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少女漫画と小説の感想ブログです

子・真宮兄弟に困らされるのも悪くないが、親・真宮兄弟には困らされてばかり。

そんなんじゃねえよ(9) (フラワーコミックス)
和泉 かねよし(いずみ かねよし)
そんなんじゃねえよ
第09巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

徐々に明らかになっていく、真宮(まみや)家の仁村(にむら)の母親との関係。いったい誰が誰の子供なのか、もつれた過去の糸がしだいにほどけていく…。果たして運命の糸が静(シズカ)と繋(つな)がっているのは誰なのか、全(すべ)てがここに決着!!兄妹間恋愛が嵐を巻き起こす絶好調ハイテンションLOVE2兄妹ストーリー感動の最終巻!!

簡潔完結感想文

  • 養子問題はミスリーディングが機能して、意外な真相にはなっているが少女漫画感ゼロ。
  • 親世代の都合の悪い場面は割愛して誤魔化す。同じ悲しみの中にいた女性の別々の人生。
  • 兄達だけでなく、+1人を従えて お姫様は元気に登校する。姫は姫のまま女王には なれず。

が オバさんになってしまう前に、の 最終9巻。

まず『9巻』の表紙に兄妹3人全員が描かれていることに好感を持った。
これが結ばれた男女2人だけだったら悲しいですからね。
最初から最後まで狭い範囲の血縁の話になってしまいましたが、
表紙で誰か一人を排除したり、ネタバレしたりしなくて安心した。


…が、真相が明らかになる度、色々と粗が目立つ本書。
その一番の原因は、ヒロインの母の年齢設定にあるのではないだろうか。
母・涼子(りょうこ)は37歳という設定。

彼女が40歳以上だったら何とか疑問も解消されるが、37歳だから疑問が尽きない。
ただし、この37歳という年齢設が本当に美貌が衰えてくる前のギリギリの設定なのかもしれない。
(各方面から色々と怒られそうだが…)

『9巻』のネタバレになるかもしれないが、
涼子が娘・静(しずか)を生んだのは16年前。
その上、その妊娠前後に養子を迎え、20歳そこそこで 計3人の母となった。

しかも彼女は法学部在籍の大学生だったはず。
それなのに、子供を持ちながら、学び直し(?)、37歳の現在ではキャリアの長い看護師になっている。

ここが大きな疑問となる。
本書は妊娠後から養子を迎える前後の描写が全くない。
どうして涼子が養母となったのか、その過程は一切なく、結果だけがある。

仕事も経済力のない彼女がどうやって3人の子供を育てたのか、
また どうやってキャリアを形成できたのかという疑問に答えるヒントは何もない。

涼子や その夫の故・俊二(しゅんじ)の両親の援助があったのだろうか。
ただ、本書には故・七瀬(ななせ)の祖母以外の、祖父母世代の登場は一切ない。
涼子たちの高校時代の回想においても、両家が金持ちという設定は見受けられず、
経済的援助があったようには見えない。

唯一、考えられるのは子を養子に出した家(遥・はるか)からの援助だろうか。
育てられない子供の養育費という名目で涼子たち真宮(まみや)一家は支えられていたか。
ただ、涼子の性格からいって そういう援助を受けたまま生活するとも思えない。

要するに、何が言いたいかというと、
涼子が妊娠中には既に看護師の仕事に就き、ある程度の収入を経ていればよかった、ということ。
そう、想像できる余地を生むためにも涼子の年齢が40歳以上であるべきだった。

大学在学中の結婚や妊娠は、
少女漫画のメイン読者が出来るだけ共感しやすいように親世代を若く設定したのかもしれないが、
その設定のせいで物語が破綻している部分がある。

本書は小学館漫画賞受賞作であるが、
一体、どこが優れていると評価されて受賞に至ったのだろうか。

血縁の謎、というミステリとしては意外な真相が用意されていて評価に値するが、
ヌルっと人と付き合ったり別れたり、メリハリのない恋愛描写は
少女漫画として褒められたものではない(私の好みじゃないだけかもしれないが)。

何で血縁問題の解決後じゃなくて、その解決前からダラダラと交際をさせたのかが一番の疑問。
宙ぶらりんになっている間、静が哲への気持ちを捨てられないのなら、
その前に仁村を捨てて、身辺整理をしておけば それで良いではないか。
トラウマや過去の問題が解決することが、恋愛のGOサインになれば、カタルシスは増したのに。

中途半端な位置から交際開始した意味も見受けられない。
最後の哲の苦悩に対して2人で手を取り合って立ち向かう展開がある訳でもなく、
言葉だけの「交際」ばかりが上滑りしているように思えてならなかった。

