《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

2作品限定あるある。作中に「けだもの」が登場する漫画、『2巻』で擬似結婚式やりがち。

学園王子(2) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
学園王子(がくえんおうじ)
第02巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

「水谷梓(みずたに・あずさ)はやめておけ」 謎多き美少年・赤丸臣(あかまる・おみ)が沖津(おきつ)リセの耳元で囁(ささや)く……。それは陰謀? それとも――!? 複雑な想いを抱えつつ、リセはイケ男(メン)の転校生・梓と全校生徒の前で愛を誓う儀式「婚約式(フィアンサイユ)」に臨む覚悟を決めるのであった――。喰うか喰われるか!? ジョシ高生活は毎日がラブ・サバイバル!!

簡潔完結感想文

  • 婚約式(フィアンサイユ)の いバラの道。対外的な偽装交際に中身が伴っていく!?
  • どこを好きになればいいか分からない幼稚なヒーローと誠実な男では勝敗は明白。
  • ヒロインが時々 優しいDV男に ほだされる ダメ女にしか見えない。これの繰り返し?

者が感情移入できない人に、読者も感情移入できる訳がない 2巻。

本書の序盤は特殊な環境の学校の、特殊なルールで話を牽引する。
この学校の生徒の男女はネクタイを交換することで、
当事者以外が躰(からだ)の関係を持つことを禁じられる。

だが、ネクタイの交換というルールには抜け穴があった。
躰の関係以外のイジメは許容されるためヒロインのリセは疲弊する。
お互いのベストな状態を模索する中、ネクタイを返却したり、また交換したりと右往左往。
ヒーローの大ピンチをヒロインが救うことで、2人は保身のために交際を続ける。
彼らがフラフラすることで、事件が勃発するのは分かるが、
お互い どこに惹かれたか分からないような長所の見当たらない状態が続く。

そんな『1巻』を経て、『2巻』では、
新たな学校ルールが明らかになり、2人はイベントに挑むのだが…、という内容。
そして『3巻』も新しい学校ルールで話を続けていく。

純愛や男の貞操を守る謎ルールばかり増える。共学化した ここ数年で出来たルールみたいだが、誰が何のために??

本書の生命線は、この狂った学校の狂ったルールである。
男女には より強固な絆を求めつつ、
読者は同時に より過激な内容の描写を求めていく。
それはまさに、この学校のモブ女生徒の心境そのものだ。
退屈な毎日を彩るような狂乱を求めていたら、モラルは崩壊していったのだろう。
きっと最初は 些細なきっかけに過ぎなかったはず。
だが一度 壊れ始めた空気は、もう元には戻らない。

このままいけば、やがて本書も常軌を逸してしまうのではないか。
待っているのは破滅であろう。
作者がキャラや構成をコントロールしているとは思えない。
読者の求めるがままに過激な描写ばかり続けていく可能性が高い。

エロと目を背けたくなるような描写で読者の人気を獲得する手法は青年漫画に よく見られる。
やっぱり本書は青年漫画のような少女漫画である。
きっと青年誌で掲載しても結構な人気が出たのではないか。

だが少女漫画は青年漫画ではない。
私の耐えがたい不快感は、そこから発している。


書の特徴として、『2巻』の時点で結構な人数が登場していることが挙げられる。
白泉社漫画の後半かと思うぐらいキャラ数が多い。

主人公にクラスメイト2人(同じポジションでキャラが途中交代してるが)、
そして男性たちが6人、生徒会が7人。
この時点で計15人以上のキャラが存在する。

これだけの人を描き分けられている(見分けがつく)から凄い作画技術だと思う。
だからこそ お話の方がもっと良ければ、と思わずにいられない。

以前もどこかで書いたが、漫画家は芸術家であり文筆家であるから大変だ。
絵が上手い人が、話を上手く作れるとは限らないのだ。


セと水谷(みずたに)の関係は、水谷が彼女を見つけるまでの契約彼女である。
それが この異常な(性欲の生徒たちばかりの)学園で過ごす2人の処世術である。
偽装交際から始まる本当の恋はテンプレ展開であるが、
この2人の場合、(主に水谷の幼稚性で)恋愛に発展する要素がどこにも見当たらない。

『2巻』冒頭は連載の仕切り直しなのか、再び舞台の説明から入っている。
男子は全員もれなくSクラスに入れるのに「オーラが違う」言われても…。
モブの女性とたちは、イジメ役か彼らの価値を上げるための小道具でしかない。
私は女子生徒たちがキャーキャー言う回数が多いほど、
逆に それでしかキャラを輝かせる事が出来ないんだな、と作品の薄っぺらさを見る。

