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少女漫画と小説の感想ブログです

地味な少女が花開いて大人の女性になる お約束を破り、辿り着いたのはロリ系アニメ顔 巨乳。

花になれっ! 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
宮城 理子(みやぎ りこ)
花になれっ!(はなになれっ!)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★☆(3点)
 

その地味さゆえに、好きな人からも相手にされないマジメな女子高生・山田もも。唯一の肉親である祖母を亡くし、天涯孤独となったももは、ひょんな事から超イケメン・蘭丸の家で住み込みのメイドをする事に! その上、蘭丸の手によりキレイに大変身を果たし…!? 解説エッセイまんが/宮城理子

簡潔完結感想文

  • 本末転倒。エロを隠れ蓑にしたSF少女漫画になるはずが、初期設定を捨て虚無マンガになる。
  • 愛されると拒めない、ビッチがデフォルトの仰天ヒロイン。浮気回数をカウントして楽しもう。
  • ヒーローと距離が出来たら新しいイケメンとの出会いの始まり。これが あと15回ほど続く。

たち読者もまた、エロやイケメンの香りに惑わされているのかもしれない、の 1巻(文庫版)。

虚無。
こんなに中身の無い少女漫画は初めてだ。
序盤は設定や謎の香りを振りまき続け、それでいて解決することを放棄した作品だった。中盤以降は「花人(なはびと)」という本書の核となる用語すら出てこない始末。花や香りがキーワードになるだけに、日本一の匂わせ少女漫画と言えるかもしれない。

とても、とっっっても好意的に解釈すれば、作者の当初の志においては、市川春子さん『宝石の国』みたいなことをやりたかったのかな、と思う。ほ乳類ではなく植物が進化してヒトになった、という発想から生まれた「花人」という設定。彼らがどう繁殖し、成長していくのかを描く、地球規模の壮大なSFになる可能性を秘めていた。このSF的なアイデアを、外国モノ・SFが禁止的空気のあった少女漫画界で通すために、ヒロイン・もも のような可愛らしい存在が必要で、花というのは美しいが生殖器だという解釈からエロ要素を取り込んだらしい。

結果的には これが大当たりしたのだろう。編集側から紙面を与えられず、連載が望めず、筆を折り転職すら考えた当時の作者を救い、そして 本書の連載開始から25年経過した今も漫画家として活躍されている。花人の香りが人を惑わせるように、少女漫画読者はイケメンとエロの香りに弱い。その読者の急所というべき点をしっかり押さえているから本書は人気を獲得したのだろう(たとえ どんなに中身がなくても)。ただ、これが作者にとって作家として良い転換点だったかは分からない。一番 簡単に売れる方法に手を付けてしまったのではないだろうか。少なくとも私には、ちゃんと話をまとめられない いい加減な作家として覚えられてしまった。

エロをSFの隠れ蓑に使用したはずが、エロこそ本体になり、当初の志は完全に忘却された。SF要素が使われるのは、なぜヒロインばかりがモテるのか、という少女漫画の都合の良い設定を上手くカバーする理由になったぐらいだろうか。どうせなら安定した人気を得た後の中盤から終盤で、もう一度「花人」についての伏線を張り、最終的にSF路線に戻せるような力量と覚悟があったら本書の評価も随分 違っていたのではないか。最終『9巻』で何の展開も用意されていないと分かったときの失望と言ったらない。最後は話を まとめてくれるはず、と信じていた自分が恨めしい。そして虚無感だけが残った…。

そして自分用の備忘録の意味も含め、本書における もも のビッチ生態を記して、イケメン登場人物の名前と人数、もも がされた行為などをまとめたいと思います。

『1巻』終了時点。
イケメン枠:蘭丸・矢野・花音・梅吉(計4人)
キス:蘭丸・矢野・花音・梅吉(計4人)
裸を見られる:矢野・花音(計2人)
男性からの愛撫:梅吉(計1人)


