宮城 理子(みやぎ りこ)
花になれっ!(はなになれっ!)
第09巻評価:★☆(3点)
総合評価:★☆(3点)
ももの体に、蘭丸のそばによると気分が悪くなるという、おかしな症状が…。悪霊に取り憑かれているのではと、神社を訪れたもも。お祓いをしてもらうはずが、美形の神主・水仙からのセクハラが待ち受けていて!? ちょっとHなラブ・ファンタジー最終巻! あとがきエッセイまんが/宮城理子
簡潔完結感想文
- 終わった。終わってくれた。最後まで2者択一の、お花イケメン サバイバル漫画。
- 花人の設定や存在理由、約束してたピアスなど前半の事象は全て 宇宙へポーイ!
- 来る者拒まずで異性を受け入れてきた経緯のある2人が結婚。わー、憧れなーい。
最終回までには花人の謎が明かされる、そう思っていた時期が私にもありました、の 最終9巻(文庫版)。
最終回まで読んで分かったのは、イケメンも花人(はなびと)という設定も ただの記号に過ぎなかった、ということ。イケメンが次から次へと登場してきた本書。結果的に これは、ヒロイン・もも が地位や名誉を持つ どんなイケメンよりも一介の高校生である蘭丸(らんまる)を選ぶためのバトルロイヤルであった。彼女は常に蘭丸と他の男を比べて、そして最終的に蘭丸を選ぶことによって彼への好意を常にフレッシュでいさせようとしていたのではないか、と考える。いきなりネタバレするが、もも が16歳になってすぐに結婚、という安直な結末になった本書だが、もしかしたら これは もも が結婚前に色々な男を知って最良の夫を探すために必要な経過だったのではないか。少女漫画読者に、結婚する前には盲目的にならず、しっかりと相手を他の男と比較しなさいよ、という教えがあったのかもしれない。蘭丸に負けないぐらいのイケメンと出会い、キスをして、香りや身体の相性を見極める行為は、結婚というゴールのためには必要だったに違いない。…というか、そう考えないと もも の尻軽さ や、毎回 同じことを繰り返した意味が分からない。
一方、蘭丸は もも との出会いの後は誠実さを貫き、その気持ちは揺るがない。ただし蘭丸も女性をとっかえひっかえしていた時期があり、彼の中では18歳にして比較対象のサンプルが豊富に用意されており、もも となら結婚をしてもいいと思うぐらいの人生経験を積んでいるのだろう。もも を新たなイケメンと出会わすために、些細なことで喧嘩をする蘭丸は幼く見えるが、彼女がどんなに尻軽でも、自分が傷ついても もも を寛容に受け入れるだけの器の大きさはある。男側の焼きもちという可愛らしいものではなく、他の男とのキスや愛撫を目撃させられた蘭丸の精神はズタズタだろう。婚約者に何度も浮気をされても耐える姿は蘭丸こそがヒロインのようである。
結果的に、花人という設定も もも を特別な人間だと認識させるための装置でしかなかった。なぜ生まれ、なぜ普通の人間と共存しているかなどの問題には一切触れないまま終わった。花人は香りにあらがえない、という設定が彼女の浮気の言い訳に便利に使われただけだ。
当初は硬派なSF設定をエロで包んで作品を読者に親しんでもらおうとしたが、エロこそが本体になりSF要素は皆無となっていった。中盤以降は本当に毎回、同じ展開が続き、エロだけが売りになったことが悲しい。そして最終回で もも が花人の香りを失っても、感動を生む訳でもなく、単なる浮気抑制効果としてしか機能しない。しかも花人でなくなっても もも は少女漫画のヒロインであり続けるから男性たちが夢中になる存在には変わりがない。
花人のSF設定だけでなく、途中で張られた伏線も投げ出される形となった。中盤、もも のルーツ探しとして父母を探していたが、母はともかくとして、存命中だと思われる父の件には一切触れないまま終わる。
蘭丸が高校1年生にして2留して18歳である理由も明かされないまま。彼が18歳でならない理由は、結婚というハッピーエンドに必要だったからだと理解するが、蘭丸の過去を用意しないまま強引に結果だけが残って消化不良である。
