《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

完結から十数年後、息子が女性を家に連れ込んでも 娘が快楽に溺れても因果応報だよね☆

後にも先にもキミだけ(8) (フラワーコミックス)
川上 ちひろ(かわかみ ちひろ
後にも先にもキミだけ(あとにもさきにもキミだけ)
第08巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

何度生まれ変わっても あたしはきっと――後にも先にもキミだけ。「おまえと子供2人…いや3人 ちゃんと食わせていけるように…頑張るわ」ちょ、まだ学生なのになに言ってるの…!?「あんまいい女になるなよ 今くらいで止めとけ」…!「愛してるよ」……!!「――ずっと大切にする。俺にはおまえしかいないんだ。」「だから黙って有村芙美になれ」……………はい…。゜(゜´Д`゜)゜。

簡潔完結感想文

  • 料理上手、教職課程と栄養学、免許取得、ピアノ演奏と唐突なキャラ設定が満載。
  • 反対にプロポーズでは誰も覚えていない伏線回収。展開が低年齢向け少女漫画だ。
  • 本書は大人が必要ない世界。娘や息子の勝手に速人は文句を言う権利を持たない★

舎ヤンキーの イキった物語も 最終8巻。

ヤンキーが更生すると美談になるが、本書も それと同じ。何回も浮気をする という前代未聞のキャラ設定だったヒーロー・速人(はやと)が、単なる俺様キャラの息切れなのに、後半からヒロイン・芙美(ふみ)に一途になっただけで褒められる持ち上げ方には頭を抱える。

そして俺様キャラの崩壊と入れ替わるように速人のサッカーの才能が開花し、彼は人気のプロサッカー選手になる。これは速人のプライドを守るための手段だろう。最終的に結婚し所帯を持つ彼らだが、作者は速人には普通の企業で働くなんてことをさせたくない。だから序盤は お遊び程度だったサッカー部所属という設定を どんどん盛っていった。速人を「普通」にしたくなかったのだろう。

芙美も自分の道を模索するが、選んだのは少女漫画ヒロインの王道の食品関係の進路。絶対 大学入学時には そんな設定なかったのに、最終巻で管理栄養士の資格を取得すると宣言した。大学を入り直す訳でもなく、最初っから この設定でしたけど、という作者の強気な姿勢には感服するばかりだ(嫌味)。

大学を選ぶ時に決めるようなことを今更 言い出す芙美。そしてフツーの少女漫画に軟着陸。

そしてサッカー選手と管理栄養士という どこかで見たような結末になる。年齢層高めの「Cheese!」の連載だが、結局は「Sho-Comi」の水瀬藍さん『ハチミツにはつこい』と同じような夢みたいな結末を迎える(連載は同時期)。大人になった彼らの姿の想像が、作者の読んできた少女漫画世界から引っ張り出してきたのだろう。速人が浮気を封印してからというもの、展開はベタとしか言いようがなく、スタートダッシュの貯金がなければ退屈 極まりない。キャラも展開も薄味だったことが露見した後半戦だった。

同棲したり、果ては1円たりとも稼がないまま大学在学中に結婚したりと速人の変わらない俺様ぶりには飽きれる。いや、何度も言うように彼は俺様ではなく お子様だ。本書では一度も彼の思い通りにならなかったことなんて ないだろう。彼を甘やかした女性たち(芙美と速人の母親)が こんな怪物を生んだ。

連載を通して絵が変わらなかったのも本書の特徴か。画力が最初から高かったとも言えるが、連載を通して大きな成長も無かった。特に笑った口が一種類しか無いのが気になった。特に速人の表情は どれも同じに見える。自信満々の速人には よく似合っていた笑い方だが、次の連載のヒーローも同じ笑い方なので これしか描けないのだろう。


気をするヒーローに対する罰が まるでない世界だが、私は速人には大きな罰が待っていると思う。

それが「歴史は繰り返す」ということ。
エピローグでは夫婦となった2人に一男が生まれている。そして速人は芙美に似た女の子を所望する。この世界の神様である速人の言うことは言霊で、それは現実になるので、少なくとも一男一女の4人家族となるだろう。

そして きっと長男は速人に似た浮気を繰り返すサイテー男になり、自宅に女性を連れ込み我が物顔で生きるだろう。長女の方も悪い男に掴まり朝帰りはするし、恋愛で苦しむことは多いだろう。それが本書における因果応報ではないか。

更に本書は大人という存在を ほぼ無視して話が進む10代が色々な意味で やりたい放題していた作品だ。だから子供たちが10代半ばになった時、速人は全く見向きもされない存在になるはずだ。特に本書において父親という存在は本当に価値がない。本来なら芙美と速人の恋愛に一番 反対するはずの芙美の父親は生きる権利すら与えられなかった。そして速人の父親も物語に一度も登場しない。19歳前後で親になった奏絵(かなえ)と岳(がく)の両親も子供の人生に従うだけの存在であった。

しかも速人がサッカー選手という設定上、彼の運動能力が低下する頃に子供たちは思春期を迎え、親に感謝することなく生きる。これは速人には堪(こた)えるのではないか。かつての人気選手も落ち目となり、いよいよ速人自身が普通の生き方をせざるを得ない時に、子供たちは親の精神状態など お構いなしに発情している。

でも速人には子供を指導する権利はない。なぜなら子供たちの姿は かつての自分なのだから。芙美が暴行(未遂)されて初めて青ざめたように、速人は子供に手を焼いて初めて自分の横暴さに気づくのではないか。

