和泉 かねよし（いずみ かねよし）
そんなんじゃねえよ
第08巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★★（6点）
兄妹の壁を超えて、哲（テツ）とつき合い始めた静（シズカ）。別れるつもりで仁村（にむら）とでかけた静だが、言葉巧みにかわされズルズルとフタマタ状態に。さらには学校で静が妊娠したというウワサがひろがってしまい……！？嵐のような恋の四角関係が激化する絶好調ハイテンションLOVE2兄妹ストーリー衝撃の第8巻！！
簡潔完結感想文
- 噂によって囲い込み、逃亡阻止を狙う仁村。だが彼は静に一生 勝てない運命。
- 困ったちゃん と絡ませて兄の個人回と妹への溺愛を再確認するテンプレの完成。
- 望まれた子ではないと悩む3人の兄妹+1。親世代の明るい家族計画の破綻が原因。
謎は全て最終巻に持ち越す 8巻。
謎解きのある親世代の過去編が面白くなる一方で、
肝心のヒロイン・静（しずか）の恋愛描写が割愛されているような気がしてならない。
彼女は この2巻で交際相手を仁村（にむら）から哲（てつ）変えているのだが、
その交際のキッカケと別れの場面が曖昧なので、いまいち腑に落ちない。
確かに哲とは、気持ちもキスも交わしたが、これによって交際が始まったという認識にならなかった。
そして仁村との別れも、その原因となる事件はあったものの、
2人がキチンと別れたという描写がないまま、その事実だけが先行していて気持ち悪かった。
これは作者による、静を悪女にしないための方策なのだろうか。
なぜなら、静は仁村との交際中に、哲とも交際を始めているから。
ヒロインが悪女である事実を濁すために、
ぬるりと交際が始まり、ぬるりと交際が終わったことにしているのか。
この交際の手順は、よくよく考えれば相当 自分勝手な行動で、
男を手玉に取るような行動なのだが、結局、作中で静は痛い目に遭わない。
それどころか 作中のメインの男性3人は変わらない愛を静に誓い続けるという夢のような展開が続く。
シビアな男女の恋愛模様を例に出しながらも、ヒロイン自身は少女漫画らしい恋愛に装飾されている。
作品全体で、主人公たちの真宮（まみや）一家は作者からの寵愛を受けるばかり。
序盤こそ静が一人、外見の偏差値が低かったが、他の家族との差も埋まりつつある。
世界一美しい母と兄妹の、閉じられた物語という印象は強くなるばかり。
近親愛などの世間の評判に静が怯える割に、
その世間がなくても成立する世界観だから、その悩みが伝わりづらい。
静に対して一番過保護なのは、兄達ではなく作者なのではないだろうか。
哲との交際が始まり、現在交際中の仁村と別れる方法を探す静。
だが仁村は、静が離れていくのを阻止するために ある噂を流す。
それが2人がヤっちゃったという噂。
デリカシーはないが、効果的な一打と言える。
それを逆手に取るのが、静。
噂好きで、人づてで大きくなる高校生たちの特性を利用し、
自分と仁村の間に深刻な問題があることをクラスメイトに吹聴する。
すると それが瞬く間に妊娠騒ぎになり、それに動揺した仁村がボロを出すように仕向ける。
やはり仁村は静には絶対に勝てないようになっている。
どうやら後の展開によると、この事件が2人の別れとなる。
事実とは違う噂を流した仁村が悪いのは確かだが、
これによって、静が円満に別れているのが彼女の恐ろしい所。
しかも自分の二股が責められないように、彼に全部の非があるようにしている。
自分の弱みを見せずに男をコントロールする。
さすが最強の母を持つ娘である。
そして この妊娠騒動は学校中を巻き込み、
2人は教師たちに囲まれ、双方の親を学校に召喚するのに必要なことであった。
その際に初対面を果たすのが、哲と仁村の母・遥（はるか）。
烈（れつ）を初めて見た時も仁村母は動揺していたが、
今回、哲を見て、彼もまた真宮家の者だと知って、仁村の母は気分が悪くなり倒れ込む。
恐らく親世代の関係者の中で生存しているのは、静たちの母と仁村の母だけ。
彼女は一体 何を知っているというのか…。
それを先送りにするためなのか、またもや「困ったちゃん」に真宮兄妹が絡まれる話が続く。
これが哲、そして烈の最後の個人回となるのかな。
そして静が2人とは離れられないことを再確認する、という いつもの内容でもある。
毎度のことながら、恋愛的決着がついているので、
血の繋がりしか話を引っ張る要素がなく、
「困ったちゃん」を使って一話の中で盛り上がる部分を演出しているだけ。
厄介な人たちは勝手にピンチを作ってくれますからね。
仁村の母が所有していた一枚の写真が、物語を再び過去に導く。
そこに写っているのは、烈そっくりな享一（きょういち）。
その享一と仁村の母の過去が明かされる。
享一は七瀬（ななせ）と学生結婚をしたが、仁村の母・遥は その彼と不倫をした。
だが、愛のない夫婦だったはずの七瀬は妊娠し、不倫は終わりを告げた。
仁村の母は、その時の七瀬の子が哲だと思い、
彼が仁村の家に携帯電話を忘れ、連絡してきた際に、彼を通して過去に復讐しようと試みる。
享一に愛されていたのは自分で、七瀬は同情だったこと。
その同情が妊娠という結果になっただけで、
その子＝哲は決して望まれて生まれたわけではないこと。
電話を通して、哲の向こうの、もう物を言わなくない七瀬を傷つけようと酷薄な言葉を並べる。
それは10数年前に彼女が自分の中に飲み込んだ、誰にも言えなかった言葉の数々だろう。
そして彼女は哲自身を傷つけるために、
彼の愛する妹が、まだ仁村と抱擁する仲だとも告げる。
これは仁村がまだ静への未練があるからの行動で、
静に責任はないのだが、抱擁の事実は確かにあった。
こうして足元を揺さぶられた哲。
そして静は哲の仁村に関する追及を完全否定できない。
作品内で静が傷つかないかわりに、哲がヒロインのように傷ついていく。
次巻がようやく最終巻。
物語をここまで引き延ばす必要性があったのか。
静の母が真実を話さなかった理由はあるのか。
などなど、数々の作品的マイナス面にも答えが出ることを祈るばかりである。
