救出されたにもかかわらず、
最後の最後だけリセを守ろうと身を挺する。
これもいつも通りの行動。

最後にちょっと誠実さを出せば、リセは それまでの水谷を許してしまう。
大体が、これは水谷のヒモ人生で彼が獲得した処世術にしか見えない。

水谷の発言の意図は分かったが、
こんな経歴の持ち主とは価値観が一致しないと思わされるだけではないか。
リセが水谷から離れられない理由が分からない。


今回、水谷の過去が分かったが、今度は赤丸とリセの過去が ほのめかされる。
公開処刑もまだ続くし、全てが判明するのは先になりそうだ。
動きはあるしハラハラもするが、特に内容のない巻である。