そして連載の長期化が望めたからなのかSクラスでもリセに友達が出来る。

リセと水谷は保身(貞操を守る)のために偽装カップルとなったが、
余りにも恋愛している感じのしない2人に疑惑の目が向けられる。

そんな疑惑を払拭するために彼らが望むのが「婚約式(フィアンサイユ)」という学校行事。
これは擬似結婚式のようなもので、晴れてカップルとなった男女が口づけを交わし永遠の愛を誓う、という。
杉山美和子さん『花にけだもの』でも似たような儀式がありましたが、
こういうのは少女たちの永遠の夢、なのでしょうか。
あちらはヒーローが「けだもの」で、本書の場合はモブ女子生徒が「けだもの」ですね。
そして どちらの作品も、出会って間もなく そんな行事に臨んでいて鼻白む行事である。

こうやって嘘を嘘で塗り固めていく内に、2人の仲が近づき、
本当の愛が芽生える、というのが作者の構想した展開だろう。
が、ただただ借金を返済するために新たな借金をするようなゲスな行動にしか思えない。


が、リセはキスをしなければならない婚約式を断固拒否。
その過程で水谷は偽装交際がバレてしまい…。

一方、リセは『1巻』のラストから動き出した赤丸(あかまる)との接点が出来る。

そんな赤丸は、水谷に対しての侮蔑の視線を隠さない。
「女の影に隠れてぬくぬくと過ごしやがって」。

ここまで正論を言われて水谷も可哀想。
だが読者の大半も 、水谷に同じことを思っているだろう。
自己保身を徹底する訳でもなく、その時々の感情に支配されて動いていて、
ピンチになったら人を頼ることしか出来ないんだもの。
ここまで顔だけヒーローなのも珍しい。

水谷の息の根を止めるような真っ当な台詞。もう作品のバランスが崩壊してないか?

そんな水谷の自業自得を宗近(むねちか)が世話をするのが当たり前になっているのが笑える。
クールに見えて優しいのが宗近で、人当たりはいいが人でなしなのが水谷。
水谷はSクラスでも最低の位置にいる。
この後に水谷の成長や下克上が描けていれば良かったが、
本当に作品にとって 要らない人でしかないのが残念。
短期連載だったらダメ男ヒーローでも良かったのだが、
長期連載になって立ち位置が難しくなっただろうのか。
作者が何を考えて、水谷を生み出したのかが ちっとも分からない。


事な婚約式を前に、2人それぞれに同性のライバルが現れて すれ違いが生じる。

だが、急に降って湧いた婚約式に興味が持てないし、2人がそれに出る理由も弱い。
水谷を想うライバル女子生徒に監禁されたリセを助けに来たのは赤丸だし、
リセの出席を阻止している赤丸の方が正論に見える。

こういうのは、愛する2人の試練であるべきで、
学校生活の平穏だけを求めて、逃げの一手として、式を完遂しようとする彼らに応援の心が湧かない。
成功しようが失敗しようが、それ程 興味が持てない。

平気で人を裏切る この学校の女子生徒たちに、婚約式の威力が通じるかも疑問だし。


結局、婚約式当日も、2人が偽装カップルだという告発と、
赤丸とリセが接近している写真によって、生徒から妨害を受ける。

事前に式を邪魔するならまだしも、生徒会長という作品における最高権力者を前に、
女子生徒たちは自分の欲望のために、式を台無しにしようとしている。

やはり婚約式など何の効力もないのではないか。
新しく出来たリセの友人は婚約式の成功例であるが、彼らの場合、
他の生徒から羨望を受けないぐらいの「お似合い」カップルだっただけではないか。

それに生徒会長の前で、妨害する展開も納得がいかない。
ここでは生徒会の権力、というか、愚かな女性生徒たちも生徒会には従順であることをちゃんと示して欲しかった。
今後のためにも、カオスの中にも秩序や約束がある事を示すべきなのに、
作者は そういう事を まるで考えないで ただただショッキングな場面ばかり重ねていく。


後の最後でしか見られない水谷のヒーロー的な行動も、
小学生の理論が展開されるだけで、何も心に残らない。

これまでリセと向き合うことから逃げ続けてきたのに、直接的な被害を見て正義感を出しただけ。

急に生まれた ちっぽけな正義感でリセとの、キス禁止の約束も反故にするし、
大事な場面なのに、衝動的な印象しか残らない。

結局、水谷の所に戻るリセは、DV男に ほだされて、苦悩から抜け出せない人みたいだ。
作者が感情移入できない人に、読者も感情移入できない。

赤丸の台詞が、読者の心そのもの。
「アイツ(水谷)は信用しちゃいけねぇ それだけだ」

しかも『1巻』に引き続き、2回連続、巻末が同じような台詞なのは頂けない。
なら赤丸は、リセなり他の者なりに、水谷の欠点を告げればいいのに。
話を引っ張るだけの展開なのが残念。