私は それが本書の大きな仕掛けだと思っている。作中では幸せいっぱいだが、それが反転する日が絶対にある。それだけが楽しみで本を閉じた。


学進学から1年余りが経過し、芙美たちは4年生の先輩の卒業を見送ったことで進路について考えていた。
なんと速人は教職(課程)を取っているらしい。だが本当はプロサッカー選手になりたいと泥酔した際に芙美に語る。

この1年の同棲生活で、食事は ほぼ芙美の担当になっているらしい。こちらは いつの間にかに料理が得意キャラになっている。それらしい描写は ほぼないが(『1巻』のバレンタインケーキは上手だったか)、健気なヒロイン=料理上手という安直な枠に収まったみたいだ。

そして急に芙美が自立を主張し、「速人の付属物にはなりたくない」から自立した上で、速人の役に立てる管理栄養士になれたらと考えている。東京で共学で4年制大学で管理栄養士コースがある大学は とっても珍しいのではないか…??

この発言では、芙美の中では速人にサッカーの道を進んで欲しいという願望が込められていた。速人も それを察知し、自分に喝を入れる。

最終巻で ちょっと覚醒して芙美に自立という言葉を使わせたら それで説明終了というのが お手軽だ。ここまで描きたいなら もっと恋愛以外のエピソードも詰められただろう。大学の学部など不都合な所は見ないようにして、安易なハッピーエンドに一直線だ。


の回では、その1年後の大学2年生の冬の成人式となる(民法改正前)。地元に帰った2人は、奏絵と岳、そして その息子に会う。彼らは岳の専門学校卒業までは入籍のみで、これから同居するという。

そして この成人式は同窓会の様相を呈し、かつての浮気相手の栞(しおり)が登場。速人を一途に想い続けているという設定らしく、進路も速人のいる大学志望だという。だが、速人は栞は既に切っている相手なので、嫌味で対応して 栞の未練を完全に断ち切る優しさを見せる。この嫌味は まるで芙美みたいな言動だ。カップル双方が陰険である。

成人式後は2人でホテルに直行して、着物を脱がしては着せるという無謀なことをする。驚くことに速人は免許を取得したばかりで、親所有のであろう車で成人式に乗り込んだらしい。
しかし少女漫画の車の外観、車内の様子は、どうして こうも下手なのであろうか。フリー素材とか使えないのかしら。知らんけど。

少女漫画における車の作画崩壊画像を集めれば そこそこバズるだろう。

成人式で すっかりオトナになった後、速人は芙美の家の玄関の前で正座をして、芙美との結婚を願う。それを聞き芙美の母親は、大人になった芙美に選択権を委ねる。
速人のプロポーズは迷いがないが、その一方で独善的に見えてしまう。この時点で速人は将来も決まってないし、収入もない。結婚という制度だけを急いで中身が伴っていないのが速人だ。どうして芙美の母親は こんな男を許せるのだろう。
ちなみに このプロポーズの言葉は『1巻』2話の長期連載開始時の伏線回収に なっている。作者以外誰も覚えていない伏線なので、全く感動しない。

なんでホテルに行ってから真面目な話するんだろう。芙美の母の信用が落ちるのが分からないのか。

終話は また時間が飛んで芙美たちの大学の卒業式。
2人は卒業式よりも、結婚式のことで頭がいっぱい。しかも成人式の後に婚姻届を提出しており、2人は既婚。証人は奏絵と岳だという。

そして卒業から3か月後、芙美は病院で管理栄養士として働いている様子。速人は順調にプロのサッカー選手になったようだ。

ここで速人は卒業をしたこともあり、避妊をしない選択を考える。言葉巧みに誘導する速人に負けて芙美は それを許す。「速人の子供が産めるなら それ以上の幸せなんてない」そうだ。そして間もなく めでたく妊娠。
でも働き出して1年目で妊娠するのは、本音を言えば周囲は迷惑だろう。そんな周囲の様子なんて絶対に描かれないけど。

考えなしと言えば妊娠発覚時には結婚式場も予約しており、式当日は芙美は お腹が大きくなっているという。速人は生き急いでいるようにしか見えない。まさか芙美の父親と同じで、先が長くないのか!?

速人は芙美と家庭を持つこと、家族を持つことが高校生の頃からの夢。だから芙美の妊娠を知って泣くほど感動するのであった。めでたしめでたし。
ヤンキー思考の彼だから結婚という結末しかないよね。他に残されたイベントもないし。

「後にも先にもキミだけ エピローグ」…
芙美たちの第1子・美速(みはや)が保育園児の頃の話。この頃には速人はスターサッカー選手になっている模様。美速は速人の浮気防止装置の役割を担う。そして夫婦は女の子の誕生を願って第2子の子作りに励む。これまで性行為だったものが子作りという言葉に変換された。


「煩悩パズル」…
次の連載作の前日譚。ボクシング部の立獅(たつし)は隣の部室の茶道部の女子生徒と接点を持つ。クラスメイトだが名前も知らない地味なメガネっ子に段々と惹かれていく立獅。これまでの彼女たちならオチていた立獅の口説きにも冷静に対応する彼女に どんどんハマっていく…。

最初から最後までヒロインの名前を出さない構成が良かった。そして今回は最初から女性の方が上手。この話は いつの間にかに過激になって快楽に溺れる場面が満載になり読者を客寄せするような展開にならなきゃいいが…。男性キャラの外見も内面も速人の面影が強く残り、イケメンの造形が心配。