更には蘭丸が買ったピアスもまた放置される。これは婚約の証として指輪の代わりに もも が欲した物で、渡すことが非常に重要だと思われたのに、渡せないまま物語は終わる。ラストの結婚式に耳に光っていたりしたら、それはそれで お洒落な伏線回収にも思えたが、当日の もも の耳にある物と蘭丸が用意した物は明らかに形が違う。ピアスと言えば『8巻』登場の神父・ルードヴィッヒもピアスを落としたまま。蘭丸と外見がそっくりな人のピアス問題を放置している、というのが何かの伏線のような気もしてくるが、本書が考察するに値するような内容ではないので私も考えることを放棄する。
以前も書いたが、エロや花人の力によって作者の漫画家人生は延命したが、それによって失われる物も大きかったように思う。今後の作品も、同じような金太郎飴状態の中身空っぽな漫画ではないかと今は読むのが怖い。
『9巻』終了時点。
イケメン枠:蘭丸・矢野・花音・梅吉・花神・春日部・プラチナ・アラジン・蜂巣・藤宮・若葉(過去編)・店長・タクロー・白羽・黒羽・晴山・花形・ターザン・紅葉・ジンジャー・ロビン・ルードヴィッヒ・水仙・蘭丸父・若葉(現代)(計25人 前巻比+3)
キス:蘭丸・矢野・花音・梅吉・花神・春日部・プラチナ・アラジン・藤宮・タクロー・黒羽・花形・ターザン・ルードヴィッヒ・水仙・若葉(現代)(計16人 前巻比+2)
裸を見られる:矢野・花音・花神・藤宮・花形・ターザン・水仙(計7人 前巻比+1)
男性からの愛撫:梅吉・花神・蘭丸・春日部・プラチナ・アラブの偉い王様・藤宮・タクロー・蜂巣・黒羽・晴山・ターザン・花音・水仙(計14人 前巻比+1)
本編もかなり「お花畑」感があったが、作者による本編後の構想も甘ったるい香りが漂うばかりで頭が痛い。主役たちは高校を中退して、お花屋さん&カフェを開店。そして子供は双子の女の子(この子たちは純系花人なのだろうか…?)。
そして この双子の結婚相手が花音(かのん)と花神(かがみ)。16歳差と23歳差という、在りし日の もも の幻想を追ったとしか思えない結婚である(どちらも惚れられた、という設定らしいが)。登場人物を身内でくっつけたがるのも、自己愛が強い作品の特徴であろう。咲間(さくま)先輩もイケメン枠のキャラと結婚するし、晴山(はるやま)にいたっては総理大臣になるらしい(絶句)。
本編で多少 無茶苦茶な展開があるのはコメディ少女漫画だからと思っていましたが、こういう未来を用意しているあたり、作者の頭の中も お花畑だったと言うことだろう。
冒頭のエロ神主の話は、文庫版 最終巻にもかかわらず、もも は最後まで成長しないことが分かってしまうのが残念。話の作り方も これまで通りで作者もまたデフォルト展開に落ち着いてから一歩も成長していない。
イギリスでの幽霊騒ぎもあって神主・水仙(すいせん)に お祓いをしてもらうことにした もも たち。水仙に会った後から、蘭丸が近くにいると気分が悪くなる もも。これが今回の蘭丸との すれ違い要因となる。
その問題を解消してもらおうと水仙に頼る。またまたウソをついて男の家に外泊するところに もも は最後まで成長しなかったことが感じられて嘆息するばかり。これで何度 間違ってきたことか。もも がコスプレしたり裸になったりと流れが不自然なところが多々あるのも いつものパターン。彼女が自業自得の所業をしたせいで、水仙からのセクハラを受けざるを得ない。この時、水仙との体格比が狂っているのが気になる。もはや顔だけじゃなく身体も幼女である。
水仙は相談者の身体の不調を自作自演した上に、除霊と称し猥褻行為まで強要するという霊感商法を繰り広げ、完全に犯罪者である。イケメン無罪は最後まで適用される。
最後の茶番が終わって、いよいよ最終章に突入。
まず大事なのは本書連載時点では もも も蘭丸も高校1年生にして当時の男女の結婚年齢を もうすぐ満たす、ということ(2022年04月の民法改正によって男女ともに18歳になったので既に本書の賞味期限は切れている)。
今回は蘭丸が女性カメラマンのアシスタントのバイトをし始めたことで2人の間に隙間風が入り込む。
蘭丸不在の間に もも が出会ったのが蘭丸の父親。その蘭丸の父親から もも は蘭丸の過去の来る者拒まずの女性遍歴を聞かされ、ますます不安に。知らない花の香りを漂わせて帰宅した蘭丸にショックを受ける もも。うんでも、これって いつも お前がやっている精神的な裏切りだよね☆ 少女漫画ヒロインの被害者面には 本当にウンザリする。
