《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

2度目の帝からの告白も、白泉社のリセット機能が発動するが、着々と結婚の準備は整い始める。

帝の至宝 6 (花とゆめコミックス)
仲野 えみこ(なかの えみこ)
帝の至宝(みかどのしほう)
第06巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

志季に告白し失恋した香蘭! 一方、それがきっかけで志季は香蘭への想いを自覚? しかし香蘭に自由でいてもらうため、友達のまま見守ろうとしていた。そんな中、志季は皇太后の命令で婚約することに! 婚約の噂を聞き王宮へ向かった香蘭は、志季の婚約者に出会って…!?

簡潔完結感想文

  • 天下一武道会開催。帝は香蘭以外には降参しない というヒロイン最強説の補強。
  • 平民から貴族へのクラスチェンジするクラスメイト。これが香蘭の逆転の一手!?
  • ヒロインと対立するはずの女性たちが続々と対戦の意思を削がれ、結婚まで王手!

題が恋愛成就から、結婚成就へと すり替わっていく 6巻。

引き続き、後半戦は攻守交替で無自覚ヒロインに、組織のトップがグイグイとアプローチするという展開。

身も蓋もないことを言えば、結局は玉の輿となる白泉社作品。本書も狙うは王妃の座なのである。『6巻』は両想いになる前の両片想いの状態で、ヒロインの香蘭(こうらん)が王妃になる準備が整えられ始める。婚約者的立場の隣国のプリンセスを丸め込み、継母的な立場の皇太后に頭を抱えさせ、香蘭の立場は いよいよ盤石になる。

国も人もライバル関係でも争いは回避されるのが本書の鉄則。賢い「婚約者」のお陰で道は拓ける。

本書においては恋愛の成就 ≒ 王妃になることであるため、香蘭が王妃の資格を満たすことは良い事には違いない。…が、少女漫画読者としては、結婚よりも先に2人の気持ちが重なる、告白と両想いの場面が見たいのだ。けれど、それは後回しにされたまま、結婚の話が先行する。帝・志季(しき)の2度目の告白も、高熱リセットという典型的な手法で回避されてしまう。そこが少し不満といえば不満である。

同時にそれは、志季が香蘭を娶る覚悟を固めるという話でもある。政略結婚を力技で回避するのも、妃が誰であろうと関係のない平和な世界の構築と、その後の香蘭との結婚を夢見てのこと。暴君と恐れられた先帝に比べて、賢帝と称えられるであろう志季だが、その原動力は たった1人の女性への思慕があった。彼女が幸せに生きられる世界を目指して、国ごと変えてしまおうという、香蘭の存在が世界にも等しいと言わんばかりの構図である。

逆に香蘭が、志季の無事のためならば多少の犠牲は構わないという立場を取ったのは意外だった。これが清濁併せ呑む王妃の資質の1つなのだろうが、これまで理想論を語って、平和主義であった香蘭の転向には戸惑うばかり。どうも私の中の香蘭像と作中の香蘭の齟齬を感じざるを得ない。


だ、政略結婚やクライマックスに向けての必要上、隣国の設定が後付けされるのだが、読者としては そんな設定を今更すんなりと受け入れづらい。幕開けが世界観や情勢など無視した帝と見た目幼女の合法ロリという単純な読切からスタートしているため、必要になるまで この世界の設定をしなかったのだろうが、政治的な、国家間的な話に及ぶのであれば、もう少し早い段階から匂わせて欲しかった。

読者が好きそうな中華風ファンタジーなのに、個人も国家も設定が あやふや なのが残念。揺るぎない世界観に読者は浸りたいのだが、その世界観が揺れている。そして ここにきてガッツリ重めの話を持ってきたが、皇太后が簡単に白旗を上げたりなど単純化されており、チグハグな印象が否めない。香蘭の容姿の問題、志季が鈍感すぎて溺愛が遅い、困難の演出と その軽すぎる解決など、読者が読みたいものが あまり描かれていないように思える。


