《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒーローがしてるのは浮気ではなく、彼女に敵意を向けるライバル女性へのハニートラップ。

後にも先にもキミだけ(5) (フラワーコミックス)
川上 ちひろ(かわかみ ちひろ
後にも先にもキミだけ(あとにもさきにもキミだけ)
第05巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

浮気する最凶カレシと大学入学を機に、同棲、始めちゃいました。「お前、どこ行ってたんだよ!」…友達のとこ。「一晩中?」失恋して泣いてるのを慰めてたら…朝になっちゃった。「あのなー…遅くなってもいいし、外泊したっていいけど、連絡は入れろよ?心配するだろ?」速人、目が赤い…。変なの。自分だってしょっちゅう遅く帰ってきたりすんのに…「大事にするって言ったろ?」…速人…速人、どうしよう、もし、もしも、あたしが…他の人にやられちゃった…って言ったらどうする?大学編の2人は、高校時代よりもっと大変に!?

簡潔完結感想文

  • 大学生編・同棲編がスタートし ヒロインの心は四六時中 安らぐ暇がない!?
  • 妊娠騒動の次は性的暴行。読者の興味を引くためだけの炎上目的の重い内容。
  • 女性ライバルを倒すのもヒーローの役目で その前には取り敢えず浮気が必須。

女を守るためにも、まず浮気をしなければならないヒーロー、の 5巻。

本書のヒーロー・速人(はやと)は浮気が お仕事。彼が浮気することで彼女の芙美(ふみ)が速人に優しく接するようになり、速人もまた浮気(情事)の後には芙美への気持ちが燃え上がるので、浮気をすることは速人と恋愛にとってプラスの効果がある。

そして本書のルールとして速人が浮気をした人だけが芙美の女性ライバルに認定される。ライバル女性たちは浮気をして初めて一人前と認められ、その名前を作品に刻むことが出来る。

ただ本書が不可解なのは、浮気をするのも速人だが、彼によって選ばれた女性ライバルを撃退するのも速人の役割になる。ヒロイン・芙美の役割と言えば女性ライバルに精一杯の嫌味を言うことぐらい。今回から大学生・同棲編になり物語の舞台は一新され地方都市から東京になったのだが、芙美の役割は同じ。どうやら作者は芙美に悪意を持たせないことで彼女の清純さを確保したいらしい。

無理矢理、速人のことを擁護するとすれば、速人は自分に好意を持つ肉食系の女性の お相手をすることによって、彼女たちによる芙美への直接の危害を防いでいるとも考えられる。いわば速人の浮気は女性たちのガス抜きなのではないか。全く相手にされないと芙美への嫉妬が募るばかりだが、自分の獲物(速人)を味わうことによって女性たちは一時的に満足をする。
そして高校生編の栞(しおり)のように勘違いして彼女の座を奪おうとする前に速人が徹底的に女性の人格を否定することで女性ライバルたちは撤退していく。速人の浮気の回数が5回が限度というのも女性たちに情念が宿る前のタイミングなのではないか。

ヒーローの お仕事が浮気なら、ヒロインの仕事は嫌味を言うこと。正妻は どんと構えてなんぼ。

『5巻』のラストで速人は またも浮気をする。ただし これが速人の本書最後の浮気で、しかも これまでとは種類が違う。

今回は芙美が性的暴行を受けたかもしれない疑惑が起き、その復讐のために速人は立ち上がる。そのために疑惑の大学のサッカー同好会のメンバーを調査する意味もあって、彼は関係者にハニートラップを仕掛けて事件の真相を探る。この話における速人は探偵役であり、そのためには自分の性的な魅力も大人のテクニックとして駆使する。

ただ今回に関しては本当に浮気をする必要があったのかは疑問。芙美が酔いつぶれて記憶がないように、速人もターゲットの女性を泥酔させて まるで一夜を共にしたかのような状況にするだけでも良かった。それで勘違いさせて彼女面をしてきた所で彼女を叩き落すのも滑稽だったのではないか。

速人が本当に芙美と人生を共に歩くことを考え始め、自称・芙美の婚約者になっている速人が、この段階で浮気をしたら結婚へのバージンロードを汚すものになるのに、作者は匙加減を間違えているような気がする。本書は前代未聞のヒーローの浮気が話題になったばかりに、浮気をしないという選択肢がなくなっているように思う。

