《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

珍しく浮気をしないヒーローだが、とある女性の妊娠に それは俺の子供だと頭を下げる!?

後にも先にもキミだけ(4) (フラワーコミックス)
川上 ちひろ(かわかみ ちひろ
後にも先にもキミだけ(あとにもさきにもキミだけ)
第04巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

高校卒業間近、浮気する最凶カレシが言いました。「だってもうお前、カノジョじゃないじゃん。」…キタコレ。なんですか?また別の女ですか?「そうじゃなくて…お前はカノジョじゃなくて俺のフィアンセだろ?」最凶カレシ・速人&芙美、高校生編いよいよファイナル!!

簡潔完結感想文

  • なぜかスポーツ推薦の彼氏に勉強を教えてもらいながら挑む大学受験。
  • 悪気なく浮気する彼氏も嫌だけど、悪気がなく無邪気な彼も大問題。
  • 当時は全員未成年なのに親の承諾を得ないまま勝手に進む お話に辟易。

ーローの言動には何の責任も発生しない 4巻。

『3巻』で三角関係が始まったと思ったら、そのラストでは なぜか2組のカップルの話になっていた本書。メインカップルである芙美(ふみ)と速人(はやと)は ともかく、何の予兆もなく人を好きになっていく奏絵(かなえ)と岳(がく)のカップルの動きには頭が追い付かない。あからさまな即席カップルなのに、彼らには予期せぬ妊娠という芙美たちでは描けない物語が託され、重い十字架が背負わされていく。

作品としては、同棲という目標に向けて過去最高にラブラブで穏やかな日々を過ごす芙美たちに対して、奏絵たちのカップルに波乱を起こして物語に動きを与え、そして読者の興味を引かせようという判断なんだろう。これは大学進学を考える主人公の高校3年生の2学期3学期という少女漫画では一番 描きにくい時期を乗り越えるための対策で、確かに それはきちんと機能している。だが、それはヒロイン・芙美が のうのうと幸せになる一方で、国立大学に入学するはずだった奏絵が不幸になるということでもある。

速人がご機嫌な時は自分の計画通りに物事が進む時。もし拒絶や失敗なら暴れるんだろうなぁ…。

『2巻』の感想でヒーローは常に避妊をしているのが小学館漫画のルールと書いたが、一方で それ以外の男は そうではないことが証明された。

うっかり妊娠させてしまうところに性格は悪くないが どこか不甲斐ない岳の性格が出ている。他にも岳は元カノから貰った手編みのマフラーを由来を告げず奏絵に貸したり、寝言で芙美の名前を呼んだり、自分の傷ついた時に奏絵に安らぎを求めたり、と悪気はないが、無意識に奏絵を傷つけることばかりしている。もし『3巻』で芙美が岳を選んでいたら、こういう苦しみを味わうのは芙美だったのかもしれないのか。奏絵は芙美に岳を彼氏として勧めていたが、まさか自分が愛人関係になり、そして彼のダメな部分を見てしまうとは思わなかっただろう。


回は、岳という無自覚な最低男がいることで速人が相対的によく見えてくる。これも もしかしたら作者の狙いなのかもしれない。

ただ速人が奏絵の母親に向かって奏絵の妊娠を勝手に告げ、自分が その父親であると虚偽報告する場面は、芙美が感激するほど格好いいとは全く思えなかった。その嘘の情報によって巻き込まれる人のことを考えていないからである。

そして この嘘情報が何の余波も巻き起こさないところが本書に失望する点でもあった。

何と言っても本書における親たちは ただの便利な道具でしかない。彼らが子供たちに与えた部屋、いや家全体はラブホテルのように利用されるだけだし、芙美や速人の交際、そして今回の同棲計画に対しても反対は巻き起こらない。

更には奏絵の妊娠に対しても、父親が速人だという報告を受けても、奏絵と速人の家は話し合いをする様子もない。どうやら奏絵の親は「愛情深い」から、娘の妊娠に対して深く追及することなく、それでも全面的に協力するという。両親が奏絵を面罵するような場面が見たい訳ではないが、(当時の法律では)未成年の彼らの行いに対しての責任を取る意味でも、親は もっと前面に出てくるべき場面である。娘や孫を本当に思うのならば男親に認知だけはしてもらうという行動に出るのが道理ではないか。本書の言う「愛情深い」とは子供にとって都合がいい、というだけである。そういうとこが薄っぺらい。

