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少女漫画と小説の感想ブログです

同棲でも性交渉禁止 + 3人目の同居人。それ『L♥DK』だし、なくていい蛇足だし…。

お迎え渋谷くん 5 (マーガレットコミックス)
蜜野 まこと(みつの まこと)
お迎え渋谷くん(おむかえしぶやくん)
第05巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

有名芸能人とのおつきあいは前途多難すぎ!?
保育士の青田愛花(28)は、園児のお迎えにやってきた若手俳優・渋谷大海(21)と、いろいろあったけど無事気持ちを伝えあいました。次のステップとしてマネージャーの品川さんがとんでもない提案を…! 愛花と渋谷くんはいきなり距離を縮めることになるのでした。愛花と渋谷くんの初々しい○○生活が始まります!

簡潔完結感想文

  • 交際編スタートからの同棲編スタート。家族や職場の悩みは全て引っ越しで置き去りに…。
  • 結婚するまで性交渉しない古風な考えの渋谷は風俗には行った。なんだかチグハグしてる。
  • 愛され愛花だが、無能ヒロイン。性交渉なしに不満もないし、彼の体調変化にも気づかない。

展開のために、これまでの生活をバッサリと切り捨てた 5巻。

『5巻』から交際編が始まる。だがヒロイン・愛花(あいか)の交際相手が芸能人・渋谷(しぶや)ということもあり、いきなり同棲編となる。楽しいはずの同棲生活なのだが、私が気になるのは、そこへの移行の雑さ。
それまで2人は実家暮らしで、かなり長い間 暮らしているはずで、家族と別れるにも色々とあるはずなのだが、その描写が全くない。その前に、愛花の心理的障害だった保育園の園児の保護者との交際という問題も、渋谷の妹・音夢(りずむ)が親の事情で転園するという雑な理由で無かったことにしたのも唖然とした。

読者が読みたい場面だけを抜き出しているかのような展開は本書を(更に)薄っぺらくしている。この部分を省略することが後の展開の布石とも言えなくはないのだが、それが十分に機能しているとも言い難い。28歳の実家暮らしの女性が同棲することへの不安と期待を胸に新天地に旅立っていったはずなのだが、その葛藤は一切 描かれず、淡白に物事の推移を受け入れるだけ。
いつの間にか猫を飼うことになっているが、その経緯も一切 描かれない。作者の脳内では物語があるのかもしれないが、読者にそれが分かるはずもなく、猫がいることへの違和感が小さなノイズとして不快感に変わっていく。

そして相変わらず愛花が何もしないことにも辟易とするばかり。保育士の仕事をしているはずなのだが、その描写は一切なく、恋愛だけに生きている。衣食住に加えて恋愛も充実した彼女に もはや悩みなど無い。
更に彼女は渋谷と身体を重ねたい、端的に言えば性欲も ないらしい。渋谷との同棲生活が始まったのだが、渋谷が結婚するまで性交渉をしないと宣言。その渋谷の思考も謎なのだが(風俗は行った)、それよりも愛花が それに対しての不平や不満が一切ないのが私は不満だ。愛花には元恋人がいるのは分かっているし、渋谷とそういう展開になるのも考えている。けれど結婚まで(21歳の若手俳優の渋谷にとって それが実現するのは10年以上かかるかもしれない)性交渉がないと知っても平然としている。まるでヒロインには性欲ありません、トイレに行きません、と美化しているかのような描写には開いた口が塞がらない。掲載誌は「りぼん」じゃなくて「Cocohana」なのだ。今更 女性を美化して何になるというのだ。28歳独身女性の現実を描きそうで描かず、結局 おとぎ話の世界観が繰り広げられている。こんなに女性が何もしないで幸せになる物語が21世紀に許されるのだろうか、と これは一種の女性差別のように感じられて腹立たしいぐらいだ。

渋谷との同棲生活があるなら、性生活など いらない。10代と違い、20代の男女は性欲も枯れるのか…。

だから今回、同棲したばかりなのに同居人が増えても愛花は動揺しない。キスを目撃されて落ち込むことはあっても、渋谷との生活が邪魔されるなどとは思わない。嫉妬や不満は男性の専売特許で、愛花は悪感情を持たない人間にしたいらしい。渋谷の執着心に恐怖を感じる巻だが、愛花の淡白さにも疑問を感じる。
タイトルにもしたが、今回の同棲&3人目の同居人というのは まんま渡辺あゆ さん『L♥DK』の中盤である。そして残念なのは中高生向けの『L♥DK』の方が まだ女性の欲望をしっかりと描いていたという点である。2つの作品の共通点は、3人目の同居人の必要性を特に感じない所だろう。なぜ3人で住むのか よく分からないまま、連載の継続だけに注力していく。

そしてラストも愛花は渋谷に気を遣われるばかりで彼の変化に気づかない無能っぷりを見せる。ここまで「いるだけヒロイン」も珍しい。渋谷の思考や性格に癖があるのなら、彼女として彼を導こうと考えたりしないのだろうか。いや、それは無理か。なぜなら彼女は思考力や性欲、全ての物が奪われているから。彼女に あるのは大きい胸だけである。


よいよ「お迎え渋谷くん」という書名も詐欺になった。なかなか2人が交際しないために設けられた保護者との交際禁止という愛花の予防線でしたが、作中の解決は渋谷の親の一存で転園という驚くべきものだった。愛花の保育園で音夢に お友達がいなさそうだったのは、親の都合で色々と保育園を移っているからではないか。情緒不安定な子供になりそう(偏見か…)。