母・涼子が真相を隠し続けた理由も よく分からないまま。
子供たちが探偵として成長し、自分の気持ちを貫く覚悟と責任を持ってから、
という理由が考えられるが、結局、少女漫画として引き延ばす以上の理由は無かろう。

また、割と生々しい男女の恋愛事情を描いていながら、
結局、ヒロインが一線を越えないのも前作『ダウト』と一緒である。

本書では最初から長編を意識して、それを完遂した作者だが、
話の作り方や、中身の無いキャラクタは前作から あまり成長を感じられなかった。


相を知っても、本書が親戚縁者だけで世界が成立して、
しかも親世代の関係者たちの間だけで恋愛している感じが窮屈に思う。
結局、辛うじて結婚できる距離まで「兄」を遠ざけただけ。
内輪、というより身内で世界は構成されている。

少女漫画にありがちな、選ばれた者しか作品や恋愛に参加できない選民性を感じる。
しかも全員が美形(特に男性)。
そして それが その人の最大の長所になっているのが残念。
ヒロインの静が男性を褒めるのは そこばかりなのである。

世界一の美形兄弟に溺愛される妹、という設定以上のものを感じられなかった。

もしかしたら青木琴美さん『僕は妹に恋をする』(ネタバレ感想)で提唱した、
親の思念が遺伝子となって子に影響する説は、本書でも適応できるかもしれない。
親の恋愛の思念や未練が子供の成長や恋愛に影響を及ぼす。

ネタバレを前提にしますが、まず烈(れつ)。
彼は容姿において母・七瀬(ななせ)の願望が詰まっている。
本来の父である俊二ではなく、その兄で七瀬の夫である享一に似てくるのは そのせいかもしれない。
そして恋愛面においては俊二の涼子への思慕が強く影響しているのではないか。
だから静とは異母兄妹であるものの、本気で彼女に惹かれていく。
結局、本書で一番 近親愛の危険性が高かったのは烈である。

途中で、養子がどちらの兄か、という決定的な証拠となった享一(きょういち)の写真が、
烈の養子説のミスリーディングになっているのは上手い。
犬と評される俊二も、顔立ちは整っており、
兄である享一と同じ遺伝子を持っているのだから、
その美形遺伝子が子供に強く現れても おかしくはない。

そして仁村(にむら)。
彼は、涼子の古くからの友人である父親の涼子への愛が影響して静に惹かれるのではないか。
仁村が静に勝てないのは、父と涼子の関係が そうであったから、親子二代の運命かもしれない。

誰よりも早く真相に辿り着く探偵であり、誰よりも深いトラウマを持つヒーローとなる哲。

の意味では哲(てつ)は何の因縁もない。
もし仁村が女性だったら、享一の遺伝子が作用して、
遥の娘である仁村に今生での愛の成就を目指して、積極的にアプローチされていたかもしれない。
男同士で、ライバルであるから反目しているが、
男女間だったら、静の立場が危うくなる強力な女ライバルだったのではないか。
これまでのモブ女性と違って、遺伝子的にも作品への参加が認められてるし。

そして哲には何も「遺伝子がささやく」ものがないからこそ、彼が孤絶を深めた と言える。

両親は深く惹かれ合ったが、それは道ならぬ恋で、周囲から祝福されない子供であった。
父親の享一は、その存在を認知する前に他界し、
母は享一以外の男を、例えそれが息子であっても愛せない人になってしまった。

3人の男の内、誰よりも自由な恋愛が出来てはいるが、
彼だけが死別ではなく、親の意志で手放された子なのである。
愛に飢えて生きたために、その足場が脆い。

烈は七瀬と俊二に、仁村は彼の父親に望まれて生まれてきたが、
哲という存在があることを父は知らず、彼の母は その誕生にも心を動かされなかった。

静もまた、父親である俊二は彼女の存在を知らないままであった。

そういう意味では、哲と静は背景が同じで、同じ孤独感を生来 抱えていると言える。
その孤独を感じ取ったからこそ、彼らはどの人よりも惹かれ合った。
たまたま それが兄妹という関係性の中であったが、
クラスメイトでも ご近所さんでも、普通のイトコでも、彼らはその魂の孤独を共鳴させただろう。

また 視点を変えれば、この兄妹の共通点は母親たちの共通点でもあるが、それは後述する。


終盤のヒロインは哲ではないか。
親世代のゴタゴタに一番巻き込まれたのは彼であり、最も試練を受けるのも彼となる。

母を除いて、哲だけが真実を掴んでいる。
周囲の人は、誤解の上で行動していて、彼に優しくない。
更に負のスパイラルに陥って、自分の中の真実で話を進め、それが一層 哲を傷つける。