オッス、オラ志季。この国で天下一武道会が始まるんだ。ワクワクすんなぁ。

という現代日本における体育祭のような武術会から始まる。ここでもトップ オブ トップの志季は負け知らず、というお決まりの展開になる。彼が負けを認めるのは香蘭だけである。

志季は香蘭に自分が冷徹に戦術を立てていることを知られ恥じるが、香蘭は志季が甘い考えで傷つくのが嫌。だから非常になってもらおうと彼のメンタルを鍛え直す。そのために雨帖に武術会で志季を打ち負かし、卑怯になってもらうという作戦。
この作戦は志季の無事を祈ればこそ、なのだろうが、志季が非常になったら敵国などが最小限度の犠牲ではなくなるということである。香蘭は志季が無事なら、戦死者も容認する図太いメンタルらしい。これは王妃になっても大丈夫ですね。…こういう形で香蘭に王妃の条件が整うことなど誰も望んじゃいないと思うんだけど。

だが香蘭の計画は、男たちの真剣勝負の前に吹き飛んでしまう。そして聡明な志季に香蘭の計画は露見して、彼女は志季に自分の率直な思いを伝える。こうして志季は香蘭が戦に反対しないことを知り、少し心が軽くなる。


校のクラスメイト・叔豹(しゅくひょう)が実は名門一家の跡取りであることが判明。妾の子である叔豹だったが、その家の跡取りが死去したため、彼に お鉢が回ってきたという。

平民から貴族への いきなりのクラスチェンジである。この回で思ったのは、捨て子である香蘭もまた生まれが分からないから一発逆転の可能性である。彼女の親が貴族であれば問題は解決だ。だがネタバレしてしまうと そういう話にはならなかった。彼女は飽くまで平民のまま。そうでなくては白泉社作品で味わえる玉の輿感が薄れてしまうだろう。

叔豹がクラスチェンジした この件に接することで、香蘭は上流階級の ややこしさを知っていく。そして自分が身分を手に入れたいと ただ願っていたことを恥じる。そうではなくて、自分が上流社会の仕組みを知ろうと努める。それが志季と一緒に居たいという自分の願いを叶える手段だから。

この話のラストでは、もう一つの運命が動き出す。なんと叔豹の結婚相手が決まる。以前から通達されていたとはいえ、淡々と受け入れる叔豹は なかなか器が大きい。政略結婚だが、なかなか面白い組み合わせのカップルが誕生した。王宮組のイケメンたちは色恋沙汰と無縁なので、登場人物の多さの割にカップルは これが初成立となる。


蘭は志季と一緒にいられる自分になるために、国や政治のことを学び始める。相変わらず、王宮内に保管された昔 志季が使った本を借りる厚かましさを感じるが…。それに読み書きを覚えて1年だろう。内容が理解できるとは思えないよ。

だが王宮では皇太后主導のもと、志季の婚姻話が進められていた。これは以前(『2巻』)の、側近・円夏(えんか)によるお見合い大作戦とは強引さが違う。いよいよ志季は誰かしらと結婚しなければならない。
太后の計画は、国のためであった。きな臭くなってきた隣国との関係を良好にするための婚姻でもあり、賢い志季は そのことを理性では理解する。

その噂を聞いた香蘭は王宮に走り、志季から事情を聞こうとするが皇太后の命により、志季への面会は制限されてしまう。王宮の門前で佇む香蘭に、一人の女官が声を掛け、彼女の事情を知り、中に入る方策を練る。その心優しい女官こそ、志季の婚約者・華茗(かめい)であった。華茗は隣国の王太子・春玉(しゅんぎょく)の いとこ でもある。

