《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

最初の浮気相手に言いそびれた嫌味を言って、ヒロインの「本妻」の座は守られる。

後にも先にもキミだけ(6) (フラワーコミックス)
川上 ちひろ(かわかみ ちひろ
後にも先にもキミだけ(あとにもさきにもキミだけ)
第06巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

浮気する最凶カレシが変になりました。「もう二度と浮気しない」「おまえのこと、絶対失いたくない」「おまえが…ほかの男と…って想像するだけで死にたくなる」 芙美&最凶カレシ・速人、まさかのラブラブ編突入!!

簡潔完結感想文

  • 彼女の暴行事件の真相究明と復讐を果たすヒーロー。浮気する必要なかったよね??
  • 後にも先にもオレだけがいい と強く願うことで浮気ヒーローは溺愛ヒーローへ変貌。
  • 最初の浮気では何もできなかったヒロインが、2年経過して立派な嫌味を言うように。

気という要素が消滅すると おままごと的少女漫画しか残らない 6巻。

この『6巻』は全ての浮気にグッドバイをする巻になっている。

1つは読者を驚愕させたヒーロー・速人(はやと)の「俺 もう一生 浮気しねー」という発言。これは速人が、彼女の芙美(ふみ)の身体が他の男によって汚されたのではないか、という恐怖と不安が解決し、その安堵と共に速人が芙美と身体を重ねるのは「後にも先にもオレだけ」と願ったからだろう。芙美に そう強く願うことが叶うように、自分も浮気の虫を封印して誠実に生きようとした。
俺様ヒーローの少女漫画特有の男女の力関係が逆転する様子が分かりやすく提示された巻となった。女性が追っていたはずの俺様ヒーローが、いつしか彼女の方を溺愛することで1粒で2度美味しいのが俺様漫画なのである。

だが最悪の危機に陥ってから自分の行いを反省するのは、自分が その経験しないと相手の気持ちになれないという速人の知能の低さの証明でもある。ただ結局、速人は自分の非道を謝罪している訳ではない。もう しない というだけで、彼の天狗の鼻は折られていない。そういう小狡さも速人っぽい。
私としては ここで もう一度、芙美の浮気疑惑回を作って欲しい。前回(『1巻』)で兄を元カレに見立てて騙した時は、首を絞めてきた速人だが、丸くなってしまった速人は こういう問題に どう対処するのかを見たい。同じ境遇に立った時の彼の変化で本当に成長したのかが分かる。どう考えてもカッとなってしまう気がするが…。

それに18歳の男性の誓いなんて当てにならない。ましてや速人である。確かに速人は浮気相手に本気には ならないだろうけれど、相手も本当に割り切った関係を望んでいる時、スポーツ感覚で身体を重ねても何の不思議もない。だから冒頭の速人の言葉は驚いたが、信用はならないと醒めてしまった。特に本書のように浮気をした速人に何の罰も与えないような世界観では これからも速人は好き放題 生きるだろう。


して芙美の方も速人の浮気との決着を付ける。といっても速人に復讐するとか、別れを選ぶとかではない。

彼女が決着を付けるのは、自分と交際した後の速人の最初の浮気相手である。芙美と速人は 中学の元カノだという彼女に偶然 東京で再会し、彼女が2人の同棲するアパートに泊まることで少し交流する。

そこで芙美は元カノに痛烈な嫌味を言うことで彼女を完膚なきまでに叩きのめす。浮気相手への嫌味はヒロインの大事な お仕事である。これまでの3人の浮気相手が登場したが、この中学時代の元カノには嫌味が言えていなかった。それは彼女は芙美の目の前をウロチョロせず、芙美に対して悪意を持って接しなかったからであった。そして その頃の芙美は まだ浮気相手に女の戦いを挑めるほど強くなかったからでもある。

地元を離れ 会えないはずだった浮気相手その1への逆襲。ヒロインは嫌味を言うのが お仕事です☆

だが今回、速人との交際は2年以上に及び、そして同棲している勝者の余裕をもって芙美は元カノに積年の恨みが詰まった嫌味を炸裂させる。こうして芙美の嫌味ミッションはコンプリートされる。これで浮気相手全員を撃退し、芙美の「正妻」の座は守られた。