そうして哲も誤解の上に自分の中の真実を構築してしまい、彼は逃亡する。

それを探しに行くのは本来のヒロイン・静の役目。
彼らの再開の場が、親世代や自分たちの思い出がある海であるのが良い。

でもやっぱり、物語的には、あの日、自分の気持ちに封をしてまで
哲と距離を置く決意をした静が、その封印を解いて、哲への率直な気持ちを解放するという流れが良かった。
交通事故という重要な転機が必要だったとはいえ、恋心や交際の再開が少し早すぎた。

世界が狭い話であったが、
狭いからこそ、この家に無事に帰ってくる重要性が生まれた。
帰ると約束した男が、今度こそ帰ってくることで母のトラウマも癒えたし。

そして同じように過去で時間の止まっている遥の横には、
かつて愛した男とそっくりの烈が立ち、彼女の心を氷解させるような言葉を告げる。

こうして迷惑な真宮兄弟(親)に振り回された2人の女性に十数年ぶりの安寧が訪れるのであった。

ただ、ラストシーン。
静が3人のナイトたちに囲まれて登校するシーンは、なんだかなぁ と思う。
結局、静は本書の お姫さまで、女王にならず、姫のまま愛されるヒロインでい続けるようなラストで残念。
静に対して徹底的に甘い。
特に成長も感じられないままだったし。

あと七瀬を排除しているのも後味が悪い。
仮にも烈の親だぞ。


相が分かってからだと、血縁的のある兄妹の間柄では、キスもさせていないことが分かる。

静のキスの相手は、哲そして仁村。

哲は、静にとってイトコだから結婚もでき、法律上、何ら制約を受けない。
だからキスが許されている。
そして仁村。
哲の異父兄弟である彼は、完全に血縁のない他人である。
だからキスも当然OK。

しかし異母兄妹である烈とは、最後までキスをさせない。
少しでも生々しさを消そうという作者の線引きを感じる。
まぁ 異母兄妹とはいえ、感情面では烈は完全に一線を越えているが。

母・涼子目線で言えば、一番 嫌なのは、この関係なんじゃないだろうかと思う。
自分が好きじゃないタイプの女性・七瀬と 大切な俊二の間に生まれた子が、
自分と俊二の子である静に想いを寄せる。

生前から快く思わなかった七瀬の子である烈が、
自分たちの愛の結晶である静に接近するのは、内心、不快感があったのではないか。
(もちろん母としては烈を決して冷遇したりしなかっただろうが)

そして その烈と一緒に暮らすこと、そして烈の容姿が成長するにつれ、
まるで七瀬の願望そのままに享一に似てきたことを、母はどう受け止めてきたのだろうか。

涼子と遥、同じ時代に恋をし、同じ悲しみを背負い、しかし違う生き方を選んだ2人。

が涼子は立派に母親として烈を含め どの子にも愛情を惜しみなく注いだ。

これは、仁村の母・遥が、享一の子を七瀬が宿していると思い込んで、
「幻を憎み続けてきた」のとは真逆の行動と言える。

涼子と遥は、同じ出発点から生まれた別の可能性という位置づけだろう。
2人とも最愛の人に、自分のお腹に新しい命が宿っていることを言えずに 永遠の別れをした。

その悲しみと絶望の中に生きたのが遥。
最愛の人の形見となった自分の子も愛せずに、
自分を裏切るような行為をした(と思っている)享一と その子を恨んでいる。

言われるがまま親の意向で結婚し、すぐにまた子を宿すが、その子も愛せないまま。
愛と憎しみは全て享一と その周辺に注がれてしまっている。

その逆に、悲しみの中でも精一杯生きたのが涼子だろう。


世代を悩ませる人間関係を構築する装置としてだけ利用された感のある親世代。
飽くまで静が主役だから彼らの描写は割愛したらしいが、どうしても葛藤が足りない。

上述の通り、母・涼子の謎すぎる経歴や子育てでの苦労は全く無い。

仁村の母・遥も、産んだ子を養子に出した直後に結婚と妊娠というのも意味が分からない。
彼女が高齢で跡継ぎ問題を先送りできないとかならまだしも、こんなにすぐに妊娠しなくても良いのではないか。
少女漫画における「名家」は、道理を引っ込まして無理を通すための都合の良い理由となる。

また子供世代の仁村の病気設定も、涼子との関わり以外は ほぼ機能していないし。
使わなかったネタ、らしいが、それにしても放置しすぎている。

七瀬・享一の学生結婚の設定も、障害にしか使われなかったし。
彼らが惹かれ合った理由は少し描いて欲しかった。

いづれにせよ、間宮兄弟(親)は家族計画をしっかりと持ってもらいたいものだ。
20歳そこそこで、経済力もないままに好き放題し過ぎである。