志季の婚約者である華茗の気高い優しさを目の当たりにし、せっかく王宮内に入った香蘭は逃亡する。さすがに場違いであることを恥じたのだろう。だが香蘭が近くにいたことを知った志季は彼女を追おうとする。それを見た賢い華茗は志季の気持ちを察する。そんなことは読み取れないが、華茗が もし志季を慕っていても、華茗は決して表には出さないだろう。それだけの賢さと配慮が華茗は出来るはず。華茗がライバルにならない平和的な展開に安堵するが、ここまで良い人だと華茗と結婚しても志季は幸せなんじゃないか、と思ってしまう。


分の立場を冷静に考えた志季は、香蘭のことを忘れようと努め、婚前の儀に前向きになったように見える。だが志季は香蘭が雨の中、王宮を後にしてから高熱で学校を休んでいることを知る。陛下の心の中から香蘭は消えないのか…。

そして隣接する三国の王が一堂に集う場面で、志季は婚前の儀を中止を宣言する。なんと彼は儀式を理由に国王を集めたに過ぎなかった。こうして祝いの席は政治的な決着をつける会談と変貌する。
これにより定期的な会談を開くことで風通しを良くし、それを戦争の抑止力とすることを志季は狙った。

太后が用意した結婚話、そして結婚の儀式を志季は まんまと利用した。そして この成功に必要なのは、やはり華茗の天真爛漫さであろう。彼女は帝・志季にとっての宝が何かを分かっていた。彼女の理解力なしに、この会談の成功、そして香蘭の未来はなかった。

そして責務を果たした志季は香蘭のもとに単身、馬で駆け付ける。んー、今 一番、志季暗殺の危険性が高いと思うが…。やっぱり帝に少女漫画ヒーロー的な振る舞いは無理があるのか。

そこからは風邪回である。病床に駆けつけた志季は再び香蘭に自分の気持ちを伝える。これは『5巻』の火事による命の危機と同じような、2人の別離の危機があったからこその心からの言葉であろう。ただ この時の香蘭の方は朦朧としており「覚えてないパターン」となる。鈍感ヒロインは気づかない。

この件を通して、志季に覚悟が生まれる。どうしたって自分は結婚相手に選びたい人がいると彼は改めて自覚しただろう。


分の独断専行により、皇太后が香蘭の存在を知ったことを悟った志季は、香蘭を遠ざける。

だが当の香蘭が志季と皇太后の面談の場に姿を現す。そして香蘭と皇太后の2人での初面談となる。当然のように、皇太后は志季との別れを命ずるが、愛人でも恋愛関係でもない香蘭には別れる理由がない。愛欲に溺れていたら、みっともない執着心が顔を出したかもしれないが、今の香蘭と志季は友人としてのターンである。

香蘭の社会的立場への執着心の無さ、反対に志季が初めて見せる執着心が皇太后の心を動かす。

だが どれだけ王妃に相応しくないと言われても、どれだけ お金を積まれても香蘭は志季の傍を離れることだけは出来ない。妃でなくても、志季を支えたい。その気持ちは本物。

平行線の会談は終わり、退出を命ぜられた香蘭は、そのまま存在を隠蔽されそうになるが、それを志季が阻止。志季は香蘭のためなら王座に就き、そして王座を降りることも出来るという。最初から彼女が幸せになるための政治だった。国は その付属に過ぎない。志季の今の命も立場も香蘭から もたらされたものなのだ。

その話を聞いた香蘭は、さすがに志季を咎める。だがイチャラブしながら口論する志季の姿を見て、皇太后は初めて彼に執着心があることを知る。志季にとって どれだけ香蘭が大切か、が分かった。それは義母として表情のない皇太子を見守ってきた彼女の親心にも似た感情であろう。皇太后もまた優しく賢い お方なのである(志季の母暗殺の首謀者かもしれないが…)。

どうやら志季の手腕によって、この国は先帝より持ち直したらしい。そんなこと本書のどこにも描かれていないが、春玉の父である隣国の王によって語られる。だが争いを好まない志季に対し、春玉の父は、静かに牙を磨いているようで…。