東京の大都会で偶然に再会した元カノは、嫌味を浴びるためだけに登場したのであった…。

しかも芙美は自分の放った嫌味を速人には聞かせていない。前の2回は速人のいない状況で廊下で すれ違いざまに放っていたし、今回もアパートで早朝に目が覚めた女性同士の会話で、速人は熟睡中で芙美の痛烈な嫌味を聞いていない。これは速人の中では芙美は耐え忍び、少しの悪い心を持たないピュアな女性のイメージを保つためだろう。その意味では芙美は速人の前でキャラを作っていると言えよう。芙美は やっぱり少し残酷で強い女性なのだろう。


かし浮気をしなくなると途端に話の陳腐さが目に付く。
芙美への性的暴行も何もなかったし、ここまで彼らの交際も浮気以外は紆余曲折があったわけではない。出会ってから あっという間に好きになって、あっという間に性行為に及んで、そこに至るドラマもない。進路や同棲生活にも特に悩んだ様子がなく、彼らの親が強く反対した場面もない。結局、浮気性の速人に悩んでいただけで あとは順風満帆なのだ。

今更 芙美がサッカー部のマネージャーになるという流れも掲載誌が「Cheese!」から低年齢向けの「Sho-Comi」になったかのような錯覚を覚える。マネージャーになることで速人の方が心配の種が尽きない、という流れは分かるのだが、芙美には速人と離れて自分の道を歩き出して欲しかった。いつか岳に説教していたように、恋愛以外で何か好きなことを自分の支えにして生きる様子を見たかった。今更、ちやほやされるマネージャーになるなんて残念な展開だ。

浮気属性がなくなった速人に残されたのはサッカーの才能だけ。ここの一点突破で目指せ大団円。

して いよいよ高止まりした芙美たちの恋愛の複線として用意されているのが奏絵(かなえ)と岳(がく)カップルの話。
こちらは関係性の変わっていく恋愛に加えて、奏絵の お腹の中には赤ちゃんがいて、出産を通して物語に動きが生まれる。

ただ このカップルの心の動きが ちっとも分からない。岳の中途半端な優しさが かえって奏絵を傷つけるという流れは よく描けているとは思うが、18歳の男性が 自分の子供ではない(と思っている)子を含めて、妊娠を引き受けようとする心境が全く分からない。また奏絵の方も最初から ここまで岳に父親であると告げないという決意も私には理解できない。

作者としては元の鞘に収まって、お腹の子供の父親が戻ってくることをハッピーエンドにしようとしているのかもしれないが、本来 言うべきことを言わないまま恋愛ごっこをしている18歳の男女に苛立ちを覚えるだけである。

自分をビッチに仕立て上げて不幸を演じている奏絵には自己陶酔を感じる。この家が謎の優しさに包まれているから許されているが、彼女もまた自分の軽率な行動に対する罰を受けていない。

速人の浮気といい、女性の妊娠といい、登場女性を可哀想な人間に投影させるための道具でしかない、この世界観が気持ち悪い。まだまだ若いであろう作者が よく考えもせずドラマチックに物語を演出しているだけなのだ。


美の暴行事件の解決まで彼女を軟禁することにした速人。速人は大学で芙美を暴行した犯人を捜しており、目星がついたところで芙美を呼び出す。これはキレた速人を止める役割なのだが、芙美がいる必要を感じない。トラウマやPTSDを抱えたような芙美が、速人の言いなりになるのが可愛そうなぐらいだ。

速人は まず暴行犯と思しき男から事の真相を聞き出す。その尋問により、芙美も(友人も)貞操は守られたことが発覚する。その男には芙美の視界に入らないことを約束させ、速人は次の仕事にかかる。

続いては計画の首謀者である静流(しずる)。速人は彼女を忠犬の振りをして待ち、その後 彼女に自分の家がラブホテル代わりに使われている場面を見せる。これは静流から渡された合鍵を速人がコピーし、渡り歩いたため。
その奇想天外な速人の復讐を目の当たりにした静流が焦って自分が芙美の暴行事件に関与していることを口を滑らせたところで暴行(未遂)事件は あっという間に幕切れとなる。やっぱり速人が静流と浮気をする必要は無かったように思う…。それよりも静流に あと一歩で速人を落とせるというを満足感与え、身体を触らせないまま復讐した方が美しかった気がする。速人の頭の回転の速さなら、合鍵ぐらい浮気をしなくても提供してもらえるだろう。

こうして物事の解決には、身体を重ねるという いつもの大団円を見せる。芙美の男性への恐怖は事件解決と同時に消えたのだろうか。そして今回の事件を通して速人は一生 浮気をしないと誓うのだった。