蘭丸の浮気疑惑となるが、この後の展開と照らし合わせると、もも・蘭丸 双方が、自分が その人にとって最良の相手なのか悩み、最後の選択をする、という流れなのだろう。
この浮気疑惑はあっという間に もも の心配も誤解と分かり一件落着。蘭丸は絶対に浮気もキスも淫らな事もしない。裏切られ続けるけど、裏切らない健気なヒロインは蘭丸の方だと思わざるを得ない。
続いては蘭丸の心配。彼は父親から、果たして もも の運命の人は自分かどうかという疑心暗鬼の種を植えられてしまう。焦りから強引に身体の関係を迫った蘭丸を もも が拒絶。
そうして出来た心の隙間を埋めるのが最後のイケメン枠・桂木 若葉(かつらぎ わかば)である。転校生として登場する彼のことを昔から知っている気がする もも。若葉と言えば もも の母親が駆け落ちしようとした相手の名前も若葉だった(もも の父親である可能性が高い)。となると「純系花人」の歴代の悲恋の相手は「若葉」という青年なのだろうか。
もも は蘭丸とは仲直り出来ないままで、その分、若葉との距離が縮まる。更には あげは たちの悪巧みもあり、若葉は もも が住む蘭丸の家に送り込まれる。蘭丸不在の中、浮気相手を家に上げ、ベッドの上で抱き合う2人(事実だが語弊あり)。その現場を見られ、男たちの修羅場になるが、もも は気性が荒い今の蘭丸を受け入れることが出来ない。
そこで若葉が提案したのが1週間の男女3人 同棲生活。その間にどちらの男を選ぶか もも が決めるというもの。同時進行で男を選ぶなんて尻軽に相応しい選択方法である。
若葉は優しく、もも の生活を安定させ、そして趣味も合う まさに運命の人といえる。だが、もも は やはり蘭丸が心の中心にいて、若葉を受け入れることは出来ない。その結論が彼女の中に出たが、蘭丸の早とちりから喧嘩になり、もも は蘭丸に背を向けて走り出す。だが、そこに車が突っ込んできて…。
もも を庇ったのは蘭丸。重体で手術をしても今夜が峠だという蘭丸の怪我。
蘭丸のために純系花人の傷を癒す力を使おうとする もも だったが、実は その力は もも の生命力を相手に分け与えているだけだという。つまり自分の命を削る能力であり、今の蘭丸を助けたら もも が死ぬリスクが高いと予測された。
若葉も含め周囲の者は もも の行動を止めようとするが、誰よりも もも を理解する若葉は彼女の固い決意を感じ取り、彼女の背中を押す。病院側も「最後の別れ」という判断で もも を通し、彼女は眠る蘭丸にキスをする。
蘭丸は無事に目を覚まし、もも も力を使い果たしたものの何とか命を取りとめる。だが純系花人の香りは消失した。
香りを失った自分に価値がないと一瞬 悲しむ もも だったが、蘭丸は これによってライバルの減少することを喜んでいる姿に呆気にとられる。香りの有無は蘭丸には関係なかった。
もも もまた はるか昔 前世の恋人だったという若葉に別れを告げる。運命の相手だが、悲恋になる結末が待っていた若葉ではなく、蘭丸を選んだことで もも の未来は変わったといえよう。この選択のダイナミズムみたいなものが上手く読者に伝われば良かったのだが、そういった演出もなく いつもどおりの2者択一にしか思えないのが残念。前世とか大仰な言葉を使ったのも論点がボヤけてしまったように思う。
蘭丸が病院から家に戻った日は、3月3日の桃の節句生まれの もも の誕生日。プレゼントに蘭丸から何が欲しいと聞かれた もも は彼のお嫁さんと答える。ピアスを出すなら このタイミングではなかったか…。
その数か月後、結婚できる最低限の年齢で2人は式を挙げる。もも を横取りしようというイケメンたちの追っ手を振り切り、彼女たちは未来へと駆け出すのであった…。
結婚こそが女性の幸せという旧態依然とした価値観を感じる。しかも主役カップルを結婚させておけば明確なゴールになるし、読者からの文句はないだろうという後ろ向きな理由が存在するような気がしてならない。しかも留年危機で大騒ぎしていたのに、アッサリと学校を辞めたらしいのも気になる。奥さん、また浮気しますよね、としか思えません。