読者は速人に失望したと言いながら本心ではクズ行動を願っているから、ただの彼女思いの彼氏として軟着陸を試みる作者の選択は日和っているように見えてしまう。話題を集めるだけ集めたら一般人化するのが少女漫画の「俺様」だが、本書は人気の急落を避けるために、必要のない浮気が行われたのではないかと思ってしまう。


は なぜ速人の浮気は終わったのか、を考えてみると やはり同棲が大きいのではないか。速人は序盤から芙美の左手の薬指に指輪をはめたり、自分が18歳になった途端に婚姻届を作成したりと芙美と結婚する方向で話を進めている。

そんな彼にとって同棲は疑似的な結婚に近いもので、そんな彼の満足が浮気を封印し、芙美への愛をストレートに表現するようになったのではないか。芙美を独占し、彼女の行動を把握できることで速人は浮気をする必要がなくなった。

となると逆説的に高校時代の彼の浮気は、芙美に自分だけに集中して欲しいという「構ってちゃん」行動の一環だったことが分かる。自分の重すぎる愛が彼女側と一致しなければ寂しいからこそ、速人は浮気をし、芙美に優しく許されることで満足していた。

それもこれも両親に無関心に育てられてきたからこそ、そうやって悪いことをして自分をアピールするしか手段が浮かばないのだろう。やはり速人は俺様ではなく お子様であり、浮気の虫が収まったことは彼の成熟の始まりなのかもしれない。


て そんな速人の母親が冒頭の 3月末の引っ越しの場面で登場する。

速人の母は同棲にも反対していない様子だし、芙美にも優しく接している。息子とも関係性は良好で、速人が捻(ひね)くれる理由は見当たらない。もしかして作者が速人の両親の設定を忘れているのでは、と悪い予感がする。作者なら物語を円滑に進めるためなら過去の設定など簡単に なかったことにしそうである。

ここで2人の母親が揃って登場するが、父親は出てこない。芙美の父親は死別いているし、速人の父親は引っ越し作業には参加しない。本書においては父親という役割は不必要らしい。つまり それは約20年後の速人も同じであろう。彼は物語の主人公ではなくなるどころか、世界に必要なくなる。それだけが私の楽しみだ(笑)

芙美の母親は、芙美の友人で妊娠中の奏絵(かなえ)を念頭に、遠回しに芙美に避妊を忘れないよう諭す。喧嘩の仕方など同棲に際しての具体的な助言をして、速人も それに対して誠実に答える。

どうやら引っ越しの初期費用は2人で出し合ったようだが、家賃やら光熱費やらは親頼みになるのだろうか。新しい環境になっても彼らは すぐにバイトを始める必要性は なさそうだ。

普通ならドキドキの同棲生活模様だが、彼らは地元でも好き放題やっていたので新鮮味がない。

パートの隣人は「シンママ」のキャバクラ勤めの20代の女性と その息子が住んでいた。彼女は速人が下見に来た際に仲良くなり、その息子は速人のことをパパと呼ぶ。

これが この土地での芙美の不安の第一号になるのだが、正直、この隣人一家は何のために配置されたのか最後まで 良く分からなかった。最終盤で気づいたように この一家を出してきたが、どうも作者が考えていたような活躍の機会は設けられなかったのかな、という印象を受ける。本当に浮気させるつもりだったのかは分からないが、意味ありげなのに最後までスルーされる親子だった。

引っ越してきた1話は、同棲の楽しさや その反対の ちょっとした難しさを紹介して終わる。


して大学の入学式。芙美は早速友達が出来るが、速人は早速モテる。ここで速人に県内有数のサッカー強豪校の注目選手だったという過去が後付けされる。ただの高校の部活動にしか見えなかったが どうやら強豪校だったらしい。速人の価値が上がっていくが、これは作者が終わりを見据えて改変したのか。

大学生活開始から1か月。2人はそれぞれのペースを掴み始める。速人は最初こそ大学のサッカー部のレベルの高さを思い知ったようだが、結局 才能で乗り切る。サッカー部のマネージャーという芙美にとって鬼門の存在は、全員 部内の先輩と交際しており、速人は手を出せない状況。
その代わり入学式に声を掛けてきたサッカー同好会の美女・静流(しずる)が速人を狙っていると、芙美に宣戦布告する。