人の所属する大学サッカー部のマネージャーが一気に2人辞めた。それにより部内に精神的な穴が生じているということで、ヒロイン芙美は立ち上がる。高校時代は彼の部活動に無関心だったのに、いよいよ少女漫画みたいな動きをする。

芙美はマネージャーとして速人たちを支えるが、速人は部員たちの芙美に向けられる視線が耐え難い。芙美は速人の不機嫌の意味が分からなかったが、速人は芙美が心配でならないだけ。そういうことを口に出せない俺様の困った性格である。浮気を封印したら、一気に速人が初々しくなった。
速人は芙美の貞操の危機で、日常は当たり前にあるものではないと感じたらしい。ようやく彼女への感謝を覚え、人が変わったかのように芙美を愛おしく扱う。でもラブラブだと いよいよ ままごと感が出てくる。

ちなみに この頃の母からの電話で、『1巻』の速人のDV事件は母にも伝わっていることが判明する。よく そんな男との同棲を許したな。本書は親の頭が お花畑であると感じることが多い。


活が休みのデートで、2人は『1巻』で登場した速人の元カノに遭遇する。だが元カノは速人が芙美を大事にしている様子を見て、自分の完敗を認めて去る。これは2人の絆の深さ、そして あの頃とは違い浮気の う の字も浮かばない速人を表現しているのだろう。

しかし 何も起きないと本当につまらない漫画だな…。速人は何をしても自分の境遇が恵まれたものだと感謝するばかりだし。

日も暮れた帰り道、アパートの最寄駅で待ち伏せていた元カノが突然2人が同棲するアパートに泊めてと言ってくる。速人は芙美に選択権を委ね、本心では嫌なのに芙美は自分が悪者になりたくないから、了承する。そして不眠不休で過ちが起きないか監視する。そんな心理状態なら嫌と言えばいいのに。八方美人の芙美である。

そして芙美の監視を察知した速人は自分の浮気を疑われていることに機嫌を損ねる。前科を考えれば当然だが、速人は そのお仕置きとして隣の部屋に元カノがいる状況で性行為を始める。浮気は封印したから、そういうシチュエーションプレイで読者の心拍数を高めようとするのか。ただのアダルト映像作品にしか思えないが。

隣の部屋で何が起きているのかは元カノにもわかっていた。
翌朝、早く起きた女性2人は会話を交わす。そこで芙美は浮気相手に対しての伝家の宝刀・嫌味を彼女にも言って、撃退する。芙美の嫌味は女性同士のマウンティング。これで過去3人の浮気相手よりも上位存在として芙美が君臨することになる。


8月上旬には3泊4日のサッカー部の合宿があり、芙美も同行する。通常の少女漫画なら4日も一緒に居られると特別なイベントとなるが、本書の場合は4日も一緒に居られないという いつもよりも距離が出来るイベントとなる。毎日、家に帰ればスキンシップが出来るが、合宿では触れ合うことすら稀。ここでも人目を避けて性行為に溺れるシチュエーションプレイとなるのだろうか…。


一方で、高校卒業後、初めて奏絵視点の物語が始まる。
5月になり卒業後 初めて岳と会う。奏絵は実家、岳も地元を離れていないから会う確率は高い。

そして岳は この時 初めて奏絵のお腹が大きくなっていることを知る。奏絵は別れの時と同様に、元カレという架空の存在を出すことで、岳には関係がないと主張する。奏絵は岳の負担になりたくないと真実を告げない。でも岳も妊娠したと思われる日の前後まで奏絵と身体を重ねているのだから、少しぐらい奏絵に問いただしてもいいと思うが。完全なバカなのだろうか。

岳は それ以降、奏絵の前に現れる。そして岳は奏絵に、愛人関係ではなく恋人になってほしいと告げる。高校生の時に別れる前ではなく、妊娠が岳に発覚してから言う。岳は お腹の中の子供が元カレの子どもであっても引き受けるつもりらしい。岳の心の動きが全然、分からない。

私が本書を悪くのは速人の浮気ではなく、こういう内容の稚拙さである。初の長期連載である作者も頑張って入ると思うが、女性が可愛そうなストーリーばかりを追求する一方で、親の存在を都合よく使ったりと登場人物に甘い展開が続く。作者の未熟さと登場人物の幼さが偶然マッチしているからリアルっぽさは出ているが、彼らの視野は とても狭く、そして物語は非常に浅い。