かし どうして少女漫画誌でエロをやろうとすると、少年・青年誌のエロと表現が似通ってくるのでしょうか。性的に迫られるのは女性側という一方向性が原因か。少女漫画界の中では、ヒロインは男性の身体に手を出さない 求めなければ無罪、という意識なのでしょうか。だから受動的に、男性側の どんな愛撫も受け入れるという構図が出来上がり、それが男性誌におけるエロ描写と重複する部分を生むのだろう。

裸の表現でも、イケメンの裸よりもヒロインの裸の方が圧倒的に多い。少女漫画なのだから、全部で10数人(推定)は出てくる男性たちを色々 理由をつけて裸にすることも可能だと思うが、やはり女性たちの楽しみの重点が、イケメンの直接的な裸などではなく、そのイケメンに自分の分身=ヒロインが愛されるという状況にあるからだろうか。

痩せて背の高いイメージだったヒロインが、段々と背の低いロリ顔巨乳になっていくのも「花人」の進化の過程だろうか。綺麗というよりも可愛いことが男女どちらからも庇護欲をそそり、そして自分に重ね合わせる余地が生まれるのだろうか。この少女漫画界での進化が、いわゆる典型的な男性オタク向けアニメの頭身やスタイルに落ちついていくのが不思議である。
『1巻』時点のヒロインからすれば、終盤の自分の姿こそ「あなた だれなの?」という感じであろう。

(左・『1巻』)のような姿だったヒロインが(右・『8巻』)のような姿になる。少女の理想=男性オタクの理想 なの⁉

本書は1997年連載開始。初期の絵柄としては女性は さいとうちほ さん やCLAMP っぽさを感じるが、じきにロリ系アニメの手法を採り入れていく。初期に登場する背の高い男性は とにかく 顎(アゴ)が長い。同時期に他誌での連載の『快感♥フレーズ』でも顎の長さに驚愕したが、この年代は下唇から顎までの長さが長いほど、顎の角度が鋭角なほど いい男だったのだろうか。これは やがて目立たなくなっていくから気にならなくなる。


ロインは地味な山田(やまだ)もも。メガネを掛け真面目で、クラスでも目立たず、想いを寄せるクラスメイト・矢野(やの)にアプローチしても冷たくあしらわれるような存在。祖母と2人きりで暮らしていたが、その祖母が亡くなり、身寄りも金銭的な余裕もなくなるという困窮の中、物語は始まる。

雨の中、一人泣いている もも に声を掛けた中年男性に彼女が ついていってしまいそうになるのは、それだけ孤独感が高まったからか、それとも この後2,700ページに及ぶ彼女の近くにいる男性に依存する体質が顔を出しているからか。

そんな彼女の貞操の危機や経済的困窮など諸々のピンチを助けるのが若王子 蘭丸(わかおうじ らんまる)。インパクト重視の1話からのキスを お見舞いして、もも に殴られる三枚目風の登場である(この頃の もも はまだ正常な判断が出来ていた)。

蘭丸は雨に打たれ高熱を出した もも を介抱する。目を覚ました もも は、祖母が裁縫を教えたという有名デザイナーの若王子エリカ、後に知ることになるが蘭丸の母親から若王子家のメイドになることを提案される。冴えない、そして泣いてばかりの現状を打破するために もも はメイドへの挑戦を決める。

デザイナーの母は海外を拠点にしており、その家に住むのは蘭丸と その弟・サクラ、そして飼い犬のパンジーだけ。もも は その名の通り、作品の王子様である蘭丸の手によって美しく花開く。髪を切られ、眼鏡を取られ、生まれ変わるのが第1話。ここまではまだ一般的な少女漫画である。


境の変化に戸惑う もも だったが、前向きな気持ちで自分の精神をコントロールする。この辺は彼女の数少ない長所が描かれている。

蘭丸は もも の高校に転入する。同じクラスになった2人は同居生活を秘密にすることを決めるが、蘭丸は開口一番「山田もも はオレのモノです くれぐらも手出ししないよーに!!」と目立つ発言をしてしまう。
もも の変貌と、転入生・蘭丸との親密な関係に嫉妬したクラスメイトたちから嫌がらせを受けるが、この学校の絶対的存在である女生徒・咲間(さくま)先輩が助けてくれる。
その咲間、そして蘭丸兄弟から「花の香り」を嗅ぎ取った もも だったが、放課後、蘭丸と咲間のキスを目撃し、そして むせかえる香り に包まれ倒れてしまう…。