自分の嘘に対しての影響や生じる責任を考えない癖に、速人が罪を被ってヒーロー面している所に本書の歪んだ世界観を感じた。

また速人は自分の手で芙美との将来を掴み取ろうという気概を感じられない。同棲に際しても、自分で芙美の親を説得しに行くとか、引っ越しの資金は自分で稼ぐとか自立したところを見せてもいいのに、自分の進路決定後もフラフラとしているようにしか見えない。芙美に渡した指輪も、彼女の大学合格を祝う食事代も洋服代も、速人お坊ちゃんの「お小遣い」で出ているようにしか見えないのがダサいところである。少女漫画のプレゼントのためのバイトと すれ違いというパターンも見飽きたが、速人のように傍若無人な人間には汗水たらした労働が必要だったのではないか。

速人が何をやっても格好良く見えない原因は やはり彼が俺様ではなく お子様だからである。

そして どうやら高校を卒業しても物語は続くらしい。葉月かなえ さん『好きっていいなよ。』が「生活の深み」が出てくるからと高校卒業後もダラダラと続いたのと同じ絶望感に襲われる。


校3年生の11月、芙美は進路に迷っていた。
シングルマザーの母からも家を出ることを許されているが、芙美の踏ん切りがつかない。なぜなら速人は大学でサッカーを続ける目的があるけど、自分にはなく、彼氏を追いかけるためだけに大学を選ぶことに迷いがある。ちなみに速人は大学は推薦で入学する予定。どこまでも外見と運と才能で生きている人だ。

そんな時、マラソン大会で全力で走る速人を見て、芙美は自分の声が届く距離にいたいと心から願った。

速人は、2人で地元を出るだけでなく揃って大学に進学した際は一緒に暮らしたいと考えている。いきなり同棲が視野に入り芙美は戸惑う。なぜなら相手が速人だから、2人の関係が悪くなった時のことしか考えられない。速人は指輪・婚姻届・同棲と芙美と一緒の生活を夢見ているが、芙美は速人の過去の所業から彼を信じられない。この時点で2人は同じ方向を見れていない気がするが…。


一方、岳と奏絵は相変わらず体の関係を続ける(なぜか夜でも誰もいない岳の自宅で)。奏絵は岳の中に まだ芙美がいることが辛い。寝言で芙美の名前を言うし、芙美と速人の良好な関係を見るたびに岳は奏絵に慰撫してもらう状態である。

ただし私には、岳の芙美への想いって唐突に始まったものとしか思えないから、なぜ こんなに長引いているのかが全然わからない。それなら 実際に長く交際した その前の元カノへの未練の方が絶対に深いだろう。


年が明けた頃には速人は無事に推薦入試に合格しており、あとは芙美が頑張るだけ。芙美は速人に勉強を教わるレベル。芙美が賢いとは思えないが、速人もまた賢いとも思えない。要領は良いのだろうけど、大学入試の過去問を理解できるとは思えないなぁ…。
そして勉強を見ると言いながら、欲望を発散するためだけに芙美を呼んだとしか思えない。こういう傍若無人な態度を芙美が許してしまうから俺様は維持されるのだろう。

最後の最後まで芙美は速人に勉強を見てもらう。試験を目前に控えた ある日、速人から手作りのお守りを渡される。指輪でも婚姻届でも 速人から贈られたものは何でも感激する芙美。
自宅に帰ってから芙美は お守りの中身が気になり、早速 開けてしまう。そこに入っていたのは、速人が進学する先の住居の鍵。その幸福な お守りに芙美は涙が溢れ勉強どころではない。速人が試験当日に開けてと言っていたのは これを防止するためだったのかもしれない(でも当日だと本番の試験中に泣いてしまうからナイス回避なのか!?)。


んな頃、奏絵は生理が止まっていた。妊娠の有無を確かめようと薬局で検査薬を買う奏絵だったが、その現場を速人に見られる。早速、確かめる奏絵に、速人は勝手に付き添う。速人は不安な奏絵の心境をしっかり理解しているから、自分が役に立とうとする。こういう如才のなさは速人っぽい。浮気相手を即座に切り捨てられるし、優しくすべき人には すぐさま手を差し伸べる。判断は速そうだ。
それに彼女の友達には手を出さない、という速人の信念からすると、奏絵は一番 安全な人なのかもしれない。