静流の存在に動揺して芙美は食事も作れない。そんな彼女の様子を責めることなく、速人は臨機応変に家事を分担する。東京に来てからの速人は優しい。


が、隣人母子は速人をパパと呼ぶことを止めないし、速人が静流とご飯を食べてきたことが重なり、芙美は頭を冷やしに近所を散歩をする。早くも喧嘩が始まりそうになるが、芙美は母に教えられたことを早くも実践して、正面衝突を回避しようとしている。芙美は交際して2年になる速人が好きでたまらない。だからこそ不安になる。だが芙美を裸足で追いかけてきた速人を見て、芙美の不安は一気に解消する。

その後、2人は狭い風呂に一緒に入る。そこで速人の要求もあり、芙美は避妊せずに速人を受け入れようとする。これは自分の不安を払拭するためであり、もし その先の妊娠のリスクを見ようとしない早計な行動だった。だが速人はヒーローなので、自分の発言をすぐに撤回する。これは2人が肉欲に溺れているように見えて、ちゃんとしている、という表現なのだろうか。

静流の狙いは、速人ではなく芙美。芙美に精神的ダメージを負わせ、彼女の自滅を狙う。だから一気に速人を襲うのではなく、芙美に自分の存在を匂わせるだけ。そんな静流の狙いを見切った芙美は、自分たちの円満さをアピールして彼女の悪意に応じる。これは『2巻』における栞に対する嫌味と似たような感じである。飽くまでも芙美は戦わない女なのだろう。こうして静流は芙美のことを骨のある人間だということが分かり、それが速人が芙美を側に置く理由だと見抜く。芙美がそれだけ強くなったのだろうが、作品的には速人と寝ていない女性は敵ではないのだろう。なにせ浮気が女性ライバル誕生の瞬間なのだから。


近 失恋したばかりの芙美の友人が、静流の所属するサッカー同好会に入り、そのコンパで酔いつぶれたという連絡が芙美に入る。失恋以降 ヤケになっているという彼女を助けに芙美は走る。だが柄の悪いサッカー同好会の誘いに乗り芙美も お酒を飲まされてしまう。これもまた静流が芙美の精神を壊すための行動であった。

次に芙美が目を覚ました時は、彼女は知らない男性と寝ていた。それは酔いつぶれた芙美の友人も同じ。男たちが目を覚ます前に2人は部屋を脱出する。
芙美たちは泥酔させられた挙句、乱暴された可能性に憔悴する。だが芙美は友人を責めたりせず、昨日の自分の間違った行動を反省し、そして彼女を励ます。ヤケを起こした友人も、浮気相手でも悪く言わないのが芙美なのである。

自分の脇の甘さが暴行に繋がり速人に合わせる顔がない芙美だったが、彼女の帰宅を知ると速人は血相を変えて出てきた。彼は眠れぬ夜を過ごしたらしい。
ここで芙美は友人の看病をしに行ったと嘘をつき、速人を安心させようとする。だが芙美の嘘は簡単にバレ、速人は芙美に何かあったと勘づく。昨日 行動を共にしていた友人から芙美への携帯に連絡が入った際、速人は裏声で応対し、芙美が友人ではなく「赤い腕時計」をした人物に呼び出されたことを知る。

それ以降、速人が優しく接するたび、芙美は自分の行動を悔い、トイレに籠って泣いていた。そうして速人は芙美が隠そうとしている事実に思い当たる。


美は日常生活でも男性に近づかれるかと不安を覚えるようになってしまっていた。そんな芙美の様子を知っている速人だったが、この時期に静流の誘いに乗り、彼女と浮気をする。一夜を共にしただけで早くも合鍵を渡し、彼女気取りの静流の部屋に赤い腕時計を発見する速人。

芙美は帰ってきた速人の 香水とタバコが入り混じる匂いから、静流との浮気を直観する。そして速人も それを否定しない。だが彼は今は黙って俺の言うことを聞け、と言う。そして芙美を自宅に閉じ込め、外部との連絡を一切絶たせる。それが芙美を守ることだと速人は言うが…。

これまでも数々の事件(栞の野望・奏絵の妊娠)などを、時には自分の身体をなげうって中途半端に解決してきた名探偵・速人。今回は どんな結末を迎えるのだろうか。あんまり興味はないが以下 次巻。