身内の死、経済的困窮、有名私立校という舞台、風変わりなヒーローなど設定はどれも白泉社っぽい。

その香りは もも を女性にした。これまでなかった生理が始まり、彼女の身体は変化し始める。変わりゆく もも に周囲の反応も変わる。憧れていた矢野から つきあおうと言われ、キスを求められる。繰り返しになるが、この頃はまともな少女漫画&ヒロインだったので、もも は これを拒否する。早くも『1巻』中盤からは されるがままキスされるようになるが…。

遅れて登場した蘭丸が矢野を牽制する。しかし咲間が蘭丸との関係を匂わせ、加えて咲間が もも を女性として相手にしていないことを肌で感じ、もも は蘭丸を見限り 矢野と交際を決める。
そして咲間と蘭丸のキスを再び見て、男性依存症が高まったのか、矢野にキスを求める。蘭丸のような熱いキスを…。


う訳の分からない展開である。考えてみれば蘭丸は、もも にとってキープされるだけの存在である。蘭丸を軸にしているものの、矢野や『1巻』後半に登場する花音(かのん)との関係が終わったら もも が帰ってくるホームでしかない。蘭丸は もも を安心させる存在であると同時に、同じ数だけ不安にさせる存在なのだ。そりゃ 読者から人気も出ないはずだ。もも に誠実で悲しませない当て馬の人気が高くなるのも分かる。

そして もも は、どうやら性に目覚めると相手を香りで惑わせるだけでなく、自分からも男性との交流を求めるらしい。1話の中年オヤジもその対象だったのだろう。

自分の変化に戸惑う もも は学校を早退し、蘭丸もまた それを追いかけ、2人はデートをすることに。蘭丸は高校1年生ながら「2年ばかし休学し」たらしく、現在18歳で車の免許取得済みという設定。が、休学の理由なども最終巻まで明かされなかったような…。

生まれて初めて見た海で、もも は咲間の話題を出し、彼を遠ざけようとするが、蘭丸から求められ再びキスをしてしまう。自分や彼に特定の相手がいてもキスをしたくなればする。本能のままに生きる斬新なヒロイン像だ。

もも が蘭丸や咲間から香りを嗅ぐように、咲間も もも の中の彼女の香りを嗅ぎ、そして前日のキスのせいで蘭丸の香りが混じっていることを もも に指摘する。そして咲間は もも の蘭丸への想いは寂しさに由来するもので恋ではないと断定し、蘭丸は もも に同情しているとも指摘する。三角、いや矢野も含め、ドロドロの四角関係に突入するが、誰もが軽薄で そこまで興味を持てない。


んな中、学校イベント1週間の九州一周の修学旅行が始まる(どうでもいいけど、新幹線の外観が、1997年当時にしても古い)。学園モノなら、大きなイベントとして取っておくネタですが、とにかく早く人気が欲しい本書は大盤振る舞い。

ここ最近、もも は自分の美貌や魅力が開花していることに無自覚で、それに伴う危険にも無防備。そんな彼女を蘭丸は放っておけない。咲間がいながら蘭丸は もも に、もも は矢野と付き合いながら蘭丸に惹かれる。そして蘭丸に惹かれながらも、矢野が近くにいると彼のキスを受け入れてしまう もも。「やさしくしてくれれば だれでも よかったのよ…」咲間の言葉が反響する…。

だがキスをした1分後には「ごめんね… もう あたし 矢野くん とは つきあえない…」と別れを宣言する。矢野は もう生理的に受け入れられないらしい。変わっていく心と身体への困惑を蘭丸が受け入れてくれたことで、もも は彼の胸で泣く。修学旅行中に男を乗り換え続けるヒロイン。学校の女生徒だけじゃなく、全読者からも嫌われそうだ。