渋谷を名字でなく名前の大海(たいかい)から「海(うみ)くん」と呼ぶ、という話も初回以来、続かない。何だか作者の この作品に対する愛情や集中力の欠如を感じるばかりである。

そして交際編になって渋谷の弟の存在が明かされる。2歳下に弟がいるという。彼は18歳から全国を転々としながら漫画を描いている、らしい。
この日の最後に、少女漫画のデートの定番、観覧車に乗り 2人は この日 色々な事を知り、色々な気持ちを分け合う。


谷がマネージャーに交際報告をした途端、品川(しながわ)マネは事務所が所有しているマンションへの同棲を提言する。何人か住んでる芸能人が「まだ誰もスクープされたこと」がない、というのは そういう熱愛スクープは絶対に ない、という展望か。

なぜか渋谷はいつの間にか歌まで出している。歌が上手いという設定は出てきたが、そんな話 寝耳に水で、いつ仕事をこなしているんだ、という仕事量の多さに疑問が生じる。

そして こちらも いきなりの展開の同棲が始まるのだが、上述の通り、この一足飛びに嫌悪感がある。例えば愛花は、母親が芸能人なんて軽薄だ…と偏見を持っていたが、娘の渋谷との同棲に対しての意見描写は全く無い。ここに衝突があるはずなのだが省略している。愛花を苦しめる描写は一切描かないつもりなのか。
そして渋谷が死守していた音夢の送迎問題は事前に消滅したとはいえ、彼ら兄妹の結びつきは確かにあった。そこに対する渋谷の罪悪感などがあるはずなのだが、描かない。

相変わらず渋谷のキスが唐突なのは彼らしいが、慣れた手つきで愛花の服のボタンを外す描写には疑問がある。「素人童貞」の彼に そんな余裕があるだろうか。全体的に、画力や表情もそうだが、性格も安定しない、というか読者には掴み取れない部分が多い。

だが渋谷は「そういう行為は結婚した後がいいと思って」いるような人間なので、自分を縛るために、手錠を購入し、物理的に愛花に手を出さない戒めとする。それはそれで違ったプレイに見えるが…。
渋谷が純潔を守ろうとするのは良いが、その理由が全くない。信条といってしまえば それまでで、草履をはいて縁側にいるような渋谷は、その時代の人ような考え方ということなのだろうか。その割に風俗に抵抗感がないとか、そこの矛盾があるような気がするが…。深読みすれば両親、というか父親の乱れた人間関係を見て育った反動ということも考えられるだろうが、作者が そこまで考えているかは微妙なところ。それとも作者の中で性行為は物語を終わらせる合図なのだろうか。


せな同棲生活に乗り込んできたのは渋谷の弟・太陽(たいよう)。
渋谷の2つ下の弟・太陽は音夢の存在を知らないという。だが現在21歳前後の渋谷の弟は19歳前後。その彼が放浪に出たのは18歳。結構 喋っている音夢は2歳前後だと思われるし、妊娠期間もあるから、彼が「いつの間にかに(妹が)産まれてた」というのには無理がないか…?

太陽は芸能界モノの漫画を描くために渋谷に密着し、お金がないので愛花の温情で3人暮らしが始まる。早々に肉体関係をNGにしてしまったので、ハチャメチャ同居モノになった、という感じですかね。

聖母な優しさを見せつけているが、渋谷の意向をガン無視する愛花。ストレスは渋谷の大敵なのに~。

だが渋谷にとっては太陽の存在はストレス。愛花が「自分以外の男性と話してると おかしくなりそう」「…たとえ相手が弟だとしても」という重い重い愛情を打ち明ける。執着心が凄いし、渋谷がストレスで壊れていくのは以前もあったので怖いところ。
愛花が保育士なのは、渋谷にとって好都合だろう。元カレ・大崎(おおさき)がいて完全に男性との接触は絶てないが、一般社会に比べれば極端にないので接触の機会が少ない。もし職場に男性がいたら渋谷は 柔らかく強引に転職をさせていたのかもしれない。本書は全体的に愛花の愛され自慢ではあるが、狂気を感じる。

そして品川マネと太陽のフラグは、もう一つの年下彼氏の始まりなのだろうか。こちらを上手く描けば、更なる長期連載を望めたのではないか。
太陽が渋谷に密着して分かるのは、渋谷の仕事の多忙さ。掛け持ちする仕事が多く、太陽は1日で音を上げそうになる。それをこなすのは圧倒的な気力と体力。渋谷と品川マネは それが備わっているが、自分には無理だと気づかされる。だが、その気力と体力も いつまでも もつものではない。前回の限界は俳優・神田(かんだ)が見抜いてくれたが、今回は誰も気づかない。そして恋愛敗者となって、すっかり出番のない神田と大崎である。大崎はともかく神田は渋谷の兄貴分でい続けて欲しかった。

渋谷は弟・太陽から見ると昔から万能だった。「記憶力が抜群で 目にした物は必ず覚え」るらしい。渋谷の場合、これは特技ではなく障害に思えてしまう。作者はどこまで渋谷の具体的な設定を考えているのか。

渋谷は帰宅後も愛花のフォローをしたり睡眠不足気味。これは京都での撮影で壊れかけた時と同じではないか。愛花が傍にいる同棲生活に浮かれて自分の限界が分からない。
ラストは仕事に忙殺されて愛花が倒れた『1巻』1話の時の逆。愛花が渋谷の異変を感じ取れないから、彼が壊れてしまった。そして作品自体も自壊し始めていく…。