速人は何事にも動じない人間力が確かにある。奏絵は比較して岳が嫌いになったりしないだろうか…。

そんな奏絵の状況を知らず、岳は いつまでも芙美に未練ったらしい。その場面を目撃した奏絵は岳に当たってしまう。奏絵の妊娠を知った速人も岳に奏絵との関係を問い、彼が中途半端な態度だと分かると彼には事情を話さない。奏絵も速人も岳には何も期待していないのだろう。笑ってはいけないが彼らのシビアな評価と、役立たずの岳に笑ってしまう。

芙美の試験が終わった日、速人はラブホテルに行く。性行為は もはや日常なので不思議ではないのだが、珍しくラブホに行くのは速人の部屋に奏絵がいるからだった。
速人が それっぽいことを匂わすのは、奏絵の事情を自分の口から話す訳にはいかないが、芙美が速人の部屋に踏み込んでくる分には仕方がないという考えがあってのこと。こういう点でも芙美は速人に行動をコントロールされている。


絵には中絶という選択肢はないらしい。それは この1年 奏絵は姉の妊娠を間近で見て、お腹の中で育つ新しい命に触れてきているからであった。
ただ産めないけど堕胎もしたくない、それなら死んでしまいたいという奏絵。そんな彼女に速人は親を頼れという。1人で悩んで出口が見えなくなっている奏絵には現実的なアドバイスだろう。彼氏としては悩みが尽きない速人だが、相談相手としては有能なのだオルカ。

芙美は速人の部屋に近づき、彼が匿っているモノが何かを知る。
その夜、速人の部屋で一緒に寝る芙美は奏絵に岳には伝えないのか、と聞く。「産むにしても堕ろすにしても重い十字架を背負わせることになる」と躊躇する奏絵。優しい岳のことだから責任を取って一緒にいることを選ぶ可能性は高い。だが、それは奏絵が望んでいる関係ではない。好きでもないのに一緒に居られること、岳の口から また「ごめん」と言われるのが奏絵は嫌なのだ。

んー、奏絵も1人で抱え込んで、妊娠が一方的に女性側の問題になっているのが気になるなぁ。子供の出自の問題が大きく変わるのに、奏絵のプライドだけが行動の理由になっている。


の翌朝、3日間 帰らなかった家に奏絵は帰る。そして口裏を合わせたのに、速人は奏絵が自分の子供を妊娠していると彼女の母親に告げてしまう。でも結婚は出来ないと頭を下げる速人。本書の中で速人が頭を下げたのは初めてじゃないだろうか。
だが それも架空の罪を背負ってのこと。悪いと思っていないから頭を下げられるのかも、と速人を信頼していない意地の悪い私は思ってしまう。

奏絵の母親は速人に平手打ちをし、そして彼を拒絶する。当然である。速人が悪者になっても何も言わない奏絵が弱すぎる。
それに ここは速人が勝手にヒーローを気取っている場面で、そんな速人を芙美は もっと好きになったようだが、上述の通り、私には この速人の行動が最善だとは決して思えない。中途半端な行動を絶賛するほど間抜けなことはない。

芙美の大学合格の報せが届く頃、奏絵は子供を産む決意を固めていた。彼女は大学受験は放棄して、親も協力してくれるようだ。奔放な子供たちに対して親は物分かりが良すぎて気持ちが悪い。この世界は どこか狂っている。中高生ならいざしらず、その年齢以上のメイン読者たちは この世界の空虚さに何も思わないのだろうか。


娠が外見から発覚する前に奏絵は岳を遠ざける。別れに際しても煮え切らない岳に対して、奏絵は自分が元カレとも何度も会っていたと嘘をつき、彼と別れる。
そんな奏絵を芙美は抱きしめ、2人で号泣する。友情ごっこを見せられている気分である。

速人は芙美の合格祝いに、お高い店で食事をする。入試に向けて頑張った ご褒美だからと服も買ってあげる。彼なりに浮かれているのだろう。それもこれも親の金だろ、と思うと憧れる気持ちも湧いてこないが。

同棲生活に対しても彼は出来ることは分担するという。ちゃんと芙美との生活をしっかり考えてくれているのだ。どうやら速人は自分の部屋を自分で掃除しているし、几帳面だという。それもこれも両親が共働きで自分でできることは全部やってたからだという。サッカーだけでなく勉強ができる設定といい、どんどん後付けで速人がスーパーマンになっていくなぁ…。

そして卒業式。高校最後の思い出に屋上で思い出を作る2人。彼らの場合は性行為になるのだが…。こういう場合でも速人は ちゃんと避妊をしているのだろう。ヒーローだから…。