だが蘭丸と楽しく過ごした修学旅行最終日に、咲間の声を電話で聞いてしまい、もも は現実に戻される。
そして咲間という絶対的な存在に比べれば、モブの嫌がらせなど児戯に等しい。ここで もも や作品の中で選民思想というか、モブと選ばれた者の絶対的な線引きがされた。こういう選民性や特殊な環境の創作という部分は白泉社系の漫画っぽい。


旅最後の夜に露天風呂出会ったのは、花音(かのん)という美少年。花音は芸能人であり、本書最初の追加キャラ。
花音回は、これから最終巻まで延々と続くパターンの雛型。まずイケメンに会い → ピンチを助けてくれた彼との交流があり、やがて男性側が発情し貞操の危機! → どうにかそれを乗り越えたら蘭丸に戻る → しかし蘭丸と些細なことで喧嘩をしてしまい すぐに新しいイケメンと出会う…、というエンドレスループが始まる。

女生徒から水で溶ける特製水着(苦笑)を与えられピンチになる もも を学校にロケで来ていた花音が助ける。花音は自分の香りを知っており、その能力を使って人を動かす。モテることや、キス・愛撫をされること以外の意外な香りの使い方と言えよう。

花音は孤児で、親戚中をたらい回しにされ、そして唯一の血縁である蒸発した父親を捜すために芸能界で仕事をしているという。そして前触れもなく熱を出した花音の傍にいてあげることで、花音が もも に特別な感情を持つ。日が暮れる頃には熱は引き、もも を家に届け、別れ際に花音は彼女にキスをする。いよいよ もも のビッチ遍歴が幕を開けようとしている。

蘭丸は学校を抜け出し花音と行動し、そして彼の香りを残す もも を責める。もも も咲間と交際している蘭丸を責める。自分がさっさと矢野と別れたから立場は上らしい。咲間も いよいよ もも を敵視して、もも のストレスは頂点に達していたのだ。

少女漫画史上 最もキスの意味が軽い本書。雑誌の制限上 キスだが、実は全部「してる」という意味でも驚かない。

丸との距離が出来た際に、花音に呼び出され ホイホイと参上する もも。花音のCM撮影のキスの練習という名目でキスを交わし、そして そのCMにも急遽 カメリハに出演することになるが、騙され もも の姿がオンエアされてしまう。
それがまた花音との逢瀬の証拠となり、蘭丸は気分を害す。花音を責めるようにキスをするが、もも は蘭丸を拒絶。

蘭丸との距離が出来ると何が起きるかというと、新キャラの登場である。行く当てのなくなった彼女に声を掛けるのは「何でも屋の 梅吉(うめきち)」。梅は もも の母親を知っている素振りを見せ近づき彼女を眠らせる。ここから梅も作品も母のことを匂わせるだけ匂わす。そして忘れる…。

目を覚ました もも は自分がショーウィンドウの中にいて、言われるがままにマネキンを演じさせられる。
そこで飛び出すのが「純系花人(じゅんけいはなびと)」という単語。どうやら もも は「香り」を持つ人間の中でも特別な人間らしい。そして花人は、愛されると拒めないという特徴があるらしい。だからショーウィンドウの外で街の人が もも が愛撫されているのを見ていることを知っても拒絶しない。
蘭丸がガラスを叩き割り助けに来るが、梅吉は もも を連れて脱出し、もも は引き続き囚われの花人となる…。

読者が退屈を覚える前に新展開を用意する、そのスピード感とセンスには感心する。息もつかせぬ展開の中で新しい謎を用意して、これが最後まで続いたりすれば本当に『宝石の国』ならぬ『花人の国』になれた可能性がある。
だが本書は謎の方を捨て、エロとイケメンに走る。少女漫画読者は小難しい設定よりも、目の前のイケメンに愛される事を望んだ結果か。